上 下
272 / 351
第五章

愛する人よ、共に逝こう2

しおりを挟む
「あははっ! これで私もお金……」

「危ない!」

 天井が崩れた瞬間嫌な予感がして圭は叫んだ。

「グッ……何が起きた……」

 降ってきたのはカルヴァンだった。
 山之内の前に着地したカルヴァンは山之内を無視して、エリーナのところに歩いていく。

「や、山之内さん……」

 笑っていた山之内のそのままの表情で固まっていた。

「なんて……ことだ……」

 ずるりと山之内の頭が首からズレた。
 そして床に山之内の頭が落ちる。

 圭たちに衝撃が走った。
 落ちてきた一瞬でカルヴァンは山之内の首を切り裂いていたのである。

「カル……ヴァン」

 少し遅れて山之内の体も地面に倒れた。
 カルヴァンは腹部を刺されて地面に横たわるエリーナの上半身を抱きかかえて起こした。

「泣かないで……」

 カルヴァンの目から涙が流れている。

「あなたはよくやってくれたわ」

 口の端から血を流しながらもエリーナは穏やかな笑みを浮かべてカルヴァンの頬に手を伸ばした。

「エリ……ナ」

「あら……あなたに名前を呼んでもらえるのはいつ以来かしらね」

 ガサガサの声。
 それでもその中にある優しい響きにエリーナも涙を浮かべる。

「お願い、私たちを解放して」

 山之内は戦いにおいても素人だった。
 やるなら急所でもつけばよかったのによりによって急所を外した腹部を突き刺していた。

 このままでは痛いだけ。
 長らく人としての意識もなかったカルヴァンも今はわずかに人間らしさが見えている。

 今が最も終わりにするのにふさわしい時。

「早くしないとカルヴァンはまた暴れ出すわよ」

 北条と互角に戦っていたカルヴァンが再びモンスターとして前に立ちはだかると圭たちでは敵にもならない。

「圭さん……」

「やるしかないんだな?」

 覚悟を決めたように圭が前に出た。

「そう。私たちを倒して、全てを終わらせて」
 
 こうなったら苦しみを引き伸ばすよりここで終わらせてあげる方がいいのかもしれない。
 シークレットクエストが出て、ここまでたどり着いた者の責任がある。

 他にも人にも任せられず、放っておくこともできないのなら自分の手で終わらせるしかない。

「最後に言い残すことはありますか?」

「……ないわ。でも願わくばこんなことをした神に復讐でもしてくれると嬉しいわね」

「……努力します」

「優しいのね。さあ、カルヴァン、行こう」

 エリーナは両手をカルヴァンの頭に添えると抱き寄せて、口づけをした。

「……!」

 圭は高く持ち上げた剣を振り下ろしてカルヴァンの胸に突き立てた。
 そのまま剣の先はカルヴァンの体を突き抜けて、エリーナの胸も貫いた。

「ありがとう、異世界の友よ。あなたの世界に幸運があらんことを……。そして私たちの新たな旅路に幸せが……」

「崩れていく……」

 エリーナとカルヴァンの体がサラサラと崩れ始めた。
 崩れた天井から風が吹き込み、崩れていく二人が一つになるように舞い上がった。

「……村雨さん!」

「北条さん」

「これは……どういうことですか?」

 壊れた天井から北条が入ってきた。
 圭の剣に胸を貫かれて消えていくエリーナとカルヴァンを見て驚いたような顔をしている。

「……俺たちにもよく分かりません」

 うそじゃない。
 今は感情がぐちゃぐちゃだった。

 何が起きたのか説明できるような心情じゃなかった。

「くだらない残酷なゲーム……」

 もしかしたらこのまま圭たちがゲームを止めることに失敗すればエリーナたちのような末路を辿ることもあるのかもしれない。
 エリーナとカルヴァンが完全に崩れて消えて、残されたのは二つの魔石と一本の黒いナイフだった。

「安らかに」

 再び風が吹き込んで二人の崩れた体は寄り添うように空高く吹き上がっていく。
 偽物ではなく、本物と共にカルヴァンも最期を迎えられた。

「……ともかく、これで終わりのようですね」

 何が起きたのかは後で聞いてもいいだろう。
 北条は剣を納めて大きく息を吐き出した。

 今はゲートの攻略に成功して帰れることを喜ぼうと思った。

「圭、大丈夫かい?」

 北条は他の人にゲート攻略が終わったと教えるために天井からまた戻っていった。
 圭はエリーナとカルヴァンの魔石、ナイフを拾い上げた。

「大丈夫かは分からない」

 罪悪感とか悲しみとか重たく沈み込んだ感情が胸に渦巻いている。
 一方でこれでよかったのだと思うし、解放してやることが自分のやるべきことだったと言える。

「私もあれが正しいことだったかは分かんないよ。でも最後……幸せそうだった」

 カレンが見たエリーナは笑っていた。
 胸を剣で貫かれたのに熱のこもった視線でカルヴァンを見つめて、幸せそうな笑みを浮かべていたのである。

「あれでよかったんですよ」

「そうだよ、向こうのお願いだし圭さんがやったあれが一番いい選択だったんだよ」

 みんなして圭を慰める。

「ふふ、みんなありがとう」

 圭もあれを間違った選択だとは思いたくない。
 正しかったのだ。

 あの場で出来た最良の選択だったのだ。
 そう思うことにして、圭は二人が消えていった場所に大きく一礼したのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

催眠アプリで恋人を寝取られて「労働奴隷」にされたけど、仕事の才能が開花したことで成り上がり、人生逆転しました

フーラー
ファンタジー
「催眠アプリで女性を寝取り、ハーレムを形成するクソ野郎」が ざまぁ展開に陥る、異色の異世界ファンタジー。 舞台は異世界。 売れないイラストレーターをやっている獣人の男性「イグニス」はある日、 チートスキル「催眠アプリ」を持つ異世界転移者「リマ」に恋人を寝取られる。 もともとイグニスは収入が少なく、ほぼ恋人に養ってもらっていたヒモ状態だったのだが、 リマに「これからはボクらを養うための労働奴隷になれ」と催眠をかけられ、 彼らを養うために働くことになる。 しかし、今のイグニスの収入を差し出してもらっても、生活が出来ないと感じたリマは、 イグニスに「仕事が楽しくてたまらなくなる」ように催眠をかける。 これによってイグニスは仕事にまじめに取り組むようになる。 そして努力を重ねたことでイラストレーターとしての才能が開花、 大劇団のパンフレット作製など、大きな仕事が舞い込むようになっていく。 更にリマはほかの男からも催眠で妻や片思いの相手を寝取っていくが、 その「寝取られ男」達も皆、その時にかけられた催眠が良い方に作用する。 これによって彼ら「寝取られ男」達は、 ・ゲーム会社を立ち上げる ・シナリオライターになる ・営業で大きな成績を上げる など次々に大成功を収めていき、その中で精神的にも大きな成長を遂げていく。 リマは、そんな『労働奴隷』達の成長を目の当たりにする一方で、 自身は自堕落に生活し、なにも人間的に成長できていないことに焦りを感じるようになる。 そして、ついにリマは嫉妬と焦りによって、 「ボクをお前の会社の社長にしろ」 と『労働奴隷』に催眠をかけて社長に就任する。 そして「現代のゲームに関する知識」を活かしてゲーム業界での無双を試みるが、 その浅はかな考えが、本格的な破滅の引き金となっていく。 小説家になろう・カクヨムでも掲載しています!

勇者に大切な人達を寝取られた結果、邪神が目覚めて人類が滅亡しました。

レオナール D
ファンタジー
大切な姉と妹、幼なじみが勇者の従者に選ばれた。その時から悪い予感はしていたのだ。 田舎の村に生まれ育った主人公には大切な女性達がいた。いつまでも一緒に暮らしていくのだと思っていた彼女らは、神託によって勇者の従者に選ばれて魔王討伐のために旅立っていった。 旅立っていった彼女達の無事を祈り続ける主人公だったが……魔王を倒して帰ってきた彼女達はすっかり変わっており、勇者に抱きついて媚びた笑みを浮かべていた。 青年が大切な人を勇者に奪われたとき、世界の破滅が幕を開く。 恐怖と狂気の怪物は絶望の底から生まれ落ちたのだった……!? ※カクヨムにも投稿しています。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ────── こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。 先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

処理中です...