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第四章

ゴブリンは獣人の歴史を聞きます2

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 その戦争の結果獣人たちは自分たちの国を起こすことを周りの国にも認めさせたのである。

『初代の獣王様が王座についてからもう10年。戦争の終結からだと12年かな』

『もう……そんなに時間が経っているのか。子供も大きくなるはずだ』

 時の流れの早さにカジオが驚く。
 ドゥゼアに出会ってようやくカジオの意識が覚醒したのでどんなに時間が経っていたのか全く分かっていなかった。

 カジアの大きさから時間の経過は予想はしていたが実際に数字で時間を聞くと驚きは禁じ得ない。
 今では獣人の国はしっかりと地図でも載るほどにはなっていて、国内の情勢も安定している。

 決して大きな国ではないが今でも世界中から獣人が集まっており発展の兆しも見えている国なのだ。

「10年やそこらでそんなに安定するものなのか?」

『元々この地域は大きな貴族のものだったのだ。それを獣人で奪い取った形になる。なので町や道などの基本的なものはある程度揃っていたのだ』

「なるほどね」

『何もかもを一から作り上げたわけではない』

 獣人もバカではない。
 何もない状態から国を起こすことなど不可能と言ってもいいほどに大変なことである。

 なので獣人は戦争で大きな町を占領下に置いてそこを中心として国を起こした。

『ちなみに獣王は誰なのか聞いてもらってもいいか?』

「獣王は誰だ……っと」

『獣王様はカジイラ様っていって僕と同じ獅子族なんだ』

『カジイラだと!?』

「なんだ、知ってるのか?」

『……俺の弟だ』

 なんだか複雑な話になってきたなとドゥゼアは渋い顔をした。

「てことは……この子、王族になるんですか?」

 人間社会の仕組みが分かっていないレビスとユリディカはともかくオルケは元人間なのでその辺りも分かる。
 カジオの弟が王様で、カジオの息子がカジアであるということはカジアも王族であると言っていい。

「おそらくそう考えていいだろう」

 何となくではあるがカジアの抱える問題というやつの尻尾が見えたような気がした。

『ただあいつはそんなに強くない……獣人の中で王になれるような器のやつじゃなかったんだが……』

 カジオは知っている弟の姿を思い浮かべた。
 獣人の男の中では比較的気性が穏やかで戦争の中でも戦うことに苦悩を抱えていたような優しい人格の持ち主だった。

 獣人というやつは強いものを崇める。
 獅子の獣人であり才覚はあったけれどカジオの弟のカジイラは優しすぎた。

 カジオのイメージする獣人の王にはカジイラは遠かったのである。

「獣王に会ったことは?」

『会ったことなんてないよ。僕は生まれてからずっとあの町にいたし、獣王様どころか王都にすら行ったことないんだ』

「ふーん……カジオ、お前の弟が王だとして、甥っ子を殺そうとするような男か?」

『……何を考えている』

「お前も分かっているだろう?」

 ドゥゼアはカジイラがカジアを狙ったのではないかと考えた。
 王族のドロドロ話などどこにでもある。

 カジオの言う通りカジイラが王としての器を持たない人物であるのなら自分の王位を脅かされることを恐れてカジアを狙った可能性もある。

『……俺の知るあいつならそんなことはしない』

「お前の知る……ねぇ」

 時は人を変える。
 もう10年もの時が経っている。

 カジイラはその間王としての君臨し続けていた。
 カジオの知っているカジイラと同じままであるかどうかはかなり怪しいものである。

 むしろ権力というものは人を変えやすい。
 王でなくとも権力を持った人が豹変することもままある話。

 カジイラも変わってしまっているかもしれないことはカジオも分かっているので話の歯切れは悪い。
 ともあれカジアから聞き出した話で色々と分かった。

 今獣人たちは国を持っていて、ドゥゼアたちはそこにいる。
 カジアの叔父、カジオの弟はこの国の王様であった。

 細かい政治などはカジアには分からないけれど隣国との関係はあまり良いとは言えないようである。

「結構面倒そうだな……」

「……殺す?」

「いや、それはダメだ」

 レビスはシンプルな解決法を提示して首を傾げた。
 首を突っ込むから面倒なのだ。

 カジアを殺しておしまいにすれば面倒なことも何も関わりがなくなる。
 いかにも魔物チックな考え。

 だがそれではせっかく助けた意味もないしカジオが納得しない。

「とりあえずやるだけやってみるさ。……無理だったら見捨てる」

 命をかけてまでカジアを助ける義理はない。
 けれどカジオの願いに応じて出来る限りのことはしてやるつもりである。

 レビスの言葉が分かっていないカジアは会話しているドゥゼアを見て不思議そうな顔をしていたのであった。
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