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第五章

最も不幸で、最も幸運な者5

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『ウェアウルフ□□□

 半狼半人のモン□ター。
 鋭い□□柔軟ながら硬い毛を持ち、高い□体能力を持つ。
 闇に溶け込む力を持ってい□□□暗いところで力を発揮する。
 魔石は結構美味い。長く生きたものほど魔石の味が良く、若い奴はやっぱりダメだ。
 
 □□□□によって作られたウェアウルフ。
 通常のウェアウルフと違って□□□□の命令のみを聞く。
 □□□□□□□』

「なんだ?」

 素早く陣形を整えたので圭が真実の目でモンスターの情報を確認しようとした。
 いつものように表示が現れたと思ったらなんだか様子がおかしかった。

 ざざっと霞むような異常な表示に文字化けして読めない文章。

「来いよ!」

 一歩前に出たカレンが魔力を放ってウェアウルフを引きつけようとする。

「なっ、こいつ!」

 ウェアウルフが手を振り下ろしてカレンを攻撃した。
 挑発は成功したかに思えたがウェアウルフは予想外の行動に出た。

 カレンは盾でウェアウルフの振り下ろしを防いだのだがウェアウルフはそのまま盾に手をついてカレンを飛び越えた。

「行かせない!」

「夜滝ねぇ、薫君、下がるんだ!」

 後衛の2人を守るように圭と波瑠が前に出る。

「シッポ!? うっ!」

 素早く振り回されたウェアウルフの腕を波瑠は巧みにかわした。
 大きく腕を振った隙を狙おうとした波瑠だったが、脇腹にウェアウルフの尻尾が当たった。

 たかが尻尾、などではなく意外と重たい衝撃があって波瑠が吹き飛ばされた。

「薫君、波瑠の方に!」

 圭は薫に指示を出しながらウェアウルフに切りかかる。

「な……」

「圭!」

 圭の剣をウェアウルフはかわすでも防ぐでもなく、そのまま切り付けられながら手を伸ばしてきた。
 そして圭の体を鷲掴みにした。

「放せ……うわっ!」

「け、圭!」

 ウェアウルフは圭を掴んだまま飛び上がり走り出した。

「薫、圭を強化するんだ!」

「わ、分かりました!」

 凄い勢いで離れていくウェアウルフ。
 追いつけないが出来ることはある。

「くっ、放せ!」

 体に力が溢れてきて薫が強化してくれたのだなと圭は瞬時に理解した。
 何が目的かは知らないがこのままさらわれるのは危険。

 圭は自分を掴んでいるウェアウルフの手に剣を突き立てる。
 薫の強化も受けた圭の力で剣は深々と突き刺さったけれどウェアウルフの手の力が弱まることはない。

「何が目的なんだ……!」

 何度も手に剣を突き刺すがウェアウルフが圭を手放す気配が一切ない。
 段々と体から力が抜けてくる。

 薫の強化が届く範囲から抜けてしまったのである。

「くそっ……何だあれ?」

 どこへいくのかと思ったら急にウェアウルフが立ち止まった。
 体をねじって周りの様子を確認した圭はウェアウルフがゲートの前に立っていることに気がついた。

「二重ゲート……」

 二重ゲート。
 ゲートインゲートとも言われる特殊な現象でゲートの中にゲートが出現するものである。

 ゲートの外からは観測することが難しく、どうしてそんなことが起こるのかも分かっていない珍しい現象になる。
 過去に二重ゲートに挑んでギルド丸々全滅したなんて大きな事件もあった。

 けれどその一方で二重ゲートの攻略に成功した覚醒者が凄い装備を手に入れたなんていう話もある。
 ハイリスクハイリターンでトレジャーゲートと呼ぶ人もいる。

 こんなところにそんなゲートがという動揺が走り、同時にどうしてウェアウルフが圭をゲートの前に誘拐してきたのか理解できずに混乱してくる。

「お、おいっ! ウソだろ!」

 二重ゲートの前に立ったウェアウルフは手に持った圭を大きく振りかぶった。
 何をされるのかとっさに察した。

 嫌な予感。
 ヘルカトにゲートに投げ込まれた時のことを圭は思い出していた。

「うわああああっ!」

 逃げようともう一度剣を突き刺したがウェアウルフは手を傷だらけにされても全く動じることすらない。

「お兄さん!」

「圭さん!」

「い、いない?」

「どうやらあの中かもしれないねぇ」

 遅れて夜滝たちが駆けつけた時にもう圭は二重ゲートに投げ込まれた後だった。
 ウェアウルフは二重ゲートの前でぼんやりと立ち尽くしていて気味の悪さを感じる。

「とりあえずアレを倒して圭を助けにいくよ!」

 どの道圭を助けるのにウェアウルフは邪魔になる。
 夜滝たちはハッと気づいたように振り返ったウェアウルフと戦い始めた。

 ーーーーー

「うっ……いてて……」

 崖になっていたらどうしようと思ったが二重ゲートの先は崖ではなかった。
 それでも投げ込まれたせいで地面に体を打ち付けた。

 すぐに立ち上がって剣を構えたけれど左肩が痛む。

「何だここは?」

 とりあえず周りにモンスターはいなかった。
 圭がいるのは不思議な神殿のような場所だった。

 明らかに人の手で造られたような白い建物の中を圭は見回した。
 モンスターがいるような気配はなく、それどころか神々しさまで感じられる。

 そして入ってきたはずのゲートが見当たらないことに圭は気がついた。
 それどころかこの神殿には窓や出入り口になりそうなものがない。

「初めまして、最も不幸で、最も幸運な者よ」

 声が聞こえてきて圭は振り返った。
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