じゃんけん

レオン

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じゃんけん

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仕事の休憩時間。拓也は缶コーヒーを片手に新聞を読んでいた。
「おーい。始めるぞー。ジュースじゃんけんだー!」
また始まった……。上司のかけ声で始まったのは、ジュースをかけたじゃんけんだった。たたがジュースだが全員分を払うとなると1000円はこえてしまう。そして僕はこのじゃんけんでいっつも負けてしまう。
毎回俺がみんなのジュース代を払っているのだ。じゃんけんで決まった事なので文句が言えないのが余計悔しい。
「さいしょはグー、じゃんけん………
ポイ!」
(僕がグー、みんなは……………………………………
僕以外、全員パー………。)
「やったー!、やったー!」
同僚や上司達は手を取り合って喜んでいる。僕は彼らを無視してノロノロと自販機へと向かった。先月の給料だった千円札を使い、ジュースを購入する。彼らは遠慮なく僕の腕からジュースを掴み取った。
次の日
「よし!またじゃんけんだー!」
こんなじゃんけん、参加しなければいいだ。僕はそのかけ声を無視して新聞を見ていた。
「ほら、拓也くん。じゃんけんだぞ、今日はコンビニのロールケーキをかけてやるぞ!」
「ごめんなさい。今暇ではないんでちょっとできないんですけど」
「ほら、まじめすぎるぞ拓也くん。」
上司はそう言い、僕の腕を引っ張った。
「ほら!拓也くんも参加するみたいだよ!」
「良いぞー拓也!」
みんなが言ってくる。みんな一回もおごった事がないからそういう事が言えるのだ。
「さいしょはグー、じゃんけん…………………
ポイ!」
(また………………負けた。)
僕は皆の歓声を聞かずにコンビニへと向かう。何も考えずにロールケーキを買う。
そして皆に届けた。
「ありがとうです」
同僚は適当にお礼を言う。
「ちょっとトイレに行ってくる」
僕は顔を上げずに言う。
「ちくしょー!どうしてだよ」
洗面所の鏡に映る自分を見て叫ぶ。
「どうかされたんですか?」
すると死角からトイレ掃除のおばあさんがでてきた。
「いえ、何でもないです………」
突然出て来て驚いたが、恥ずかしかった。
もう一度鏡を見て泣いているとばれないか確認する。大丈夫。顔は赤いけれど泣いているとはばれない。
その後は特に何もなく仕事をやり終え帰宅した。どうやらじゃんけんを無視する事はできないようだ。ならばじゃんけんで勝てれば良い。僕はグーグルを開いて『じゃんけん勝ち方』と調べた。検索結果はたくさんある。とりあえず一番上に出てきたサイトを閲覧した。けれども相手の表情だったり仕草で判断するなど思っていた物と違い、覚えるのが面倒だったのですぐにそのページを離れた。もう少し探してみようと思い、他のサイトを探す。すると興味深いサイトが見つかった。
『誰でも必ず勝てるようになるじゃんけん教室!お気軽に見学からでも♪』
じゃんけん教室とは珍しい。これだったら直接教えてもらえて良いかもしれない。サイトを開いて詳しく調べる。どうやら場所は会社の隣みたいだ。まるで僕のために開いたような場所にあり驚く。明日は日曜日で会社は休みだ。当日いきなり行っても良いと書いてあったため明日行ってみることにした。
次の日
どうやらここだな。僕はスマホと正面を見比べる。サイトに載っている写真と同じ家だ。表には赤い字でじゃんけん教室やっています。と書いてある。僕はインターホンを押して中へと入った。
中には……誰もいなかった。体育館の用な床。横には鏡。まるでダンス教室の様な部屋だった。
「すいません!じゃんけんを習いに伺いました!」
「は、はーい。」
奥から絵に書いた仙人の様な人が来た。
「じゃんけんを習いに来たんだってな。だったら今からテレビで流す映像でも見とけ。」
随分と荒く説明された。言われて通り流れている映像を見る。まるで教習所で見た様な軽快な音楽が流れた映像が映る。どうやらこの映像ではじゃんけんの勝ち方に関する情報をまとめて教えてくれるようだ。
所々ネタが入っており、意外と見ていて面白い。
いつのまにか映像は終わっていた。
「ふぉっ、ふぉっふぉっ」
アニメに出てくる仙人の様におじさんが登場した。
「勝ち方はわかったかね。最後は私と勝負だ」
(ラスボスはお前か………)
俺はビデオで教わった事を思い出す。じゃんけんで勝つにはまず、初恋の相手を思い出す、そしてムーンウォークをしてフラれたあの時を思い出す!。そして相手の目を見る!
(見えた!相手はグーを出す!)
「じゃんけんー、ポイ!」
俺はパーを出した。そして相手は………………
グーを出した!
「勝った!産まれて初めてじゃんけんで勝った!」
「よかったな。この方法を忘れるなよ!」
仙人は優しく俺にそう言ってくれた。
僕はいい気になって家へ帰る。明日のじゃんけんが楽しみだ。
次の日
「よーし、今日もじゃんけんするぞー、今日はキャビアをかけるぞ!」
(キャ、キャビア!?これはもらった!)
「拓也、支払いよろしく」
「まだじゃんけんしてないだろ」
「お、今日は自信があるな」
「じゃあ、さいしょはグー、じゃんけんポイ!」
(僕がグーそして同僚もグー、そして上司が……………パー!)
「やったー!」
僕も同僚の手を取り喜び合う。
「チ、珍しい事もあるんだな」
上司はキャビアを買いに車で銀座へと向かった。
僕は次の日も、また次の日もじゃんけんで勝つことができた。しまいには100回連続でじゃんけんで一人勝ちする事ができた。
「おい、拓也。強くなったな」
「ありがとうごさいます」
そして上司にある提案を持ち込まれた。
「実はな来月に武道館で全日本企業じゃんけん大会があるんだ。それに出場しないか?。優勝すれば200億58京無限円もらえるらしいぞ。この賞金はわが社にとってかなり大きい。どうか考えてくれないか?」
「いえ、先輩。そんな金額はありません。
大会に出るのは良いですが」
「そうか、なら俺の方で出場の手続きをしとく。この大会の決勝はリアルじゃんけんと言われるものが行われる。かなり難しく危険なものだ。予習しとけよ。」
「ええわかりました。」
(リアルじゃんけん?どういうものだ?まぁじゃんけんの必勝法を知ってる俺には関係ないがな)
「ま、頑張りますよ先輩。200億58京無限円はこの会社の物になりますよ」
「ああ。頑張れよ」
僕はその場で手を出す。
先輩も手を出す。
「さいしょはグー、じゃんけん、ポイ!」
僕がチョキで、先輩がパー。
「やっぱりお前は強いな」
「ありがとうごさいます」
大会で優勝する!
僕はそう確信し、帰宅した。
大会当日
大会当日僕は無敗で試合を勝ち進んだ。
試合は11点を先に取った方の勝ちだ。
道場で教えてもらった方法は確かなもので負けることなど絶対にない。僕は相手に一点も取らさずに見事決勝まで出場する事ができた。
先輩の言ってたリアルじゃんけんとはなんだろう?
そんな事を考えているうちに相手がリングへと入ってきた。心臓が爆発しそうだ。
「それでは決勝戦を始めます。決勝は一発で勝敗を決めます。」
「頑張れ!、負けるなー!。落ち着け!」
スタンド席に座ってる同僚と先輩が応援してくれる。僕はゆっくり深呼吸して落ち着いた。
相手の目を見る。そして初恋を思いだし、ムーンウォークをしてフラれたあの時を思い出す!
(みえた!相手はチョキを出す!)
「さいしょはグー、じゃんけん…………………
ポイ!)
「………っ!、うわ!」
突如、右手に激痛がはしった。
「血、血が!」
相手の手を見る。
相手は……ハサミを握っていた。
「という事で優勝は株式会社変態のアルバートさんでしたー!」
「何やってんだよ!。しっかりしろよ!
ありえない。自信満々に素手なんか出すなよ」
右手の激痛とは裏腹に同僚の文句が聞こえる。
(そ、そうか。チョキはハサミ。だからリアルじゃんけんと言われているのか)
右手の力が抜け、手はパーの形になる。そこに相手はさらにハサミを突き立ててきた。
これが本当の負けだと拓也は始めて知った。
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