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第一章

託された思い9

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 ガイデンに対するリュードの武器は剣。
 まずは軽く様子を見る。
 
 お手本のように真っ直ぐ剣を振り下ろしてガイデンの出方をうかがう。
 金属の衝突する音。ガイデンが盾でリュードの攻撃を防ぐ。

 華美すぎない装飾の施された盾からは魔力を感じる。
 魔道具ではなさそうだが確かな人が作った逸品であることは間違いない。

 縦に受けた衝撃を吸収して左半身を引いた勢いを活かして右半身を前に出し、リュードの首に剣を突き出す。
 力比べとは違う本気の刃は当たれば怪我どころじゃ済まない。
 
 リュードは体をねじってガイデンの剣をかわすと一度飛び退いて距離を取る。
 そういえば村に盾を使って戦う人はいなかったなとリュードは思った。
 
 当然魔物で盾を使うものもいない。
 基本の戦い方は変わらないだろうが盾に対する対処の仕方というものをリュードは知らない。

 もう一度距離を詰めて攻撃を仕掛ける。
 隙ができないように攻撃をたたみかけるがガイデンは盾を巧みに使ってリュードの攻撃を受ける。

 剣よりも安定した防御。
 まだ様子見段階とはいっても突き崩すのは難しそうである。

 ならばとリュードは少しギアを上げる。
 剣などと違って盾ならば大きく視界を塞ぐ。

 高めに攻撃して盾を上げさせ、その隙にリュードは素早く後ろに回り込んで剣を振る。

「甘い!」

 ガイデンは容易くリュードの剣を防いで反撃する。
 熟練した盾持ちが防御に大きく比重を置くとこれほど厄介だとは思いもしなかった。

 村の面々は基本攻めることをよしとするので防御寄りで待ちの戦法はなかなか経験がなくてリュードも攻めきれない。
 しっかりと防ぐことで相手の隙を狙っているのは分かっているからリュードも隙を作らないように冷静に攻撃を続ける。

 変化のない切り合い。先に動いたのはガイデンだった。
 受け流すように剣を盾で受けながらそのまま体ごと盾でリュードを突き上げる。
 
 シールドバッシュ。盾を使っての体当たりである。
 上体を起こされるような強い衝撃を受けて2歩後退するリュード。
 
 当然の如く追撃するガイデンは突きに近い剣の振りでリュードの胴体を切り付ける。

「クッ……!」

 力任せにガイデンの剣を弾くがわずかに反応が遅れて脇腹が浅く切り付けられた。

「まだまだ……なに!」

 ダメージを受けたら前に出ろ、傷付いたら反撃しろ。
 きっと攻撃に成功した相手は油断している。

 竜人族のオヤジの1人が言っていた教え。
 とんでもないことを言うものだと思ったがあながち外れていない時もある。

 浅くても傷は傷。鋭い痛みが脇腹に走るがリュードはあえて前に出る。
 まさか反撃してくるとは思っていないガイデンは追撃の姿勢に入っていた。

 盾を間に差し込もうとしたがもう遅い。
 リュードの剣が盾の縁に当たり大きな音を立てる。

 ある意味防ぐのは成功した。
 ここで予想外だったのがガイデンがスケルトンだったということである。
 
 生身よりも非力、そしてはるかに軽い体は弾かれる勢いのまま吹き飛んでしまった。
 互いが互いに想定していた動きとは全く異なっていた。

 動き出すのが早かったのはリュード。
 吹き飛ばされるなんて想像もしていなかったガイデンとパワーがあって人を吹き飛ばしたことがあるリュードで経験の差が変なところで出た。

 リュードの追撃。
 思い切り横殴りに振られた剣を防ごうと盾を引き戻すけれど縦の正面で剣を受けることに失敗した。

 再び盾の縁に当たった追撃はガイデンの手から盾を奪った。
 飛んでいった盾がスケルトンに当たって何体か砕けてしまったが今はそんなこと気にしていられない。

「もらったぁーー!」

 そのまま剣を返してガイデンを袈裟斬りにする。
 魔物を切った時のような重たい感触はなく、スケルトンの体は切った感覚も軽かった。

 直前まで激闘を繰り広げていたとは思えないほどである。

「さすがだな……敵わなかった」

 ガイデンの手から剣が滑り落ちる。
 上半身が床に崩れ落ちながらガイデンが称賛の言葉を口にする。

「何を言うんですか。あれを本気のあなただなんて俺は思いませんよ」

 床に転がるガイデンの頭蓋を見るリュードの目に勝利の喜びはなかった。
 リュードは勝ったけれど所詮スケルトンの状態のガイデンに勝ったに過ぎない。

 生身の肉体で戦ったのならガイデンはもっと強かったはずだ。
 こんな風に勝てるとは思っていない。

「ごめんな、ガイデン。僕の力不足で」

 ゼムトが申し訳なさそうに頭を掻く。
 他のスケルトンが脆くて力が弱いのにガイデンはスケルトンにしては強い力を持っていたのはゼムトが魔力を注いで強化していたからである。

 それでも強化は足りず、生前のような力強さには到底及ばなかった。
 スケルトンとして対峙してすら強敵だった。
 
 生きている頃はどれほど強い人だったのだろうか。
 この勝負はリュードの勝ちだけれど本物の勝負とは程遠いものだと考えざるを得ない。

「確かに今は全盛期には及ばない非力なものだった。しかし私は本気だった。よもすれば君を殺すほどに。だから悔いはない。
 武人として死ねる……これでよかった。君にはお願いばかりして申し訳ないが最後の最後に1つ。私の使っていた盾は我が家に伝わる家宝なのだ。遺品として持ち帰り、私の子孫に渡してほしい。
 私には……息子が…………いた……ので」

「ガイデン?」

「あー……どうやら逝っちゃったようだね……お疲れ様、ガイデン」

 ガイデンは武人として死んでいった。
 もはやただの骨となったガイデンの遺骨をゼムトはスケルトンに集めさせる。

「これ、ガイデンのお願いだけどいいかな?」

 スケルトンがリュードにガイデンの盾を差し出す。
 ここまで来て断るわけもない。盾を受け取ってマジックボックスの袋の中に入れる。
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