やがて王になりし転生ゴブリン〜何度転生してもゴブリンだけど次のゴブ生こそ魔王を倒してみせる〜

第四章

ゴブリンはジジイと戦います5

「オーデン様……！」

「行かせるかよ！」

　ジジイのところに人間の兵士が向かおうとするけれど獣人たちがそうはさせない。
　ドゥゼアはジジイの攻撃をなんとかかわしながら少しずつ後退していく。

　ジジイは他の獣人から攻撃されることもなく、ただひたすらにドゥゼアを攻撃していた。
　だから気がつかなかった。

　いつの間にか最前線から離れてかなり獣人側に自分が引き込まれているということを。

「ドゥゼア……！」

「やっぱ化け物みたいだな……！」

　ドゥゼアの肩が深く切り裂かれてレビスが悲鳴のような声を出す。
　致命傷は避けるもののジジイの攻撃をかわしきれない。

　段々と回復が追いつかなくなってドゥゼアの傷が増えていく。

『ここまで粘るとはな』

　ドゥゼアの攻撃は一度も当たっていない。
　かすりもしていない。

　なのにジジイは何かの意思を燃やしているように見えるドゥゼアに脅威を感じていた。

『何を考えているのか知らないが……これで終わりだ！』

「グッ！」

　バランスを崩したところになされた追撃を無理矢理防いだのでドゥゼアの手からトウが飛んでいく。
　攻撃をかわすことができないような大きな隙をジジイが見逃すはずがない。

「ドゥゼアー！」

『ガハハッ！　そうはさせないぞ！』

『ぬっ！？』

　ドゥゼアの首に剣が振り下ろされる直前、大きなバトルアックスが飛んできてジジイはドゥゼアの前から飛び退いた。

『誰だ！』

『強き者よ、初めて目にかかる！　俺は巨象族の戦士パラファン！』

「遅えんだよ……」

　バトルアックスを投げたのはパラファンだった。
　ジジイがハッとした顔で周りを見回した。

　いつの間にか周りに人間の兵士の姿はなく、獣人に囲まれている。
　ドゥゼアは少しずつ後退を繰り返して勘付かれることなく人間の軍からジジイを引き離すことに成功した。

　ただやはりジジイを孤立無縁にしたところでドゥゼアに勝ち目はない。
　しかし戦うのはドゥゼアではないのだ。

　パラファンは投げたバトルアックスを取ってドゥゼアを守るようにジジイの前に立ちはだかる。

『なぜ魔物を庇う！』

『魔物ではない。ドゥゼアだ！』

「パラファン……」

　あんなに頑なだったパラファンがドゥゼアに対して無防備に背中を晒して名前を呼んだ。
　ジジイを警戒させないように気配を殺して見ていたパラファンはドゥゼアの活躍に舌を巻いていた。

　仲間の助けがあるとはいっても外から見ていてもジジイの攻撃は激しかった。
　よくそれを防ぎ、相手に悟られない程度に下がって引きつけたものだと感心してしまった。

　確かにドゥゼアは魔物かもしれない。
　けれど今この時は命をかけて獣人のために戦っている。

　ドゥゼアを認めないことなどできなかった。

『我らを獣人だからという理由だけで踏みにじろうとする人間と魔物であっても獣人のために戦ってる者……どちらが味方か言うまでもないだろう！』

『くだらん……そのような考え方をするから獣のようだと言われるのだ』

『獣で結構！　お前ら人間は獣以下だからな！』

　これ以上話し合っても平行線にしかならない。
　パラファンがジジイに飛びかかるようにしてバトルアックスを振り下ろした。

　パラファンの体格に合わせて作られた巨大な両刃の斧が当たって地面が大きく陥没する。
　かわされなければジジイは一撃で叩き切られていたことだろう。

「ドゥゼア、大丈夫？」

「なんとかな……」

　戦いはパラファンに任せてドゥゼアはレビスたちのところに退いた。

「今治すから」

　ユリディカがドゥゼアに両手をかざして癒しの力を使う。
　柔らかな淡い光にドゥゼアの体が包まれて全身の怪我が治っていく。

「悪いな、ユリディカ。あとはあいつを強化してやってくれ」

「いいの？」

「決闘じゃないんだ、少しぐらい構わない」

「分かった」

　パラファンとジジイは激しく戦っている。
　とんでもパワーなパラファンも凄まじいけれどジジイもそれに負けず対等に渡り合っている。

　途中から変な色気を出さずに防御に専念してよかったと戦う様子を見ながらドゥゼアは思った。

『ぬおっ！？』

『動きが大きいな』

　パラファンの脇腹が浅く切り裂かれる。
　ジジイはパラファンの攻撃をしっかりとかわしながら的確に反撃していた。

　パラファンは皮膚も硬くて簡単には切り裂けないはずなのにジジイはいとも容易く切り裂いてみせた。

『そのような攻撃当たるはずが……なっ！』

『ふううん！』

　振り上げられたバトルアックスをかわしてジジイがパラファンの腕を切り付けた。
　けれどもパラファンはそんなこと構わないかのように切られた腕を伸ばしてジジイの服を鷲掴みにした。

　そしてそのまま投げつけるようにジジイを地面に叩きつける。

『はははっ！　楽しいな！』

　傷つきながらもパラファンは強者と戦える高揚感を覚えていた。
　人間など恐るるに足らないと思っていたのだがジジイはパラファンに傷をつけるほどに強い。

　人間なのが惜しいぐらいだと思う。

『ふんっ！』

　パラファンが地面に倒れるジジイにバトルアックスを振り下ろす。
　ジジイは地面を転がってバトルアックスを回避した。

『邪魔をするな……』

『ようやく本気になったか？』

　立ち上がったジジイが血走った目をパラファンに向ける。