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第一章

ゴブリンと猿は蛇と戦います2

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 けれど蛇だってただではやられない。
 体が大きく狙いを絞らなくても暴れるだけで攻撃が当たってしまうこともある。

 ボス猿や猿リーダーは蛇の攻撃をかいくぐって近づけるがそうでない猿は中々近づけない。
 毒が危険であることは学んでいるので牙だけはどうにか避けている。

 ドゥゼアもただ見ているだけでなく弓矢で援護するけれど体の大きな蛇に非力なゴブリンが引いた弓ではいかほどのダメージもない。
 酔った頭ながらも自分に攻撃を加えてくる厄介な猿がどれなのか蛇も理解し始めていた。

「ぬうっ!」

 蛇の頭が迫ってボス猿は横に飛んで回避した。
 体を大きくクネらせてすぐさま頭を反転させてボス猿を追いかける。

 体を貫きそうになった牙をボス猿が受け止めた。
 蛇の力に対抗するためにボス猿の肩周りの筋肉がもう一回り膨張する。

「ウキィー!」

 それでもジワリと毒が染み出す牙に押されていく。
 そこに猿リーダーが剣を振りかぶって飛びかかった。

 突き立てるように振り下ろされた剣は蛇の目に刺さった。
 流石に目に剣を刺されては酔っていても激痛が走る。

 激痛に頭をブンブンと振って猿リーダーを振り落とそうとする。
 猿リーダーは突き刺した剣を握って抵抗していたが耐えきれずに空中に投げ出された。

 残された蛇の目が空中をバタバタと泳ぐ猿リーダーを捉えた。

「猿!」

 逃げようにも方法がない。
 手を動かしても周りは空気しかない。

 蛇は大きく口を開いて打ち上がるように猿リーダーに飛び上がった。
 バクンと蛇は猿リーダーを飲み込んで口を閉じた。

「あのバカ猿……!」

 猿たちに動揺が走る。

「グオオオオッ!」

 ボス猿が怒りに駆られて蛇に突撃する。
 横に大きく振られた蛇の尾を受け止める。

「オオオオオオオオッ!」

 ボス猿は蛇の尾を抱えたままグルグルと回転し始める。
 大きな蛇が持ち上がり、勢いをつけて地面に叩きつけた。

「ヤバイ!」

 蛇は衝撃で怯んでいた。
 だけどボス猿は追撃しない。

 猿リーダーが食われてボス猿は限界を超えた力を引き出して蛇を振り回した。
 その反動で動けなくなっていた。
 
 ドゥゼアはぶっ飛ばされて近くに飛んできた猿の剣を取って走り出した。

「ドゥゼア!」

 その間に蛇は持ち直して頭を上げた。
 ボス猿の膨れていた体が萎んで元に戻り、地面に膝をついて肩で息をしていた。

「オラァッ!」

 ドゥゼアは勢いよく飛び上がると両足を揃えて伸ばし、ボス猿の頭を蹴り飛ばした。
 もう体に力が入っていないボス猿はそれだけで簡単に転がって倒れた。

 直後、ボス猿がいたところを蛇が噛みついた。
 間一髪ドゥゼアに蹴り飛ばされてボス猿は蛇に噛みつかれることは回避できた。

 けれどそこにはボス猿を蹴って空中を漂うドゥゼアがいた。

「ドゥゼアー!」

「いやー!」

 ボス猿よりもサイズが小さいドゥゼアに牙は刺さらなかった。
 しかしそのまま閉じた口の中にドゥゼアは飲み込まれた。

 蛇は頭を上げて口の中にあったものを飲み込むような仕草を見せる。
 レビスとユリディカに大きな衝撃が走った。

「この……!」

「ユリディカ!」

「ヒュン!

 レ、レビス!

 だって、ドゥゼアが!」

 蛇に食ってかかりそうなユリディカの尻尾を引っ張って止めた。

「ダメ、冷静じゃない」

 冷静でない状態で行動を起こすのは絶対にダメだとドゥゼアは言っていた。
 感情に任せて動いて失敗することは多い。

 動くなら一度待って冷静さを取り戻してから。
 振り返って見たレビスの顔も泣きそうになっている。

 冷静じゃない。
 でも言いつけを守ってケガなんかをしたらドゥゼアは怒るし今かかっていっても勝てはしない。

 ドゥゼアを助けに行こうとするユリディカ。
 ドゥゼアの言いつけを守ってどうするかを考えるレビス。

 そのどちらも間違った行いではない。

「レビス……蛇が」

 ユリディカもレビスを見て少しだけ冷静さを取り戻す。
 ドゥゼアはこんなことじゃ死なないと自分に言い聞かせてどうにか出来ないかとまた蛇に視線を戻した。

 蛇が暴れている。
 けれどその様子はおかしい。

 暴れているというよりのたうち回っているような感じ。
 猿を狙っているのでなくやたらめったらと体を地面に打ちつけたりしている。

 激しく暴れるので猿たちにも近づけないでいるが猿が離れても狙ってこない。

「な、なに……?」

「ドゥゼア、かな?」

 レビスとユリディカも1体だけで勝手に暴れる蛇を呆然と眺める。
 誰もなぜ蛇が暴れているのか理由が分からないけどレビスとユリディカにはうっすらと分かるような気がして、お互いに顔を合わせた。

 しばらく暴れていた蛇が突如として動きを止めた。
 ビクビクと全身を震わせて盛大に血を吐き出した。

 そしてゆっくりと地面に倒れた。
 口からダラダラと血を流して動かなくなる蛇を見て猿たちも顔を見合わせた。

「俺が行く」

 杖の効果もあって持ち直したボス猿が前に出る。
 ドキドキした顔をして猿たちも様子を見守る。

 ゆっくりと近づいていく。
 確かめるのに近くに落ちていた槍を拾って体を伸ばしてそーっとつつく。

 動かない。

「倒した……?

 ウォゥ!」

 蛇の口がもぞりと動いてボス猿は大きく飛び退いた。
 蛇の口が開いて中から血の塊のようなものがゴロリと出てきた。

「し……死ぬかと思ったウキーーーー!」

 出てきたのは鮮血に染まった猿リーダーだった。
 続いてまた蛇の口が動いてまた血の塊が飛び出してきた。

「テメェ、俺を押し退けて出ていくんじゃねえよ!」

「ウキィ!」

 2つ目の血の塊はドゥゼアだった。
 目も開けられなくなるほどの血を手で拭ってすぐさま猿リーダーを殴りつける。

「ほら、お前が言え」

「ウキィ……」

 猿もレビスもユリディカも蛇の口から出てきたドゥゼアと猿リーダーを見ている。

「……俺たちの住処を狙う悪しき蛇は倒れたウキ!

 俺たちは……勝利したウキ!」

 猿リーダーが蛇を倒したことを声高に宣言する。

「うおおおおおっ!」

 ボス猿が勝利の雄叫びを上げた。

「勝ったぞー!」

 ドゥゼアも両腕を振り上げて勝利の興奮を表現する。
 猿たちも次々に雄叫びを上げ始める。

「ドゥゼア!」

「真っ赤」

 ユリディカとレビスがドゥゼアに駆け寄ってくる。

「心配した!」

「ホントだよ!」

「いや……すまないな」

「ケガはない?」

「ああ、ぜーんぶこいつの血だ」

 ドゥゼアも猿リーダーも全身真っ赤になっているけれどそれは全て蛇の血によってである。

「無茶しない!」

「そうだよ!

 驚いたんだから!」

 レビスもユリディカもとても怒っている。

「悪かったよ……でもアイツが悪いんだ」

 ドゥゼアは蛇の上に乗って雄叫びのを上げている猿リーダーに目を向けた。

「まっ、勝ったから許してくれよ」
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