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第五章

ゴブリンは白いリザードマンを取り戻します1

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「み、見ないでくださいね!」

 装備を外して一糸纏わぬ姿となったオルケが魔法陣の描かれた床の真ん中に置かれたベッドの上に横たわっている。
 いかに魔物の体であっても裸になるのは恥ずかしい。

 特にリザードマンは体を毛に覆われていない上に人間のように女性らしい起伏のあるフォルムなので余計に恥ずかしいのである。
 ただオルケとヴァンベーゲンだけにしておくのも心配なのでドゥゼアたちも遠くから様子をうかがうことにした。

『動くでないぞ』

 ゴーレム姿のヴァンベーゲンは魔法陣の最後の確認をしている。
 きっとこれが最後の挑戦になるとヴァンベーゲンは考えている。

 失敗は許されない。
 些細なミスもないように細かくチェックしている。

 ベッドの周りには四角い箱がいくつも置いてあり、その位置もヴァンベーゲンは調整している。

『それでは始める』

「えっ……はや」

 ヴァンベーゲンの言葉をオルケが理解できてもオルケの言葉をヴァンベーゲンは理解できない。
 オルケがいくら心の準備ができていなくてもヴァンベーゲンに言葉が通じない以上止めることも無理なのだ。

 ヴァンベーゲンが床の魔法陣に手をついて魔力を込め始める。
 魔法陣に魔力が広がって強い光を放ち始める。

「すごい……」

「何が起きてるのか分かんないけど確かに凄そう……」

 強い魔力を感じる光にレビスとユリディカも驚きを隠せない。

「うっ……」

 オルケの体を奇妙な感覚が襲い始めた。
 何かがお腹から体の中に入り込もうしているような少し不快な感じがある。

 オルケの体も発光し出し、ふわりとベッドから浮き上がる。

『ふはは……ふははははっ! この反応! 成功だ!』

 浮き上がったオルケを見上げるヴァンベーゲンが笑い声を上げる。

『長かかった……ようやく私の実験が実を結ぶ……』

 箱の中から青白い光が出てきてオルケの体の中に入っていく。

「何が起きてるんだ……」

「あっゴーレムが……」

 ヴァンベーゲンの脳みそを積んでいるゴーレムがいきなり倒れた。
 床に頭が叩きつけられて脳みそを入れていたガラスが割れる。
 
 床に脳みそが転がってヴァンベーゲンの声が聞こえなくなる。

「だ、大丈夫なんですか?」

 カワーヌが不安そうな表情を浮かべている。
 正直なところドゥゼアも心配なのであるが、魔法の途中で介入すれば何が起こるのかも分からない。

 ただ見守るしかない。

「光が……収まっていく」

 脳みそからも青白い光が出てきてオルケに吸い込まれていった。
 そして眩しいほどに輝いていた魔法陣の光が徐々に弱くなっていって宙に浮いていたオルケの体がゆっくりとベッドに降りていく。

「オルケ」

「大丈夫かな?」

「まだ近づくな」

 レビスとユリディカはオルケのところに行こうとしたがドゥゼアがそれを制する。
 まだオルケがどうなったのか分からない。

 魔法が完全に止まっているのかも不明なのですぐに駆け寄るのは危険だった。

「オルケ……?」

 オルケはゆっくりと上半身を起こした。

「ふ……ふははっ! やった……やったぞ!」

 オルケは突然笑い出した。

「オルケじゃ……ない?」

 その笑い方を聞いてユリディカがショックを受けたような顔をした。
 まるでヴァンベーゲンのような笑い方をしている。

 声はオルケなのだけどなんだかオルケじゃないような気がしてならない。

「やり遂げた! 私はやり遂げたのだ! 溢れんばかりの魔力、そして膨大な量の魔力の知識!」

 裸を恥ずかしがっていたはずのオルケは体を隠すこともなくベッドから立ち上がった。
 なんとなく嫌な予感はしていた。

 こんなところで引きこもる魔法使いが善良なだけだとはどうしても思えなかった。
 ゴーレムの姿にまでなって研究を続けるなんてどこか狂っていなければやれないことである。

「お前、オルケに何をした!」

 ドゥゼアが叫ぶ。

「ふははは! 何だと? 魔力と知識を与えてやったのさ。ただし私の意識も移させてもらったがな!」

「オルケ……オルケは!」

「ふっ、さあな。私の中のどこかにいるのではないか? きっとそのうち消える。今のうちに挨拶でもしておくんだな」

「貴様……!」

「うっ!」

 ヴァンベーゲンが手を振るとドゥゼアたちの前に炎の壁が噴き上がる。

「素晴らしい! 杖すらも必要ない!」

 炎の壁が収まるといつものオルケならしないような歪んだ笑みを浮かべたヴァンベーゲンが高笑いをしていた。

「ドゥゼア……」

「オルケ、どうしたら……」

「そんなこと俺に言われても……」

 レビスとユリディカがショックを受けた顔でドゥゼアのことを見る。
 けれどドゥゼアだってどうしたらいいのかわからない。

 今の炎の壁だけでも魔法の強さと技術の高さがよく分かる。
 さらには意識はヴァンベーゲンであっても体はオルケのものだし体の中にオルケがいる。

 倒すことも楽ではなければ倒してしまうとオルケも死んでしまうとドゥゼアは思った。

「もうお前らは用済みだ」

 ヴァンベーゲンが倒れたゴーレムに手を向ける。
 するとゴーレムがゆっくりと起き上がった。

「感謝はしよう。おかげで研究は完成した。あとは魔王と魔塔に復讐をするのみだ」

 ヴァンベーゲンの脳みそを乗せていたゴーレムもアイアンゴーレムである。

「いけ!」

 ヴァンベーゲンに操られたアイアンゴーレムがドゥゼアたちに襲いかかり始めた。
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