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第六章

海の女王2

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「よしっ! このまま……」

 スキルも発動して攻撃が届いた。
 ほんの少しではあるが倒せるかもしれないという希望も湧いてくる。

「ぐあっ!」

「圭!」

「圭さん!」

 しかしそう甘くはなかった。
 カッと目を見開いて圭を睨みつけたラーナノクイーンは槍を突き出した。

 防御は間に合ったものの押し切られ、槍の先端が圭の肩をえぐる。
 幸いそれほど傷は深くないけれど激痛に圭の顔が歪んだ。

 ラーナノクイーンは怒ったように圭に攻撃を繰りだす。
 一撃一撃が重くて受けるたびに肩に痛みが走る。

 けれどまともに食らえば死んでしまうのでどうにか歯を食いしばってラーナノクイーンの攻撃を耐える。
 導く者の力が発動していなかったらとてもじゃないが耐えられなかった。

「治せない……!」

 薫が圭の肩の治療を試みるけれど治療はうまく進まない。
 圭との距離があることや怪我の位置が常に動く場所であるためにすぐに傷口が開いてしまうのだ。

「圭!」

 圭が息をつく暇もない。
 夜滝が少しでも圭に余裕を与えようと無理矢理火の魔法を放つ。

「なっ!」

「危ない!」

 ラーナノクイーンがぷくりと頬を膨らませ勢いよく水を口から噴き出して夜滝が放った魔法が魔法を打ち消す。
 そのまま飛んでくる水が襲いかかり夜滝は転がってなんとかかわした。

「ゔっ!? がっ……」

「け、圭さん!」

 夜滝に気を取られて圭にわずかな隙ができてしまった。
 横殴りに振られた槍に吹き飛ばされた圭が壁に叩きつけられる。

「ダ……ダメです!」

 トドメを刺そうとラーナノクイーンが圭に迫り薫が悲鳴をあげる。
 かわさなきゃいけないのに壁に叩きつけられた衝撃で体が動かない。

(なんだ……?)

 急に体が何かに包まれたような感覚に襲われた。
 けれどそれを確かめる暇もなく目の前にラーナノクイーンが迫って圭は痛みに備えて目を閉じて歯を食いしばった。

「…………ん?」

 いつまで経っても痛みが来ない。

「うおっ!?」

 そっと目を開けると圭の目の前に槍の先があった。
 ラーナノクイーンは両手で槍を持って力を込めている。

 寸止めをしようとしてやっているのではない。
 ラーナノクイーンの三叉の槍には水が蛇のように絡み付いている。

「遅れてごめんね」

 圭の後ろの壁が壊れて水の塊が飛び込んできてラーナノクイーンに直撃した。
 今度はラーナノクイーンの方が吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

「大丈夫、圭君?」

「う、上杉……」

「かなみ」

「か、かなみさん……」

 ドームの壁に穴を開けて入ってきたのは上杉かなみであった。
 圭が上杉と呼ぼうとすると少しムッとした顔をする。

「まあかなみさんでもいいわ。それよりも無茶しないでって言ったのに」

「俺も戦わなくていいならそうしてましたよ」

「肩……」

 かなみは痛々しい圭の肩の傷を見て顔をしかめた。

「う、後ろです!」

「あいつがやったのね?」

 かなみが振り返るとラーナノクイーンはすでに飛び上がって槍を突き出していた。

「さっさと終わらせるわよ」

 かなみが剣を抜いてラーナノクイーンの槍を弾き返す。
 圭は受けるだけでもいっぱいいっぱいだったけれどかなみはラーナノクイーンを押している。

 流石にA級覚醒者で筋力値もBなだけはある。
 魔力も高いので直接戦えば能力以上の強さを発揮する。

「圭さん!」

 圭に薫と夜滝が駆け寄る。
 薫が治療を始めると体が楽になっていく。

「……どうやら間に合ったようだな」

 ほんの一瞬倒せるかもなんて思ったけど最初の目的は大海ギルドの助けが来るのを待つことだった。
 耐え忍べば大海ギルドが助けに来るということは分かっていた。

 遅かったと文句の一つでも言いたくなるけれど間に合ったのだから何も言うまい。

「カレンの方に行こう」

「でも……」

「今は敵を倒すことが優先だ」

 肩の傷を治してもらいながら圭は状況を見ていた。
 最初は優勢そうに見えていたカレンたちも素早さの高いラーナノナイツに対して攻撃を決めきれずにいて戦いが長引いていた。

 かなみはラーナノクイーン相手に優位に戦っているし、穴から外を見てみると大海ギルドだろう人たちが外のラーナノソルジャーやラーナノナイツと戦っている。
 ここはカレンたちに加勢するのがいいだろう。

 体はまだ万全とはいかないけれどゆっくり休んでもいられない。
 圭は大丈夫だと笑って薫の頭を撫でる。

「圭君!」

「波瑠!」

「助け、呼んできたよ!」

 カレンに加勢しようとした圭たちのところに波瑠が走ってきた。

「げっ! 大丈夫!?」

 圭の肩は大きく血で濡れていた。
 それを見てカレンがギョッとした顔をする。

「ああ、薫君に治してもらったから大丈夫だ」

 若干血は足りていない気がするけれど戦うのに問題もない。
 カレンとフィーネが戦っているのに圭だけ逃げるなんてこともできない。

「カレン、フィーネ!」

 まだ元気な波瑠を先頭にしてカレンとフィーネに加勢する。

「助かる!」

 カレンもフィーネも大きな怪我なく戦えていた。
 目的からすると大成功だ。

「うりゃぁ!」

 圭の怪我を見て波瑠もやってやるとやる気満々である。
 スピードだけなら波瑠はラーナノナイツにも劣っていない。
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