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第一章

ゴブリンはお猿と対峙する3

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「あの杖でどんな怪我も治していた人を倒したと。

 だからこの杖で仲間を治して、蛇と戦わなきゃいけない」

 いわゆる武勇伝自慢というもので杖を手に入れるのにいかに苦労したかをアラクネは話して回っていた。

「それは……」

 そしてその話を聞いてドゥゼアは思った。
 ボス猿の認識には大きな誤りがあると。

 アラクネが戦った冒険者は強かった。
 アラクネを狙いにくるほどの相手なのだから強者であることは間違いない。

 ボス猿の話からしてこの杖を持っていた相手はおそらく治療を専門とする聖職者なのだろう。
 戦ってダメージを与えてもすぐに味方を回復させてくるかなり厄介な相手だったはずだ。

 それを誇張するように自慢したのだ。
 ただボス猿は自慢をそのまんま受け取ってしまった。

 その結果あたかもこの杖がそうした効果を持つようにボス猿は勘違いしてしまっている。

「杖だけじゃそんなことできない」

「なんだと!

 お前、我々を騙すつもりか!」

 ボス猿の毛が逆立って筋肉がパンと張って体が一回り大きくなる。
 穏やかな表情が一変して怒りの顔をドゥゼアに向ける。

「分かってるんだろ?」

 けれどドゥゼアは動じない。
 一歩も引かずにボス猿の目を見つめる。

 強く握られた拳が振るわれれば簡単にドゥゼアは殺される。
 でも何の言い訳もしないでただドゥゼアはボス猿と向き合った。

 他の猿たちも心配そうな顔をして状況を見つめていた。
 一方でレビスやユリディカは怖がり、ドゥゼアの後ろに隠れながらもボス猿がドゥゼアを害するなら戦うつもりで覚悟もしていた。

「……どうしたらいい」

 緊迫の睨み合いも長くは続かなかった。
 ボス猿の体が元の大きさに戻って大きくうなだれた。

 言わずとも結果など分かっていた。
 ここに寝かされている猿を見ていれば分かることで杖に治療の効果などなかったのだ。

 ボス猿もそんなことは理解していた。
 だけどすがる希望が欲しかったのだ。

 次に蛇に襲われたらもう勝てないかもしれない。
 杖があるから大丈夫だと自分と仲間達を誤魔化してきたけれどもう限界だった。

「……杖は返す。

 アラクネに謝罪を頼む」

 ボス猿が手招きすると杖を持った猿が前に出てきてドゥゼアに差し出した。

「むっ!」

 杖を持った瞬間温かな魔力が流れ込んできた。
 肩の傷が治っていく。

「なるほどね。

 もう少しばかりこの杖を借りててもアラクネも怒りゃしないだろう。

 おい、まだ希望は捨てなくてもいいかもしれないぞ」

 ドゥゼアはニヤリと笑った。
 この笑顔は何かを思いついた時のもので少し悪く笑う顔がレビスもユリディカも意外と好きだった。

 何をするつもりが知らないけどニヤリとする時のドゥゼアは何かをしてくれる。
 ただまあ厄介事に首を突っ込もうとしていることだけは確かなのである。
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