上 下
93 / 301
第二章

ゴブリンはスケルトンナイトを追いかけます2

しおりを挟む
 バイジェルンの案内を頼りにコイチャを連れて行ったと思われるリッチを追いかける。
 大変なのかもしれないがバイジェルンは頑張ってくれた。

 リッチは魔力も強くて目立つので周辺のクモたちによる目撃情報も多い。
 目撃情報を元にして追いかける分にはそれほど困ったことにはならなかった。

「急ぎましょう!」

「そう焦るな」

「ですが!」

「永遠にどこかに逃げ回るわけじゃないだろう。
 きっとどこか目的地があってそこにむかっているはずだからそのうち追いつくだろう」

 むしろ焦って追いかけることによって他の魔物に遭遇してしまうことの方が危険だ。
 周りを警戒してバレないように追いかけないとドゥゼアたちの方が襲われてしまう。

 それに不眠不休で追いかけて体力がなければそれもまた危険を増す要素となる。
 しかし相手はただの誘拐犯ではない。

 何かの目的があってドゥゼアを連れて行ったのだと予想ができる。
 そうなるとどこか連れて行く目的の地があるはずである。

 どう取り戻すかは別として見失わなければ追いかけて追いつくことは可能である。
 そもそも相手はリッチとスケルトン。

 アンデッドであるので一日中だって歩ける。
 相手も移動を続ける中で追いつくことは無理に近い。

 バイジェルンが情報を集める時間も必要となる。
 休み休み無理がかかりすぎない範囲で追いかけるのが正解である。

 ただピュアンの焦る気持ちというものも理解できないものじゃない。
 でも大切に思うならばこそしっかりと進めるべきなのだ。

 ピュアンも疲れない体で寝ることもないのが余計に拍車をかけるのかもしれない。

「しかしなんでまた骨師匠を連れて行っただろう?」

 勝手にコイチャのことを骨師匠と呼んでいるユリディカは首を傾げた。
 夜も更けて周辺に強い魔物もいないというので休むことにした。

 移動している間にはあまり考え事はしないのだけど止まると色々と考えてしまうのは仕方のないことである。
 リッチがアンデッド系統の魔物に対する支配的な力を持っていることはドゥゼアの説明でユリディカとレビスは理解した。

 けれどわざわざコイチャを連れて行く理由はわからない。

「強いから」

 ユリディカの疑問にレビスはレビスなりの答えをぶつけた。
 単純にコイチャが魔物としても強いからリッチが連れて行ったと考えた。

「うん、意外とない話でもないと思うぞ」

 シンプルで分かりやすい理由だが魔物の考える行動の理由など意外と単純な原因であることも多い。
 怒ったから、なんて人の世界では非難されそうな理由でも魔物の世界なら普通にあり得ることなのだ。

 当然理性的な魔物であるほどそうした衝動的な理由で行動することは少なくなるがたまたま強いとされるコイチャの話をリッチが耳にして部下にしにきたのかもしれない。
 バイジェルンにはリッチに関する調査もお願いした。

 ただ単に追いかけるだけじゃなく目的や向かう先が分かれば先回りできるかもしれないと思ったのである。

「勝手に連れて行くなんて許せません!
 コイチャも付いてくなんて!」

 ピュアンは怒っているがコイチャにほとんど意識がない以上リッチの支配的な力に抗うことは難しい。
 
「しかしリッチかぁ……」

 もし仮に戦闘になったらとドゥゼアはため息をつく。
 リッチはかなり強大な魔物である。

 単体戦闘力でも強いのだけどやはり強みはアンデッド系に対する支配力だ。
 痛みも疲れも感じない不死の軍団を操るリッチは非常に高いレベルの脅威度を誇る。

 リッチが本気になれば国に対抗することもあり得ない話ではないのだ。
 通常のスケルトン1体だって多分結構ギリギリなドゥゼアたち。

 スケルトンを倒すには強い物理力か魔法、あるいは神聖力と呼ばれる神の力が必要となる。

「……」

「何?」

 ユリディカがもっと卓越していればその力は神聖力のようなものなのではと思った。
 ドゥゼアに見つめられてテレテレする今のユリディカにはちょっと無理そうであるが。

「ともかく見失わないように追いかけるのが優先だな」

 そうしてリッチを追いかけるドゥゼアたち一行であったがその道程は思いの外楽だった。
 というのも見たところリッチはコソコソとする性格じゃないようで堂々と魔物のナワバリの真ん中も突っ切って進んでいた。

 そのためなのか他の魔物がナワバリを守ろうとリッチに襲いかかったのだけど容易く返り討ちにされていた。

「おおぅ……」

 惨殺された魔物の死体を見てドゥゼアも思わず声を漏らす。
 痕跡としては魔法でやられたらしい魔物の死体が追いかける中で転がっていた。

 リッチは手をつけていないがもったいないので魔石をいただいたりしながら追いかけて行く。
 こんなことになっているのなら追いかける方向としては合っている。

 ついでにバイジェルンからリッチが数体のスケルトンを連れていたということも情報としてキャッチした。
 走ったりしないで歩いているのでペースとしては遅いがリッチの方は昼夜問わずに移動しているので中々差は縮まならない。

「ジャンジャカジャーン!
 情報を捕まえたであーる!」

 この追跡劇において大きな役割を果たしているのはバイジェルン。
 常に動き回って情報を集めてくれている。

 そんなバイジェルンが別のクモを連れて戻ってきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

転生スライム食堂~チートになれなかった僕の普通に激動な人生~

あんずじゃむ
ファンタジー
事故にあった高校生、ショウは気づくと森の中で目を覚ます。 そこが異世界だと気付いたものの、現れない神様、表示されないステータス、使えない魔法。チートどころか説明さえもしてもらえず始まったなんて第二の人生は艱難辛苦。前世で文系一直線だったショウには役立つ知識すらもなく。唯一の武器は価値観の違いか?運よく雇われたボロい食堂を食い扶持の為に必死に支えるリアル転生物語。果たしてショウは平穏な人生を送るのか。今の所ファンタジー恋愛小説の予定です。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在三巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

処理中です...