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第一章
閑話・隣に立つと決めた日3
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まさか本当にツキベアグリーと遭遇するとは運が悪い。
避けながらルフォンの捜索は無理があるし、もしルフォンがいた場合ツキベアグリーを放ってくとルフォンが危険にさらされる。
相手も繁殖期で気が立っているので逃す気はなさそうなので倒すしかない。
大人たちがツキベアグリーを囲むように戦い始めある。
ルフォンを探すのに焦る気持ちはあるけれど無理はしない。
連携を取り少しずつツキベアグリーに傷をつけていく。
ツキベアグリーは興奮していて痛みを感じていないので深追いして攻撃すると反撃をもらいかねない。
浅い傷とはいっても蓄積していけばダメージもバカにはならない。
ヴェルデガーも魔法で攻撃したり支援したりしながらみんな怪我をしないように安全に立ち回る。
興奮状態で暴れ回るツキベアグリーはかなり体力も消耗したのか動きに精彩を欠いてきた。
このまま戦っていけば勝てる。
そう思った瞬間だった。
「な……まさか!」
再びツキベアグリーの咆哮が洞窟全体を揺らした。
しかし目の前のツキベアグリーのものではない。
少し離れたところから響くように聞こえてきた。
最悪の事態だとヴェルデガーは顔をしかめた。
同じように薬草を求めに来た個体か、はたまたこのツキベアグリーのつがいか。
どちらにしてももう1体ツキベアグリーがいる。
早く倒して向かいたいところなのに別のツキベアグリーの咆哮を聞いてツキベアグリーが息を吹き返したように暴れ始める。
「くそっ、つがいか」
ツキベアグリーの様子を見てヴェルデガーは確信する。
たまたま何の関係もない個体がこの場所に集まっていたのではなさそうだ。
声を聞いて元気を取り戻したということはこの声の主はツキベアグリーのつがいだ。
けれども声はしても見えるところにもう1体のツキベアグリーの姿は見えない。
もう1体に警戒しつつも目の前のツキベアグリーに対処する大人たちは考える余裕もないがリュードは気づいてしまった。
なぜこの場にいないツキベアグリーが咆哮したのか。
中層の王者でもあるツキベアグリーがいるということは他の魔物はいないと考えてもよい。
となると何に咆哮したのか答えは1つ。
「ルフォン……!」
「リュード!」
ルフォンがもう1体のツキベアグリーに見つかった。
そう考えるのが自然である。
時間がない。
ツキベアグリーを倒しているのを待つ暇はない。
子供のリュードは大人よりも簡単に洞窟を進んでいける。
リュードはルフォンを探して走り出した。
もうだいぶ上ってきたところにいたので山の上も近い。
「その子から離れろ!」
光が見えてきて目的地に飛び出したリュードが見たのはツキベアグリーに壁際に追いつめられるルフォンだった。
全身に魔力を送り、地面を蹴る。
魔力に任せた無茶苦茶なやり方で体を強化して弾丸と化したリュードがツキベアグリーの脇腹に体当たりする。
子供の体重でも魔力量があるリュードの無茶苦茶な強化をもってすればそれなりの威力がある。
ツキベアグリーの体がリュードの体当たりで弾き飛ばされる。
「うっ……ルフォン、大丈夫か!」
「シュー……ナ、リュード君?」
目をつぶって衝撃に備えていたルフォンが目を開けるとリュードの背中が見えた。
リュードはルフォンを守るようにツキベアグリーとルフォンの間に立つ。
突然のことに驚きはしてもダメージはさほどないのかツキベアグリーはすぐに立ち上がった。
一方リュードは無事ですまなかった。
左肩が上がらない、左腕が動かない。
重たいツキベアグリーに全力でぶつかっていった代償にリュードは肩を脱臼してしまった。
肩が外れるほどに体当たりしたのにツキベアグリーには何のダメージも与えられなかった。
獣は聡い。
怪我をしたことを悟られてはいけない。
剣を抜き全身に魔力を充実させてツキベアグリーを睨みつける。
痛みを顔には出さない。
「ルフォン、聞こえるか」
「う、うん」
「ゆっくりと、少しずつ、洞窟の方に移動していくんだ」
何を警戒しているのか知らないがツキベアグリーは立ち上がったまま動かずリュードをジッと見ている。
リュードの力を見定めているのかもしれない。
ダメージはなくとも衝撃はあったのに見てみるとまだ子供で、ツキベアグリーは小さいリュードの力を計りかねていた。
それに魔力だけならリュードもかなりの力を持っている。
ツキベアグリーはリュードから感じる魔力にも警戒をあらわにしていた。
「俺が行けと言ったら……」
「ダメ……!」
「どうして!」
何故か頑なに逃げることを拒否するルフォン。
「見て、まだつぼみのディグラ草」
一面に広がるディグラ草の花畑。
ツキベアグリーに気を取られていたけれど見てみるとまだ花は全体的に8分咲きでまだつぼみのものもちらほら見られた。
運が悪いことにつぼみのディグラ草はツキベアグリーの足元に多くある。
このままツキベアグリーに暴れられてしまえばディグラ草がダメになってしまうとルフォンは焦っていた。
だからといってツキベアグリーの下にあっては取りに行くこともできない。
「どっちにしろこのままじゃ取りに行けない。一回逃げて大人たちを呼びにいくんだ」
「でも……」
「いいから、ゆっくりと移動するんだ」
「分かった……」
子供だけで何とかしようなんて無茶すぎる。
むしろこのままここにいる方がディグラ草が荒らされてしまう。
「うっ、まずい!」
断末魔の叫びが聞こえてきた。
リュードたちが対面するツキベアグリーではなく、大人たちが戦っていたツキベアグリーを倒したのだ。
喜ばしいことなのだがタイミングが悪い。
つがいのツキベアグリーはその叫びの意味を理解して、今すぐにでも駆け出そうとしたが目の前にものすごい魔力を持つ存在がいる。
見た目ではなく魔力を感じ取ってリュードを強敵だと認識した。
まずは目の前の相手を倒さなければいけない。ツキベアグリーはそう判断した。
「ルフォン、行け!」
1歩前に出たツキベアグリーの雰囲気が変わった。
悠長に移動している場合ではない。
ルフォンが走り出すがツキベアグリーは狙いをリュードに定めたままである。
ツキベアグリーがリュードに向かって突進する。
ルフォンの方に行かなかったのは好都合。
「どーするよこれ」
ルフォンは逃がせたものの、ツキベアグリーに対して何か対策があるのではない。
体が勝手に動いて今の状況がある。
ツキベアグリーは完全にリュードをロックオンしていて逃げることも難しそうだ。
避けながらルフォンの捜索は無理があるし、もしルフォンがいた場合ツキベアグリーを放ってくとルフォンが危険にさらされる。
相手も繁殖期で気が立っているので逃す気はなさそうなので倒すしかない。
大人たちがツキベアグリーを囲むように戦い始めある。
ルフォンを探すのに焦る気持ちはあるけれど無理はしない。
連携を取り少しずつツキベアグリーに傷をつけていく。
ツキベアグリーは興奮していて痛みを感じていないので深追いして攻撃すると反撃をもらいかねない。
浅い傷とはいっても蓄積していけばダメージもバカにはならない。
ヴェルデガーも魔法で攻撃したり支援したりしながらみんな怪我をしないように安全に立ち回る。
興奮状態で暴れ回るツキベアグリーはかなり体力も消耗したのか動きに精彩を欠いてきた。
このまま戦っていけば勝てる。
そう思った瞬間だった。
「な……まさか!」
再びツキベアグリーの咆哮が洞窟全体を揺らした。
しかし目の前のツキベアグリーのものではない。
少し離れたところから響くように聞こえてきた。
最悪の事態だとヴェルデガーは顔をしかめた。
同じように薬草を求めに来た個体か、はたまたこのツキベアグリーのつがいか。
どちらにしてももう1体ツキベアグリーがいる。
早く倒して向かいたいところなのに別のツキベアグリーの咆哮を聞いてツキベアグリーが息を吹き返したように暴れ始める。
「くそっ、つがいか」
ツキベアグリーの様子を見てヴェルデガーは確信する。
たまたま何の関係もない個体がこの場所に集まっていたのではなさそうだ。
声を聞いて元気を取り戻したということはこの声の主はツキベアグリーのつがいだ。
けれども声はしても見えるところにもう1体のツキベアグリーの姿は見えない。
もう1体に警戒しつつも目の前のツキベアグリーに対処する大人たちは考える余裕もないがリュードは気づいてしまった。
なぜこの場にいないツキベアグリーが咆哮したのか。
中層の王者でもあるツキベアグリーがいるということは他の魔物はいないと考えてもよい。
となると何に咆哮したのか答えは1つ。
「ルフォン……!」
「リュード!」
ルフォンがもう1体のツキベアグリーに見つかった。
そう考えるのが自然である。
時間がない。
ツキベアグリーを倒しているのを待つ暇はない。
子供のリュードは大人よりも簡単に洞窟を進んでいける。
リュードはルフォンを探して走り出した。
もうだいぶ上ってきたところにいたので山の上も近い。
「その子から離れろ!」
光が見えてきて目的地に飛び出したリュードが見たのはツキベアグリーに壁際に追いつめられるルフォンだった。
全身に魔力を送り、地面を蹴る。
魔力に任せた無茶苦茶なやり方で体を強化して弾丸と化したリュードがツキベアグリーの脇腹に体当たりする。
子供の体重でも魔力量があるリュードの無茶苦茶な強化をもってすればそれなりの威力がある。
ツキベアグリーの体がリュードの体当たりで弾き飛ばされる。
「うっ……ルフォン、大丈夫か!」
「シュー……ナ、リュード君?」
目をつぶって衝撃に備えていたルフォンが目を開けるとリュードの背中が見えた。
リュードはルフォンを守るようにツキベアグリーとルフォンの間に立つ。
突然のことに驚きはしてもダメージはさほどないのかツキベアグリーはすぐに立ち上がった。
一方リュードは無事ですまなかった。
左肩が上がらない、左腕が動かない。
重たいツキベアグリーに全力でぶつかっていった代償にリュードは肩を脱臼してしまった。
肩が外れるほどに体当たりしたのにツキベアグリーには何のダメージも与えられなかった。
獣は聡い。
怪我をしたことを悟られてはいけない。
剣を抜き全身に魔力を充実させてツキベアグリーを睨みつける。
痛みを顔には出さない。
「ルフォン、聞こえるか」
「う、うん」
「ゆっくりと、少しずつ、洞窟の方に移動していくんだ」
何を警戒しているのか知らないがツキベアグリーは立ち上がったまま動かずリュードをジッと見ている。
リュードの力を見定めているのかもしれない。
ダメージはなくとも衝撃はあったのに見てみるとまだ子供で、ツキベアグリーは小さいリュードの力を計りかねていた。
それに魔力だけならリュードもかなりの力を持っている。
ツキベアグリーはリュードから感じる魔力にも警戒をあらわにしていた。
「俺が行けと言ったら……」
「ダメ……!」
「どうして!」
何故か頑なに逃げることを拒否するルフォン。
「見て、まだつぼみのディグラ草」
一面に広がるディグラ草の花畑。
ツキベアグリーに気を取られていたけれど見てみるとまだ花は全体的に8分咲きでまだつぼみのものもちらほら見られた。
運が悪いことにつぼみのディグラ草はツキベアグリーの足元に多くある。
このままツキベアグリーに暴れられてしまえばディグラ草がダメになってしまうとルフォンは焦っていた。
だからといってツキベアグリーの下にあっては取りに行くこともできない。
「どっちにしろこのままじゃ取りに行けない。一回逃げて大人たちを呼びにいくんだ」
「でも……」
「いいから、ゆっくりと移動するんだ」
「分かった……」
子供だけで何とかしようなんて無茶すぎる。
むしろこのままここにいる方がディグラ草が荒らされてしまう。
「うっ、まずい!」
断末魔の叫びが聞こえてきた。
リュードたちが対面するツキベアグリーではなく、大人たちが戦っていたツキベアグリーを倒したのだ。
喜ばしいことなのだがタイミングが悪い。
つがいのツキベアグリーはその叫びの意味を理解して、今すぐにでも駆け出そうとしたが目の前にものすごい魔力を持つ存在がいる。
見た目ではなく魔力を感じ取ってリュードを強敵だと認識した。
まずは目の前の相手を倒さなければいけない。ツキベアグリーはそう判断した。
「ルフォン、行け!」
1歩前に出たツキベアグリーの雰囲気が変わった。
悠長に移動している場合ではない。
ルフォンが走り出すがツキベアグリーは狙いをリュードに定めたままである。
ツキベアグリーがリュードに向かって突進する。
ルフォンの方に行かなかったのは好都合。
「どーするよこれ」
ルフォンは逃がせたものの、ツキベアグリーに対して何か対策があるのではない。
体が勝手に動いて今の状況がある。
ツキベアグリーは完全にリュードをロックオンしていて逃げることも難しそうだ。
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