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第一章

託された思い3

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「あっ! ここだ……」

「ルフォン!」

「ルフォン! シューナリュード!」

 臭いの元を見つけて勢いよく顔を上げたルフォン。
 突如として手をついていた地面が崩れ、油断していたルフォンはそのまま吸い込まれるように穴に落ちていく。

 とっさにリュードがルフォンの服を掴むも穴はさらに広がって足元が崩れ落ち、リュードもルフォンとともに落ちていった。

「ルフォン掴まれ!」

 リュードは落ちながら強引にルフォンを抱き寄せる。
 グッと腕で抱き抱えてルフォンを守ろうとする。

 真っ暗で周りも見えず下までどれほどあるのか、上からどのぐらい落ちたのか全く分からない。
 落ちていることだけが今わかる唯一のこと。

 何にしても永遠に落下が続くわけでもなく、すぐにでも地面に激突してもおかしくはない。
 何か対策を取らねばリュードが抱えるルフォンはともかくリュードは即死しかねない。

 ヴェルデガーのように慣れていれば瞬間的に考えて魔法を使えたのかもしれないが今のリュードに適切な魔法をイメージする余裕も発動することもできない。
 だから本能で扱えるただ一つの方法を取った。

 直後、3度の衝撃。

「ヴッ……ルフォン、無事か?」

「うん、私は大丈夫だけどリューちゃんは……?」

「少し待ってほしい……」

 リュードは落ちながらとっさに竜人化をした。
 ある意味肉体の強化である竜人化を持って衝撃に備えたのである。

 全身に生えた鱗、さらには魔力を全身にたぎらせて強化しダメージを軽減させた。
 そのおかげで怪我や骨折はなかった。

 けれど衝撃は強く、背中を打ち付けて呼吸が一瞬できなくなるほどだった。
 なんとか抱きしめていたルフォンも無事だった。

 多少の衝撃は伝わっていたけれどリュードがほとんど引き受けてくれたおかげで全く怪我もない。
 骨は折れていないが全身が砕けたような痛みがある。
 
 幸い個人の装備品を入れておくマジックボックスのカバンは身につけていた。
 見えないながらルフォンが手を伸ばしてカバンを探す。

「ルフォ……ちょ、そこはダメだ」

「あ、ご、ごめん!」

 見えないので変なところに手をついてしまった。
 ルフォンは顔を赤くしながら手の位置を慎重に調整してリュードのカバンに手を伸ばす。

 そしてカバンの中からポーションを取り出してリュードに飲ませてあげる。
 ダメージが激しすぎて竜人化も解けて体も動かせない。

 ルフォンはそんなリュードの上に乗ったままペタペタと体を触って怪我ないか確認した後、離れるのも不安なのかそのままピタリとリュードにくっついた。
 多少ニヤリと笑っていることにリュードは当然気がついていない。
 
 暗闇で目が使えないと他の感覚が鋭敏になる。
 上に乗っているルフォンは柔らかいしほんのりと甘い良い匂いがする。

 上半身に乗ってリュードに密着できる喜びが隠し切れなくてパタパタと振られている尻尾が巻き起こす風がふわりと頬を撫でる。
 どこがとは言わないけど体の一部が元気になってしまいそうでこれもまた辛い。

「……そろそろ動けそうだ」

「まだ休んでてもいいんじゃない?」

「そうもいかないよ。みんなも心配してるだろうしね」

 ポーションの効果もあって全身の痛みが落ち着いてきた。
 頭が冷静になるにつれ自分が置かれている状況が何となく分かり始め、なおかつ分からないことが出てきた。
 とりあえず洞窟の中で地面の崩落があって落ちたことは理解した。
 
 どれほどの高さから落ちたのかは知らないけれど滞空時間からすると相当高いはずである。
 そんな高さから落ちても無事な竜人族の体の丈夫さに感謝する。

「光よ」

 ルフォンに上から退いてもらって、手に魔力を集めるようにして呪文を唱えるとポワッと光の玉が手のひらの上に出来て周りを照らし出す。
 この周りを照らすだけの魔法は詠唱が簡単でリュードでなくても簡単に使えるぐらいのものである。

 一切の光がなくすっかり暗闇に慣れてしまった目がいきなりの光に慣れるまで時間がかかる。
 少しずつ目が慣れてきてようやく周りの状況というかどんな場所にいるのかが見えてきた。

 どこかの部屋のようだった。
 床、壁、天井が木を材料とした人工的に作られた四角い部屋の中にリュードとルフォンはいた。

 上を見上げると天井に大きな穴と向こうに広がる暗闇。
 無事に済んだのは固い地面じゃなくこうして天井を突き破って落ちたためにダメージが多少軽減されたからだった。

 そしてここにきて人狼族の3人が言っていた変な臭いをリュードも強く感じることも出来た。
 リュードにはその正体も何となく予想がついていた。

「ここは……船か」

 そしてその臭いと今いる場所や感じている奇妙な感覚から状況を推測した。
 不規則にわずかに揺れ動く体、部屋に転がる樽や木箱。

 そして前世で嗅いだことのある臭い。これは海の臭いだ。
 これらのことを全て総合すると船の上にいるのではないかと推察した。

「船? 船ってあの?」

「んー……多分ルフォンが考えてるやつとは違うもっとデカい船だと思う」

 ルフォンが首を傾げる。
 フネと聞いてルフォンがイメージするものと今リュードが口にしたもののイメージはおそらく違う。

 海は村から南にあるけれど南までは距離もある上に町もないからまずそちらにはいかない。
 なので村の人々は基本的に海というものを実際には知らないのである。

 距離があるために潮の臭いも届かないのでルフォンがそうした臭いを知らなくても無理はない。
 そして船もここまで来るのに使ったような川を渡るための小舟ぐらいしか見たことない。

 海を渡るような大型の船があることもルフォンは分かっていないのだ。
 けれども大型の船の中にいるというのもリュードの予想でしかない。

 確定的なことが分かるまではまだ状況は分かっていないに等しい。
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