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第四章

ゴブリンはゴブリンを連れて移動します6

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「ホーホー、ボスとまではいかないかもしれないがこのあたりで私に牙を向く魔物はいないな。この間もオークの豚どもが手を出してきたら追い出したところだ」

「あー……」

 そういうことだったのかとドゥゼアは納得した。
 オークであってもゴブリンと同じように知恵を持った個体が生まれることもある。

 そうした個体が生まれればオークであっても集結することもある。
 時には調子に乗ってナワバリを奪おうとするような考えを持ったりもする。

 きっとリーダー的なオークが現れてこの一帯の支配者になることを目論んだのだ。
 しかしこの一帯の支配者はチユン。

 他の魔物だったならチャンスもあったかもしれないがチユンは空を飛べるのだ。
 集団になることをオークが覚えても空を飛ぶ相手に攻撃の手立てがなきゃ一方的な戦いになるしかない。

 それでも戦いを仕掛けたのだからやはり知能は足りていない。
 その結果オークたちはここらを追い出された。

 だからゴブリンたちがいたところにオークがワッと訪れて小さい魔物たちも逃げ出してしまったのだろう。
 ただオークたちがまとまっている感じはしなかったので知恵を持ったリーダーオークはチユンに倒されてしまったのかもしれない。

「チユン、隣人にゴブリンはどうだ?」

「ホー?」

 オークのアホな行動が原因だったのかと呆れるがチユンの話を聞いてチャンスだと思った。

「ここらへんにゴブリンが住むことを許してほしい」

「ふむ……どうせ今は他に住んでいるものもいない……だがゴブリンなど住まわせて私に何の利益がある?」

 他の魔物などいない方が快適である。
 そのうち調子に乗ってオークのように戦いを挑んでくるかもしれない。

 ならばこのままの方がいいに決まっている。
 チユンはつぶらな目を見開いてドゥゼアに顔を寄せる。

 小さきゃ可愛いのに大きいと圧力がある。

「このまま他の魔物を受け入れなきゃあんたも困るんだぞ」

「ホーホー?」

「最近この辺りの虫が減ってないか?」

「ホーホー……それは」

 そういえばとチユンは思う。
 確かに最近虫が見つかりにくくなったような気もする。

「このままだと虫がいなくなるかもしれないな」

「それはなぜだ?」

「中間の魔物がいないからだ」

 生態系というのは微妙なバランスで成り立っている。
 バイジェルンを美味そうだと思っていたことからも分かるようにチユンは普段は虫を食べている。

 肉も食えるのだろうが虫の方が好みなのだろう。
 それはいいのだが問題は虫の捕食者が多すぎることなのである。

 チユンはもちろんとして小型の魔物も虫を捕食するものも多い。
 しかし虫を食う小型の魔物を捕食する魔物が今現在ここらにいない。

 そのために虫ばかりが減っていく。

「ううむ……」

 このままチユンが他の魔物を受け入れなきゃ虫はいなくなる。
 そうなると小型の魔物もいなくなり、結局チユンも困ったことになるというわけである。

「その点ゴブリンはいいぞ」

 ゴブリンは小型の魔物を捕食する。
 虫も多少は食べるけどそうするのは小さい頃ぐらいで虫への影響も小さい。

 虫を食べる小型の魔物をゴブリンを食べることで虫の減少も抑えられる。
 さらにはゴブリンは弱い。

 最初から集団でいるのだし強者に挑むこともない。
 オークのような暴挙に出ることはほとんどない。

 人間から見ると疎まれがちなゴブリンであるがもっと大きな視点で見るとゴブリンの存在は見事な中間の存在になるのだ。

「ホーホー、なるほど」

 ドゥゼアの説明を受けてチユンも納得する。
 生態系の正常化は確かに必要。

 しかもただ流れてきたゴブリンではなく今こうしてチユンが支配者であることをしっかり理解しておけば今後も手を出すことはないだろう。

「さらに!」

「ホー、まだあるのか!?」

「チユンが望むなら焼いた肉も提供しよう」

「ホーーーー?」

 もう一押ししておく。

「ゴブリンなら火を焚くこともできる。獲物は自分で取ってきてもらう必要はあるけれどそれをゴブリンが焼いてチユンに提供しよう」

 ゴブリンたちに火をつける知恵はない。
 けれど火をつけるぐらいのことは教えてやればゴブリンでもすぐにできるようになる。

「ホーホー、それは魅力的な提案だ」

 勝手な約束であるがこれはゴブリンたちのためである。
 周辺の支配者の保護を得られるのはゴブリンたちにとって強力な後ろ盾となる。

 肉を焼いてやるから直接守ってくれとまで行かなくとも支配者であるチユンが時々立ち寄るだけでもゴブリンたちは守られる。

「悩みどころだ……」

 ドゥゼアの言葉を丸々信じるならチユンにも利益はある。
 ちょっと潰れるように地面に体重を預けてチユンは考える。

「……まあいいだろう。私に手を出さない、肉を焼くというのならこの辺りに住んでも私も手を出さない」

「本当か! ありがとう」

「ホーホー、面白いゴブリン、ドゥゼアを信じてみるとしよう」

 チユンはニッコリと笑う。
 オークの群れですらチユンの敵ではなかったのだ。

 ゴブリンの群れが増えたところでチユンにとっては何の痛手でもない。
 もし住まわせてみて気に食わないようならオークのように追い出したっていい。

「ひとまず住処は見つけられそうだな」
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