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第三章
ヤツが来た2
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「その魔物の名前はクラーケン。海の暴れ者なんて呼ばれる強力な魔物だ」
リュードたちに話があるにしても直接王様であるドランダラスが出張ってくることはない。
そんな風に思っていだけれどクラーケンが相手となれば話が変わってくる。
「あの、クラーケンですか?」
「そうだ、そのクラーケンだ」
ゼムトたちが命をかけて倒した相手でもある。
ドランダラスのみならず、海を大きな資源とするヘランドにとってもクラーケンは因縁の相手になる。
目撃情報も少なくヘランド以外のところではまずお目にかからない魔物がクラーケンなのだ。
個人的因縁もあって居ても立っても居られなくなったドランダラスは王城を飛び出してきたのであった。
「近々ギルドから大規模な討伐の依頼が出されるだろう。我々国の兵士や騎士との共同作戦だ」
「……話は分かったけどどうしてわざわざ王様が俺たちを訪ねてきたんだ?」
そんな依頼が出るなら嫌でも耳に入ってくる。
依頼を受けさせたいというのであれば人をやってもいいし、ギルド経由で直接指名することもできる。
出る前から王様が知らせに来る意味などないのではないか。
「浜辺での魔物の討伐の件、私の耳にも入ってきている」
「光栄です」
「それについて、シューナリュード君、君は雷属性の魔法を扱えるそうだね? しかも強力なやつをだ」
リュードはこれが本題かとドランダラスの目を見て察する。
「我々の国はクラーケンに関する情報を少しずつ貯めてきた。かつての王が行った戦いではクラーケンに雷属性の魔法が効いたそうだ。私の兄が戦った時も雷属性を扱える魔法使いを片っ端から集めた。効果があったのかは定かではないが討伐に成功したのだから一定の効果があったとみている」
結構どの魔物に対しても雷属性の魔法は効く。
ただやはり水棲の魔物に対しては雷属性の魔法の通りはいい。
クラーケンも水棲の魔物であるので雷属性が効きそうなことはリュードにも予想できる。
「今回も過去の資料を元に調査を進めた。すると大干潮に伴うクラーケン出現の傾向が見られたのだ。そのために準備を進めていたのだが……」
「雷属性の魔法の使い手がいないのでしょう?」
皆まで言わずとも分かる話。
「その通りだ。シューナリュード君が雷属性の魔法を使ったという話を聞いてな、それで直接私が話に来たのだ」
依頼が耳に入らない可能性もある。
人やギルドを介しては依頼を受けてもらえないなんてことも考えられる。
やはり何かをお願いするには自らが足を運ばねばならない。
「是非君の力を貸してくれないか?」
ドランダラスがリュードに頭を下げた。
その光景にエミナたちは驚いて言葉も出ない。
一国の王様が一介の冒険者に頭を下げるなんて見たこともない。
ドランダラスはクラーケンを倒すためなら何でもするつもりだった。
頭を下げて確実に協力を得られるなら頭も下げるのだ。
「……わかりました。協力することはやぶさかではありません。でも計画や作戦はあるんですか?」
話を聞きながら先を予想していたリュードはどうするかをもう考えていた。
こんな時に雷の神様の加護を受けて雷属性が強化されたのは何かしらの運命かもしれない。
出来ることがあるなら手伝おう。
「いつかは絶対にクラーケンは現れる、そう思っていた。私が王になったその時から私はクラーケンに対する準備を進めてきた。だからクラーケンを倒すための作戦ならある」
顔を上げたドランダラスの目には確かな自信が満ち溢れている。
「いいでしょう。けれど行くのは俺1人です」
「えっ……」
ガシャンという大きな音にヤノチがビクッとなる。
リュードの思わぬ言葉にルフォンが持ってきたデザートを落としたのだ。
「リューちゃんどうして!」
怒った表情を浮かべてルフォンがリュードに詰め寄る。
「どうして私を置いていくの?」
こんな風にルフォンが怒るのは珍しいことだ。
「話を聞いてたか?」
「クラーケンって魔物を倒しに行くんでしょ?」
「そうだ。戦場は海の上、相手は海の魔物だ。いくら船の上で戦うだろうとは言っても周りは一面水だ」
「うっ……」
ルフォンの瞳が揺れる。
ルフォンは筋金入りのカナヅチで、もし転落でもしたら魔物がいない状態でだって泳げはしない。
「泳げないルフォンを連れて行くのは危険が大きすぎる」
勢いの減じたルフォンにリュードが畳みかける。
不慣れな船の上でルフォンを戦わせるのは危ない。
決して意地悪で連れて行かないなんていっているのではない。
蔑ろにしているのでもなく危ないことをしてほしくないというリュードの優しさなのである。
「お、落ちないもん!」
しばしの葛藤。
ルフォンが食い下がる。
「リューちゃんが行くところが私の行くところ。リューちゃんが戦う敵が私の敵なの! だから私も行く!」
行かなくていいなら行きたくない。
そんな思いもあるのだがルフォンは覚悟を決めた。
「はっはっは、いいじゃないか。言っただろう、作戦はあると。雷属性の魔法使いを揃えることはできなかったがその代わりにクラーケンと戦うための作戦はしっかりあるんだ」
ドランダラスがルフォンが落としたデザートを拾い上げる。
フライパンごと落とした焼き菓子のデザートはうまいこと飛び出さなかったので無事であった。
「船から落ちる心配のない作戦だ。彼女も連れて行ってあげてはどうたい? 聞くところによるとルフォンさんもお強いのだろう?」
ドランダラスはフォークを刺してデザートを一口運ぶ。
落ちた衝撃で形は崩れてしまったけれど味に影響はない。
砂糖も1年分手に入ったから作ったリュードが好きな砂糖多めの甘いデザート。
「……分かったよ」
どの道依頼としてギルドで募集が始まればリュードが停めてもルフォンは参加することもできる。
勝手に参加されて目の届かないところにいられるよりは目の届くところにいてもらった方が良い。
「リューちゃん……」
「絶対俺の目の届く範囲にいてくれよ?」
ルフォンはカナヅチの中でも果てしなく水に沈んでいってしまうタイプだった。
気づけば沈んでいってしまう危険な溺れ方をするので例え水に落ちたとしても早めに気づいてやらなきゃいけない。
行くと言われてしまえば断固拒否することができない。
リュードはなんだかんだルフォンに甘い。
「一応先に作戦を聞かせてください。一度引き受けましたが安っぽい作戦だったら今からでも断りますからね」
リュードだけなら本当の最悪の事態として討伐に失敗して船が粉々にされても1人帰ってくる自信はある。
しかしルフォンが来るなら確実にクラーケンを倒して船を無事に帰さなきゃいけない。
ゼムトの二の舞には決してさせない。
「分かった。作戦はこうだ」
ドランダラスが言った作戦は中々面白いものだった。
聞いたこともない作戦だったが成功の可能性は十分に感じられるものであった。
前代未聞の作戦なだけに失敗する可能性も考えられるのだがドランダラスは構想何十年という自分の作戦に絶対の自信を持っている。
どんな作戦にも100%はありえない。
どれだけ心配して、どれほど準備をしても変数は存在する。
ある程度のことはその場で臨機応変に対応していくしかない。
上手くいけば怪我人も少なくクラーケンを封殺出来るかもしれない。
ダメだったら早めにルフォンを抱えて泳いででも逃げてみせる。
「クラーケンは絶対に倒す」
自信、あるいは執念を感じさせる。
ひとまずドランダラスのことを信じてクラーケン討伐にリュードとルフォンは参加することになったのだった。
リュードたちに話があるにしても直接王様であるドランダラスが出張ってくることはない。
そんな風に思っていだけれどクラーケンが相手となれば話が変わってくる。
「あの、クラーケンですか?」
「そうだ、そのクラーケンだ」
ゼムトたちが命をかけて倒した相手でもある。
ドランダラスのみならず、海を大きな資源とするヘランドにとってもクラーケンは因縁の相手になる。
目撃情報も少なくヘランド以外のところではまずお目にかからない魔物がクラーケンなのだ。
個人的因縁もあって居ても立っても居られなくなったドランダラスは王城を飛び出してきたのであった。
「近々ギルドから大規模な討伐の依頼が出されるだろう。我々国の兵士や騎士との共同作戦だ」
「……話は分かったけどどうしてわざわざ王様が俺たちを訪ねてきたんだ?」
そんな依頼が出るなら嫌でも耳に入ってくる。
依頼を受けさせたいというのであれば人をやってもいいし、ギルド経由で直接指名することもできる。
出る前から王様が知らせに来る意味などないのではないか。
「浜辺での魔物の討伐の件、私の耳にも入ってきている」
「光栄です」
「それについて、シューナリュード君、君は雷属性の魔法を扱えるそうだね? しかも強力なやつをだ」
リュードはこれが本題かとドランダラスの目を見て察する。
「我々の国はクラーケンに関する情報を少しずつ貯めてきた。かつての王が行った戦いではクラーケンに雷属性の魔法が効いたそうだ。私の兄が戦った時も雷属性を扱える魔法使いを片っ端から集めた。効果があったのかは定かではないが討伐に成功したのだから一定の効果があったとみている」
結構どの魔物に対しても雷属性の魔法は効く。
ただやはり水棲の魔物に対しては雷属性の魔法の通りはいい。
クラーケンも水棲の魔物であるので雷属性が効きそうなことはリュードにも予想できる。
「今回も過去の資料を元に調査を進めた。すると大干潮に伴うクラーケン出現の傾向が見られたのだ。そのために準備を進めていたのだが……」
「雷属性の魔法の使い手がいないのでしょう?」
皆まで言わずとも分かる話。
「その通りだ。シューナリュード君が雷属性の魔法を使ったという話を聞いてな、それで直接私が話に来たのだ」
依頼が耳に入らない可能性もある。
人やギルドを介しては依頼を受けてもらえないなんてことも考えられる。
やはり何かをお願いするには自らが足を運ばねばならない。
「是非君の力を貸してくれないか?」
ドランダラスがリュードに頭を下げた。
その光景にエミナたちは驚いて言葉も出ない。
一国の王様が一介の冒険者に頭を下げるなんて見たこともない。
ドランダラスはクラーケンを倒すためなら何でもするつもりだった。
頭を下げて確実に協力を得られるなら頭も下げるのだ。
「……わかりました。協力することはやぶさかではありません。でも計画や作戦はあるんですか?」
話を聞きながら先を予想していたリュードはどうするかをもう考えていた。
こんな時に雷の神様の加護を受けて雷属性が強化されたのは何かしらの運命かもしれない。
出来ることがあるなら手伝おう。
「いつかは絶対にクラーケンは現れる、そう思っていた。私が王になったその時から私はクラーケンに対する準備を進めてきた。だからクラーケンを倒すための作戦ならある」
顔を上げたドランダラスの目には確かな自信が満ち溢れている。
「いいでしょう。けれど行くのは俺1人です」
「えっ……」
ガシャンという大きな音にヤノチがビクッとなる。
リュードの思わぬ言葉にルフォンが持ってきたデザートを落としたのだ。
「リューちゃんどうして!」
怒った表情を浮かべてルフォンがリュードに詰め寄る。
「どうして私を置いていくの?」
こんな風にルフォンが怒るのは珍しいことだ。
「話を聞いてたか?」
「クラーケンって魔物を倒しに行くんでしょ?」
「そうだ。戦場は海の上、相手は海の魔物だ。いくら船の上で戦うだろうとは言っても周りは一面水だ」
「うっ……」
ルフォンの瞳が揺れる。
ルフォンは筋金入りのカナヅチで、もし転落でもしたら魔物がいない状態でだって泳げはしない。
「泳げないルフォンを連れて行くのは危険が大きすぎる」
勢いの減じたルフォンにリュードが畳みかける。
不慣れな船の上でルフォンを戦わせるのは危ない。
決して意地悪で連れて行かないなんていっているのではない。
蔑ろにしているのでもなく危ないことをしてほしくないというリュードの優しさなのである。
「お、落ちないもん!」
しばしの葛藤。
ルフォンが食い下がる。
「リューちゃんが行くところが私の行くところ。リューちゃんが戦う敵が私の敵なの! だから私も行く!」
行かなくていいなら行きたくない。
そんな思いもあるのだがルフォンは覚悟を決めた。
「はっはっは、いいじゃないか。言っただろう、作戦はあると。雷属性の魔法使いを揃えることはできなかったがその代わりにクラーケンと戦うための作戦はしっかりあるんだ」
ドランダラスがルフォンが落としたデザートを拾い上げる。
フライパンごと落とした焼き菓子のデザートはうまいこと飛び出さなかったので無事であった。
「船から落ちる心配のない作戦だ。彼女も連れて行ってあげてはどうたい? 聞くところによるとルフォンさんもお強いのだろう?」
ドランダラスはフォークを刺してデザートを一口運ぶ。
落ちた衝撃で形は崩れてしまったけれど味に影響はない。
砂糖も1年分手に入ったから作ったリュードが好きな砂糖多めの甘いデザート。
「……分かったよ」
どの道依頼としてギルドで募集が始まればリュードが停めてもルフォンは参加することもできる。
勝手に参加されて目の届かないところにいられるよりは目の届くところにいてもらった方が良い。
「リューちゃん……」
「絶対俺の目の届く範囲にいてくれよ?」
ルフォンはカナヅチの中でも果てしなく水に沈んでいってしまうタイプだった。
気づけば沈んでいってしまう危険な溺れ方をするので例え水に落ちたとしても早めに気づいてやらなきゃいけない。
行くと言われてしまえば断固拒否することができない。
リュードはなんだかんだルフォンに甘い。
「一応先に作戦を聞かせてください。一度引き受けましたが安っぽい作戦だったら今からでも断りますからね」
リュードだけなら本当の最悪の事態として討伐に失敗して船が粉々にされても1人帰ってくる自信はある。
しかしルフォンが来るなら確実にクラーケンを倒して船を無事に帰さなきゃいけない。
ゼムトの二の舞には決してさせない。
「分かった。作戦はこうだ」
ドランダラスが言った作戦は中々面白いものだった。
聞いたこともない作戦だったが成功の可能性は十分に感じられるものであった。
前代未聞の作戦なだけに失敗する可能性も考えられるのだがドランダラスは構想何十年という自分の作戦に絶対の自信を持っている。
どんな作戦にも100%はありえない。
どれだけ心配して、どれほど準備をしても変数は存在する。
ある程度のことはその場で臨機応変に対応していくしかない。
上手くいけば怪我人も少なくクラーケンを封殺出来るかもしれない。
ダメだったら早めにルフォンを抱えて泳いででも逃げてみせる。
「クラーケンは絶対に倒す」
自信、あるいは執念を感じさせる。
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