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第一章

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「えーと死んだのは……ビッグラット6、それにそれから少し間を置いてビッグラット5」

 死んだビッグラットはC級覚醒者が刺したビッグラットであった。

「予想される毒棒君の効果とほとんど一致する。ビッグラットの個体差を考慮しても誤差範囲内だね」

 軽く刺されたぐらいでビッグラットは死なない。
 死んだのは槍の持つ毒の効果によるものであった。

 夜滝は口から泡を吹いて倒れるビッグラットを観察して手元のバインダーに書き込んでいく。
 圭は夜滝の指示に従ってサスマタのような棒で見やすいようにビッグラットを動かしたりする。

「一方で……他のビッグラットには変化なし。いや、ビッグラット4は少し大人しくなった……?」

 このようにして地道に武器を試しているのだと思うと覚醒者用の武器が高いのも納得だ。
 死んだビッグラットを運んでいって解体して体の状態をより詳細に確かめたり検体を取ったりもした。

 ちょっとだけ夜滝に心配もされたけれど圭は解剖の現場も意外と平気であった。
 解剖の様子も撮影し、最後は捕獲チームが死体を持っていって焼却処分するらしい。

 色々やっているうちにさらに時間はたち、今度は夜滝が魔力を込めて刺したビッグラットがひどく暴れました。
 どうやら毒の効果が弱く苦しんでいるようであった。

 しばらく暴れていたけれどそのビッグラットもそのまま死んでしまった。

「ちかれた……」

「お疲れ様、助手君」

「夜滝ねぇは体力あるね……結構動きっぱなしだったと思うけど」

「もう慣れっこだからね。それに今日ほど激しいのは珍しい方さ。いつも手元にモンスターがいたり製品の試作品があるんじゃないからね。もっとデスクワーク的なことや製品にするためのアイデア出しだってするのさ」

「へぇ……ちょっとだけ見直したよ」

「なんだとー! 普段から見直すところなどない完璧さがあるじゃないか」

「えー? そうかな?ちょっと抜けてる方が夜滝ねぇらしいよ」

「そ、そうか? ……うー、まあ圭がそう言うなら」

 納得いかない部分はあるけど圭がその方が夜滝らしいと言ってくれるなら受け入れる。
 圭と夜滝は寮近くにあるスーパーによって食べ物を買い込んでから夜滝の家に来ていた。

 基本的に24時間実験にかかりきりなんてことはなく、特に夜滝は定時で帰る人だった。
 中には研究室に住んでいるぐらいの人もいるが夜滝は割とプライベートと仕事は分けるタイプの人である。

 ただ実験は継続している。
 今現在もカメラで監視しながら捕獲チームの人たちが交代で見張ってくれている。

 何かがあれば行かなきゃいけないので少し遠いアパートではなく寮に寝泊まりすることにはなった。

「ウエエエッ!」

「け、圭!? どうしたんだい!」

 晩御飯の準備をしている時だった。
 急に視界がぼやけて奇妙な感覚に襲われた。

 なんとかしなきゃと思って鍋ではなく流しまで耐えてそこで吐いてしまった。
 急なことに寝転がってテレビをぼんやりと見ていた夜滝も飛び上がる。

「体調が悪いのか? 何か悪いものでも食べたのかい?」

 ワタワタとする夜滝を横目に晩御飯直前でほとんど空だった胃の中のものを吐き出した。
 なんだこの気分はと思った。

 吐き戻すほどに一瞬具合が悪くなったのに気づいてみると気分は悪くないのだ。
 体少し軽くなったような気がして、力が充実したような感じがする。

 まるで初めて覚醒した時のようだ。

「大丈夫かい?」

 夜滝はどうしたらいいのか分からなくてとりあえず背中をさすってくれる。

「大丈夫……吐いたらスッキリしたみたいだ」

「慣れない環境で疲れてしまったのかな?」

「そうかもしれない……けど」

 それならこの体の軽さはなんだろう。
 単純な体調不良ではなく今はすごく良い気分。

 その時夜滝のケイタイが鳴った。

「なんだい、こんな時に」

 無視するわけにもいかなくてソファーに置きっぱなしだったケイタイを取りに行く。

「どうしたんだい? ……ほう、そうなのかい……分かった……」

「大丈夫そう?」

「それはこっちのセリフだよ」

「俺は大丈夫だよ」

「こっちはビッグラットが死んだという報告だったよ」

「そうなんだ。じゃあ会社に戻るのかな?」

「そのつもりだけど……」

「俺も行くよ」

「だけど」

「大丈夫だから! それに、ほら」

 圭が振り返って見た先には台所。
 鍋からうっすらぷすぷすと黒い煙が上がっていた。

 晩御飯の準備をしていた。
 そのために圭が吐いてしまった時も鍋を火にかけたままだった。

「料理焦げちゃったしね」

 ーーーーー

「死んだのはビッグラット2か……」

 駆けつけてみると死んでいたのは圭が魔力を込めて刺したビッグラットであった。
 槍の効果が発揮されないのでないかと思っていたけれどちゃんと毒はビッグラットを蝕んでいた。

 ただ毒の効果が弱くて時間がかかってしまったようだった。

「つまり魔力を込められれば毒の効果を発動させられるということかな。やはり等級が上がると自然と出ている魔力で事足りるのか……ふむ、さらにもうちょっと実験が必要だな」

 こうした仮説に基づく内部での実験をして、立証されたり分からないことがあればより大規模な実験を行う。
 今回は低級の覚醒者でも毒の効果を発動させられることが分かった。

 どの等級であれば効果的に毒を発動させられるのか、効果をより上げるにはどうしたらいいかなど細かなことはこれからさらに考えていかねばならない。
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