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第五章

ブラックマーケットデート3

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「でも……これ欲しいな」

 カレンは顔を赤くしたままなぞるように指輪を指先で撫でる。

「気に入ったのか? なら買っていこうか」

 効果がさほど高くないためか値段もお手頃である。
 このステータスアップがどこかのタイミングで生死を分けるかもしれないので買っておくことにする。

「こういうものは作れないのか?」

「……うーん、できそうな気はするな」

 これまで基本的に剣や防具などのメインとなる装備しか作ってこなかった八重樫工房。
 こうした装飾品で能力を持つものも作れれば役に立つかもしれない。

 むしろしっかりと作ればここで売っているものよりも効果の高いものが作れそうな気がカレンにはしていた。

「……ねぇ、お兄さん?」

「なんだ?」

「サンプルとしてもうちょい欲しいかな?」

 作れそうだけど見本となるものは欲しい。
 一個指輪を買ってもらえることになった手前でお願いするのは少し気が引けるけれど必要なものは必要である。

「じゃあいくつか買っていこうか」

 みんなにも一つずつぐらいあればいいかなと思っていた。
 指輪だけでなくネックレス系のものもいくらか見繕って購入した。

「これは高いな」

 安いものだけでなく高いものも当然売っている。
 武器などの装備も含めて事前に鑑定を行なって能力や効果が高そうだと判別されたものは丈夫な防弾ガラスのケースに入れられて展示されている。

 圭もそこそこお金を持っているがそれでも届かないような装備を見てカレンも圭も呆けたような顔をする。

「いつか強くなってあんな装備持ちたいよな」

「そうだな。私もあんなの作れるかな?」

「俺は装備製作分かんないからな……」

 カレンや優斗ならいい装備も作れそうだけど簡単に作れるとも言い難い。

「いい素材……ミスリル、あったらな…………」

 未だにミスリル事件はカレンの中で少し尾を引いている。

「いつかどっかのゲートで見つけよう」

 フィーネのため、カレンのためにミスリルもどこかで手に入れたいものである。
 ちょっと落ち込むようなカレンの背中に優しくポンと手を添える。

「美味い!」

 色々見て回ると意外と時間が経つのも早い。
 お昼はブラックマーケットで食べることにした。

 装備を扱う店のついでにご飯を食べられるお店も聞いていたのでそこに来てみた。
 オススメの肉料理を複数頼んでカレンとシェアして食べる。

 ブラックマーケットにあるお店だからと侮るなかれ。
 もちろんちょっと雑なお店もあるのだけど高級なお店もある。

 ブラックマーケットでは通常表に出てこないモンスターの肉が食べられたりする。
 というのも一般に広くモンスターの素材を食材として出すにはかなり厳重な審査が必要で、食べられるけどお店などでは出てこないようなものもあるのだ。

 その点ブラックマーケットでは毒でない限り出してもいい。
 なのでモンスター料理に取り憑かれたような料理人も店を出しているのだ。

 モンスター料理に取り憑かれている時点でやや狂っているけれど腕は確かだから店は出せるのである。
 お店は他のお客を気にしなくていいように個室になっていて仮面を外して自由に食べられる。

 どの料理も美味しいのだけどお値段は割とリーズナブル。
 というのも表では出てこないモンスターの肉なのでお安く提供できるのである。

「あとは次にどうするかだな」

「なんの話だ?」

「レベル上げだよ。俺や夜滝ねぇはD級になったしそろそろD級のモンスターに挑んでいかなきゃなって」

 ゲートというだけではない自由狩猟特別区域や塔という選択肢もある。
 家に帰ったらまた色々調べて重恭と相談しなきゃなと思った。

「あんまり無理すんなよ? 世界を救うのも大事かもしれないけどその前に自分が壊れちゃ意味がない」

「……そうだな、気をつけるよ」

 自分としてはそんなに切羽詰まってやっているつもりはないが、最近頭を悩ませることが多くて麻痺していたかもしれない。

「なんかデザートも頼むか?」

「いいのか? じゃあ……」

 カレンはメニューと睨めっこする。

「一個じゃなくてもいいぞ」

「ん……じゃあ、これとこれと……これかな?」

「好きなだけ頼め」

 ちょっと世界のことは忘れてこうした時間も楽しもう。
 お腹いっぱい食べて圭たちはブラックマーケットを後にしたのであった。
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