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第四章

ゴブリンはゴブリンを連れて移動します2

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 オークを避けてドゥゼアが目指しているのは川だった。
 獅子王のネックレスのことでそれなりに近い距離にあることは聞いていた。

 別にゴブリンに川で釣りでもさせようというのではない。
 水というのはあらゆる生命にとっての基本となる。

 川、泉、湖など水が摂取できるような場所は豊かな生態系が築かれやすい。
 弱い魔物も多く集まるので水沿いを探していくというのは合理的な考えである。

 ついでに旅していくのにも水があればありがたい。
 ドゥゼアたちだけならともかくゴブリンたちのことも気遣ってあげねばならないので水の確保もできる川沿いを進んでいくのはこうした面でも利点があるのだ。

 魔物に襲われたら逃げにくいとか多少のデメリットはあるけれどしっかり警戒して先に敵の存在を察知できれば問題ではない。

「カワハアッチダ」

 案内してくれたゴブリンの案内で川に向かっていく。

「水の音~」
 
 ユリディカがミミを動かして音を拾う。
 ドゥゼアにはまだ聞こえていない清流の音がユリディカには聞こえている。

「ドゥゼア近い」

「みんな止まれ!」

 ドゥゼアが手を上げて後ろに止まるように指示を出す。

「どっちだ?」

「待って……」

 ユリディカが伏せて地面にミミをつける。
 水の音に混じって分かりにくいがオークの足音が聞こえる。

 ドゥゼアたちの方に向かってきている。
 ただ気づいているような勢いはない。

「あっちから来る」

 ユリディカがオークが来る方向を指差した。
 たまたまオークが歩いてくる方向にドゥゼアたちがいるようであった。

「こっちだ」

 草の深い方を選んでドゥゼアたちは移動する。
 オークがいる方向を避けて迂回して進むことにした。

 日もだいぶ高いところに来て昼時ではあるのでそろそろオークと戦ってもいいかなとは思うけど森の中すぎる。
 戦いの音などを聞きつけて他のオークが駆けつける可能性も否めないのでまずは川を目指すことにした。

 草をかき分けて進んでいく。

「おっ、これが噂の川か」

 目の前に川が流れている。
 近づいてみるとかなり水質の良い清流で川幅は広めであるが水深はそんなに深くなくて川底が見えている。

 飲むことも出来そうな綺麗な水である。
 ちょっと手をつけてみるとかなり水はヒンヤリとしている。

 すくって飲んでみると冷たくて美味しい。
 水の精霊がいた魔力たっぷりの水とは比べ物にならないが良い自然の水である。

 綺麗な水の中には多少の魚も泳いでいる。
 これなら少し教えてやれば魚ぐらい採れるようになるかもしれないなと思う。

 少し川のそばで休憩する。
 水を飲んで先ほど食べなかった分のお肉を少し食べて体力を回復させておく。

 子供ゴブリンはいないがそれなりに年のいったゴブリンはいるので少し早め早めに体力の余裕をみておく。

「みんな大丈夫そうか?」

「ダイジョウブ。ココマデイキテキタツヨイゴブリンバカリ」

「そうか。辛くなったら早めに言うんだぞ」

「ワカッタ」

 見た感じ大丈夫そうな雰囲気はあるが一応ちゃんと確認をしておく。
 ここまで案内してくれたこともあるし案内してくれたゴブリンに話しかけてしまう。

 リーダーゴブリンの方が強いのかもしれないが知能的には案内してくれたゴブリンの方が上のようである。
 周りを気遣うこともできるしこのまま上手く生き延びれば次期のリーダーになるかもしれない。

「みんなはどうだ?」

「全然よゆー」

「だいじょぶ」

「私もまだまだ疲れてもいませんね」

 ドゥゼアはみんなの疲労度合いも気にかける。
 みんなそれぞれまだ余裕がありそう。

 ここまで長々と歩いて旅もしてきた仲間たちであるのでゴブリンに合わせてゆっくりと移動しているだけではさほど疲れもしない。

「……あー、やっぱり疲れちゃったなぁー!」

 ジーッとドゥゼアのことを見ていたユリディカがゴロリとドゥゼアの足元にお腹を見せて転がる。
 ほんの少し前に余裕だと言ったばかりなのに何の変わり身なのか。

 ユリディカの尻尾は激しく振られてして期待するようにドゥゼアのことを見上げている。

「ふふ、ほら」

 ドゥゼアもそこら辺は察してやる。
 わしゃわしゃとユリディカのお腹を撫でてやる。

「はふぅー!」

 最近こうしたアピールも積極的になってきた。
 まあユリディカを撫でるのは好きなのでドゥゼアも逆にそれに甘える形でわしゃらせてもらう。

「ん?」

「ん」

 そうしているとレビスがドゥゼアをツンツンとつつく。
 ドゥゼアが振り返るとレビスが頭を差し出していた。

「ほいほい」

 片手はユリディカのお腹、片手はレビスの頭を撫でる。

「……オルケも撫でるか?」

「ふにぃ~」

 かなりわしゃられてユリディカはテロンと舌を出して満足そうにしている。
 ドゥゼアが半笑いでオルケの方に手を伸ばした。

「…………じゃあちょっとだけ」

 これまではこうしたことがあっても別にいいと言ってきたオルケであったが今日はなんとなく素直に頭を差し出した。

「よしよし」

 リザードマンがゴブリンに頭を撫でられる。
 きっと自然界にはありえないような奇妙な光景。

 けれどオルケは頭を優しく撫でられながら意外と悪くないなと思っていたのであった。
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