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第二章
ゴブリンはワーウルフに感心しました1
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「はっ!」
気づくとまた目の前に女神像の顔があった。
地下に隠された神殿に戻ってきていてユリディカは周りをキョロキョロと見回した。
「ユリディカ!」
「ドゥゼア?」
「良かった……反応がないから心配したぞ!」
ユリディカがアリドナラルと対話をしている間にも時間は流れていた。
騎士の像はドゥゼアたちが手を出さない限りは動かず敵意を感じもしないので攻撃はやめた。
しかし肝心のユリディカに反応がなくなって、いくら声をかけてもミミすら動かさないのである。
ようやく動きを見せたユリディカにドゥゼアとレビスがホッとする。
このまま意識がないようなら見捨てるか騎士の像に突っ込むかの判断を迫られるところであった。
「動けるか?」
「あ、う、うん」
そんなに強く女神像に腕を回されているのではない。
「わ、わわわっ!」
動こうとしたらユリディカを抱えるように回していた腕がぽろりと取れてしまった。
そしてそれをキッカケとして女神像がボロボロと崩れていく。
ユリディカはアリドナラルがユリディカに力を与えてしまうと消えてしまうと言っていたことを思い出す。
手を伸ばしてどうにかしようとしたが触れたところが簡単に崩れてしまう。
「あっ、あっ!」
最後まで女神像は優しく笑ったまま崩れていった。
ユリディカにはどうしようもなかった。
「な、なんだ!」
女神像が崩れるのと同時に女神像を守るようにしていた騎士の像も倒れる。
倒れてきた像に潰されかけてドゥゼアが慌てて距離を取る。
「あぁ……あっ」
女神像が崩れ去ってユリディカが悲しそうに声を漏らした。
残されたのは女神像が持っていた杖。
トンと床に落ちてゆっくりとユリディカの方に倒れてきた。
まるでユリディカに杖を託したようだった。
「ユリディカ、大丈夫か?」
床に倒れて壊れた騎士の像を乗り越えてドゥゼアとレビスがユリディカに駆け寄る。
杖を抱きしめたままユリディカはぼんやりとしている。
「泣いて……いるのか?」
ドゥゼアがユリディカの顔を覗き込んで驚く。
ユリディカの目からは涙が流れていた。
魔物にしては珍しい行為だ。
「うん、なんだか悲しくて」
「……そうか」
何かがあった。
何かは分からなくてもユリディカの中では何かが起きたのだとドゥゼアは理解した。
そっとしといてやろう。
ドゥゼアはレビスに視線を送ってそっと離れる。
この部屋の端の方にもいくつか冒険者だった遺体や荷物が散らばっている。
ここまで来ることができた人は少ないのか落ちているものは少ないけどドゥゼアはそれを漁ることにした。
装備の質としてはここよりも前のものよりも良さそうだったけど古くてとても使い物にならなそうだった。
装備品ってやつはかなり繊細で手入れをしないとあっという間にダメになる。
魔道具的なものもない。
お金はそれなりにあったので貰っていく。
こうして人の物を漁るのに抵抗がある人もいるけれどもう持ち主のいない物でこうした過去の冒険者のものを漁るのは攻略に成功している者の正当な権利である。
こうした時には身分がわかるものがあったら持っていってあげるのもルールであるのだけどゴブリンの身の上では返してあげることもできない。
荷物になるだけなので身分がわかるものがあっても無視である。
目ぼしいものはお金ぐらいしかなかった。
ここに来られた冒険者もかなり昔に入ってきたきりでほとんどの冒険者はその前の罠でやられてしまったみたいであった。
「落ち着いたか?」
「うん、ごめんね」
「お前が無事ならそれでいいさ」
ミミも尻尾もしょんぼりさせてトボトボとユリディカがドゥゼアの方に歩いてきた。
いつもの元気さがなくてしおらしさがある。
それにドゥゼアにはあれがなんだったのかいまだに分からないでいる。
ユリディカがやったことではないので責められるはずもない。
「何があった?」
「んとね……」
ユリディカは自分の見たものをドゥゼアとレビスに話した。
アリドナラルのことや破壊の神にここが破壊されたこと、そしてアリドナラルから力を受け取ったことなどを必死に伝えた。
ドゥゼアも流石に話を聞いて驚いた。
アリドナラルという名前の神は記憶にない。
そもそもそんなに神様への信仰厚い人間ではなかったし神学も学んでいないので見識が広くはないが少なくともメジャーな神ではない。
滅んだので当然といえば当然かもしれないが。
ずいぶんとアリドナラルに感情移入してしまっているらしくてユリディカはすっかり落ち込んでいる。
「力は使えそうか?」
「なんか力があるのは感じるけどまだちょっと馴染んでない感じ。
あとは使い方も分からない……」
本来なら教えてくれるつもりだったらしいけどやっぱり無理だったみたいだ。
なんとなく力っぽいものは感じるユリディカであるがまだ完全に自分のものになっていないような感じを受けていた。
さらにはその力もどうやったらいいのか分からないでもいた。
「そうか、まあ焦らなくてもいい。
それにしても癒しと強化の力か」
これもまた驚きの話だとドゥゼアは感心したようにうなずいた。
気づくとまた目の前に女神像の顔があった。
地下に隠された神殿に戻ってきていてユリディカは周りをキョロキョロと見回した。
「ユリディカ!」
「ドゥゼア?」
「良かった……反応がないから心配したぞ!」
ユリディカがアリドナラルと対話をしている間にも時間は流れていた。
騎士の像はドゥゼアたちが手を出さない限りは動かず敵意を感じもしないので攻撃はやめた。
しかし肝心のユリディカに反応がなくなって、いくら声をかけてもミミすら動かさないのである。
ようやく動きを見せたユリディカにドゥゼアとレビスがホッとする。
このまま意識がないようなら見捨てるか騎士の像に突っ込むかの判断を迫られるところであった。
「動けるか?」
「あ、う、うん」
そんなに強く女神像に腕を回されているのではない。
「わ、わわわっ!」
動こうとしたらユリディカを抱えるように回していた腕がぽろりと取れてしまった。
そしてそれをキッカケとして女神像がボロボロと崩れていく。
ユリディカはアリドナラルがユリディカに力を与えてしまうと消えてしまうと言っていたことを思い出す。
手を伸ばしてどうにかしようとしたが触れたところが簡単に崩れてしまう。
「あっ、あっ!」
最後まで女神像は優しく笑ったまま崩れていった。
ユリディカにはどうしようもなかった。
「な、なんだ!」
女神像が崩れるのと同時に女神像を守るようにしていた騎士の像も倒れる。
倒れてきた像に潰されかけてドゥゼアが慌てて距離を取る。
「あぁ……あっ」
女神像が崩れ去ってユリディカが悲しそうに声を漏らした。
残されたのは女神像が持っていた杖。
トンと床に落ちてゆっくりとユリディカの方に倒れてきた。
まるでユリディカに杖を託したようだった。
「ユリディカ、大丈夫か?」
床に倒れて壊れた騎士の像を乗り越えてドゥゼアとレビスがユリディカに駆け寄る。
杖を抱きしめたままユリディカはぼんやりとしている。
「泣いて……いるのか?」
ドゥゼアがユリディカの顔を覗き込んで驚く。
ユリディカの目からは涙が流れていた。
魔物にしては珍しい行為だ。
「うん、なんだか悲しくて」
「……そうか」
何かがあった。
何かは分からなくてもユリディカの中では何かが起きたのだとドゥゼアは理解した。
そっとしといてやろう。
ドゥゼアはレビスに視線を送ってそっと離れる。
この部屋の端の方にもいくつか冒険者だった遺体や荷物が散らばっている。
ここまで来ることができた人は少ないのか落ちているものは少ないけどドゥゼアはそれを漁ることにした。
装備の質としてはここよりも前のものよりも良さそうだったけど古くてとても使い物にならなそうだった。
装備品ってやつはかなり繊細で手入れをしないとあっという間にダメになる。
魔道具的なものもない。
お金はそれなりにあったので貰っていく。
こうして人の物を漁るのに抵抗がある人もいるけれどもう持ち主のいない物でこうした過去の冒険者のものを漁るのは攻略に成功している者の正当な権利である。
こうした時には身分がわかるものがあったら持っていってあげるのもルールであるのだけどゴブリンの身の上では返してあげることもできない。
荷物になるだけなので身分がわかるものがあっても無視である。
目ぼしいものはお金ぐらいしかなかった。
ここに来られた冒険者もかなり昔に入ってきたきりでほとんどの冒険者はその前の罠でやられてしまったみたいであった。
「落ち着いたか?」
「うん、ごめんね」
「お前が無事ならそれでいいさ」
ミミも尻尾もしょんぼりさせてトボトボとユリディカがドゥゼアの方に歩いてきた。
いつもの元気さがなくてしおらしさがある。
それにドゥゼアにはあれがなんだったのかいまだに分からないでいる。
ユリディカがやったことではないので責められるはずもない。
「何があった?」
「んとね……」
ユリディカは自分の見たものをドゥゼアとレビスに話した。
アリドナラルのことや破壊の神にここが破壊されたこと、そしてアリドナラルから力を受け取ったことなどを必死に伝えた。
ドゥゼアも流石に話を聞いて驚いた。
アリドナラルという名前の神は記憶にない。
そもそもそんなに神様への信仰厚い人間ではなかったし神学も学んでいないので見識が広くはないが少なくともメジャーな神ではない。
滅んだので当然といえば当然かもしれないが。
ずいぶんとアリドナラルに感情移入してしまっているらしくてユリディカはすっかり落ち込んでいる。
「力は使えそうか?」
「なんか力があるのは感じるけどまだちょっと馴染んでない感じ。
あとは使い方も分からない……」
本来なら教えてくれるつもりだったらしいけどやっぱり無理だったみたいだ。
なんとなく力っぽいものは感じるユリディカであるがまだ完全に自分のものになっていないような感じを受けていた。
さらにはその力もどうやったらいいのか分からないでもいた。
「そうか、まあ焦らなくてもいい。
それにしても癒しと強化の力か」
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