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第四章
ゴブリンは人の記憶を思い出します4
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レビスが立ち去ってもドアは開かない。
「ありがとな、レビス……」
ドゥゼアは狭い祈祷室の中でずっと祈りを捧げていた。
あるいは神へのお願い。
またあるいは脅迫のようなものだったのかもしれない。
「なぜ神はあなたの子を救わないのですか……」
ドゥゼアは床に額をつけて再び祈り始めた。
「エリザをお救いください……この命をかけてもいい。どうかお願いします……」
聖騎士であったがこれまでの人生で真剣に神に祈ったことなどなかった。
しかし今のドゥゼアは誰よりも真剣に神に祈っていた。
魔王の封印区域は立ち入り禁止とされて入ることもできない。
入ったところでどうやってエリザを救い出したらいいのかも分からない。
エリザを助けてほしい。
新たなる勇者の出現でもエリザを助ける方法の教授でもいい。
ドゥゼアは自身の命を投げ出すことも厭わないし手段があるならどんなことでもやってみせる。
「エリザ……エリ……ザをお救い……」
魔王を封印してからドゥゼアは寝ることも拒否して祈っている。
食事も取らないでただただ神にエリザを助けてほしいと祈っていた。
だが人間寝ずにはいられない。
数日祈り続けて限界を迎えて気を失うように寝るということをドゥゼアは繰り返していた。
またふとドゥゼアの意思が断ち切れた。
床に頭を擦り付けて神に祈った体勢のままドゥゼアの意識はブラックアウトしたのであった。
ーーーーー
「はっ!」
ドゥゼアが顔を上げた時、そこは祈祷室ではなかった。
「……ここは?」
真っ白な神殿のような場所だった。
周りを見回してみても見覚えはない。
しかし飾りもない神殿には言葉に言い表せない荘厳さを感じずにいられない。
「はじめまして、敬虔なる我が子よ」
「……あなたは?」
ドゥゼアが視線を前に戻すと男性が立っていた。
今時誰もやらない布を体に巻きつけたような姿をしている綺麗な顔の男性である。
顔を上げた時には確かにいなかった。
目の前に近づかれていても全く気づかなかったとドゥゼアは驚いた。
体調はかなり悪い。
もはやそこまで落ちてしまっているのかと思わずにいられない。
「私か? 人は色々な呼び方をする。私を父と呼ぶ人もいれば、主と呼ぶ人もいる」
なんだなやばい組織のトップのようだとドゥゼアは思った。
「今多くの人々は私のことをデセラと呼ぶ」
「……デセラ? それは、神の」
「そうだ。時に人は私のことを主神と呼び、父なる神と呼ぶこともある」
「あんたが……神様なのか?」
デセラとはドゥゼアたちも信仰している神の中の頂点に立つ主神の名前であった。
「しかし……」
ドゥゼアは目の前にいるのがデセラだとにわかに信じがたかった。
神様だからということもあるのだがそれ以外の要素もある。
「見た目が……」
「若いだろう?」
ドゥゼアの記憶にあるデセラとは大きな神殿などに置いてある石像のものである。
石像のデセラは格好こそ目の前のデセラと大差はないのだが顔が大きく違っていた。
豊かなヒゲを蓄えた老年の男性のような姿こそドゥゼアどころかほとんどの人が思い描くデセラの姿であるのだ。
けれど目の前のデセラは若かった。
ドゥゼアよりもやや年上、働き盛りぐらいに見える。
「お主が思い描いている姿も私だ。しかしこの姿また私であるのだ」
デセラはニコリと笑顔を浮かべた。
「神よ! どうか一つお願いが……!」
どのような姿でもいい。
相手が神であるならとドゥゼアは頭を下げた。
「分かっている。我が子、我々の寵愛を受けし聖女と呼ばれる子らのことだろう」
「そうです。どうか助けてほしいのです!」
「我々神としても罪もない子に犠牲を強いるのは心苦しい。あの子らを助ける方法がある」
「それはなんですか!」
顔を上げたドゥゼアの額に血が滲んでいる。
それほどの勢いで頭を下げていたのだ。
「封印を破壊するのだ。そうすれば聖女たちは解放されるだろう。ただし魔王も出てきてしまうがな」
「……それは」
そんな方法が思いつかないわけがない。
だが封印を破壊してしまえば魔王が出てくる。
そうなれば多くの人が犠牲になる。
ドゥゼアが犠牲になるだけならいくらでも命を差し出すけれど多くいる何の罪もない人が犠牲になってしまえばエリザは耐えられないだろう。
それにその場ではエリザを助けられても最後には魔王に倒されてしまう可能性がある。
結局封印を破壊したところで何の救いにもならない。
「分かっている。そんな方法を取ったところで意味がないことはな。もう一つの方法は……魔王を倒すことだ」
「魔王を……倒す」
「そうだ。元凶である魔王を倒せれば全てのことは丸く収まる」
「そうか……魔王を倒せば……」
意外と盲点な発想。
元凶である魔王を倒せばいいという考えはこれまでなかった。
倒せるだなんて考えなかったから思いつかなかったのかもしれないがエリザを助けるためなら魔王とだって戦ってみせる。
「だが人に魔王を倒すことはできない」
「なぜ……?」
「そうした因果に縛られているからだ。魔王を倒すことができるのは勇者とその仲間のみなのだ」
「なら……俺を勇者にしてください!」
魔王が勇者にしか倒せないというのならば自分が勇者になる。
ドゥゼアが必死の目を向けるデセラはゆっくりと首を横に振った。
「ありがとな、レビス……」
ドゥゼアは狭い祈祷室の中でずっと祈りを捧げていた。
あるいは神へのお願い。
またあるいは脅迫のようなものだったのかもしれない。
「なぜ神はあなたの子を救わないのですか……」
ドゥゼアは床に額をつけて再び祈り始めた。
「エリザをお救いください……この命をかけてもいい。どうかお願いします……」
聖騎士であったがこれまでの人生で真剣に神に祈ったことなどなかった。
しかし今のドゥゼアは誰よりも真剣に神に祈っていた。
魔王の封印区域は立ち入り禁止とされて入ることもできない。
入ったところでどうやってエリザを救い出したらいいのかも分からない。
エリザを助けてほしい。
新たなる勇者の出現でもエリザを助ける方法の教授でもいい。
ドゥゼアは自身の命を投げ出すことも厭わないし手段があるならどんなことでもやってみせる。
「エリザ……エリ……ザをお救い……」
魔王を封印してからドゥゼアは寝ることも拒否して祈っている。
食事も取らないでただただ神にエリザを助けてほしいと祈っていた。
だが人間寝ずにはいられない。
数日祈り続けて限界を迎えて気を失うように寝るということをドゥゼアは繰り返していた。
またふとドゥゼアの意思が断ち切れた。
床に頭を擦り付けて神に祈った体勢のままドゥゼアの意識はブラックアウトしたのであった。
ーーーーー
「はっ!」
ドゥゼアが顔を上げた時、そこは祈祷室ではなかった。
「……ここは?」
真っ白な神殿のような場所だった。
周りを見回してみても見覚えはない。
しかし飾りもない神殿には言葉に言い表せない荘厳さを感じずにいられない。
「はじめまして、敬虔なる我が子よ」
「……あなたは?」
ドゥゼアが視線を前に戻すと男性が立っていた。
今時誰もやらない布を体に巻きつけたような姿をしている綺麗な顔の男性である。
顔を上げた時には確かにいなかった。
目の前に近づかれていても全く気づかなかったとドゥゼアは驚いた。
体調はかなり悪い。
もはやそこまで落ちてしまっているのかと思わずにいられない。
「私か? 人は色々な呼び方をする。私を父と呼ぶ人もいれば、主と呼ぶ人もいる」
なんだなやばい組織のトップのようだとドゥゼアは思った。
「今多くの人々は私のことをデセラと呼ぶ」
「……デセラ? それは、神の」
「そうだ。時に人は私のことを主神と呼び、父なる神と呼ぶこともある」
「あんたが……神様なのか?」
デセラとはドゥゼアたちも信仰している神の中の頂点に立つ主神の名前であった。
「しかし……」
ドゥゼアは目の前にいるのがデセラだとにわかに信じがたかった。
神様だからということもあるのだがそれ以外の要素もある。
「見た目が……」
「若いだろう?」
ドゥゼアの記憶にあるデセラとは大きな神殿などに置いてある石像のものである。
石像のデセラは格好こそ目の前のデセラと大差はないのだが顔が大きく違っていた。
豊かなヒゲを蓄えた老年の男性のような姿こそドゥゼアどころかほとんどの人が思い描くデセラの姿であるのだ。
けれど目の前のデセラは若かった。
ドゥゼアよりもやや年上、働き盛りぐらいに見える。
「お主が思い描いている姿も私だ。しかしこの姿また私であるのだ」
デセラはニコリと笑顔を浮かべた。
「神よ! どうか一つお願いが……!」
どのような姿でもいい。
相手が神であるならとドゥゼアは頭を下げた。
「分かっている。我が子、我々の寵愛を受けし聖女と呼ばれる子らのことだろう」
「そうです。どうか助けてほしいのです!」
「我々神としても罪もない子に犠牲を強いるのは心苦しい。あの子らを助ける方法がある」
「それはなんですか!」
顔を上げたドゥゼアの額に血が滲んでいる。
それほどの勢いで頭を下げていたのだ。
「封印を破壊するのだ。そうすれば聖女たちは解放されるだろう。ただし魔王も出てきてしまうがな」
「……それは」
そんな方法が思いつかないわけがない。
だが封印を破壊してしまえば魔王が出てくる。
そうなれば多くの人が犠牲になる。
ドゥゼアが犠牲になるだけならいくらでも命を差し出すけれど多くいる何の罪もない人が犠牲になってしまえばエリザは耐えられないだろう。
それにその場ではエリザを助けられても最後には魔王に倒されてしまう可能性がある。
結局封印を破壊したところで何の救いにもならない。
「分かっている。そんな方法を取ったところで意味がないことはな。もう一つの方法は……魔王を倒すことだ」
「魔王を……倒す」
「そうだ。元凶である魔王を倒せれば全てのことは丸く収まる」
「そうか……魔王を倒せば……」
意外と盲点な発想。
元凶である魔王を倒せばいいという考えはこれまでなかった。
倒せるだなんて考えなかったから思いつかなかったのかもしれないがエリザを助けるためなら魔王とだって戦ってみせる。
「だが人に魔王を倒すことはできない」
「なぜ……?」
「そうした因果に縛られているからだ。魔王を倒すことができるのは勇者とその仲間のみなのだ」
「なら……俺を勇者にしてください!」
魔王が勇者にしか倒せないというのならば自分が勇者になる。
ドゥゼアが必死の目を向けるデセラはゆっくりと首を横に振った。
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