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第一章

初めての力比べ9

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「あ……」

「危ない……うわっ」

 糸が切れたように後ろに倒れるフテノをとっさに支えようとしてリュードもそのまま一緒に地面に倒れ込んでしまう。
 勝利で完全に集中が途切れて全く支える手に力が入らなかった。
 
 2人とも限界だった。
 並ぶようにして地面に転がるリュードたちに惜しみなく拍手と賞賛の声がかかる。

「負けたよ……」

 なんとか力を振り絞ってリュードの上から転がって空を見上げたままフテノは呟くように言った。
 下馬評通り優勢はフテノだったし総合的に見てもリュードはフテノに及んでいない。

 でもリュードは諦めずに戦って全てを出し切って、勝った。

「運が良かった。それだけさ」

「運も味方につけられる者が強いのさ。力に差があろうと勝負に勝った者が強い者。
 これが僕たちのルールだ」

 首だけを動かして俺を見たフテノには負の感情が見えず、むしろ清々しいほどの晴れやかな顔をして笑っている。

「いつから足、挫いてたんだ?」

「あぁ……やっぱり気付いてたんだね」

 足さえ挫かなかったら負けていたのはリュードの方だ。

「君が地面を滑るようにした攻撃をかわして空中で攻撃されて弾かれた時さ。
 僕は勝つつもりだったから出来る限りダメージは避けたくて地面に叩きつけられる前にどうにか衝撃を吸収して立とうと思ったのさ」

 それが間違いだったとため息をついて再び空を見上げてフテノは続ける。

「もっと上手くやれれば良かったんだけど結果は失敗。
 足は捻ってしまったし強かに地面に激突した」

 なるほどと思った。

 なんてことはなく1度地面に叩きつけられて跳ねたようにリュードには見えていたけどその時にはフテノの中で駆け引きが始まったいたのだ。
跳ねたのではなく足をついて立ち上がり、そのまま反撃に移ろうとしたのだが威力を殺しきれず飛び跳ねるようになったのだ。

 結果吸収しきれなかった衝撃を受けて足を挫くという代償を払うことになった。
 もしフテノの思惑が成功していたら無鉄砲に突撃してたリュードは無事じゃ済まない反撃をされていた。

「ほんの一瞬の判断が勝負を決める……15歳の今年がチャンピオンのチャンスだったのになぁ」

 空を見上げたままポツリとつぶやくフテノ。
 勝者が敗者にどう声をかけるべきなのかリュードにはそれが分からない。

 最後にどう言うべきか迷っている間にフテノは治療班によって運ばれていった。

「立てるか?」

「父さん」

 フテノを運んでいった医療班と入れ替わりで父であるヴェルデガーが側に来ていた。
 未だ倒れたままのリュードを上から覗き込むヴェルデガーの顔はどこか誇らしげな様で、それでいて優しげに微笑んでいた。
 
 息子の成長を喜ぶ父の姿。
 フテノと会話している時には優勝した実感があまりなかった。

 けれど優しく微笑むヴェルデガーの顔を見てようやくわいてくる。
 じわじわと胸に優勝の喜びが広がっていきニマニマと顔が笑ってしまう。

 差し出されたヴェルデガーの手を取るとヴェルデガーの魔力が体に流れ込んできて体が少しだけ軽くなる。

「本当は勝者は回復させちゃダメなんだがな。まあ、優勝者が寝転んだままというのは格好がつかないからな」

 イタズラっぽく笑ってウインクをするヴェルデガーの手に体重をかけて起き上がるとみんなが周りで見てることを思い出した。

「お前は自慢の息子だ!」

 起き上がった後ヴェルデガーはそのままリュードの腰を掴んで持ち上げると肩に乗せた。
 全員の視線がリュードに集中する。
 
 こんなことされると思っておらず気恥ずかしそうにしているリュードにまずはルフォンが拍手してくれるのが見えた。
 やがてみんなに拍手が広がっていき、同時にリュードの中で喜びが爆発して今度は自分から両手を突き上げて喜びを表現した。

 改めて優勝者を称える。
 リュードは歓声に応えて両手を大きく振り返した。

 前の人生も平々凡々としていて何かで1番になったことがなかったリュードの、初めて掴み取った1番の日であった。

 その後は下ろしてもらい、なんとか控え場所まで1人で歩く。
 もう限界だけど最後に自分の足で控え場所まで帰る、これも必要なことである。

 けど疲労の限界だったリュードは控え場所に入ってすぐのところで動くことができなくなってしまい、父の背中に揺られて家まで帰った。
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