86 / 331
第二章
いざダンジョンで実戦訓練!6
しおりを挟む
緊張が解けて一時的に力が抜けただけでルフォンは消耗しきったわけではない。
「ルフォン、下がっていろ」
ルフォンの武器であるナイフは2本ともホワイトラインベアの頭に刺さったままである。
多少の疲労もしているし武器もないのでルフォンを下がらせる。
「こいつ、不死かよ……」
糸でつられた操り人形を思い出した。
上から何かで引っ張られでもしているかのように不自然な動きでホワイトラインベアは起き上がった。
そのままゆっくりと立ち上がり、何も捉えていないような濁った目でリュードを見据える。
「頭を潰して死なないのなら細切れ……にでも…………」
剣を抜いてどうするか思案するリュードの前でホワイトラインベアが突如として倒れた。
まるで糸が切れたように。
「いったい……何なんだ」
足の先からホワイトラインベアが魔力になって消えていく。
気味の悪い謎を残してホワイトラインベアは消えてしまい、ルフォンのナイフがカランと音を立てて床に落ちた。
ちゃんとホワイトラインベアが消え去ったので今度こそこれで終わりだと言える。
ボスが倒されたことを察知したように重たい音を立てて扉が開いた。
「……出ようか」
薄気味悪いこの場所に長くいたくない。
竜人化を解いたリュードが2人に声をかける。
また扉が閉まってしまうかもしれないのでさっさとボス部屋を出ようとした。
「た、たすけてくれ!」
扉の向こうから緊迫した声が聞こえて緊張が高まる。
リュードが剣を構えて先に扉から出てルフォンとエミナも続く。
「くっ、みんな耐えるんだ! もう少しで教師たちも来てくれるはずだから!」
声の方に行ってみるとサンセールと仲間たちがデカいカマキリ2匹と戦っていた。
サンセールが1匹を引き受けて、仲間たちでもう1匹と戦っている。
なかなか頑張っていると評価してもいいけれど、状況はサンセールたちの方がやや押され気味だった。
このまま放っておけばそのうちサンセールか仲間の1人かがやられて一気に劣勢になるとリュードは見ていて思った。
決してサンセールたちが悪いのでもない。
カマキリは狂ったようにカマを振り回していてあれでは戦うのも厳しい。
「エミナ、あっちの1匹を頼めるか?」
「はい、分かりました」
幸いカマキリはリュードたちに気づいていない。
ならば奇襲をかけるチャンスである。
「エミナ、今だ!」
「いけっ、ファイヤーボール!」
「サンセール、やれ!」
「な、分かった!」
エミナがサンセールと対峙するカマキリの背中に炎の球をぶつける。
羽が燃えて叫び声を上げるカマキリの懐に入り込み、サンセールがトドメをさした。
キスズにはあっさりやられていたけれどサンセールもキスズに挑戦するだけの腕に覚えはあったのである。
リュードはその横をすり抜けてもう1匹のカマキリのところに駆け寄る。
「こっちだ!」
リュードは一気に距離を詰めるとカマキリの両手のカマを素早く切り落とす。
そのまま胴体も真っ二つに切って戦いは終わりとなった。
しっかりとカマキリの死体が消えることを確認してから剣を収める。
何度も起き上がってくるようなゾンビ化はやはり異常な現象だったようだ。
しかしカマキリの興奮具合や狭い通路に2匹もいたことを考えると異常さはある。
「ありがとう、助かった」
リュードたちの後発組として入ってきていたのはサンセールたちだった。
まだ上層にいたサンセールたちはダンジョンの再構築で運が悪くボス部屋の前まで運ばれてきてしまっていた。
ボス部屋は閉まっているし異常事態に危険を覚えたのでダンジョンを脱出しようとしたところいきなり魔物が現れて挟み撃ちにされてしまった。
中層相当の敵になるカマキリだったのでなんとかサンセールたちでも持ち堪えられた。
それでも痛みを恐れない異常な激しい攻撃と広くない通路での挟み撃ちに苦戦を強いられていた。
「怪我はないか?」
「僕たちは平気だけど……うん、ちょっと待ってくれ」
そう言うとサンセールは荷物を漁り出した。
「これ、お礼ではないけど是非使ってくれないか」
「服?」
「見たところ僕たちよりも君の格好の方がひどいじゃないか」
言われてみればそうである。
竜人化した影響で服はビリビリに破けてしまっていた。
管理された訓練下だし竜人化するつもりはなかったので替えの服も持ってきていない。
ボロ切れとなってしまった服をまとっているリュードを見かねたサンセールが自分の替えをリュードに渡した。
「あの、すまなかった!」
サンセールも別に小柄じゃないがリュードには及ばない。
少し小さいななんて思いながら服に袖を通しているとサンセールがリュードに頭を下げた。
「僕は君のことを見誤っていた」
何のことか分からず苦い顔をするリュード。
「ルフォンの可愛さと君の顔に嫉妬して色々言ってしまったこと謝罪する。どうか許してほしい」
どうして自分に関する悪い噂が流れているのかようやくリュードは理解した。
知っていたらどさくさに紛れて蹴りでも入れてやったところだがもう謝罪されてしまったこと。
リュードにとっては今知ったことだが相手にとっては今終わったことなのだ。
ここで蒸し返して文句を言ってはリュードが度量の狭いやつになってしまう。
「……分かった。許すよ」
しぶしぶ許す。こうなったら早く忘れてしまう方が賢いと言うものだ。
服ももらったのだ、これでおあいこということにしよう。
拭い切れないモヤモヤを胸にリュードは1つ大人になって笑顔を作った。
「おーい、誰かいるかー!」
サンセールたちと共にダンジョンの脱出を目指す。
少し登って下層から中層ぐらいに入ってきたぐらいでキスズや救助に来た他の冒険者と合流することができた。
そのあとは特に問題もなくリュードたちはダンジョンから脱出した。
「ルフォン、下がっていろ」
ルフォンの武器であるナイフは2本ともホワイトラインベアの頭に刺さったままである。
多少の疲労もしているし武器もないのでルフォンを下がらせる。
「こいつ、不死かよ……」
糸でつられた操り人形を思い出した。
上から何かで引っ張られでもしているかのように不自然な動きでホワイトラインベアは起き上がった。
そのままゆっくりと立ち上がり、何も捉えていないような濁った目でリュードを見据える。
「頭を潰して死なないのなら細切れ……にでも…………」
剣を抜いてどうするか思案するリュードの前でホワイトラインベアが突如として倒れた。
まるで糸が切れたように。
「いったい……何なんだ」
足の先からホワイトラインベアが魔力になって消えていく。
気味の悪い謎を残してホワイトラインベアは消えてしまい、ルフォンのナイフがカランと音を立てて床に落ちた。
ちゃんとホワイトラインベアが消え去ったので今度こそこれで終わりだと言える。
ボスが倒されたことを察知したように重たい音を立てて扉が開いた。
「……出ようか」
薄気味悪いこの場所に長くいたくない。
竜人化を解いたリュードが2人に声をかける。
また扉が閉まってしまうかもしれないのでさっさとボス部屋を出ようとした。
「た、たすけてくれ!」
扉の向こうから緊迫した声が聞こえて緊張が高まる。
リュードが剣を構えて先に扉から出てルフォンとエミナも続く。
「くっ、みんな耐えるんだ! もう少しで教師たちも来てくれるはずだから!」
声の方に行ってみるとサンセールと仲間たちがデカいカマキリ2匹と戦っていた。
サンセールが1匹を引き受けて、仲間たちでもう1匹と戦っている。
なかなか頑張っていると評価してもいいけれど、状況はサンセールたちの方がやや押され気味だった。
このまま放っておけばそのうちサンセールか仲間の1人かがやられて一気に劣勢になるとリュードは見ていて思った。
決してサンセールたちが悪いのでもない。
カマキリは狂ったようにカマを振り回していてあれでは戦うのも厳しい。
「エミナ、あっちの1匹を頼めるか?」
「はい、分かりました」
幸いカマキリはリュードたちに気づいていない。
ならば奇襲をかけるチャンスである。
「エミナ、今だ!」
「いけっ、ファイヤーボール!」
「サンセール、やれ!」
「な、分かった!」
エミナがサンセールと対峙するカマキリの背中に炎の球をぶつける。
羽が燃えて叫び声を上げるカマキリの懐に入り込み、サンセールがトドメをさした。
キスズにはあっさりやられていたけれどサンセールもキスズに挑戦するだけの腕に覚えはあったのである。
リュードはその横をすり抜けてもう1匹のカマキリのところに駆け寄る。
「こっちだ!」
リュードは一気に距離を詰めるとカマキリの両手のカマを素早く切り落とす。
そのまま胴体も真っ二つに切って戦いは終わりとなった。
しっかりとカマキリの死体が消えることを確認してから剣を収める。
何度も起き上がってくるようなゾンビ化はやはり異常な現象だったようだ。
しかしカマキリの興奮具合や狭い通路に2匹もいたことを考えると異常さはある。
「ありがとう、助かった」
リュードたちの後発組として入ってきていたのはサンセールたちだった。
まだ上層にいたサンセールたちはダンジョンの再構築で運が悪くボス部屋の前まで運ばれてきてしまっていた。
ボス部屋は閉まっているし異常事態に危険を覚えたのでダンジョンを脱出しようとしたところいきなり魔物が現れて挟み撃ちにされてしまった。
中層相当の敵になるカマキリだったのでなんとかサンセールたちでも持ち堪えられた。
それでも痛みを恐れない異常な激しい攻撃と広くない通路での挟み撃ちに苦戦を強いられていた。
「怪我はないか?」
「僕たちは平気だけど……うん、ちょっと待ってくれ」
そう言うとサンセールは荷物を漁り出した。
「これ、お礼ではないけど是非使ってくれないか」
「服?」
「見たところ僕たちよりも君の格好の方がひどいじゃないか」
言われてみればそうである。
竜人化した影響で服はビリビリに破けてしまっていた。
管理された訓練下だし竜人化するつもりはなかったので替えの服も持ってきていない。
ボロ切れとなってしまった服をまとっているリュードを見かねたサンセールが自分の替えをリュードに渡した。
「あの、すまなかった!」
サンセールも別に小柄じゃないがリュードには及ばない。
少し小さいななんて思いながら服に袖を通しているとサンセールがリュードに頭を下げた。
「僕は君のことを見誤っていた」
何のことか分からず苦い顔をするリュード。
「ルフォンの可愛さと君の顔に嫉妬して色々言ってしまったこと謝罪する。どうか許してほしい」
どうして自分に関する悪い噂が流れているのかようやくリュードは理解した。
知っていたらどさくさに紛れて蹴りでも入れてやったところだがもう謝罪されてしまったこと。
リュードにとっては今知ったことだが相手にとっては今終わったことなのだ。
ここで蒸し返して文句を言ってはリュードが度量の狭いやつになってしまう。
「……分かった。許すよ」
しぶしぶ許す。こうなったら早く忘れてしまう方が賢いと言うものだ。
服ももらったのだ、これでおあいこということにしよう。
拭い切れないモヤモヤを胸にリュードは1つ大人になって笑顔を作った。
「おーい、誰かいるかー!」
サンセールたちと共にダンジョンの脱出を目指す。
少し登って下層から中層ぐらいに入ってきたぐらいでキスズや救助に来た他の冒険者と合流することができた。
そのあとは特に問題もなくリュードたちはダンジョンから脱出した。
13
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
人の才能が見えるようになりました。~いい才能は幸運な俺が育てる~
犬型大
ファンタジー
突如として変わった世界。
塔やゲートが現れて強いものが偉くてお金も稼げる世の中になった。
弱いことは才能がないことであるとみなされて、弱いことは役立たずであるとののしられる。
けれども違ったのだ。
この世の中、強い奴ほど才能がなかった。
これからの時代は本当に才能があるやつが強くなる。
見抜いて、育てる。
育てて、恩を売って、いい暮らしをする。
誰もが知らない才能を見抜け。
そしてこの世界を生き残れ。
なろう、カクヨムその他サイトでも掲載。
更新不定期
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる
名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる