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第一章
神話級の幸運2
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「ここからはさらにセキュリティレベルが高いところだよ」
夜滝が壁の機械に目をスキャンさせる。
いわゆる虹彩認証というやつでここまで来ると人がグッと減る。
「ここが私の研究室だ」
一回案内されただけでは道を覚え切れなさそうで迷子になってしまいそうだと圭は思っていた。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ、助手君。朝は私と出勤するからね」
「え、なんで?」
「そりゃあ朝御飯作ってくれるのだろう? 朝ご飯作ってわざわざ別々に出るなんておかしな話じゃないかい?」
「まあそう……そうか?」
「迷子になって入っちゃいけないところに入られても困るからね。しばらくは私が一緒にいてあげるよ」
そんなものかなぁと思うけどたしかに迷子になっては困る。
朝御飯を作ることも何気に確定していることにも気づかず夜滝の配慮であると圭はひとまず納得しておくことにした。
夜滝が身分証をかざすとドアが横に開く。
「結構広い……」
「ここは細々とした実験や書類仕事をする部屋で大きな実験はまた別のところでやるんだよ」
半分理科室で、半分リビングのような結構大きめの部屋が夜滝の研究室だった。
「平塚さん!」
「おっと、イバッチ」
ドア横に隠れるようにして立っていた女性がいた。
スーツ姿がよく似合う黒髪ロングの美人な人で今は少し怒ったような表情を浮かべていた。
「助手を雇うことは許可しましたが独断で決められると……決め……まさか」
怒りの表情のまま夜滝に詰め寄った井端はふと夜滝の後ろに立つ圭に気がついた。
「ハッハッハッ! もう遅いよ! ちゃんと契約魔法がかけられた契約書で契約してしまったからね!」
「や……やたきぃー!」
「ハッハッハッハッハッハッ!」
「なんだぁ?」
大爆笑の夜滝と大激怒の井端。
いい加減さと真面目さの対極にありそうな2人だけどなんだか仲も悪くなさそう。
「くぅ~! 怪しいと思ったんです! 予約の取れない超人気マッサージ店のプレゼントなんて!」
「でも気持ちがよかっただろう? 私も行きたいぐらいだよ」
「こんな小細工してないで自分で行けばよかったじゃないですか!」
「それよりも優先すべきことがあったからねぇ」
「あぁー! もう!」
頭も良くのらりくらりとかわす夜滝と口喧嘩をしても勝てる人はいない。
分かりやすく頭を抱える井端に明らかに自分のことが原因だと圭も分かっているので声もかけられない。
「や、夜滝ねぇ?
俺、本当にここで働いてもいいの?」
「良いに決まってるじゃないか」
「そんなの分かりませんよ!」
夜滝と井端の声が重なる。
とりあえず井端の方もダメとは言わない。
「本来なら厳重なチェックの上で雇うかどうか会議を経て決めなきゃならないんです!
それなのに何の過程も経ないで……」
「私が保証するのにそんなまどろっこしい調査なんかいらないじゃないか」
「それが! ルール! なんです!」
「何事にも例外はつきものさ」
「あなたが勝手に例外にしたんですぅ!」
もっとクールで知的な人かと思ったけど意外と熱の強い人だった。
「少し落ち着けイバッチ。
過ぎたことをアレコレ言ってもしょうがないだろう?
それならこれからどうするかを考えようじゃないか」
「そのセリフをあなたが言いますか?」
「君の剣幕に助手君が怖がってしまっているじゃないか」
「助手君じゃないですよぉ! ………………はぁ」
一通り怒りに任せてみたが夜滝に対して暖簾に腕押し。
井端が何と言おうと圭が自分で身を引こうとも魔法で契約まで結んでいる以上は簡単に破棄もできない。
深いため息をついて井端はガックリと項垂れた。
圭の方が申し訳ない気分になる。
「だけど欲しかった人材の条件には当てはまるぞ」
「条件?」
「うん。低ランク覚醒者で若い成人男性、身体機能に問題はなく病歴なし。さらには犯罪歴もなく経歴も綺麗。ついでに人体実験にも協力的だ!」
「人体実験について聞いてないけど?」
「ハッハッハッ、危険なことはしないから大丈夫さ!」
「そういう問題じゃないからね!?」
夜滝に反論する圭を見て井端は思った。
ああ、この人も実は被害者なのかもしれない、と。
どうせまた言葉巧みにだまくらかして勢いに任せて承諾させたに違いないと睨んでいた。
大正解である。
「とりあえずもう仕方ありませんので契約はそのまま処理します。ですが何か素行などに問題がありましたら即刻クビですからね!」
「何も問題ないさ」
「というか、あなたの素行の方が問題なんですよ!」
「そうカリカリしなさるな。いつも感謝しているよ、イバッチ。そうだ、ウィチマーのケーキがあるから食べていくかい?」
「ウィチマー……あ、いや、でも仕事が……」
「助手君のことも調べなきゃいけないだろう? ケーキでも食べながらやっても誰も怒りはしないよ」
「そ、そうですかね……」
ウィチマーとは圭でも知っている超有名パティシエが経営しているケーキ屋の名前である。
今ではなかなか買うこともできないような人気店で甘いものが苦手な人もここのケーキだけは食べられるなんて話も聞いたことがある。
夜滝が壁の機械に目をスキャンさせる。
いわゆる虹彩認証というやつでここまで来ると人がグッと減る。
「ここが私の研究室だ」
一回案内されただけでは道を覚え切れなさそうで迷子になってしまいそうだと圭は思っていた。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ、助手君。朝は私と出勤するからね」
「え、なんで?」
「そりゃあ朝御飯作ってくれるのだろう? 朝ご飯作ってわざわざ別々に出るなんておかしな話じゃないかい?」
「まあそう……そうか?」
「迷子になって入っちゃいけないところに入られても困るからね。しばらくは私が一緒にいてあげるよ」
そんなものかなぁと思うけどたしかに迷子になっては困る。
朝御飯を作ることも何気に確定していることにも気づかず夜滝の配慮であると圭はひとまず納得しておくことにした。
夜滝が身分証をかざすとドアが横に開く。
「結構広い……」
「ここは細々とした実験や書類仕事をする部屋で大きな実験はまた別のところでやるんだよ」
半分理科室で、半分リビングのような結構大きめの部屋が夜滝の研究室だった。
「平塚さん!」
「おっと、イバッチ」
ドア横に隠れるようにして立っていた女性がいた。
スーツ姿がよく似合う黒髪ロングの美人な人で今は少し怒ったような表情を浮かべていた。
「助手を雇うことは許可しましたが独断で決められると……決め……まさか」
怒りの表情のまま夜滝に詰め寄った井端はふと夜滝の後ろに立つ圭に気がついた。
「ハッハッハッ! もう遅いよ! ちゃんと契約魔法がかけられた契約書で契約してしまったからね!」
「や……やたきぃー!」
「ハッハッハッハッハッハッ!」
「なんだぁ?」
大爆笑の夜滝と大激怒の井端。
いい加減さと真面目さの対極にありそうな2人だけどなんだか仲も悪くなさそう。
「くぅ~! 怪しいと思ったんです! 予約の取れない超人気マッサージ店のプレゼントなんて!」
「でも気持ちがよかっただろう? 私も行きたいぐらいだよ」
「こんな小細工してないで自分で行けばよかったじゃないですか!」
「それよりも優先すべきことがあったからねぇ」
「あぁー! もう!」
頭も良くのらりくらりとかわす夜滝と口喧嘩をしても勝てる人はいない。
分かりやすく頭を抱える井端に明らかに自分のことが原因だと圭も分かっているので声もかけられない。
「や、夜滝ねぇ?
俺、本当にここで働いてもいいの?」
「良いに決まってるじゃないか」
「そんなの分かりませんよ!」
夜滝と井端の声が重なる。
とりあえず井端の方もダメとは言わない。
「本来なら厳重なチェックの上で雇うかどうか会議を経て決めなきゃならないんです!
それなのに何の過程も経ないで……」
「私が保証するのにそんなまどろっこしい調査なんかいらないじゃないか」
「それが! ルール! なんです!」
「何事にも例外はつきものさ」
「あなたが勝手に例外にしたんですぅ!」
もっとクールで知的な人かと思ったけど意外と熱の強い人だった。
「少し落ち着けイバッチ。
過ぎたことをアレコレ言ってもしょうがないだろう?
それならこれからどうするかを考えようじゃないか」
「そのセリフをあなたが言いますか?」
「君の剣幕に助手君が怖がってしまっているじゃないか」
「助手君じゃないですよぉ! ………………はぁ」
一通り怒りに任せてみたが夜滝に対して暖簾に腕押し。
井端が何と言おうと圭が自分で身を引こうとも魔法で契約まで結んでいる以上は簡単に破棄もできない。
深いため息をついて井端はガックリと項垂れた。
圭の方が申し訳ない気分になる。
「だけど欲しかった人材の条件には当てはまるぞ」
「条件?」
「うん。低ランク覚醒者で若い成人男性、身体機能に問題はなく病歴なし。さらには犯罪歴もなく経歴も綺麗。ついでに人体実験にも協力的だ!」
「人体実験について聞いてないけど?」
「ハッハッハッ、危険なことはしないから大丈夫さ!」
「そういう問題じゃないからね!?」
夜滝に反論する圭を見て井端は思った。
ああ、この人も実は被害者なのかもしれない、と。
どうせまた言葉巧みにだまくらかして勢いに任せて承諾させたに違いないと睨んでいた。
大正解である。
「とりあえずもう仕方ありませんので契約はそのまま処理します。ですが何か素行などに問題がありましたら即刻クビですからね!」
「何も問題ないさ」
「というか、あなたの素行の方が問題なんですよ!」
「そうカリカリしなさるな。いつも感謝しているよ、イバッチ。そうだ、ウィチマーのケーキがあるから食べていくかい?」
「ウィチマー……あ、いや、でも仕事が……」
「助手君のことも調べなきゃいけないだろう? ケーキでも食べながらやっても誰も怒りはしないよ」
「そ、そうですかね……」
ウィチマーとは圭でも知っている超有名パティシエが経営しているケーキ屋の名前である。
今ではなかなか買うこともできないような人気店で甘いものが苦手な人もここのケーキだけは食べられるなんて話も聞いたことがある。
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