上 下
5 / 351
第一章

捨てる神あれば1

しおりを挟む
 目を覚ました時自分は死んだのだと圭はハッキリしない頭で思っていた。
 しかし時間がたって意識がしっかりしてくると状況が分かってきた。
 
 正確には分かってはいないのだが圭は死んでおらず病院にいる。
 病院ならナースコールがあるはずと腕を伸ばす。
 
 全身がひどく痛むけど何があったのかを知りたかった。
 首を傾けてナースコールを押した。

「村雨さん、目を覚ましましたか!」

 とりあえず何か聞けるナースが来れば良いと思っていたらナースを引き連れた医者が来た。

「あ、はい……」

「ご自分の名前は分かりますか?」

「村雨圭です」

「何があったか覚えてらっしゃいますか?」

「えっと、途中までは」

 いくつか質問をされて圭が寝たまま答えると医者がカルテに記入する。

「村雨さんは重度の脱水症状と全身の怪我で運ばれてきました。記憶などに問題はなさそうなのでひとまずお体に心配はないと思います。後々検査をする必要はありますが今は休んでください」

「あ、はい……」

「それでは失礼します」

「あの、俺の荷物……」

「村雨さんのお荷物はベッド横にありますよ」

 横を見るとサイドテーブルの上に必死に抱えてきた小さいカバンが置いてあった。

「あっ、どうも」

 医者が出て行くのを確認して、慌ててカバンの中に手を突っ込む。

「ウソ……だろ」

 目的の物はカバンの底の隅にあった。
 指先の感触で予感めいていたものがほとんど確信に変わる。

 圭はそれを優しく握りしめて取り出した。
 深呼吸を3回。それでも心臓の鼓動はうるさい。

「あぁ……マジかよ……」

 手を開いて圭は落胆にうなだれた。
 手の上にあったのは割れたスキル石だった。

 この生活を捨ててやり直せると希望を持たせてくれたスキル石は真っ二つに割れていた。
 そんな予感はしていた。

『スキル真実の目を獲得しました』

 医者にも看護師にも見えていない、圭だけが見えている表示。
 まるでVRみたいに目の前に立体的にウィンドウが見えていた。
 
 これが何なのか分からなかったけれど割れたスキル石を見て、このスキル石に込められたスキルを習得してしまったのだと気づいた。
 おそらく倒れた時に下敷きにして割ってしまったのだ。
 
 結果的に圭は自分でスキル石を使ってしまったことになる。

「しかも何だよ、真実の目って……」

 聞いたこともないスキル。
 戦闘系のスキルではなさそうで圭はガックリとため息をついた。
 
 どうせなら戦闘系のスキルが欲しかったと首を振る。

「分かった……分かったから消えろ」

 どうやって表示を消すのか分からず虫でも払うようにして手を振るととりあえず表示は消えた。

 それにしても真実の目がどんなスキルか分からずに首をかしげてしまう。
 目と言っているのだ、目に関するスキルであることはバカでも分かる。

 鑑定スキルの亜種なのだろうか。
 なら希望は持てる。

 鑑定スキル持ちは一定の需要がある。
 圭がスキル石を割るまではなんのスキルのスキル石だったのか分からないように、基本的に塔やゲートの中で得たアイテムの情報は使用してみるか、鑑定しないと分からない。

 だからアイテムを鑑定できる人材は需要がある。
 どの程度鑑定出来るかにもよるけど大型ギルドのお抱えになったりアイテムを扱う大きな企業で働くことができれば一発逆転とはいかなくても安定した生活を送れる。

「えっと、真実の目……う、うわっ! ちょっと待って!」

 物は試しと真実の目を使ってみると見えるもの全てに表示が出て、慌てて目を閉じる。

「ちゃんと何に使うか決めないとダメか」

 そっと目を開けると表示は消えていた。
 情報量が多くて目と頭が一瞬で痛くなった。

 何か特定のものを見るつもりで使わないと見える物全てに効果が発動してしまうみたいだった。
 何に使うか悩んで、アレがいいかもしれないとカバンから魔石を取り出した。

「真実の目」

 魔石だけにスキルが発動するように意識して使う。

『ジャイアントトロールの魔石

 ジャイアントトロールの魔力が凝縮された魔石。
 魔力は多いが純粋ではなく味としては微妙。
 腹が膨れるぐらいはあるがジャイアントトロールの間抜けさが移りそう。
 Cランク。』

「Cランク……Cランク!?」

 Cランク等級といえば最上位から2つ下のランクである。
 Cランクならボスクラスやモンスターの中でも強い方なので魔石もそれなりに効果になる。
 
 この魔石を売れば一体いくらになるのか。
 思わず圭がニヤつく。
 
 一発逆転は難しいと思ったが案外できるかもしれない。

「村雨圭さん、いまお時間よろしいでしょうか?」

「は、はい!」

 突然の来客に圭は飛び上がりそうになった。
 落としかけたジャイアントトロールの魔石を枕の下に押し込み、ニヤけた顔を叩いて正す。

「失礼します」

 病室に入ってきたのはスーツを着た男女の2人組だった。
 圭も覚醒者の端くれなので相手が強いことぐらいは分かる。

 特に女性の方は強い。
 パッと見ではただの黒髪ロングのクール美人なのだが強い魔力が圧力となって圭に息苦しさを感じさせている。

「私たちは覚醒者協会の者です」

 2人が手帳型の身分証を圭に見せる。
 伊丹薫というのが女性の名前であった。

「覚醒者協会がどうして?」

 圭は首をひねる。
 覚醒者による犯罪など覚醒者の統括的な取り締まり権限を持つ警察的な組織である覚醒者協会。
 どうして覚醒者協会の者が自分のところに来たのか理由が分からない。

「村雨さんが何かの容疑者というわけではありません。私たちは行方不明ゲートについて調査しています」

「行方不明ゲートですか……?」

 それもなんの話なのか分からない。

「村雨さんが通ったと思われるゲートは他の覚醒者がついた時には既に消えていたんですよ。つきましては今後の事故防止のために原因について調査しております」

「消えてたって……どうして」

「分かりません。ゲートが消える時は中のボスが倒された時か…………相手が飽きた時です」

 覚醒者が現れる前、世界中にゲートが現れた時はひどい惨事になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】

佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。 異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。 幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。 その事実を1番隣でいつも見ていた。 一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。 25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。 これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。 何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは… 完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。

転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。 そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。 しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。 世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。 そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。 そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。 「イシュド、学園に通ってくれねぇか」 「へ?」 そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。 ※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

(完結)私の夫を奪う姉

青空一夏
恋愛
私(ポージ)は爵位はないが、王宮に勤める文官(セオドア)の妻だ。姉(メイヴ)は老男爵に嫁ぎ最近、未亡人になったばかりだ。暇な姉は度々、私を呼び出すが、私の夫を一人で寄越すように言ったことから不倫が始まる。私は・・・・・・ すっきり?ざまぁあり。短いゆるふわ設定なお話のつもりです。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

前世で眼が見えなかった俺が異世界転生したら・・・

y@siron
ファンタジー
俺の眼が・・・見える! てってれてーてってれてーてててててー! やっほー!みんなのこころのいやしアヴェルくんだよ〜♪ 一応神やってます!( *¯ ꒳¯*)どやぁ この小説の主人公は神崎 悠斗くん 前世では色々可哀想な人生を歩んでね… まぁ色々あってボクの管理する世界で第二の人生を楽しんでもらうんだ〜♪ 前世で会得した神崎流の技術、眼が見えない事により研ぎ澄まされた感覚、これらを駆使して異世界で力を開眼させる 久しぶりに眼が見える事で新たな世界を楽しみながら冒険者として歩んでいく 色んな困難を乗り越えて日々成長していく王道?異世界ファンタジー 友情、熱血、愛はあるかわかりません! ボクはそこそこ活躍する予定〜ノシ

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!

ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。 しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。

処理中です...