上 下
149 / 331
第三章

熱き砂浜の戦い10

しおりを挟む
 そして決勝になり、コートを仕切る網越しにリュード・ルフォンペアとバーナード・エリザペアは対峙した。

「ここまで来ると運命まで感じるな……」

 ピクピクと筋肉を動かしてバーナードは感慨深そうな表情を浮かべる。
 明らかに他とはレベルの違う戦いにこの2人が勝ち上がってくることは分かっていた。

「スナハマラベックはこれまでやってきた全てが高い基準で要求される競技……。君たちならここまできてもなんら不思議ではない。しかし優勝するのは私たちだ。……ここで負けるわけにはいかない!」

 バーナードが全身に力を込めると筋肉が盛り上がり、体が一回り大きくなった。

「こちらも負けませんよ」

「こんなに熱くなれる戦いは久々だ。決着をつけようではないか」

「ええ、そうしましょう」

 リュードも剣などの戦い以外でもここまで熱くなれるとは自分でも予想外だった。
 だが不思議とワクワクしている。

 バーナードたちと勝負を決めたい自分がいる。

「泣いても笑ってもこれが最後の戦い! スナハマバトルの優勝者はこの直接対決によって決まります!」

 司会のウェッツォの煽りの言葉も応援の歓声も4人には届いていない。
 コートに立った4人の集中は高まっていて他のことはもはや見えていない。

 先行のサーブは総合ポイントで劣るバーナード・エリザペア。

「行くぞ!」

 バーナードが持つとラベックのラベックも小さく見える。
 軽く上に投げたラベックのラベックをバーナードが打つ。

 バーナードの強力なサーブ。
 最後の戦いが始まった。

 前世の体だったなら対応することも難しかったろう。
 しかし今は竜人族の強靭な肉体がある。

 スピードもパワーもあるサーブをリュードが反応して上げる。

「ルフォン!」

「ハァッ!」

「トンデモナイ娘さんだな……」

「ホントね……」

 反応ができなかったとバーナードは息を吐き出した。
 リュードが上げたラベックにルフォンは砂を強く蹴って飛び上がって叩きつけるように腕を振り下ろした。
 
 上げ方は決して上手いとは言えなかったのにルフォンは恐ろしい身体能力と反射神経でもってラベックを相手コートの隅に叩き落としてみせた。
 荒々しい力技にバーナードもエリザも反応することができなかった。

 しかしバーナードとエリザも負けてはいない。
 ルフォンの強烈なアタックに対応し始めてお返しとばかりに返してくる。

 一進一退の攻防が続く。
 時には力で、時には技術での攻撃にリュードとルフォンも苦しむ。

 砂にまみれて負けじとラベックに食らいついてリュードが上げて、ルフォンがどんな状況からでもアタックを返す。
 バーナード・エリザペアのようなスマートさはないが、リュードが持ち前の身体能力でとりあえずラベックを上げればルフォンが打ってくれる。

 互いが互いに譲らない戦い。
 一瞬たりとも気の抜けない状況が続いていた。

「ぬおおおっ!」

「バーナード、ルフォンの強力なアタックを受けきれないー!」

 やればやるほどルフォンは研ぎ澄まされていく。
 戦いの最中にルフォンは成長し続けていた。

 バーナードの伸ばした腕に当たったラベックのラベックは威力を殺しきれずに大きく後ろに飛んでいってしまった。
 鋭く重たくなっていくアタックはラベックをある種の凶器にまでしてあるかのようだった。

「これでシューナリュード・ルフォンペア、マッチポイントです!」

 先にマッチポイントを迎えたのはリュードとルフォン。
 長い戦いも終わりが見えた。

 体力に自信があったのに1日中砂の上で動き続けたせいで疲労がすごく、さすがのリュードですら体が重く感じられる。
 ここに来てサーブはバーナード。
 
 バーナードのサーブはとても重たくてルフォンでは受けるのが厳しい。
 まだバーナードの目には強い意志を感じ、勝負を諦めてはいない。

「うおおおお! 負けるかー!」

 バーナードの渾身のサーブ。
 パワーを重視したその一球はリュードの真正面に飛んできた。

「こっちだって!」

 腕を引いて威力を殺そうとするけどラベックの勢いが強すぎる。
 リュードの体が押されるような重たいラベックをなんとか上にあげる。

「バーナードの放ったサーブをリュードが上げたっ! 空高くラベックが上がるー!」

 上手く勢いを減じきれなくて上げることが精一杯だった。
 もっとルフォンが打ちやすいように上げられたらよかったのに。

 でも、上げられればそれで十分だとルフォンは思った。

「任せて」

 ルフォンの目にはラベックのラベックしか見えていない。
 ここまでの全てを活かすように、ルフォンは大きく飛び上がった。

「やああああ!」

 頂点まで行って勢いを失って落ちてきたラベックのラベックと勢いよく振り下ろされたルフォンの手が重なる。
 下への強力な力をもらってラベックのラベックがバーナード・エリザペアのコートに向かう。

「はああああ!」

 誰もが飛び上がったルフォンに視線を向けて顔を上げる中でエリザが一瞬早く我に帰った。
 かなり高いところから打ち下ろすことになったのでラベックが到達するまでに時間があったことも幸いしてエリザはルフォンのアタックに反応できた。

 コートの端ギリギリを狙ったルフォンのアタックにエリザが飛びついて腕を伸ばす。
 完璧なタイミングで打ち下ろされたラベックはバーナードのパワーにも負けていない。

 意地でラベックを腕を当てることは成功したものの、その行方までコントロールできはしない。
 エリザの腕にぶつかったラベックは大きく跳ね上がりコートの後ろに飛んでいく。

「バーナード!」

「どりゃあー!」

 バーナードも走ってコートを飛び出して、ラベックを追いかける。
 エリザの努力を無駄にするわけにいかないとバーナードがラベックの下に腕を差し込もうと飛びかかる。

 必死に伸ばした腕。
 無情にも指先は届かず、ほんの少し先にラベックは落ちた。

 転々とラベックが転がり、会場がシンと静かになる。

「…………あ、あまりの勝負に私も言葉を失ってしまいました。決着がつきました。ルフォンのアタックを返し切ることができず、ラベックはコートの外に落ちてしまいました。熾烈な戦いに勝利したのはなんと、シューナリュード・ルフォンペア!」

 ドッと会場がわく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~

犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。 塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。 弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。 けれども違ったのだ。 この世の中、強い奴ほど才能がなかった。 これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。 見抜いて、育てる。 育てて、恩を売って、いい暮らしをする。 誰もが知らない才能を見抜け。 そしてこの世界を生き残れ。 なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。 更新不定期

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

処理中です...