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第四章
ゴブリンは仇敵に合います5
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けれどオゴンはカジオを殺した。
『なぜだ……オゴン。それこそお前なら俺を殺さないことを提案すると思ったのだが……』
『………………』
オゴンの目から涙が流れ落ちた。
『すまない……カジオ兄さん……』
『謝罪などいらない。何があったのかを話せ』
謝られても過去は変わらない。
それなら制限時間も近いのだからさっさと話してほしいと思った。
『皆の意見割れている時……人間から俺に接触があったのだ』
『ほう?』
『カジオ兄さんを殺せば王にしてやる。そう、言われた……』
ある程度予想できていた話だ。
相手の欲望を刺激して、いいように操る。
カジオはオゴンが野心家だと言った。
もし仮にオゴンの中に上に立ちたいというような欲望があり、それを相手に見抜かれたのだとしたら利用されてもおかしくはない。
結果的にオゴンはその提案に乗った。
戦争を終わらせるためと自分に言い聞かせながら己の利益のためにカジオを殺したのだ。
聞けばクズのエピソードであるが自分を正当化できる理由もありつつ望みが叶うのなら抗い難い提案であることは間違いない。
『……もう限界のようだ』
『えっ?』
『このゴブリンを俺と思え。話はしかと聞いているからな』
結構頑張った方ではあるがカジオを出しておくのも限界だった。
薄く透けた姿がさらに薄くなっていき、魔力となってドゥゼアの中に戻る。
『一体なんなんだ? 幻想? それとも俺が作り出した妄想なのか? だが……会話もしていた』
カジオが消えてオゴンはまた動揺し始めた。
結局カジオの正体も聞いておらず、何だったのかという疑問が湧いてきたのである。
「お前に質問する権利はない」
ドゥゼアは地面に文字を書く。
「なぜ裏切ったのに王にならなかった」
ドゥゼアは質問を続ける。
カジオを殺せば王として担ぎ上げてもらえるはずだった。
なのに獣王はカジオの弟がなり、オゴンはこんな田舎町でひっそりと暮らしている。
話が違うではないか。
『ならなかったのではない……なれなかったのだ。そう、俺は王になれなかった』
怒りではない。
諦めのような色を見せてオゴンは目を伏せた。
『俺も戦場で活躍をしていた。俺に従うものもいて人望もあった』
そこだけ聞くならオゴンも王にふさわしいと言えるかもしれない。
『だが人間どもはそんな俺もわずらわしく思っていたようだ。裏切り者の俺を待ち受けていたのは……同じく裏切りだったのだ』
裏切りの代償は裏切り。
カジオを殺して戻ったオゴンに同胞たちは冷たい目を向けた。
カジオが死んだということは隠しようもない。
バレることは仕方ないとしても本来は人間側が上手く感情をコントロールしてオゴンを勇気ある英断をしたものとして持ち上げてくれるはずだった。
しかし人間側はあえて獣人が気付くよりも早くオゴンの裏切りを獣人たちに伝えた。
それもカジオ擁護派に先にこのことを伝えたのだ。
オゴンに対する不信感は一気に高まった。
裏切りに加えて、それを人間から伝えられたことによってカジオの犠牲も仕方ないと言っていた獣人たちもオゴンのことを懐疑的な目で見始めた。
さらに人間たちは言葉巧みに不安や不満を煽ってオゴンへの不信感を高めた。
オゴンは怒って人間のところに乗り込んだのであるが、人間はそれを見越したように兵を待たせていた。
『俺は足を折られた。見せしめとして殺されはしなかったが何もかもを失ったのだ』
カジオならそれでも乗り切れたのかもしれないが多くの兵に囲まれたオゴンは人間に負けて、足をたたき折られてしまった。
最後には裏切り者だけでなく、足を折られたために戦えないと戦士失格の烙印も押されたオゴンは発言力まで失った。
いくらか財貨はあったので田舎の屋敷を買い取ってオゴンはそこに引っ込んだのである。
『全て……欲に負けてカジオ兄さんを裏切った罰なのだ』
足を折られたためにオゴンは川も渡れなかった。
普段生活する分には問題ないほどに回復したのではあるが激しく動くことはできなかったのだ。
「カジオもオゴンも人間の被害者なんだな」
同情はしない。
こうしたやり方は普通にあるし己の欲をコントロールできて冷静な判断ができていればこんなことにはならなかったのだから。
ただ獣人たちはこのような人間のやり方に対して脆弱すぎたのかもしれない。
『ひとまず事情は分かった。カジアについても聞いてくれ』
「カジオの息子については何をした?」
『どうしてそれを……』
オゴンは驚いたように目を見開いた。
なぜカジオに子供がいることを知っているのかと驚いたのだ。
『……姉さんに子供ができていたことを聞かされたのはカジオ兄さんを殺しに行く直前だった。カジオ兄さんを呼び出してもらうために姉さんに話をしたら子供のことを教えてもらった』
おそらくオゴンがカジオを殺さないでそのまま戻ってきたらカジオにも子供のことを伝えていたのだろうとオゴンは思った。
『けれどもう俺は立ち止まれなかった。……だからそのままカジオ兄さんを殺した。姉さんにも俺がカジオ兄さんを裏切ったことが伝わって、俺は縁を切られた。必死に謝罪をした。カジオ兄さんにできなかった分の後悔を姉さんに伝えた。
それでも許してはもらえなかった。だが女手一つで子供を育てるのは大変だ。だから必要だろうと定期的にお金も送っていた』
縁を切られるのは当然の反応だろうとドゥゼアも思う。
しかし今の話が本当だとするとカジアに暗殺者を差し向けたのはカジオではないということになる。
『なぜだ……オゴン。それこそお前なら俺を殺さないことを提案すると思ったのだが……』
『………………』
オゴンの目から涙が流れ落ちた。
『すまない……カジオ兄さん……』
『謝罪などいらない。何があったのかを話せ』
謝られても過去は変わらない。
それなら制限時間も近いのだからさっさと話してほしいと思った。
『皆の意見割れている時……人間から俺に接触があったのだ』
『ほう?』
『カジオ兄さんを殺せば王にしてやる。そう、言われた……』
ある程度予想できていた話だ。
相手の欲望を刺激して、いいように操る。
カジオはオゴンが野心家だと言った。
もし仮にオゴンの中に上に立ちたいというような欲望があり、それを相手に見抜かれたのだとしたら利用されてもおかしくはない。
結果的にオゴンはその提案に乗った。
戦争を終わらせるためと自分に言い聞かせながら己の利益のためにカジオを殺したのだ。
聞けばクズのエピソードであるが自分を正当化できる理由もありつつ望みが叶うのなら抗い難い提案であることは間違いない。
『……もう限界のようだ』
『えっ?』
『このゴブリンを俺と思え。話はしかと聞いているからな』
結構頑張った方ではあるがカジオを出しておくのも限界だった。
薄く透けた姿がさらに薄くなっていき、魔力となってドゥゼアの中に戻る。
『一体なんなんだ? 幻想? それとも俺が作り出した妄想なのか? だが……会話もしていた』
カジオが消えてオゴンはまた動揺し始めた。
結局カジオの正体も聞いておらず、何だったのかという疑問が湧いてきたのである。
「お前に質問する権利はない」
ドゥゼアは地面に文字を書く。
「なぜ裏切ったのに王にならなかった」
ドゥゼアは質問を続ける。
カジオを殺せば王として担ぎ上げてもらえるはずだった。
なのに獣王はカジオの弟がなり、オゴンはこんな田舎町でひっそりと暮らしている。
話が違うではないか。
『ならなかったのではない……なれなかったのだ。そう、俺は王になれなかった』
怒りではない。
諦めのような色を見せてオゴンは目を伏せた。
『俺も戦場で活躍をしていた。俺に従うものもいて人望もあった』
そこだけ聞くならオゴンも王にふさわしいと言えるかもしれない。
『だが人間どもはそんな俺もわずらわしく思っていたようだ。裏切り者の俺を待ち受けていたのは……同じく裏切りだったのだ』
裏切りの代償は裏切り。
カジオを殺して戻ったオゴンに同胞たちは冷たい目を向けた。
カジオが死んだということは隠しようもない。
バレることは仕方ないとしても本来は人間側が上手く感情をコントロールしてオゴンを勇気ある英断をしたものとして持ち上げてくれるはずだった。
しかし人間側はあえて獣人が気付くよりも早くオゴンの裏切りを獣人たちに伝えた。
それもカジオ擁護派に先にこのことを伝えたのだ。
オゴンに対する不信感は一気に高まった。
裏切りに加えて、それを人間から伝えられたことによってカジオの犠牲も仕方ないと言っていた獣人たちもオゴンのことを懐疑的な目で見始めた。
さらに人間たちは言葉巧みに不安や不満を煽ってオゴンへの不信感を高めた。
オゴンは怒って人間のところに乗り込んだのであるが、人間はそれを見越したように兵を待たせていた。
『俺は足を折られた。見せしめとして殺されはしなかったが何もかもを失ったのだ』
カジオならそれでも乗り切れたのかもしれないが多くの兵に囲まれたオゴンは人間に負けて、足をたたき折られてしまった。
最後には裏切り者だけでなく、足を折られたために戦えないと戦士失格の烙印も押されたオゴンは発言力まで失った。
いくらか財貨はあったので田舎の屋敷を買い取ってオゴンはそこに引っ込んだのである。
『全て……欲に負けてカジオ兄さんを裏切った罰なのだ』
足を折られたためにオゴンは川も渡れなかった。
普段生活する分には問題ないほどに回復したのではあるが激しく動くことはできなかったのだ。
「カジオもオゴンも人間の被害者なんだな」
同情はしない。
こうしたやり方は普通にあるし己の欲をコントロールできて冷静な判断ができていればこんなことにはならなかったのだから。
ただ獣人たちはこのような人間のやり方に対して脆弱すぎたのかもしれない。
『ひとまず事情は分かった。カジアについても聞いてくれ』
「カジオの息子については何をした?」
『どうしてそれを……』
オゴンは驚いたように目を見開いた。
なぜカジオに子供がいることを知っているのかと驚いたのだ。
『……姉さんに子供ができていたことを聞かされたのはカジオ兄さんを殺しに行く直前だった。カジオ兄さんを呼び出してもらうために姉さんに話をしたら子供のことを教えてもらった』
おそらくオゴンがカジオを殺さないでそのまま戻ってきたらカジオにも子供のことを伝えていたのだろうとオゴンは思った。
『けれどもう俺は立ち止まれなかった。……だからそのままカジオ兄さんを殺した。姉さんにも俺がカジオ兄さんを裏切ったことが伝わって、俺は縁を切られた。必死に謝罪をした。カジオ兄さんにできなかった分の後悔を姉さんに伝えた。
それでも許してはもらえなかった。だが女手一つで子供を育てるのは大変だ。だから必要だろうと定期的にお金も送っていた』
縁を切られるのは当然の反応だろうとドゥゼアも思う。
しかし今の話が本当だとするとカジアに暗殺者を差し向けたのはカジオではないということになる。
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