上 下
81 / 351
第二章

カレンと爺さん1

しおりを挟む
「いでぇ!」

「そんなことでカレンを守れると思うのかぁ!」

「いや爺さん、守んのは私の方だし……」

 雷が落ちた。
 実際に落雷があったわけじゃなく和輝に圭が叱責されて、持っていた杖で太ももを殴られたのである。

 色々なことはあったけれどカレンは圭たちの仲間になってくれることを承諾してくれた。
 借金の恩返しもあるが覚醒者になれるなら覚醒者として活躍してみたい思いもどこかにあったのだ。

 借金は八重樫工房全体で少しずつ返すことにもなって、圭が打ち明けた秘密も当然他に話さないと約束してくれた。
 そうなったのでカレンも覚醒してレベルを上げていく必要がある。

 和輝にもそのことを説明したのだけどそれでは安心できないと言われてしまった。
 強くなることにも懐疑的であるしそうだとしても強くなるまでの間不安である。

 圭たちもそうだと言ったが不安が拭い切れなかった和輝が見守りとしてついてくることになった。
 保護者同伴となってカレンは気まずそうだったのだが和輝はなんとB級覚醒者。

 ケガの影響で激しい動きこそ出来ないもののそれを差し引いてもC級やD級相当の強さがあると見てもいい。
 年を取りケガがあっても圭たちより上なので自分で身を守ることも出来る。

 むしろまだまだ守られるぐらい。
 そうして和輝が付いてきて見守られる中でカレンのレベル上げが始まった。

 例によってカレンは毒矢を持たされて圭たち3人でモンスターを引きつけて戦っていた。
 問題もなく順調に見えていたのだけど和輝の目から見たら違ったらしい。

 戦い方がなっていない!
 そのような叱責を受けた。

 特に目をつけられたのは圭だった。
 和輝はパワーを生かしたアタッカーであり、カレンがひとまずタンクとして役割を果たそうとするなら圭は自ずとアタッカーという役割を果たすことになる。

 最近だいぶマシになってきたとはいっても圭もまだまだ経験の浅い覚醒者になる。
 可愛い可愛い孫娘を預けるには圭の技量が足りていないということなのであった。

 それから始まる和輝の指導。
 夜滝や波瑠の動きにも指導は入るのだけどすごく優しく丁寧に指導している。

 対して圭に対する指導は厳しい。
 この差はなんなんだと圭は思わざるを得なかった。
 
「タイミングが遅い! もっとしっかり合わせればもっと力を乗せられる!」

 それぞれどの役割も大切であるけれどアタッカーというのは敵を倒すために重要な役割でアタッカーが確実にモンスターを倒せば戦いにおけるリスクはグッと減らすことができる。
 注意を引きつけ、攻撃を受けるタンクのためにも相手をちゃんと倒せるアタッカーでなくてはならないのである。

 段々と熱が入ってくる指導を圭は甘んじて受け入れる。
 圭自身経験が浅くて実力が不足していることは自覚している。

 誰かが教えてくれるのならそれに越したことはない。
 むしろ望むところである。

「ふむ……色々と言いはするが筋は悪くないぞ」

 身体的というよりも精神的にも疲れた圭は休憩で甘いものを多く口にしていた。
 カレンが作ってくれたお弁当を食べて反省会を行っていた。

「波瑠ちゃんは突っ込みすぎだな。もう少し周りを見てタイミングを図ったり、合わせることしなければならない。攻撃するだけではなく相手を翻弄したり少し注意を逸らすだけでも大きな意味を持つだろう」

「分かりました!」

 波瑠の動きもだいぶ良くなっている。
 良い装備も身につけて自信もついてきた。

 速さも高いのでF級、あるいはE級のモンスターでも波瑠の動きをとらえるのは難しい。

「夜滝ちゃんは逆に慎重すぎるな。
 魔法が味方に当たったりする危険もあるから慎重になることは分かるが魔法は発動までに一拍ある。

 使う魔法や距離に応じて敵に届くまで時間もかかる。
 タイミングを見過ぎて適切な時から魔法が遅れてしまっている。

 離れて味方を俯瞰できるのだから1つ早い判断が必要だな」

「なるほどねぇ」

 夜滝もなんだかんだとモンスターと戦うことに慣れてきた。
 優斗が作った杖の補助効果もあって魔法自体も強くなった。

 低級モンスターを討伐しているのでレベルの上がりは鈍くてスキルや才能といったものはまだ覚醒していないが現状でも夜滝の魔法は強い。
 将来性は非常に高い。

「カレンはまだ覚醒したてだからな」

 カレンはまだ立ち回りなどを気にする段階ではない。
 毒武器でちまちま相手を倒して少しでもレベルを上げるべきでタンクなんかの役割を任せるのはまだ早い。

「問題は圭だな」

「えっ、さっき筋は悪くないって」

「筋は悪くないがまだまだだ。カレンを任せるにはもっと強くなってもらわにゃならん」

「努力はしますけど……」

 そうはいうが圭も今の段階で能力を見ると何かに特化しているのではないバランス型である。
 スキルや才能を見ても攻撃に特化したものではない。

 技術を身につけ経験を積んでいくより今はやれることもない。

「能力があるからと誰でも最初から戦えるわけではない。経験を積み、必要なものを見つけていきなさい」

「分かりました」

 厳しさはあるが和輝の指導者としての技量は悪くない。
 よく見てくれているし的確なアドバイスはとてもためになる。

「むぅ……早く私も役に立ちたい……」

「そう焦るなよ」

 離れて毒を塗ったクロスボウを撃っているだけなのはちょっと面白くもない。
 カレンはやや不満そうな顔をしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

催眠アプリで恋人を寝取られて「労働奴隷」にされたけど、仕事の才能が開花したことで成り上がり、人生逆転しました

フーラー
ファンタジー
「催眠アプリで女性を寝取り、ハーレムを形成するクソ野郎」が ざまぁ展開に陥る、異色の異世界ファンタジー。 舞台は異世界。 売れないイラストレーターをやっている獣人の男性「イグニス」はある日、 チートスキル「催眠アプリ」を持つ異世界転移者「リマ」に恋人を寝取られる。 もともとイグニスは収入が少なく、ほぼ恋人に養ってもらっていたヒモ状態だったのだが、 リマに「これからはボクらを養うための労働奴隷になれ」と催眠をかけられ、 彼らを養うために働くことになる。 しかし、今のイグニスの収入を差し出してもらっても、生活が出来ないと感じたリマは、 イグニスに「仕事が楽しくてたまらなくなる」ように催眠をかける。 これによってイグニスは仕事にまじめに取り組むようになる。 そして努力を重ねたことでイラストレーターとしての才能が開花、 大劇団のパンフレット作製など、大きな仕事が舞い込むようになっていく。 更にリマはほかの男からも催眠で妻や片思いの相手を寝取っていくが、 その「寝取られ男」達も皆、その時にかけられた催眠が良い方に作用する。 これによって彼ら「寝取られ男」達は、 ・ゲーム会社を立ち上げる ・シナリオライターになる ・営業で大きな成績を上げる など次々に大成功を収めていき、その中で精神的にも大きな成長を遂げていく。 リマは、そんな『労働奴隷』達の成長を目の当たりにする一方で、 自身は自堕落に生活し、なにも人間的に成長できていないことに焦りを感じるようになる。 そして、ついにリマは嫉妬と焦りによって、 「ボクをお前の会社の社長にしろ」 と『労働奴隷』に催眠をかけて社長に就任する。 そして「現代のゲームに関する知識」を活かしてゲーム業界での無双を試みるが、 その浅はかな考えが、本格的な破滅の引き金となっていく。 小説家になろう・カクヨムでも掲載しています!

勇者に大切な人達を寝取られた結果、邪神が目覚めて人類が滅亡しました。

レオナール D
ファンタジー
大切な姉と妹、幼なじみが勇者の従者に選ばれた。その時から悪い予感はしていたのだ。 田舎の村に生まれ育った主人公には大切な女性達がいた。いつまでも一緒に暮らしていくのだと思っていた彼女らは、神託によって勇者の従者に選ばれて魔王討伐のために旅立っていった。 旅立っていった彼女達の無事を祈り続ける主人公だったが……魔王を倒して帰ってきた彼女達はすっかり変わっており、勇者に抱きついて媚びた笑みを浮かべていた。 青年が大切な人を勇者に奪われたとき、世界の破滅が幕を開く。 恐怖と狂気の怪物は絶望の底から生まれ落ちたのだった……!? ※カクヨムにも投稿しています。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜

橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。 もしかして……また俺かよ!! 人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!! さいっっっっこうの人生送ってやるよ!! ────── こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。 先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

処理中です...