上 下
115 / 336
第二章

異議のある者7

しおりを挟む
「な、何してるんですか!?」

 フードを外してリュードが上の服を脱ぐ。
 女の子たちがキャーキャーしているが別に変なことをしようというのではない。

「わあ……角カッケー」

 フードを外すと当然リュードが隠していたツノがあらわになる。
 怖がられるかなと思っていたけれど男の子たちはリュードのツノを見て目を輝かせている。

 女の子たちもリュードを怖がることはなく、むしろ鍛えられているリュードの体を頬を赤らめて見ている。
 リノシンも頬を赤らめているのでアコウィは面白くない顔をしているが、そこは許してほしいとリュードは思う。

「少し離れてて」

 そのまま真人族の姿で暴れて犯罪者になると厄介なことになる。
 黒いツノのある男なんて特徴的過ぎてすぐに身バレしてしまう。

 激しい戦いになる可能性も大きいし姿を誤魔化しつつ、最初から全力で行くつもりだった。

「か……カッケェー!」

 リュードは子供たちの前で竜人化した。
 怖がられるかもしれないと思っていたのだけれど反応は予想外のものだった。

 怖がって引いているような子は何人かいるけれど男の子はリュードの姿にむしろ好意的な反応を見せている。
 女の子も冷静で怖がっている様子の子は少なかった。

「それじゃあみんな、秘密にする約束、頼むぞ?」

 服を腰につけたマジックボックスのかかった袋に突っ込んで窓から離れる。
 子供たちにウインクして見せると、男の子たちは任せて!と興奮している。

 とりあえずエミナのようにパニックになる子がいなくてよかった。

「よし」

 軽く体を伸ばして心の準備をする。

「行くぞ!」

 リュードは走り出す。
 窓枠に足をかけるとそのまま大きく窓から跳躍して外に飛び出した。

 上を見上げている人なんていないのでリュードに気づいている人はいない。
 思いの外跳べたな近づく教会を見ながら思った。

 腕をクロスして身を守り、衝撃に備える。
 子供たちが自慢していた女神のステンドグラスを突き破り、リュードは教会の中に入った。

「ではこの結婚に異議のある者は」

 ガラスが割れる音の向こうで声が聞こえた。
 異議のある者?

 当然この結婚には異議がある。
 誘拐して政治の道具として女の子を利用するだなんて許せるわけがない。

「ここに異議のある者がいるぞ!」

 教会入ってすぐの大聖堂。
 結婚式が行われているど真ん中にリュードは着地した。
 その場にいた全員の視線が飛び込んできたリュードに集まる。

 まだ誓いは終わっていない。
 なんとか間に合ったようだ。

 式場の中にまで物々しい警備の兵はいない。
 敵が援護を呼んでくるまでに時間はあるとすぐに状況を把握する。

「リュード……さん?」

「エミナ、迎えに来たぞ」

 ちょうどリュードの正面方向に純白の結婚衣装に身を包んだエミナがいた。
 隣にはうすらハゲの太った年配の男性。

 あれがキンミッコだとすぐにわかった。

「望まない結婚を強制するのは良くないぞ。俺はこの結婚に反対だ!」

「お前は何者だ!」

「俺はシュー……シュバルリュイード、だ!」

 ご先祖様、ごめんなさいとリュードは心の中で謝った。
 自分の名前をうっかりと口に出してしまいそうになったリュード。

 しかしこんな場所で自分の名前を言うわけにはいかない。
 適当に名前を言えばいいものをうっかりご先祖様の名前を出してしまった。

「シュバルリュイードだと? 魔人族の英雄の名前を出して何を企んでいる!」

「俺は……正義を成しに来た!」

「…………はぁっ?」

 空気が凍りつく。
 堂々と目的を言うつもりだったのだが思い直した。

 エミナにはこの先もトキュネスで生活することもあるかもしれない。
 下手に関係を匂わせるような発言はしないほうがいい。

 あくまでリュードの独断での行動ということにしておけばエミナの方で言い訳もできるかもしれない。
 それに口から出てしまった言葉はもう引っ込めることはできないのでこのまま押し切る。

「望まぬ結婚を己の欲望のために押し付ける不貞の輩に正義の鉄槌を落としに来た!」

 勢いでしゃべっているとはいえ、これはひどいと自分でも思う。
 直接エミナのために来たと言わないようにするために思いついたままに口に出しているが、もっとまともな言い訳があったろうと思わざるを得ない。

 この場で感動しているのはエミナだけ。
 なんで感動しているのかは謎である。

「さあ、その子を返してもらおうか」

「……そいつを捕らえろ! どこの手のものなのか聞き出すんだ!」

「まあ、そうなるよな」

 交渉決裂。
 こんな風に来ておいて穏便に住むはずもないけど、穏便に済めばと一度言葉で返すようには試みておいただけである。
 
 ダメだったのでさっさと実力行使でエミナを返してもらう。
 リュードはエミナに向かって走り出す。

 そんな風にしている間にも後ろからゾロゾロと兵士たちが入ってきているが、兵士たちも状況が分かっていない。
 敵襲と聞いて来てみれば魔人族の英雄を名乗る怪しい奴が1人いる。

 何が起きたのか困惑していた。

「行かせぬ!」

「行かせてもらうよ!」

 キンミッコの近くに控えていた重装備の兵士がハルバードをリュードに向かって振り下ろす。
 それをリュードは素手でハルバードの柄を受け止める。

 リュードがハルバードを掴んだまま手をひねるとハルバードの先端の斧の部分が折れてしまう。

「なっ……」

 少しだけ手が衝撃で痛むけれどダメージはほとんどない。
 相手に驚く間も与えずリュードは逆の手で相手の顔面をヘルムごと殴りつける。

 ガシャンとけたたましく音を立てて重装備の兵士が吹き飛んでいく。
 ヘルムが歪んで頭が抜けなくなるかもしれないけど頑張ってほしい。

「あれ? あのクソジジイは?」

 振り返るともうそこにキンミッコはいなかった。

「逃げました」

 花嫁を置いて逃げるとはなんとも情けない。
 追いかけて殴りつけたいところであるが今はエミナの方が優先である。

「まあいい、じゃあ行こうか」

「……どこにですか?」

 エミナが視線を教会の入り口に向ける。
 リュードたちは入ってきた兵士たちに完全に包囲されていた。

「に、逃げられないぞ」

 すでに結婚式の客は避難して、大聖堂いっぱいに兵士が集まっている。

「本当に私にかかってくるつもりか?」

 兵士に向き直り、ピンと胸を張って少し正義の使徒っぽく演じる。
 この人数を前に怯むともないリュードの姿に兵士たちの方が怖気付いている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...