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IFストーリー

もしもあの日、リナを選んでいたら 中編

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 リナが専属霊になってくれたおかげでバイトも順調だ。
 どんなに疲れて帰ってもリナがその疲れを吸い取ってくれる。
 どんなに迷惑な酔っ払いが来てもリナにその事を話せばスッキリする。
 リナはもともと同じバイト先の先輩だから話しやすい。
 それに酔っ払いの愚痴は生前の頃からしていたからお互い楽しくて仕方がないのだ。
 もしリナが生きていて僕が告白の返事を受けて付き合ったとしよう。
 その先に結婚して夫婦になったとしてもリ僕の疲れを吹っ飛ばしてくれていたに違いない。
 金縛り霊じゃなくてもリナにはそれくらいの力がある。
 大袈裟かもしれないが、それほどリナを運命の人だと思えるようになっていた。

 ある日のバイトの帰り。僕はいつものようにリナに酔っ払いの愚痴を聞いてもらっていた。

「酔っ払いすぎて入り口でさ寝た酔っ払いがいたんだけど僕の力じゃ全然運べなくてさ。それでフミヤくんを呼んで二人で運ぼうとしたんだけど無理だったんだ」

「二人でも運べないってどんだけ情けないんだよ、ふふっ」

「それで厨房から料理長が出てきて酔っ払いを片腕で軽々持ち上げてったよ。料理長マジでカッコ良かったわー」

「それはマジでウケる。料理長ヤバすぎな」

 僕が酔っ払いの愚痴をこぼすとリナは楽しそうに聞いてくれている。それが僕にとっても最高の時間だ。
 リナの笑顔が僕にとっての最高のご褒美だ。

「ウサギくんって明るくなったよな。前はこんなに喋ってなかったよね? おしゃべりさんになったな!」

「お、おしゃべりさんって……」

 なぜだろう。リナに言われてなぜか恥ずかしくなった。
 それに自分が明るい性格に変わっていた事に言われてやっと気が付いた。

 明るくなったのは良い事だと思う。でもから僕は無意識のうちに明るくなったわけではない。
 リナが僕のそばにいてくれるから明るくなったんだ。
 バイトも毎日頑張れている。
 生きている喜びも噛み締められている。毎日生きるのが楽しい。毎晩リナに会えるのが本当に嬉しい。
 これは全部、君の……リナのおかげなんだ。リナがいてくれるおかげなんだよ。

 だから僕は自然と感謝の言葉が出た。

「ありがとう」

「ん?」

「いいや。なんでもないよ」

 ボソッと言ったせいで聞き取れなかったみたいだけどそれでいい。
 僕はこれから先の人生全てをリナに捧げて感謝していこうと思っているから。

 あの日、もしも全員の手を取っていたら……専属霊を決められずに金縛り霊と一生会えなくなっていただろう。
 もしそうなっていたら僕はこんなに笑えていただろうか。こんなに幸せな気持ちになれただろうか。
 そんな事を時々考えてしまう。考えてしまうたびにカナとレイナの顔が浮かぶ。最後の姿が思い出される。
 それでも目の前の金髪で巨乳で八重歯がチャームポイントの金縛りちゃん、リナの優しい表情を見たらすぐに心のモヤモヤが消える。
 これでいいんだ。この選択で間違ってなかったと思えるのだ。

「ん? どうしたんだよ。ボソッと何か言ったり、あたしの顔をじーっと見たり……」

「あ、え、い、いや……だからなんでもないよ!」

 普通に感謝の気持ちを伝えればいいのに、普通に顔が可愛いと言えばいいのに、照れ臭くなってしまって誤魔化してしまった。
 誤魔化し方が完全に挙動不審で誤魔化せてないとわかっている。
 それに僕の変化を見抜くのが上手なリナにはお見通しだろう。

「あー、わかったぞ」

 やっぱりそうだ。全てお見通しだ。

「あたしとヤりたくてしてるんでしょー」

 訂正しよう。全然お見通しじゃなかった。

「ち、ちち、違うよ!」

「ほら、きょどってる……」

「ヤ、ヤりたいって、そ、そんな、い、いきなり言われたからビックリしたんだよ!」

 リナはそのまま豊満な胸をアピールしながら僕の方に近付いてきた。
 愛おしいものを見つめるその瞳は僕を犯してやろうと言わんばかりの瞳だ。
 そして妖艶に微笑み、乾いた唇をぺろっと舌で舐めた。そのセクシーさに僕は魅了された。

 この瞬間、僕の頭に浮かんだのは『童貞卒業』の文字だ。

 リナの細く長い指が僕の太ももをゆっくりとなぞる。

「んっ……っ……」

 つい感じてしまい声が漏れてしまった。

 そして息を荒くしたリナは…………笑った。

「ふふっ、ダメだよー、幽霊はそんな事できませーん! ウサギくんは童貞のままでーす! 残念でしたー」

 小悪魔的な表情を浮かべて僕をからかった。そんなリナも顔を真っ赤にしている。

「ちょ、ちょっと! 頭の中でリナに感謝していたのに! もう僕の気持ちを返してよー! 台無しだよー」

「え? え? 嘘、え、マジ? え、感謝ってなに? 聞かせて聞かせて。直接聞かせてよー」

「ダメ。言わない」

 言わない理由は照れくさいからではなくなった。色目を使ってきた罰だ。
 それに童貞を卒業できるかもと少しでも期待してしまったので期待を裏切った罰でもある。
 内心、泣きたい気分だ。本当に残念。ヤれるのならヤりたかった。でも僕はヘタレだし、そんなことはできない。

「えー、言ってよ~」

「ダメ」

「じゃあさ、ヤれないけど……おっぱいだけでも揉んでみる?」

「うぐっ」

 豊満な胸を上下に揺らしてアピールしている。その武器はズルい。ズルすぎる。
 つい手が出そうになってしまった。童貞はおっぱいに弱い生き物だ。
 揉んでみると聞かれたら揉むと答えたくなってしまうではないか。

「ふふっ」

「わ、笑ったなー」

「だって目が、ふふっ、ははっ、目が本気だったんだもん、あっはっは! それに鼻息も荒くなってたし、ふふふっあっはっは!」

 また僕の童貞心を弄ばれた。

「そんなに言うんだったら今日は僕の疲労吸うの禁止にするよ~」

「ぬぅ……そ、それだけは……」

「どうしようかな~」

 仕返しが成功した。リナもやりすぎたと反省の表情をしている。
 その姿に僕はニヤッと笑みが溢れた。
 しかしその瞬間、リナは僕に飛びついてきた。

 本当のカップルのように体と体をくっつき合いながらベットで戯れあった。
 でも本当のカップルだったらここからお互いの体を求め合い、あんなことやこんなことが始まるんだろうけど金縛り霊とはそんな行為はできないのだ。
 だから僕は今後の人生で彼女を作らなければ一生童貞のままだった。それでも僕は彼女は作らない。
 童貞のままでいい。僕の彼女はリナであって金縛りちゃんなのだから。

「でも専属霊ならちょっと触ってもいいよな……」

「おい、心の声が漏れてるぞ。童貞くん」

「で、でも、キスは普通にできるようになったんだし……や、やっぱりちょっとくらい……へ、減るものじゃないでしょ」

 どうしたのだろうか。急激に欲求が僕の思考を乱している。
 それもそうだ。こうしてベットの上で可愛い可愛いリナと戯れあっているんだ。我慢なんてできない。
 ほんの少し、指先だけでも……その柔らかく大きなおっぱいに触れてみたい。

「ダ~メッ」

 おっぱいを触らせてくれないかわりにリナは僕の唇に唇を重ねキスをしてきた。
 その瞬間僕の欲求も満たされた気分になった。幸せなオレンジ色の風が僕の部屋に入り込む。
 もちろん窓などは開けていない。ただそんな風があるのなら僕は今、全身にその風を浴びていると思っただけだ。

「も、もう一回……」

「ええぇ!?」

「ダメ?」

「ダメじゃ……ない……」

 童貞の僕なんかよりもリナの方が欲求不満のようだ。
 そんなリナとの幸せでちょっとだけ過激な日々が続いた。  
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