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第二章
閑話・怒られる神様
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シュバルリュイードはなぜこんなことになったのか考えていた。
少なくとも自分が何かやらかした記憶はない。
正義の神クラスディーナ。
愛の神ソフィヤ。
雷の神オーディアウス。
信奉者の少ない竜人族の神とは比較にならない神々である。
日本家屋風の部屋を放っておいたお詫びとしてもらったシュバルリュイードは結構気に入っていた。
細かく監視して何かをするほど知名度もないのでゆっくりと茶でもすすることが日々の日課であった。
そんなある時、いきなり呼び出された。
本当にいきなりである。
お茶に手を伸ばした体勢のまま別の場所に一瞬で移動していた。
状況もろくに理解はできないのだが目の前にいるのが神様として大先輩である3神がいたのである。
この3神が瞬間移動に関わっているに違いなく、シュバルリュイードはお茶を取ろうとして伸ばしかけた手をそっと戻した。
3神の顔はにこやかではない。
こんな風に無理やり呼び出して良い内容なわけもないこともシュバルリュイードには分かる。
下手に刺激するのはよくない。
相手の神が話し出すのを待ってシュバルリュイードはずっと座ったまま待っていた。
「あなた、とんでもないことしてくれたわね?」
口を開いたのは正義の神であるクラスディーナ。
ピカピカの鎧に身を包んだ真人族の若い女性風の神様である。
琥珀色の瞳がジッとシュバルリュイードを見下ろし、非常に居心地の悪さを感じる。
「何をおっしゃられているのか、私には分かりません……」
とんでもないこととは何なのか。
引きこもって茶ばかり飲んでいたらダメだったのだろうか。
「正確にはあなた、というよりもあなたの信者が問題を起こしたのです」
次に話したのは愛の神であるソフィヤ。
愛の神であるだけあって美貌も優れていて金髪碧眼の妙齢の美女である。
ややおっとりとした雰囲気をまとうソフィヤだが言葉に少し圧を感じる。
信者とは誰のことだろう。
シュバルリュイードは考える。
無名の神で今ところ戦争のお話による尊敬で成り立ち、神としての信仰は皆無なはずなのだがどこかに自分のことを信心してくれる人がいたのか。
嬉しく思う反面、そんな問題を起こす者が信者であることにシュバルリュイードはショックを受ける。
「一体何をしでかしたのでしょうか?」
他の神様が怒るようなことなんか想像もつかない。
基本的には生きている人たちが住む世界を神の間では中世界と呼んでいて、その中世界で起きた出来事には神は関与せず、何が起きてもただ静観するだけであった。
他の神様の神殿にでも入って神の像でも破壊したぐらいのことだって、全部壊して回らない限りはこんな風に呼び出すこともないだろう。
「見なさい」
クラスディーナが手を振ると空中に映像が表示される。
「な……!」
そこに映っていたのは見覚えのある姿。
他の人には見分けはつかないのかもしれないけれどシュバルリュイードは注目してみてきたし、竜人族は竜人族が魔人化した姿であっても見分けがつく。
シューナリュードがそこには映っていた。
『俺はシュー……シュバルリュイード、だ!』
顎が外れそうなほど驚く。
あいつ人の名前を騙って何をやっているのだ。
映像は続いていき、リュードが雷の魔法を使ってシュバルリュイード感を演出する。
自分の名前を語って好き勝手やるリュードに驚きを隠すことができない。
天罰が下るとまで言い放ってリュードがその場から離れる、そんな場面まで映像は続いた。
「分かったかしら?」
分かったけど分からない。
そうした事件を起こしたことは分かったのだがどうしてこれで神様方が怒っているのかが分からない。
確かに大暴れだったけれど直接神だと名乗ったわけじゃない。
そもそもシュバルリュイードの名前を語っての行動だし他の神様に迷惑はかけていない。
詳細な経緯は分からないけれど正義にもとる行為には見えないから正義の神が怒る理由が分からない。
ある意味愛に則った行為に見えるので愛の神の神経を逆撫ですることもない。
雷の魔法を使ったけれどそれぐらいで雷の神が出てくる意味も分からない。
「理解していないようね?」
「はい……分かりません」
子供の頃は優秀だったのでこんな怒られ方をしたこともない。
女心がわかっていないと当時彼女だった妻に怒られた時はこんな感じだった気はする。
「あなたの信者があなたを名乗って暴れたものだから今巷ではあなたが正義と愛と雷の神様になっているのよ」
別に暴れたとかそういうことはどうでもよいのだ。
暴れた結果シュバルリュイードの評判が上がりに上がった。
そしてそれから時が経ち、キンミッコは処刑されて大々的に国が話を広めた。
当然パノンであるエミナについても話を広めたのだがエミナの連れ去り事件についても触れる必要があった。
そこで国はすでに噂になっていたシュバルリュイードの名前を使って壮大に話を作り上げた。
噂が噂を呼び、リュードことシュバルリュイードはトキュネスでは神様だったのではないかということになった。
その上キンミッコを断罪しにきた正義の神様だとか、他に愛する人がいるエミナのために現れた愛の神だとか、今は珍しい雷属性を使ったので一部の魔法使いから雷の神なのでないのかなんて言われたりしてしまった。
トキュネスと噂が広まったカシタコウに限定された話なのだけれど衝撃的な話は信心深くない人にも浸透した。
人々の信仰の対象にまでなるかはまだ不明である。
そうではあっても正義の神クラスディーナや愛の神ソフィヤへの信仰心や興味が非常に薄れてしまった。
仮にこのまま正義や愛の神として定着してしまったら由々しき事態である。
「今回のことは他の神様の領域を荒らす行為になるわ」
一時的とはいえ信仰のようなものが集まった。
だから体の調子が良かったのかと合点がいった。
他の神様の領域を荒らすつもりはなかったし、自分がやったことですらない。
「ええと、私はどうすれば?」
「もう起きてしまったことだしどうしようもないわ」
クラスディーナがため息をつく。
完全に話が広まってしまったのだし何か手の施しようもない。
「ならなぜこうして呼び出されたのですか?」
「あなたに警告するためよ」
「警告……ですか?」
「あなたの信者のことは神々の間でも有名だし、今の中世界でも注目の的だわ。きっとこれからも色々するだろうし、それを止めることは他の神様も望んではないわ」
まさか神様方に注目されているなんてリュードも思いもよらない。
「だけど今後もこんなことがあって私たちの株が下がって、あなたの株だけが上がるのはいただけないのよ」
「はぁ……」
「ちゃんとあなたの信者に釘を刺しておきなさいってこと。神託でも何でもいいからあなたからしっかり言い聞かせておきなさい」
「私は今後こういうことするなら私の名前も出してほしいなー。信者じゃないけど信徒を名乗って愛の元に行動することは許すから」
「ズルいぞ、ソフィヤ!」
「うふふー、私は世界が愛で満たされればいいのー」
ソフィヤがシュバルリュイードにウインクする。
愛の神としての信仰が薄れてしまったのは痛いけれど世界規模で信仰される神なので格が高く、多少のことでは動じない。
むしろ清らかな愛が1つ守られたからリュードを褒めてあげたいぐらいだった。
やんややんやと言い争うソフィヤとクラスディーナ。
神託を下すのも楽な作業ではない。
神格が低いシュバルリュイードでは簡単なこととは言えないのだ。
ましてリュードは本格的な信者とは言いにくい。
さらに大変な作業となる。
「なんでしょうか?」
ここに来て黙りこくっていた雷の神オーディアウスがシュバルリュイードの肩に手を置いた。
「私は自分に向けられた信仰とかあまり興味がない。君も雷属性を使うなら分かるだろうが雷属性は日の目を浴びることの少ない属性だ。だから私が言いたいのは自制しろということじゃない。
もっと雷属性を使わせろということだ。雷に対する信仰は私に対する信仰にもなる。頼んだぞ」
髭面のおじさんの真剣な眼差しにシュバルリュイードはただうなずくしかなかった。
少なくとも自分が何かやらかした記憶はない。
正義の神クラスディーナ。
愛の神ソフィヤ。
雷の神オーディアウス。
信奉者の少ない竜人族の神とは比較にならない神々である。
日本家屋風の部屋を放っておいたお詫びとしてもらったシュバルリュイードは結構気に入っていた。
細かく監視して何かをするほど知名度もないのでゆっくりと茶でもすすることが日々の日課であった。
そんなある時、いきなり呼び出された。
本当にいきなりである。
お茶に手を伸ばした体勢のまま別の場所に一瞬で移動していた。
状況もろくに理解はできないのだが目の前にいるのが神様として大先輩である3神がいたのである。
この3神が瞬間移動に関わっているに違いなく、シュバルリュイードはお茶を取ろうとして伸ばしかけた手をそっと戻した。
3神の顔はにこやかではない。
こんな風に無理やり呼び出して良い内容なわけもないこともシュバルリュイードには分かる。
下手に刺激するのはよくない。
相手の神が話し出すのを待ってシュバルリュイードはずっと座ったまま待っていた。
「あなた、とんでもないことしてくれたわね?」
口を開いたのは正義の神であるクラスディーナ。
ピカピカの鎧に身を包んだ真人族の若い女性風の神様である。
琥珀色の瞳がジッとシュバルリュイードを見下ろし、非常に居心地の悪さを感じる。
「何をおっしゃられているのか、私には分かりません……」
とんでもないこととは何なのか。
引きこもって茶ばかり飲んでいたらダメだったのだろうか。
「正確にはあなた、というよりもあなたの信者が問題を起こしたのです」
次に話したのは愛の神であるソフィヤ。
愛の神であるだけあって美貌も優れていて金髪碧眼の妙齢の美女である。
ややおっとりとした雰囲気をまとうソフィヤだが言葉に少し圧を感じる。
信者とは誰のことだろう。
シュバルリュイードは考える。
無名の神で今ところ戦争のお話による尊敬で成り立ち、神としての信仰は皆無なはずなのだがどこかに自分のことを信心してくれる人がいたのか。
嬉しく思う反面、そんな問題を起こす者が信者であることにシュバルリュイードはショックを受ける。
「一体何をしでかしたのでしょうか?」
他の神様が怒るようなことなんか想像もつかない。
基本的には生きている人たちが住む世界を神の間では中世界と呼んでいて、その中世界で起きた出来事には神は関与せず、何が起きてもただ静観するだけであった。
他の神様の神殿にでも入って神の像でも破壊したぐらいのことだって、全部壊して回らない限りはこんな風に呼び出すこともないだろう。
「見なさい」
クラスディーナが手を振ると空中に映像が表示される。
「な……!」
そこに映っていたのは見覚えのある姿。
他の人には見分けはつかないのかもしれないけれどシュバルリュイードは注目してみてきたし、竜人族は竜人族が魔人化した姿であっても見分けがつく。
シューナリュードがそこには映っていた。
『俺はシュー……シュバルリュイード、だ!』
顎が外れそうなほど驚く。
あいつ人の名前を騙って何をやっているのだ。
映像は続いていき、リュードが雷の魔法を使ってシュバルリュイード感を演出する。
自分の名前を語って好き勝手やるリュードに驚きを隠すことができない。
天罰が下るとまで言い放ってリュードがその場から離れる、そんな場面まで映像は続いた。
「分かったかしら?」
分かったけど分からない。
そうした事件を起こしたことは分かったのだがどうしてこれで神様方が怒っているのかが分からない。
確かに大暴れだったけれど直接神だと名乗ったわけじゃない。
そもそもシュバルリュイードの名前を語っての行動だし他の神様に迷惑はかけていない。
詳細な経緯は分からないけれど正義にもとる行為には見えないから正義の神が怒る理由が分からない。
ある意味愛に則った行為に見えるので愛の神の神経を逆撫ですることもない。
雷の魔法を使ったけれどそれぐらいで雷の神が出てくる意味も分からない。
「理解していないようね?」
「はい……分かりません」
子供の頃は優秀だったのでこんな怒られ方をしたこともない。
女心がわかっていないと当時彼女だった妻に怒られた時はこんな感じだった気はする。
「あなたの信者があなたを名乗って暴れたものだから今巷ではあなたが正義と愛と雷の神様になっているのよ」
別に暴れたとかそういうことはどうでもよいのだ。
暴れた結果シュバルリュイードの評判が上がりに上がった。
そしてそれから時が経ち、キンミッコは処刑されて大々的に国が話を広めた。
当然パノンであるエミナについても話を広めたのだがエミナの連れ去り事件についても触れる必要があった。
そこで国はすでに噂になっていたシュバルリュイードの名前を使って壮大に話を作り上げた。
噂が噂を呼び、リュードことシュバルリュイードはトキュネスでは神様だったのではないかということになった。
その上キンミッコを断罪しにきた正義の神様だとか、他に愛する人がいるエミナのために現れた愛の神だとか、今は珍しい雷属性を使ったので一部の魔法使いから雷の神なのでないのかなんて言われたりしてしまった。
トキュネスと噂が広まったカシタコウに限定された話なのだけれど衝撃的な話は信心深くない人にも浸透した。
人々の信仰の対象にまでなるかはまだ不明である。
そうではあっても正義の神クラスディーナや愛の神ソフィヤへの信仰心や興味が非常に薄れてしまった。
仮にこのまま正義や愛の神として定着してしまったら由々しき事態である。
「今回のことは他の神様の領域を荒らす行為になるわ」
一時的とはいえ信仰のようなものが集まった。
だから体の調子が良かったのかと合点がいった。
他の神様の領域を荒らすつもりはなかったし、自分がやったことですらない。
「ええと、私はどうすれば?」
「もう起きてしまったことだしどうしようもないわ」
クラスディーナがため息をつく。
完全に話が広まってしまったのだし何か手の施しようもない。
「ならなぜこうして呼び出されたのですか?」
「あなたに警告するためよ」
「警告……ですか?」
「あなたの信者のことは神々の間でも有名だし、今の中世界でも注目の的だわ。きっとこれからも色々するだろうし、それを止めることは他の神様も望んではないわ」
まさか神様方に注目されているなんてリュードも思いもよらない。
「だけど今後もこんなことがあって私たちの株が下がって、あなたの株だけが上がるのはいただけないのよ」
「はぁ……」
「ちゃんとあなたの信者に釘を刺しておきなさいってこと。神託でも何でもいいからあなたからしっかり言い聞かせておきなさい」
「私は今後こういうことするなら私の名前も出してほしいなー。信者じゃないけど信徒を名乗って愛の元に行動することは許すから」
「ズルいぞ、ソフィヤ!」
「うふふー、私は世界が愛で満たされればいいのー」
ソフィヤがシュバルリュイードにウインクする。
愛の神としての信仰が薄れてしまったのは痛いけれど世界規模で信仰される神なので格が高く、多少のことでは動じない。
むしろ清らかな愛が1つ守られたからリュードを褒めてあげたいぐらいだった。
やんややんやと言い争うソフィヤとクラスディーナ。
神託を下すのも楽な作業ではない。
神格が低いシュバルリュイードでは簡単なこととは言えないのだ。
ましてリュードは本格的な信者とは言いにくい。
さらに大変な作業となる。
「なんでしょうか?」
ここに来て黙りこくっていた雷の神オーディアウスがシュバルリュイードの肩に手を置いた。
「私は自分に向けられた信仰とかあまり興味がない。君も雷属性を使うなら分かるだろうが雷属性は日の目を浴びることの少ない属性だ。だから私が言いたいのは自制しろということじゃない。
もっと雷属性を使わせろということだ。雷に対する信仰は私に対する信仰にもなる。頼んだぞ」
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