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第五章

ゴブリンは遺跡を進みます3

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 ロープで体を繋いでいるので勝手に先に行くわけにもいかない。
 すり足で少しずつ断崖絶壁の細い道を進んでいく。

 これなら広い道に凶悪な罠でもある方が楽だったかもしれないとすらドゥゼアは思う。
 小柄なドゥゼアでも結構大変なのに重たい装備品を身につけて荷物まで多く持った冒険者はどうやってここを乗り越えたのだろうか。

「絶対落ちてるやついるだろうな」

「こ、こんな時にそんなこと言わないでくださいよ」

 カワーヌなんかは自ら尻尾を降ろしているのではなく、高いところが怖くて尻尾が丸まってしまっているために足の間に入っているのだ。
 下がどうなっているのか暗闇が広がっていて窺い知ることはできないが少なくともいくつか死体は転がっていそう。

「まさかこの下にデカーヌはいないよな?」

 カワーヌが生きている限りデカーヌは死なない。
 この断崖絶壁を転落しても死なずに復活してくることができる。
 
 ただ落ちてしまったら帰ってくるのは難しい。
 もしかしてという可能性もある。

「近づいている感じはありますがこの真下ではなさそうです。むしろこの先……だと思います」

「そうか。ならいい」

 仮に崖下に落ちていたとしたら助け出すのは大変だ。
 いないというのならその方がいい。

 こうした時は焦るのが一番良くない。
 慎重に、ゆっくりと進む。

 暗い洞窟の中ではどれだけの時間が経ったのかもわからない。
 休みたくとも細い道の上で安心して休むことができない。

 肉体的にというよりも精神的に疲れてきて、それが肉体にも影響を与えてきているような感じがある。
 荷物から水を出して飲むことすらできないために口の中が乾燥してきた。

「へっ……?」

 カワーヌが慎重に一歩踏み出した瞬間、カワーヌの足元が崩れた。
 普通の道だったならなんてことはないぐらいほんの少しだけ崩れただけだったが、この細い道では少し崩れただけでも簡単にバランスは崩れる。

 そのままずるりと足を滑らせたカワーヌの体が壁から離れて投げ出される。

「カワーヌ!」

「ぎゃん!」

 ドゥゼアが体を壁に押し付けながらカワーヌの尻尾をを掴んで引っ張る。

「くっ!」

 しかし細い足場では踏ん張りが効かない。
 ドゥゼアの体も引っ張られて崖の方に向かう。

 ヤバい、と思った。
 安全のためだと思って繋いだロープのせいでこのままだと連鎖的に全員が落ちてしまう。

「カジオ!」

 すでに壁には手が届かないほどドゥゼアの体は引っ張られている。

『任せろ!』

 ドゥゼアはとっさにカジオを呼び出した。
 実体化したカジオは拳を突き出した。

 鋭く素早い一撃は壁を穿ち、カジオの拳が壁に埋まる。

『ドゥゼア!』

 そしてカジオがドゥゼアのロープを掴む。

「ぐっ……う……」

 ドゥゼアと逆隣のドッゴは壁にあったわずかな出っ張りを掴んでなんとか耐えている。

「なななななな! なんですか!? あと尻尾痛いです!」

 落ちかけてパニックに陥っているカワーヌはいきなり現れたカジオでさらにパニックになる。

「暴れるな!」

 一応ロープで繋がっているとはいえ切れる可能性もある。
 それに尻尾を掴んでなんとかしているからドッゴが耐えられているのであって、ドゥゼアが尻尾を放してロープの方でドッゴが引っ張られたら耐えきれない。

『ふっ……と』

「悪いな……」

『いや、いい判断だった』

 カジオがゆっくりとドゥゼアを引き上げる。
 カワーヌもドゥゼアとカジオで支えてなんとか足場まで戻してやる。

「ひぃ……尻尾がちぎれるかと思いました。それに誰にも触らせたことないのに……」

「そんなこと言えるなら一度落ちた方がよかったな」

「じょ、冗談ですよ! それにこの方は…………あれ、いない?」

 カワーヌが振り返るともうカジオはいなかった。
 ただ壁には拳大の穴が残っているので幻ではなかったということだけは間違いないと思った。

「説明すると長い。今は先に進むぞ」

 相変わらず和やかに話しているような余裕がある場所ではない。
 また足場が崩れることもあるのでより集中して先に進まねばならない。

「分かりました。……本当に尻尾、誰かに触らせたの初めてだったんですけどね……」

「なんか言ったか?」

「なんでもないです」
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