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第二章

蛇と呼ばれる男、虎と呼ばれる男2

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「お前さん、一体何者だ?」

 和輝から殺気が漏れ出す。
 明らかな異常事態。

 他人が攻略しているゲートに勝手に入ってくるのは御法度なことで取り締まりの対象にもなっている。
 さらには目の前の男は齊藤と名乗っている。

 口振りからして以前にも会ったように言っているが誰にもその顔は見覚えがなかった。
 さらには底が見えないようなただならぬ雰囲気をまとっている。

「何者……ねぇ。俺はリウ・カイ……」

「いや、答えんでもいい!」

「じ、爺さん!」

 一瞬和輝が消えたように圭の目には見えた。
 和輝はすごい速度でカイに近づくと仕込み杖の剣を抜いて切りかかった。

「血気盛んな爺さんだね?」
 
「むっ……ふっ……」

 額に血管が浮き出るほどに力を込めている和輝。
 しかし和輝の剣はカイの手で止められていて動かない。

 目に見えるほどの濃密な黒い魔力がカイの手に集まっていて剣を防いでいる。

「いきなり首を狙ってくるとは……あんたも修羅場を経験しているようだ。オモチャを持たせておくのは危険だな」

「なっ……!」

「和輝さん!」

 カイの手に集まった魔力が爆発した。
 耳をつんざくような轟音がして、和輝の剣が砕け散った。

 爆発の衝撃で和輝が後ろにゴロゴロと転がる。

「大丈夫か、爺さん!」

「くっ……大丈夫だ。多少体は打ち付けたが大事はない。剣は大丈夫じゃなさそうだがな」

 カレンが慌てて和輝に駆け寄った腰をさすっているが大きなケガはない。
 しかし手に持った仕込み杖の剣は根本から砕けてしまっていてとても武器として戦うことは出来なくなってしまっている。

「何が目的だ!」

 夜滝と波瑠を守るように前に出ながら圭がカイを睨みつける。
 圭には和輝の動きですら捉えきれなかった。

 そんな和輝ですら軽くあしらうカイに勝てるはずはないと分かりながらもみんなに手を出させるわけにはいかないと勇気を奮い立たせる。

「鉄鋼竜の心臓……俺の目的はそれだよ」

「……なんだと?」

「持ってるんだろ?」

「どこでそれを」

 和輝も驚いた顔をする。
 鉄鋼竜の心臓のことはそれを和輝にあげた大和ギルドの北条勝利、もらった和輝、そして少し前に話を打ち明けたカレンや圭など限られた少人数しか知らないこと。

 この中でいけば付き合いが浅いのは圭であるがそのような話を漏らす人ではないと和輝は信じている。
 けれど現にこのカイとかいう男には漏れていて、どういうことなのか訳がわからなかった。

「なんだっけ? 八重樫……秀嗣とか言ったか?」

「な、なんだと……?」

「どうしてあんたが父さんの名前を……」

 八重樫秀嗣。
 それはカレンの父親、和輝の息子の名前であった。

 カレンの父親はカレンたちが小さい頃に失踪したきりであると圭は聞かされていた。
 以降連絡も無く半ば死んだものとして扱っている。

 今更出てこられても父親のように接するのが難しいとはいえ、他人の口から急に名前を聞かされて和輝もカレンも困惑を隠せない。

「鉄鋼竜の心臓はそいつから聞いたんだ」

「一体どういう関係だ!」

 カレンの支えを受けて立ち上がった和輝から魔力が漏れ出す。
 魔力が抑えきれないほど和輝の感情が昂っていることなどカレンもほとんど見たことがない。

「おーおー、こわいこわい」

 両手を上げておどけるような態度のカイは微塵も怖いなどと思っていない。

「俺が悪いんじゃないぜ? 借金したあいつが悪いんだ」

「…………なに?」

「仕事に失敗して、返せもしないのに馬鹿みたいに金借りて……果ては返すアテがあるなんて口に出したのが鉄鋼竜の心臓の話だったのさ。ウソくさい話だと思っていたけど本当だったとはな」

「秀嗣をどうした……まさか」

「面白い話を聞けたからな。解放してやったよ」

「そう……」

「苦しみから」

 カイがニタリと笑った。
 昨日の戦いで優斗は完全に疲れ切ってしまった。

 なのでここにはいなかった。
 いなくてよかった。

「感謝するといい。あのままだったら長いこと拷問されるところだったんだ。だから首を爆発して殺してやったのさ!」

 腹を抱えて笑い出すカイであるが何も面白い話ではない。

「最後まで死にたくないだなんてほざいていたけど……恨むなら失敗をした自分か、金のない自分を恨むべきだよな」

「貴様!」

 堪えきれなくなったカレンがメイスを振りかぶってカイに殴りかかる。

「カレン!」

 どう考えても実力差は明らか。
 圭が声をかけるがカレンには届かない。

「孫も爺さんも揃って好戦的だな。あの間抜けとは大違いだ」

 振り下ろされたメイスだったがカイはそれを指一本で受け止めた。

「だがかかっていく相手は選ばないとな」

 ボンと小さく爆発音がした。
 同時にカレンの耳に肩が外れる音が聞こえてきた。

 メイスを受け止めたカイの指先で小さな爆発が起きてカレンの腕がメイスごとグルンと弾き飛ばされて肩が外れた。

「親父の後を追いかけるといい」

 カイはカレンの盾に手を伸ばした。
 次の瞬間大きな爆発が起きた。

「カレン!」

 黒煙が上がり、煙の中からカレンが爆発によって飛び出してきた。
 勢いよく飛んでいったカレンは木にぶつかって止まる。

 カレンがぶつかった木は衝撃で折れてしまうほどだった。
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