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第一章

優勝と小さな嫉妬2

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「よーう、色男。イチャついてないでこっちきて力比べ観ろよ。次、お前のお袋だぜ」

 甘ったるいような空気を粉砕して声をかけてくれたのは竜人族の少年だった。
 名前はコウルといって同い年で力比べの1回戦で戦った相手でもある。

 比較的仲のいい友達と言える奴だけどそもそもあんまり遊びに出ないリュードからすればそんなに知っているわけでもない。
 こうしてサッパリとした気のいい奴だから好きではある。

「ルフォンも対戦相手がお前のお袋になるんだから応援しなくちゃいけないだろ」

「ほら、歩きにくいから離れてくれ」

「むう~じゃあこうする!」

 抱きつかれていては歩きにくい。
 ルフォンは不満そうながら抱きつくのやめてくれたけどその代わりリュードの腕を引っ張るようにして柵の近くまで連れていく。

 そしてそのままピッタリと腕を組んで観戦することになってしまった。
 柵の中では準決勝の2試合目リュードの母メーリエッヒとルフォンの母ルーミオラが向かい合って試合が始まるところだった。

 メーリエッヒは少し長めの剣を、ルーミオラは身の丈ほどもある長さの大剣を構えていた。
 高身長で普通に近い剣を持つメーリエッヒとやや身長が低めで大剣を持つルーミオラは対照的と表現してもいいぐらいだった。

 試合が始まって2人は同時に駆け出した。
 メーリエッヒはまるでレイピアでも扱うかのような突き主体の戦い方をしていて、ルーミオラは木の棒でも持っているのかと見間違うほど軽々と大剣を振り回している。

 優勝候補の2人は大体勝ち上がる。
 そのためにメーリエッヒとルーミオラの戦いは毎年観られるものである。

 けれど勝敗はその時によって違う。
 嵐のような戦いで早い時もあれば激しく打ち合って結構かかる時もあった。

 ルーミオラの大剣をメーリエッヒが細い剣で巧みにさばき、メーリエッヒの鋭い攻撃をルーミオラが大剣で上手く受けていく。

 攻めと受けが代わる代わる入れ替わり、激しい戦いが繰り広げられる。
 自分の母親が戦う姿にリュードは肉を食べることも忘れて見入ってしまう。

 皆が声を上げて応援されるメーリエッヒの姿は勇ましくカッコいいのだが身内のことであるし少しだけ気恥ずかしくも感じる。

「勝者メーリエッヒ!」

 今日勝利の女神はメーリエッヒに微笑んだ。
 激しい戦いの末にバランスを崩したルーミオラにメーリエッヒが剣を突き付けており、文句なしの満場一致で札が上がっていた。

 清々しい笑顔を浮かべて互いに健闘を讃えあう2人は先ほどまで鬼のような顔をして戦っていたとは到底思えない。
 メーリエッヒが勝ったということは優勝したも同然。
 
 優勝すればみんなが色々くれたりメーリエッヒ自身も機嫌が良くなるので明日から食卓はちょっとリッチになるはずだとリュードの機嫌も良くなる。
 そして女性部門が終わると最も盛り上がる力比べの本番が始まる。

 リュードは慌てて串焼きをさっさと食べ終えると決勝を見ることなく待機場所に向かった。

 子供部門チャンピオンは1回戦目の始めの試合の出場となるのだ。
 対戦相手は直前まで不明。

 大人男性部門は直前にくじがひかれて対戦が決まる。
 盛り上がりのためや八百長を防ぐような意味もあるらしく、くじ引き係がさっと2枚を引いて対戦が決まるのである。

 リュードの場合は最初に出ることが決まっているから1枚引いてその場で対戦相手が決まる。
 そのためにも早めに待機場所に行くに限る。

 リュードが着いた時にはまばらだった待機場所も決勝が終わる頃には男の出場者でいっぱいになる。
 直前に呼ばれる都合上待機していないで遅れると不戦勝にもなるからしょうがない。

 決勝が終わって対戦相手の女性がタンカで運ばれてきて、少し遅れてメーリエッヒが待機場所に鼻歌まじりに戻ってきた。

「おめでとう、母さん」

「あらリュード! そういえばあなたはチャンピオンだったわね。
 母の雄姿見た? もちろん勝ってきたわよ!」

「母さん恥ずかしいよ……」

「何言ってるのよ。昨日はちゃんとおめでとうも言えないまま寝こけちゃったから」

 興奮覚めやらぬメーリエッヒはギュッとリュードを抱きしめて頬にキスをお見舞いしてくれる。
 ルフォンもそうだけどリュードの周りの女性はスキンシップが激しすぎる。

 美人母であるメーリエッヒに頬にキスをされるのは嬉しいっちゃ嬉しいけど周りにミチミチといる男衆の生暖かい視線にリュードは顔を赤くする。
 力もメーリエッヒのほうが遥かに強いために振りほどけない。

 その時ため息にも似たような落胆の声が聞こえてきた。

「対戦相手も決まったみたいだし離してよ」

「息子がボコボコにされるところを見たい母親なんていないのよ?」

「戦いから逃げたら竜人の誇りがすたるって言ってるのは母さんだろ」

「もう! いつの間にそんな風に言うようになったのかしら」

 渋々離してくれたメーリエッヒは男たちが左右に寄って出来た道を堂々と通って柵の外の観客側に戻っていく。
 一方でリュードは柵の中へと呼ばれて入っていく。

 騒ぎの間に対戦相手はもう中にいて待っていた。

「くじ運は最悪だな……」

「はははっ、むしろ運命のような巡り合わせだと思うぞ?」

 なぜ落胆の声が聞こえてきたのか分かった。
 待っていた対戦相手はよく知った顔の相手でリュードも顔をしかめて相手を見る。

 金髪に近い暗い黄色い髪を短く刈り込み、少年のような笑みを浮かべるのはリュードの剣の師匠のウォーケックであった。
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