上 下
102 / 301
第二章

ゴブリンはリッチに協力します3

しおりを挟む
「……そうね。
 私もついカッとなってしまったわ。

 あの子に謝らなきゃ」

 見た目で年齢は分からないが雰囲気的にオルケもフォダエも比較的若いような感じがしていた。

「それにしてもあなたゴブリンっぽくないわね。
 この森の端にもゴブリンいるけれどキーキーうるさくて会話なんて成り立つものじゃないわ。

 なのにあなたはとても理性的に会話をしているわね」

 フォダエは頬杖をついて感心したようドゥゼアを見た。
 うるさいゴブリンならさっさと追い出そうと思っていたのに説明も順序立ててしっかりと分かりやすくしてくれた。

 今だって話し合えとゴブリンから諭されたと驚きがあった。
 目を見れば分かる。

 相手がどれほど知性があって理性的なのか。
 その点でいくとレビスもユリディカもかなり理性的であることはフォダエには分かっていた。

 だからこそ話も聞いたのだ。

「追いかけないのか?」

「今追いかけてもあの子はまだ熱いままだから。
 戻ってきたぐらいに話し合うのがちょうどいいの」

「そうか……なら少し研究について聞いてもいいか?」

「ええ、どうせ他に漏らす相手もいないでしょうから答えてあげる」

 人が相手ならアイデアや成果を盗まれる心配なんかもあるがゴブリン相手ならそうはいかない。
 オルケが戻ってくるまで時間があるので気まぐれに答えてみる気になった。

「生の肉体に戻るってまた人になるってことなのか?」

「最終的に成功したらそうしたいわね。
 でも今の段階ではまだ人は無理なの」

「どういった研究なんだ?」

「生物には魂ってものがあるのよ。
 こんな肉体のないアンデッドでも動いていられることから目には見えなくてもそうしたものが存在している。

 そうした魂を今の骨の体から分離して別の体に移すっていう実験だよ」

「そんなことが可能なのか?」

 魂という存在についてドゥゼアは疑問に思わない。
 なぜならドゥゼアは何度もゴブリンに転生しているからで生まれた場所やゴブリンとしての個体の違いはあれど中身は全て同じ自分であったから。

 同じドゥゼアの魂があって別のゴブリンとして肉体だけ転生しているのだと考えたことがあった。

「理論上は可能よ」
 
 フォダエは魂について疑問には思わないのかと不思議さは抱えながらも説明しなくていいのなら楽でいいと疑問を押しやる。

「ただ万能ではないわね。
 問題も多くて本当に人に魂を移せるかはまだ確実とは言えないわ」

「人以外なら移せるってことか?」

「そうね。
 今ところ私たちみたいなアンデッドから強靭な肉体を持つ個体になら魂を移せると思うわ」

「なんだ、強靭な肉体って?」

「色々な魔物がいるけれど今のところ敵していそうなのはリザードマンね。
 ほとんど魔法を使わない種族だけどその分体はしなやかで強い。

 魂の器として魂を移す時に耐えられるほど強い体じゃなきゃダメなの。
 ゴブリンは論外ね」

「大きなお世話だ」

 それにわざわざ魂をゴブリンに移したがる異常者などいないとドゥゼアは思う。

「もっと安定性を高めて人の体にも移せるようにしようとしているのが今の段階。
 ここを乗り越えれば多分……人にも戻れるはず」

「例えば俺の魂を他に移すことは出来ないのか?」

 1番聞きたかった核心の質問。
 ゴブリン以外の体になる。

 魂を移すことが可能ならば他の体に移すことはできないのかと尋ねた。

「それも可能よ……ただし、理論上はね」

「どういうことだ?」

「アンデッドは骨の体と魂の存在。
 言ってしまえばほとんど魂だけと変わりがない。

 だからこの体から魂を分離することはそう難しくないの。
 でも生の肉体は魂と強く結びついている。

 そうなると魂の分離の難易度が大きく変わってくるわね。
 私は今のところ生の肉体を持った存在の魂の分離を研究はしていないから、出来るとも出来ないともいえないわ。

 でも理論上はできるはずよ」

「そうか……」

 最悪リザードマンの体でもゴブリンより遥かに良いと思った。
 そう簡単にはゴブリンから脱出できなさそうだとため息をついてしまう。

「……もし人を退けて無事にいられたら研究してあげましょうか?」

「本当か?」

「ええ、あなたにも何か事情がありそうだからね」

「ん、どうしたレビス?」

「ゴブリン、イヤ?」

「うーん、まあなんだかんだ悪くはないがもっと強い体になれるならそれに越したことはないだろ?」

 なんだか不満そうな目をしたレビスがドゥゼアの腰を指で突いた。
 レビスの不満もわかる。

「それになにも俺だけじゃない……レビスだって強い体になれるならその方がいいだろ?」

 置いていかれる。
 そう思っていたのだ。

 でもドゥゼアが他の体になれるのならレビスも他の体になれるということになる。
 ここまで仲間としてやってきたのだから自分だけ別の体になって置いていくつもりはない。

「……そっか」

 ドゥゼアは別にレビスを見捨てるわけじゃないと気づいてレビスの機嫌はなおった。
 レビス自身も別にゴブリンの体に執着するのではなく、ドゥゼアと一緒ならなんでもいいとすら思っている。

 むしろ一緒にと考えてくれていることが嬉しくまであった。

「じゃあみんなでワーウルフになろうよ!」

 ドゥゼアがワーウルフになったらどれほどカッコいいことだろう。
 ユリディカは1人別の妄想を繰り広げていた。

 ゴブリンの今でもカッコいいのにワーウルフになってしまったらもはやメスとして抗えない。
 好きにして!とクネクネとして想像が広がる。

「まあ移るための肉体を確保したりも必要だし問題は多いのだけどね。
 生きた体から魂を分離する研究も面白そう……」

「ご主人様!」

「オルケ!
 えっと……その、話さなきゃいけないことが……」

 オルケが帰ってきた。
 さっきまで饒舌だったのにフォダエは急にしどろもどろになる。

 謝ろうとはしているみたいだ。
 しかしドゥゼアはそんなことよりも慌てたようなオルケの態度が気になった。

「人が攻めてきました!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました

ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。 会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。 タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

スキル運で、運がいい俺を追放したギルドは倒産したけど、俺の庭にダンジョン出来て億稼いでます。~ラッキー~

暁 とと
ファンタジー
スキル運のおかげでドロップ率や宝箱のアイテムに対する運が良く、確率の低いアイテムをドロップしたり、激レアな武器を宝箱から出したりすることが出来る佐藤はギルドを辞めさられた。  しかし、佐藤の庭にダンジョンが出来たので億を稼ぐことが出来ます。 もう、戻ってきてと言われても無駄です。こっちは、億稼いでいるので。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした

せんせい
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ―――

処理中です...