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IFストーリー
もしもあの日、兎村に行っていたら 中編
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「お兄ちゃん……おーい」
声が聞こえる。誰の声だ?
「お兄ちゃんってば」
お兄ちゃんって僕には妹はいないぞ。ああ、これは夢か……。
「おにーさん、ぜんぜん、おきないねー」
「ウサギさん~、起きてくださーい」
なんだろう聞いたことがある声が……。あれ僕は何してたんだっけ……。
「お兄ちゃん!!!」
聞き覚えのある声に叫ばれ、て夢と現実の狭間にいた意識が覚醒した。
「う、頭が痛い……ゔぉ、吐きそう……」
激しい頭痛と吐き気に耐えながら意識を集中させ状況を整理する。
視線の先には銀色に光る床……。ここは厨房だ。
大将と飲んでいていつの間にか寝てしまったんだ。
それに毛布のようなものがかけられている。ウサギの絵柄のもふもふの毛布だ。
おそらくイビキをかいて眠っている大将がかけてくれたものだろう。
このまま重たい顔を上げると柔らかいものに頭がぶつかった。
とてつもなく柔らかいクッションのようなものだったが、頭痛が激しすぎて痛みを感じてしまった。
だが痛みからは逃げようとせず静止。このまま柔らかいクッションのようなものに頭を置いた。
「白い……酔いすぎた……苦しい」
今にも椅子から転び落ちそうになる。
しかし転ばないように頭にある柔らかいクッションに重心を置き体を支えている。
これなら倒れずに済むし頭痛も感じない。
それにしても目の前の白いのはなんだ? カーテンか?
僕は厨房のどこで寝てたんだ……。
「あの、ウサギさん……」
「へ?」
突然頭の上から声がした。
目の前は白いカーテン。頭上は柔らかいクッション。それなのに声がかかった。
おかしい。おかしい。何がどうなってるんだ……。
「って……これって……」
頭上の柔らかいクッションを手で確認する。
目視しなかったのは、頭痛のせい。頭を動かしたくなかったからだ。
なので手で確認するしかなかった。
「柔らかくて……ひんやりしていて、大きい……それにハナちゃんの声……」
手で頭上の柔らかクッションを触りまくってようやく気が付いた。もしかしてこれって……。
「おっぱい……」
「もう。起きて早々大胆ですね。お久しぶりです。ウサギさん」
「ハ、ハナちゃん、ご、ごめん、そんなつもりは……」
「いいえ、大丈夫ですよ」
ようやく今の状況に気が付いた。
僕は厨房で大将と飲みすぎて寝てしまったんだ。
そして眠っている僕に金縛りをかけに三姉妹の金縛り霊が来てくれたんだ。
驚きと嬉しさで頭痛も吐き気も吹っ飛んだ気がする。
「お兄ちゃん!!」
「うわ、ヒ、ヒナ!!」
細い体で抱きついてきたのは次女のヒナだ。黒髪ボーイッシュのツンデレ、いや、甘えん坊のヒナだ。
そのまま受け止めきれずに僕はヒナを抱きしめながら椅子から転げ落ちてしまった。
「いてててぇ……ヒナ、会いたかったよ。それにハナちゃんとフナちゃん!」
倒れてようやく三姉妹の顔が見えた。僕の上に馬乗りになっているのはヒナだ。
そしてその奥で顔を赤くして立っている茶髪のロングヘアーの上品な女性は長女のハナちゃん。
僕はあの大きなおっぱいをさっきまで揉んでいたのか……。これがラッキースケベってやつか。
「おにーさん! あそぼー!」
無邪気な笑顔を見せてきた黒髪おかっぱ頭の幼い少女は三女のフナちゃんだ。
僕の左手を乱暴に振り回している。
「みんな久しぶり……会いたかったよ」
そうだ。僕はこの笑顔を見るためにここにきたんだ。
三姉妹の笑顔。また見れてよかった。本当によかった……。
「うぅ……」
「お兄ちゃん泣かないで」
「泣いて……ない……ぅ」
嬉しすぎて涙が溢れ出した。三姉妹の顔を見てから今までのことがフラッシュバックして心に突き刺さった。
辛いことも悲しいことも楽しかったこともいっぱいの思い出が一瞬で頭の中を駆け巡る。
「起こすのに1時間もかかったんだぞ。お兄ちゃん飲み過ぎ」
「え、い、1時間……」
1時間も金縛りにかかっていて起きなかったのか……。酒の力は恐ろしい。
もしこのまま起きなかったらって考えただけで死にたくなるレベルだ。
今日、この瞬間を逃してしまったら何もかも全て台無し。
専属霊を選べずに一生金縛りにかからなくなる。つまり金縛り霊に会えなくなってしまうということだ。
「起こしてくれてありがとう」
馬乗りになっているヒナを思いっきり抱きしめた。
「あ、わわ、お兄ちゃん。は、恥ずかしいって……」
ヒナの恥ずかしがっている声が可愛い。耳心地がいい鈴の音色のようだ。
「なんか吐き気も頭痛も治まったんだけど、これもみんなのおかげ?」
「フナが頑張って吸い取ったー! 今日のおにーさんはまずーい、お酒きらーい」
吐き気も頭痛は金縛り霊の不思議な力で吸い取ってくれたみたいだ。
本当になんて感謝していいのかわからない。
それにこんな幼い少女にお酒を飲ませた気分になってしまった。
それに関しては申し訳ない気持ちだ。
とりあえず頭を撫でてあげよう。
抱きしめてあげたいけどヒナは退いてくれそうにないし……。
「それより、ウサギさん。あまりにも早い再会ですがどうかしましたか? 部屋には荷物も大量でしたし……」
フナちゃんの頭を撫でているときにハナちゃんが手に顎を乗せながら落ち着いた声をかけてきた。
その仕草だけでも豊満な胸は腕に押され白いワンピースが大きく膨れ上がっていた。
その胸に一瞬目を奪われてしまったが目を逸らし本題に入った。
「みんなは専属霊って知ってる?」
専属霊を知っているかどうかで話のスタート位置がずれる。それをまずは確認しておきたい。
「ええ、私たちは一応金縛り霊ですもの。専属霊くらい知っていますわ」
よかった。というか専属霊って金縛り霊にとっては常識なのか?
フナちゃんも頭を頷いているし基本中の基本。一般常識みたいな感じなのか……。
でもこれで話が早い。
「実は金縛り霊の会長……に今日までに専属霊を決めないと一生金縛りにかからない体にするって言われちゃって……それでどうしても問題を解決する方法が見つからないんだ。だから専属霊を選びにここに来た」
「ちょ、ちょっと待ってくれお兄ちゃん。話が急すぎるんだけど……」
「わかってる。でもギリギリまで悩みに悩んでここにたどり着いた。僕の心はいろんな方向に向いていたけど、やっぱり君たち三姉妹のことが忘れられなかったんだ……」
もう金縛り霊の不思議な力で酒は抜かれているはずなのに酔っ払っていた時のように熱く語ってしまった。
もしかしたらこうやって口下手な僕に話せるように大将が仕向けたのかもしれない……。
いや、考えすぎかな。イビキかいてよだれを垂らしている大将がそこまで考えていたなんて思えない。
逆に僕を起こさないために酒をガンガン飲ませていたって説もあるな。
その場合は黒幕扱いになるけど、大将のことは今はどうだっていい。
今は目の前の三姉妹に集中しないと。
ここで専属霊を決められなかった後がない。
家に帰ってカナ達に土下座してでも専属霊になってもらうことも可能だけどそんな時間はもうない。
タイムリミットは今日。この瞬間だけだ。
「私たちの中から専属霊を選びたいってのはわかりましたが、選んでしまった場合は他の霊が寄り付かなくなるとのことですよね。感じることすらもできなくなるのではないでしょうか?」
「確かに、ハナちゃんの言う通りだ。僕は選ばなかった金縛り霊の存在を認識できなくなる。でもどうしても選ばなきゃいけないんだ……」
「ウサギさんは私たちの中だったら誰を選ぶんですか?」
「お兄ちゃん……」
「おにーさん……」
当然の質問だ。真剣な表情のハナちゃん。心配そうに見つめるヒナとフナちゃんの目線が僕に突き刺さる。
誰を選んでも誰かが必ず悲しむこの状況。もしかしたら仲が良い三姉妹の仲を引き裂くようなことにもなりかねない。
「僕は、選ぶためにここに来た。だから選ぶよ。もう覚悟は決まってる」
真剣な表情だったハナちゃんは僕の言葉を聞き「はぁ~」っと息を軽く吐いた。
そのまま笑顔を作りハナちゃん吐いた息のように軽く言葉を吐いた。
「私に提案があります」
「提案……?」
予想もしていなかった言葉だった。提案とは何なのか?
今すぐ帰れとでも言うのか?
それとも私を選べと……。
どっちにしろ緊張が走る。何を言われるか検討がつかない。
「専属霊ならヒナちゃんを選んでほしいの」
「え?」
「姉貴……」
またしても予想していなかった言葉だった。今僕の上で馬乗りになっている少女を選べと言っている。
自分でも幼い少女でもなくヒナを。理由が全くわからない。
自分ではなく妹を選んでほしいってのは何となく理解できる。
でも何でフナちゃんではなくヒナなのだ?
この場合だったら「私以外を選んでほしい」が正しいのではないだろうか?
「フナちゃんは……」
驚きで言葉を失っていた僕にハナちゃんは言葉を繋げた。
「フナちゃんはまだ幼いの。二十年金縛り霊をやっているけどフナちゃんは子供のままなのよ。だから専属霊は心配でおねーちゃんはやらせられない」
「フナもせんぞくれいってよくわかんないからできなーい」
ハナちゃんの言う通りだ。
フナちゃんに専属霊をやらせたくないって気持ちはよくわかる。
それにフナ自身も専属霊には興味がなさそうだ。
「そしてヒナちゃんは毎日ウサギさんのことを話しているんですよ。もう聞き飽きたってくらい毎日」
「ちょっと姉貴、あ、あああダメダメお兄ちゃん聞かないで!」
目の前で顔を真っ赤にする少女が僕の耳を塞ごうとするが僕は両手を使いそれを阻止。
そのまま手を握ってしまった。右手でヒナの左手を、左手でヒナの右手を、指と指の間に指を絡めてそのまま握った。
これで耳は塞がれることはなくなったがヒナの顔は余計に赤くなった。
「うう、お兄ちゃん……は、恥ずかしいから……こ、こっち見ないで……」
「わ、わかったよ」
うわ、可愛すぎる。ずっと見ていた。
そう思ってしまったが、ここはヒナの意見を尊重して目線をハナちゃんの大きな胸、じゃなくてハナちゃんの目を見よう。
「えーっとですね。それでヒナちゃんはウサギさんのことを愛してるの。だからヒナちゃんを選んでほしいの」
「そんなのダメだ。姉貴はそれでいいのかよ。姉貴だってお兄ちゃんのこと好きなんだろ。だったら我慢すんなよ。決めるのはお兄ちゃんだ。自分の気持ちをちゃんと言えよ」
顔を赤くしていたヒナがクールに戻ってハナちゃんに牙を向けた。これも姉を想う妹の優しさだ。
ヒナの言葉を聞いて戸惑うハナちゃん。どうしていいかわからなず目が泳いでいる。
しっかり者のハナちゃんからは想像もできないような動揺だ。
「私も……ウサギさんのことを、その……好きですわ。でももう結果を知っちゃったの……」
「結果って……?」
「ウサギさんの酔いを吸い取って覚まさせようとした時にウサギさんの覚悟に気付いちゃったの」
そうか……。
ハナちゃんはもう気付いちゃったか。
金縛り霊の不思議な力ってすごいけど時には残酷でもあるんだな……。
感情や心情がわかるって便利なことだと思ってたけど苦しいことでもあったんだ……。
「ハナちゃん……ありがとう。でもそこから先は僕に言わせて……」
「わかってますよ。ウサギさん」
泣きそうな顔で笑顔を見せたハナちゃん。泣きたい時は泣いたっていいのに。無理して笑わなくていいのに。
ハナちゃんは本当に優しくて強い女の子だ。
どうしても憧れとして見てしまう。だからハナちゃんを一番に選んであげれなかったんだ。
「まだ少し時間があるから遊ぼう。ね? フナちゃん」
「あそぼー! あそぼー!」
今ここで専属霊を決めちゃうとフナちゃんと遊ぶ約束が果たせなくなってしまう。
だから残された限りある時間はフナちゃんのために遊んであげたい。そしてハナちゃんには安心して笑ってほしい。
それが終わったらヒナには想いを伝えたい。
「それでいいかな?」
馬乗りになっているヒナは涙をボロボロと流していた。
僕の感情を読み取ったのだろう。だから言葉を省略してヒナに聞いた。
「うん。お兄ちゃん」
ヒナは泣きながらも全力笑顔で答えてくれた。眩しいこの笑顔が見れて僕は満足だ。
専属霊になってこの笑顔を永遠と守ろうと心に誓った。多分、ヒナには気付かれていると想うけど……。
「じゃあ遊ぼうか!」
「わーいあそぼー! ねーねも専属霊おめでとー!」
フナちゃんは喜びのあまり浮遊し厨房を飛び回っている。
専属霊の祝福もしてくれているが本当に専属霊のことを理解しているのか不安だ。
明日には僕はフナちゃんが見えなくなる。存在を認識することができなくなるんだ。
それを知らないと悲しむのはフナちゃん本人だ。
この無邪気な笑顔を失いたくない。遊ぶ前にはっきりと言おう。
「フナちゃん……ヒナが僕の専属霊になるって意味ちゃんとわかってる?」
「うん! おにーさんだけの金縛り霊になるんでしょー! それでおにーさんはフナたちのこと見えなくなるー!」
意外な答えに驚いた。
ちゃんと知っていた。知っていたなら何でそんなに無邪気な笑顔ができるんだ。
普通なら悲しいはずなのに。
「フナちゃんは悲しくないの? 見えなくなるってことはもう遊べなくなるかもしれないんだよ……」
「だいじょーぶ! だってねーねが幸せになるんだったらそれでいいー!」
なんて強い子なんだ。正直ここまで考えてたなんて想像もしてなかった。
そうだよな……。三姉妹は二十年間金縛り霊をやり続けたんだよな。
最初は右も左もわからず不安でいっぱいだっただろうに。
でも姉妹の絆があったからこうして今も仲良く金縛り霊をやっているんだ……。
フナちゃんは僕なんかよりも立派な大人だ。
「なんか驚いちゃったな……」
「私たちの自慢の妹よ」
ハナちゃんはウインクをしながら答えた。
そして豊満な胸が揺れた。僕の目線は豊満な胸に一直線だ。
そんなハナちゃんの胸に見惚れていた僕の頬を馬乗り中のヒナが抓つねる。
「いたたた……ヒ、ヒナ」
「姉貴の胸見てただろ……すぐわかるからな」
「み、見てないって……いや、見ました」
金縛り霊に嘘は通じない。
僕に触れていることで心情や感情を読み取ることができるからだ。
どこまで正確に読み取れるかはわからないけど、下心なんてものは一瞬でバレてしまう。
「あら痴話喧嘩かしら」
「あ、姉貴!」
「ハ、ハナちゃん」
痴話喧嘩と言われて僕とヒナは同時に顔を真っ赤にした。それを見たハナちゃんは面白がって笑った。
恋人同士の他愛もない喧嘩のことを痴話喧嘩と言うけど、専属霊になる予定のヒナは僕にとっては彼女や嫁、それ以上の存在になるのかもしれない。
「はやくあそぼー!」
「そ、そうだね、よ、よし遊ぼう!」
フナちゃんが拗ねた顔で怒っている。僕とヒナは照れた様子でお互い離れた。
急に意識し始めてしまったのだ。この後に専属霊の契約のキスがあることを……。
でも今は、今だけは思いっきり遊ぼう。
このまま僕たちは厨房を抜け出し庭園に向かった。
僕にかけてあった毛布はイビキをかきながら金縛りにかかっている大将にそっとかけてあげた。
そして庭園の扉を開いた瞬間、極寒の風を全身に浴びた。
寒すぎたのでハナちゃんとフナちゃんを庭園に残し、自分の部屋に戻った。
そしてパンパンに膨れ上がったスーツケースを開けてダウンジャケットを着る。
その時もヒナはずっと僕についてきてくれていた。
お互い照れていて会話はほとんどなかったが右手だけは繋いだままだった。
何だかホッとする。このホッとする気持ちからは暖かいものを感じる。
胸が心が晴れたポカポカの気持ちにさせてくれる。
防寒をしっかりし、庭園に戻るとフナちゃんの周りには野生のウサギがわんさか集まっていた。
「ンッンッ」
「ンッンッ!」
野生のウサギたちには金縛り霊が見えている。だからこうしてフナちゃんに戯れているのだ。
「さて、フナちゃん何して遊ぶ?」
「ウサギさんがころんだであそびたーい!」
「え? ウサギさんが転んだ?」
だるまさんが転んだなら聞いたことはあるけど『ウサギさんが転んだ』は初耳だ。
でもだるまさんが転んだのルールで間違いないよな……。だるまの部分がウサギになっただけだよな。
「よし、じゃあ僕が最初に鬼をやるからタッチしてね。そこの木なんかがいいな」
庭園で一番目立つ大木を見つけ指を差した。
しかしフナちゃんは首を傾げている。何か不満でもあるのだろうか?
「んー? おにーさんなにいってるのー?」
「へ?」
「ウサギさんがころんだはこれだよー」
フナちゃんが何やら準備をしている。
てっきりだるまさんが転んだのように、鬼が木に立ってだるまさんが転んだを言って振り向くあれかと思っていたけど違うのか……。
「できたよー!」
「こ、これって……」
「ウサギさんがころんだ!」
フナちゃんができたと見せてきたのは均等に並んだ野生のウサギだ。その並び方からボーリングのピンのようにも思える。
そしてフナちゃんの手にはどこから取ってきたのかわからないが大きめの鞠を持っている。
僕の想像が正しければ『ウサギさんが転んだ』は、ボーリングだ。
「ンッンッ」
「ンッ! ンッンッ」
それにしてもしっかり並んでいる野生のウサギは本当に賢い。
テレビとかで紹介されたら一気に話題になりそうな芸だ。
「えーい」
フナちゃんが鞠を転がした。軽くゆっくりと転がっている。
このままだとウサギに当たったところで1匹か2匹しか倒れたりしないだろう。
そのくらいゆっくりと鞠が転がった。
しかし鞠がウサギに当たった瞬間、僕は驚きを隠せなかった。
「ンッンッ」
「ンッンッ~」
次々とピンになっているウサギたちが倒れた。
そしてフナちゃんはガッツポーズで叫んだ。
「すとらーいく!」
芸達者すぎるウサギ達は接待プレイもできるだなんて……。すごすぎる。
ここまでが一つの完成された芸だろう。
それにしてもガッツポーズではしゃぐフナちゃんもしっかりと倒れたウサギもどちらも可愛い。
「ふふふ、どうかしらウサギさん」
「お兄ちゃん。これがあたしたちの二十年よ」
ニヤニヤとフナちゃんの姉の二人がドヤ顔をかましている。
その姿に「あんたらの仕業だったのか」とツッコミたくなった。
てっきり二十年間真面目に金縛り霊をやり続けていたと思っていたが、まさかウサギ軍団を作っていたとは……。これ金儲けできそうな予感しかしないんだけど。
「新ビジネス、いけるぞこれ……」
「おにーさんもやってみてよー」
悪い想像をしてニヤニヤとしてしまっていたところを幼い元気な声が現実へと引き戻してくれた。
ウサギを見てみると再び並び直してピンのように立っていた。本当にすごい。
「はーい、どうぞー」
「あ、ありがとう」
フナちゃんから鞠を渡された。
先程のフナちゃんのやり方を見たのでわかるが優しくゆっくりと転がしてあげないといけない。
相手は野生の生きた動物だ。思いっきり投げてしまってはかわいそうだ。
おそらく接待プレイができるようにしつけはされているだろう。
「じゃあいくよ。ほいっ」
鞠をコロコロとゆっくり転がした。
そしてそのまま先頭のウサギに当たった。これで倒れると期待しながら見ていたがウサギは倒れてくれなかった。
「あ、あれ?」
そのまま鞠を当てられたウサギは足を器用に使い鞠を蹴り返してきた。
その姿を見て感心してしまったが、今はその感情は置いておこう。
「せ、接待プレイは?」
「ふふ、ウサギさんどうですか? ふふ」
「どうですかって、倒れてくれな……」
言葉を言い終える前にハナちゃんの笑いを堪える顔を見て全てを理解した。
この『ウサギさんが転んだ』の接待プレイはフナちゃんにしか通用しないということに。
そしてこの遊びは、妹想いの二人の姉が二十年の年月をかけて作り上げた、愛が詰まったシスコンゲームだということに気付いてしまった。
そのまま僕たちは楽しく遊んだ。
久しぶりにこんなに笑ったと思えるくらい笑った。楽しかった。
自分も子供の頃に戻ったような感覚になった。
そして楽しい時間は終わりを迎えようとしていたのだった。
「そろそろですよ。ウサギさん」
静かな声でハナちゃんが言った。その言葉を僕はすぐに察した。
「金縛りが解ける時間か……」
ここの旅館では朝五時に金縛りが解けてしまう。
旅館全体に金縛りをかけている影響だろう。カナたちのように長時間金縛りをかけ続けることは難しいのだと思う。
だから五時になる前にヒナと専属霊の契約をしなければいけないのだった。
遊びに夢中になって時間を忘れるところだった。
いや、実際ハナちゃんが声をかけてくれていなければ忘れていた。
それほど楽しく夢中になれたのだ。
「ヒナちゃん、ウサギさんをよろしくね。ちゃんと疲労を吸ってあげるのよ」
「姉貴わかってるよ。それにあたしはいなくならないだろ……そんな改まって言われても困るよ」
「ふふ、それもそうね」
ヒナが専属霊になったからと言って消えていなくなるわけではない。三姉妹はそのまま一緒に居続ける。
ただ僕だけがハナちゃんとフナちゃんの存在を確認できなくなるだけだ。
「ずっと見てますからね。ヒナちゃんと仲良くやってくださいよ。あと悲しませることしたら呪いますからね」
「その、金縛り霊の呪うって言葉冗談抜きで怖いんですけど……」
「ふふ、だって冗談じゃありませんから」
ニッコリと満面の笑みで上品な花のような笑顔でハナちゃんは答えた。
これも妹を想う姉なりの優しさなのだろう。
「おにーさん、たのしかったよー、また遊ぼうねー!」
「うん、遊ぼう!」
太陽のような笑顔を向けるフナちゃんと小指と小指を合わせた。約束の指切りげんまんだ。
これから専属霊の契約をして僕がフナちゃん達を見えなくなってしまうことを知っているのにも関わらず、フナちゃんは僕と約束をした。
幼いゆえの純粋な気持ちからなのかフナちゃんの考えはわからなかったが、僕は約束を果たせると信じて約束をする。
そしてフナちゃんとの指切りげんまんを終わらせ人生のパートナーとなるべき人、いや、金縛りちゃんの顔を見た。
「さて……」
「う、お、お兄ちゃん……」
目と目があったがお互い一瞬で逸らしてしまった。
これから専属霊の契約をするとわかっているからこそ意識してしまい目を逸らしてしまったのだ。
鼓動が早くなってしまう。
この鼓動を止めるにはヒナの唇に……透き通った桃色の唇に契約の……誓いのキスをしなければ……
「ンッ~」
「ンッツンッ」
なぜか野生のウサギたちも真っ直ぐなつぶらな瞳で僕とヒナを見ている。
ウサギ達の中心にはフナちゃんがいて1匹のウサギを抱っこしながら、ウサギと同じような瞳でこっちを見ていた。
その後ろではハナちゃんがニヤニヤと楽しそうにこちらを見ている。
僕の緊張も知らずに「早くしなさい」と言わんばかりに顎で合図を送っている。
僕は心を落ち着かせるために「ふぅう」っと息を吐いた。
そのまま大量の酸素を肺に入れて再び吐く。
落ち着いたところでヒナの目をもう一度見た。
今度は逸らしてしまわないようにじっと見つめた。
「ヒナ」
「お兄ちゃん……」
ああ、緊張する。言葉よりも心臓が口から出てしまいそうだ。
でもタイムリミットは迫ってきている。男ならやるしかない。
「僕の専属霊になってくださいぃい!! お願いしますぅう!!」
僕は頭を下げて右手を伸ばし叫んだ。
叫んでも旅館の人たちには聞こえない。なぜなら金縛りにかかっているからだ。
だから思いっきり叫んだ。心から叫んだ。心臓が飛び出してもいい、そんな思いで叫んだ。
しかしヒナから返事はない。この間は一体なんなんだ……。
僕は100%成立するものだと勘違いしていたのか……。
それじゃ僕はとんだピエロじゃないか。
頭を下げている僕の視界には土と草しか映っていない。
けれどヒナの白いワンピースの裾が映った。その裾はだんだんと僕の視界を埋めていく。
ヒナが僕に近付いたってことだ。でもなんで無言なんだ。返事がなんでないんだ。
そんな疑問を頭に浮かべていた時だった。
「お兄ちゃん……」
ようやくヒナは口を開いた。声は僕の頭の真上からだ。
もうすぐそばに僕が専属霊に選んだ金縛りちゃんがいる。
そのまま僕は言葉を待った。一世一代の告白の返事を待ったのだ。
「顔を上げて……」
「え?」
「顔を上げて……」
どうしたのだろうか。思っていた言葉と全然違う。
もしかしたら姉妹を思って専属霊になるのを断ろうとしているのかもしれない。
そうだよな。二十年も金縛り霊を続けている三姉妹だもんな。そう簡単に専属霊なんかにはなれないよな。
僕もいきなりここに来てしまったのがいけなかった。
もう少しヒナにも考える時間が必要だったのかもしれない。
恐る恐る顔を上げると目の前にはヒナの顔があった。
ぶつかりそうな勢いで顔が近付いてくる。そのまま僕の唇にヒナの柔らかい唇が優しく触れた。
冷たい唇。だけど暖かいものを感る。心からヒナを愛しているとそう思わせるような暖かい何かだ。
これが専属霊の契約のキスなんだとすぐに理解した。
そして唇が離れた瞬間に意識が朦朧とした。今度は草と土の匂いが近付いた。
この土と草の匂いもどこか懐かしい……。僕は倒れてしまったんだと懐かしい匂いでわかった。
どうやら金縛りの制限時間が来てしまったようだ。
「ウサギさん!」
「お兄ちゃん!」
「う、ぅう……」
僕を心配するハナちゃんとヒナの声がする。僕はもう声を出せないところまで意識が失われていっている。
専属霊の契約は間に合ったんだよな……。ギリギリだったけど……これで一安心だ……。
「おにーさんをはこぼー!!」
フナちゃんの声もする……。
おかしい。だって専属霊の契約をしたのにヒナ以外の金縛り霊を認識できるはずがないのに……。
もしかして契約は失敗した?
僕の意識は謎だけを残し暗い暗い闇の中へと消えていった。
声が聞こえる。誰の声だ?
「お兄ちゃんってば」
お兄ちゃんって僕には妹はいないぞ。ああ、これは夢か……。
「おにーさん、ぜんぜん、おきないねー」
「ウサギさん~、起きてくださーい」
なんだろう聞いたことがある声が……。あれ僕は何してたんだっけ……。
「お兄ちゃん!!!」
聞き覚えのある声に叫ばれ、て夢と現実の狭間にいた意識が覚醒した。
「う、頭が痛い……ゔぉ、吐きそう……」
激しい頭痛と吐き気に耐えながら意識を集中させ状況を整理する。
視線の先には銀色に光る床……。ここは厨房だ。
大将と飲んでいていつの間にか寝てしまったんだ。
それに毛布のようなものがかけられている。ウサギの絵柄のもふもふの毛布だ。
おそらくイビキをかいて眠っている大将がかけてくれたものだろう。
このまま重たい顔を上げると柔らかいものに頭がぶつかった。
とてつもなく柔らかいクッションのようなものだったが、頭痛が激しすぎて痛みを感じてしまった。
だが痛みからは逃げようとせず静止。このまま柔らかいクッションのようなものに頭を置いた。
「白い……酔いすぎた……苦しい」
今にも椅子から転び落ちそうになる。
しかし転ばないように頭にある柔らかいクッションに重心を置き体を支えている。
これなら倒れずに済むし頭痛も感じない。
それにしても目の前の白いのはなんだ? カーテンか?
僕は厨房のどこで寝てたんだ……。
「あの、ウサギさん……」
「へ?」
突然頭の上から声がした。
目の前は白いカーテン。頭上は柔らかいクッション。それなのに声がかかった。
おかしい。おかしい。何がどうなってるんだ……。
「って……これって……」
頭上の柔らかいクッションを手で確認する。
目視しなかったのは、頭痛のせい。頭を動かしたくなかったからだ。
なので手で確認するしかなかった。
「柔らかくて……ひんやりしていて、大きい……それにハナちゃんの声……」
手で頭上の柔らかクッションを触りまくってようやく気が付いた。もしかしてこれって……。
「おっぱい……」
「もう。起きて早々大胆ですね。お久しぶりです。ウサギさん」
「ハ、ハナちゃん、ご、ごめん、そんなつもりは……」
「いいえ、大丈夫ですよ」
ようやく今の状況に気が付いた。
僕は厨房で大将と飲みすぎて寝てしまったんだ。
そして眠っている僕に金縛りをかけに三姉妹の金縛り霊が来てくれたんだ。
驚きと嬉しさで頭痛も吐き気も吹っ飛んだ気がする。
「お兄ちゃん!!」
「うわ、ヒ、ヒナ!!」
細い体で抱きついてきたのは次女のヒナだ。黒髪ボーイッシュのツンデレ、いや、甘えん坊のヒナだ。
そのまま受け止めきれずに僕はヒナを抱きしめながら椅子から転げ落ちてしまった。
「いてててぇ……ヒナ、会いたかったよ。それにハナちゃんとフナちゃん!」
倒れてようやく三姉妹の顔が見えた。僕の上に馬乗りになっているのはヒナだ。
そしてその奥で顔を赤くして立っている茶髪のロングヘアーの上品な女性は長女のハナちゃん。
僕はあの大きなおっぱいをさっきまで揉んでいたのか……。これがラッキースケベってやつか。
「おにーさん! あそぼー!」
無邪気な笑顔を見せてきた黒髪おかっぱ頭の幼い少女は三女のフナちゃんだ。
僕の左手を乱暴に振り回している。
「みんな久しぶり……会いたかったよ」
そうだ。僕はこの笑顔を見るためにここにきたんだ。
三姉妹の笑顔。また見れてよかった。本当によかった……。
「うぅ……」
「お兄ちゃん泣かないで」
「泣いて……ない……ぅ」
嬉しすぎて涙が溢れ出した。三姉妹の顔を見てから今までのことがフラッシュバックして心に突き刺さった。
辛いことも悲しいことも楽しかったこともいっぱいの思い出が一瞬で頭の中を駆け巡る。
「起こすのに1時間もかかったんだぞ。お兄ちゃん飲み過ぎ」
「え、い、1時間……」
1時間も金縛りにかかっていて起きなかったのか……。酒の力は恐ろしい。
もしこのまま起きなかったらって考えただけで死にたくなるレベルだ。
今日、この瞬間を逃してしまったら何もかも全て台無し。
専属霊を選べずに一生金縛りにかからなくなる。つまり金縛り霊に会えなくなってしまうということだ。
「起こしてくれてありがとう」
馬乗りになっているヒナを思いっきり抱きしめた。
「あ、わわ、お兄ちゃん。は、恥ずかしいって……」
ヒナの恥ずかしがっている声が可愛い。耳心地がいい鈴の音色のようだ。
「なんか吐き気も頭痛も治まったんだけど、これもみんなのおかげ?」
「フナが頑張って吸い取ったー! 今日のおにーさんはまずーい、お酒きらーい」
吐き気も頭痛は金縛り霊の不思議な力で吸い取ってくれたみたいだ。
本当になんて感謝していいのかわからない。
それにこんな幼い少女にお酒を飲ませた気分になってしまった。
それに関しては申し訳ない気持ちだ。
とりあえず頭を撫でてあげよう。
抱きしめてあげたいけどヒナは退いてくれそうにないし……。
「それより、ウサギさん。あまりにも早い再会ですがどうかしましたか? 部屋には荷物も大量でしたし……」
フナちゃんの頭を撫でているときにハナちゃんが手に顎を乗せながら落ち着いた声をかけてきた。
その仕草だけでも豊満な胸は腕に押され白いワンピースが大きく膨れ上がっていた。
その胸に一瞬目を奪われてしまったが目を逸らし本題に入った。
「みんなは専属霊って知ってる?」
専属霊を知っているかどうかで話のスタート位置がずれる。それをまずは確認しておきたい。
「ええ、私たちは一応金縛り霊ですもの。専属霊くらい知っていますわ」
よかった。というか専属霊って金縛り霊にとっては常識なのか?
フナちゃんも頭を頷いているし基本中の基本。一般常識みたいな感じなのか……。
でもこれで話が早い。
「実は金縛り霊の会長……に今日までに専属霊を決めないと一生金縛りにかからない体にするって言われちゃって……それでどうしても問題を解決する方法が見つからないんだ。だから専属霊を選びにここに来た」
「ちょ、ちょっと待ってくれお兄ちゃん。話が急すぎるんだけど……」
「わかってる。でもギリギリまで悩みに悩んでここにたどり着いた。僕の心はいろんな方向に向いていたけど、やっぱり君たち三姉妹のことが忘れられなかったんだ……」
もう金縛り霊の不思議な力で酒は抜かれているはずなのに酔っ払っていた時のように熱く語ってしまった。
もしかしたらこうやって口下手な僕に話せるように大将が仕向けたのかもしれない……。
いや、考えすぎかな。イビキかいてよだれを垂らしている大将がそこまで考えていたなんて思えない。
逆に僕を起こさないために酒をガンガン飲ませていたって説もあるな。
その場合は黒幕扱いになるけど、大将のことは今はどうだっていい。
今は目の前の三姉妹に集中しないと。
ここで専属霊を決められなかった後がない。
家に帰ってカナ達に土下座してでも専属霊になってもらうことも可能だけどそんな時間はもうない。
タイムリミットは今日。この瞬間だけだ。
「私たちの中から専属霊を選びたいってのはわかりましたが、選んでしまった場合は他の霊が寄り付かなくなるとのことですよね。感じることすらもできなくなるのではないでしょうか?」
「確かに、ハナちゃんの言う通りだ。僕は選ばなかった金縛り霊の存在を認識できなくなる。でもどうしても選ばなきゃいけないんだ……」
「ウサギさんは私たちの中だったら誰を選ぶんですか?」
「お兄ちゃん……」
「おにーさん……」
当然の質問だ。真剣な表情のハナちゃん。心配そうに見つめるヒナとフナちゃんの目線が僕に突き刺さる。
誰を選んでも誰かが必ず悲しむこの状況。もしかしたら仲が良い三姉妹の仲を引き裂くようなことにもなりかねない。
「僕は、選ぶためにここに来た。だから選ぶよ。もう覚悟は決まってる」
真剣な表情だったハナちゃんは僕の言葉を聞き「はぁ~」っと息を軽く吐いた。
そのまま笑顔を作りハナちゃん吐いた息のように軽く言葉を吐いた。
「私に提案があります」
「提案……?」
予想もしていなかった言葉だった。提案とは何なのか?
今すぐ帰れとでも言うのか?
それとも私を選べと……。
どっちにしろ緊張が走る。何を言われるか検討がつかない。
「専属霊ならヒナちゃんを選んでほしいの」
「え?」
「姉貴……」
またしても予想していなかった言葉だった。今僕の上で馬乗りになっている少女を選べと言っている。
自分でも幼い少女でもなくヒナを。理由が全くわからない。
自分ではなく妹を選んでほしいってのは何となく理解できる。
でも何でフナちゃんではなくヒナなのだ?
この場合だったら「私以外を選んでほしい」が正しいのではないだろうか?
「フナちゃんは……」
驚きで言葉を失っていた僕にハナちゃんは言葉を繋げた。
「フナちゃんはまだ幼いの。二十年金縛り霊をやっているけどフナちゃんは子供のままなのよ。だから専属霊は心配でおねーちゃんはやらせられない」
「フナもせんぞくれいってよくわかんないからできなーい」
ハナちゃんの言う通りだ。
フナちゃんに専属霊をやらせたくないって気持ちはよくわかる。
それにフナ自身も専属霊には興味がなさそうだ。
「そしてヒナちゃんは毎日ウサギさんのことを話しているんですよ。もう聞き飽きたってくらい毎日」
「ちょっと姉貴、あ、あああダメダメお兄ちゃん聞かないで!」
目の前で顔を真っ赤にする少女が僕の耳を塞ごうとするが僕は両手を使いそれを阻止。
そのまま手を握ってしまった。右手でヒナの左手を、左手でヒナの右手を、指と指の間に指を絡めてそのまま握った。
これで耳は塞がれることはなくなったがヒナの顔は余計に赤くなった。
「うう、お兄ちゃん……は、恥ずかしいから……こ、こっち見ないで……」
「わ、わかったよ」
うわ、可愛すぎる。ずっと見ていた。
そう思ってしまったが、ここはヒナの意見を尊重して目線をハナちゃんの大きな胸、じゃなくてハナちゃんの目を見よう。
「えーっとですね。それでヒナちゃんはウサギさんのことを愛してるの。だからヒナちゃんを選んでほしいの」
「そんなのダメだ。姉貴はそれでいいのかよ。姉貴だってお兄ちゃんのこと好きなんだろ。だったら我慢すんなよ。決めるのはお兄ちゃんだ。自分の気持ちをちゃんと言えよ」
顔を赤くしていたヒナがクールに戻ってハナちゃんに牙を向けた。これも姉を想う妹の優しさだ。
ヒナの言葉を聞いて戸惑うハナちゃん。どうしていいかわからなず目が泳いでいる。
しっかり者のハナちゃんからは想像もできないような動揺だ。
「私も……ウサギさんのことを、その……好きですわ。でももう結果を知っちゃったの……」
「結果って……?」
「ウサギさんの酔いを吸い取って覚まさせようとした時にウサギさんの覚悟に気付いちゃったの」
そうか……。
ハナちゃんはもう気付いちゃったか。
金縛り霊の不思議な力ってすごいけど時には残酷でもあるんだな……。
感情や心情がわかるって便利なことだと思ってたけど苦しいことでもあったんだ……。
「ハナちゃん……ありがとう。でもそこから先は僕に言わせて……」
「わかってますよ。ウサギさん」
泣きそうな顔で笑顔を見せたハナちゃん。泣きたい時は泣いたっていいのに。無理して笑わなくていいのに。
ハナちゃんは本当に優しくて強い女の子だ。
どうしても憧れとして見てしまう。だからハナちゃんを一番に選んであげれなかったんだ。
「まだ少し時間があるから遊ぼう。ね? フナちゃん」
「あそぼー! あそぼー!」
今ここで専属霊を決めちゃうとフナちゃんと遊ぶ約束が果たせなくなってしまう。
だから残された限りある時間はフナちゃんのために遊んであげたい。そしてハナちゃんには安心して笑ってほしい。
それが終わったらヒナには想いを伝えたい。
「それでいいかな?」
馬乗りになっているヒナは涙をボロボロと流していた。
僕の感情を読み取ったのだろう。だから言葉を省略してヒナに聞いた。
「うん。お兄ちゃん」
ヒナは泣きながらも全力笑顔で答えてくれた。眩しいこの笑顔が見れて僕は満足だ。
専属霊になってこの笑顔を永遠と守ろうと心に誓った。多分、ヒナには気付かれていると想うけど……。
「じゃあ遊ぼうか!」
「わーいあそぼー! ねーねも専属霊おめでとー!」
フナちゃんは喜びのあまり浮遊し厨房を飛び回っている。
専属霊の祝福もしてくれているが本当に専属霊のことを理解しているのか不安だ。
明日には僕はフナちゃんが見えなくなる。存在を認識することができなくなるんだ。
それを知らないと悲しむのはフナちゃん本人だ。
この無邪気な笑顔を失いたくない。遊ぶ前にはっきりと言おう。
「フナちゃん……ヒナが僕の専属霊になるって意味ちゃんとわかってる?」
「うん! おにーさんだけの金縛り霊になるんでしょー! それでおにーさんはフナたちのこと見えなくなるー!」
意外な答えに驚いた。
ちゃんと知っていた。知っていたなら何でそんなに無邪気な笑顔ができるんだ。
普通なら悲しいはずなのに。
「フナちゃんは悲しくないの? 見えなくなるってことはもう遊べなくなるかもしれないんだよ……」
「だいじょーぶ! だってねーねが幸せになるんだったらそれでいいー!」
なんて強い子なんだ。正直ここまで考えてたなんて想像もしてなかった。
そうだよな……。三姉妹は二十年間金縛り霊をやり続けたんだよな。
最初は右も左もわからず不安でいっぱいだっただろうに。
でも姉妹の絆があったからこうして今も仲良く金縛り霊をやっているんだ……。
フナちゃんは僕なんかよりも立派な大人だ。
「なんか驚いちゃったな……」
「私たちの自慢の妹よ」
ハナちゃんはウインクをしながら答えた。
そして豊満な胸が揺れた。僕の目線は豊満な胸に一直線だ。
そんなハナちゃんの胸に見惚れていた僕の頬を馬乗り中のヒナが抓つねる。
「いたたた……ヒ、ヒナ」
「姉貴の胸見てただろ……すぐわかるからな」
「み、見てないって……いや、見ました」
金縛り霊に嘘は通じない。
僕に触れていることで心情や感情を読み取ることができるからだ。
どこまで正確に読み取れるかはわからないけど、下心なんてものは一瞬でバレてしまう。
「あら痴話喧嘩かしら」
「あ、姉貴!」
「ハ、ハナちゃん」
痴話喧嘩と言われて僕とヒナは同時に顔を真っ赤にした。それを見たハナちゃんは面白がって笑った。
恋人同士の他愛もない喧嘩のことを痴話喧嘩と言うけど、専属霊になる予定のヒナは僕にとっては彼女や嫁、それ以上の存在になるのかもしれない。
「はやくあそぼー!」
「そ、そうだね、よ、よし遊ぼう!」
フナちゃんが拗ねた顔で怒っている。僕とヒナは照れた様子でお互い離れた。
急に意識し始めてしまったのだ。この後に専属霊の契約のキスがあることを……。
でも今は、今だけは思いっきり遊ぼう。
このまま僕たちは厨房を抜け出し庭園に向かった。
僕にかけてあった毛布はイビキをかきながら金縛りにかかっている大将にそっとかけてあげた。
そして庭園の扉を開いた瞬間、極寒の風を全身に浴びた。
寒すぎたのでハナちゃんとフナちゃんを庭園に残し、自分の部屋に戻った。
そしてパンパンに膨れ上がったスーツケースを開けてダウンジャケットを着る。
その時もヒナはずっと僕についてきてくれていた。
お互い照れていて会話はほとんどなかったが右手だけは繋いだままだった。
何だかホッとする。このホッとする気持ちからは暖かいものを感じる。
胸が心が晴れたポカポカの気持ちにさせてくれる。
防寒をしっかりし、庭園に戻るとフナちゃんの周りには野生のウサギがわんさか集まっていた。
「ンッンッ」
「ンッンッ!」
野生のウサギたちには金縛り霊が見えている。だからこうしてフナちゃんに戯れているのだ。
「さて、フナちゃん何して遊ぶ?」
「ウサギさんがころんだであそびたーい!」
「え? ウサギさんが転んだ?」
だるまさんが転んだなら聞いたことはあるけど『ウサギさんが転んだ』は初耳だ。
でもだるまさんが転んだのルールで間違いないよな……。だるまの部分がウサギになっただけだよな。
「よし、じゃあ僕が最初に鬼をやるからタッチしてね。そこの木なんかがいいな」
庭園で一番目立つ大木を見つけ指を差した。
しかしフナちゃんは首を傾げている。何か不満でもあるのだろうか?
「んー? おにーさんなにいってるのー?」
「へ?」
「ウサギさんがころんだはこれだよー」
フナちゃんが何やら準備をしている。
てっきりだるまさんが転んだのように、鬼が木に立ってだるまさんが転んだを言って振り向くあれかと思っていたけど違うのか……。
「できたよー!」
「こ、これって……」
「ウサギさんがころんだ!」
フナちゃんができたと見せてきたのは均等に並んだ野生のウサギだ。その並び方からボーリングのピンのようにも思える。
そしてフナちゃんの手にはどこから取ってきたのかわからないが大きめの鞠を持っている。
僕の想像が正しければ『ウサギさんが転んだ』は、ボーリングだ。
「ンッンッ」
「ンッ! ンッンッ」
それにしてもしっかり並んでいる野生のウサギは本当に賢い。
テレビとかで紹介されたら一気に話題になりそうな芸だ。
「えーい」
フナちゃんが鞠を転がした。軽くゆっくりと転がっている。
このままだとウサギに当たったところで1匹か2匹しか倒れたりしないだろう。
そのくらいゆっくりと鞠が転がった。
しかし鞠がウサギに当たった瞬間、僕は驚きを隠せなかった。
「ンッンッ」
「ンッンッ~」
次々とピンになっているウサギたちが倒れた。
そしてフナちゃんはガッツポーズで叫んだ。
「すとらーいく!」
芸達者すぎるウサギ達は接待プレイもできるだなんて……。すごすぎる。
ここまでが一つの完成された芸だろう。
それにしてもガッツポーズではしゃぐフナちゃんもしっかりと倒れたウサギもどちらも可愛い。
「ふふふ、どうかしらウサギさん」
「お兄ちゃん。これがあたしたちの二十年よ」
ニヤニヤとフナちゃんの姉の二人がドヤ顔をかましている。
その姿に「あんたらの仕業だったのか」とツッコミたくなった。
てっきり二十年間真面目に金縛り霊をやり続けていたと思っていたが、まさかウサギ軍団を作っていたとは……。これ金儲けできそうな予感しかしないんだけど。
「新ビジネス、いけるぞこれ……」
「おにーさんもやってみてよー」
悪い想像をしてニヤニヤとしてしまっていたところを幼い元気な声が現実へと引き戻してくれた。
ウサギを見てみると再び並び直してピンのように立っていた。本当にすごい。
「はーい、どうぞー」
「あ、ありがとう」
フナちゃんから鞠を渡された。
先程のフナちゃんのやり方を見たのでわかるが優しくゆっくりと転がしてあげないといけない。
相手は野生の生きた動物だ。思いっきり投げてしまってはかわいそうだ。
おそらく接待プレイができるようにしつけはされているだろう。
「じゃあいくよ。ほいっ」
鞠をコロコロとゆっくり転がした。
そしてそのまま先頭のウサギに当たった。これで倒れると期待しながら見ていたがウサギは倒れてくれなかった。
「あ、あれ?」
そのまま鞠を当てられたウサギは足を器用に使い鞠を蹴り返してきた。
その姿を見て感心してしまったが、今はその感情は置いておこう。
「せ、接待プレイは?」
「ふふ、ウサギさんどうですか? ふふ」
「どうですかって、倒れてくれな……」
言葉を言い終える前にハナちゃんの笑いを堪える顔を見て全てを理解した。
この『ウサギさんが転んだ』の接待プレイはフナちゃんにしか通用しないということに。
そしてこの遊びは、妹想いの二人の姉が二十年の年月をかけて作り上げた、愛が詰まったシスコンゲームだということに気付いてしまった。
そのまま僕たちは楽しく遊んだ。
久しぶりにこんなに笑ったと思えるくらい笑った。楽しかった。
自分も子供の頃に戻ったような感覚になった。
そして楽しい時間は終わりを迎えようとしていたのだった。
「そろそろですよ。ウサギさん」
静かな声でハナちゃんが言った。その言葉を僕はすぐに察した。
「金縛りが解ける時間か……」
ここの旅館では朝五時に金縛りが解けてしまう。
旅館全体に金縛りをかけている影響だろう。カナたちのように長時間金縛りをかけ続けることは難しいのだと思う。
だから五時になる前にヒナと専属霊の契約をしなければいけないのだった。
遊びに夢中になって時間を忘れるところだった。
いや、実際ハナちゃんが声をかけてくれていなければ忘れていた。
それほど楽しく夢中になれたのだ。
「ヒナちゃん、ウサギさんをよろしくね。ちゃんと疲労を吸ってあげるのよ」
「姉貴わかってるよ。それにあたしはいなくならないだろ……そんな改まって言われても困るよ」
「ふふ、それもそうね」
ヒナが専属霊になったからと言って消えていなくなるわけではない。三姉妹はそのまま一緒に居続ける。
ただ僕だけがハナちゃんとフナちゃんの存在を確認できなくなるだけだ。
「ずっと見てますからね。ヒナちゃんと仲良くやってくださいよ。あと悲しませることしたら呪いますからね」
「その、金縛り霊の呪うって言葉冗談抜きで怖いんですけど……」
「ふふ、だって冗談じゃありませんから」
ニッコリと満面の笑みで上品な花のような笑顔でハナちゃんは答えた。
これも妹を想う姉なりの優しさなのだろう。
「おにーさん、たのしかったよー、また遊ぼうねー!」
「うん、遊ぼう!」
太陽のような笑顔を向けるフナちゃんと小指と小指を合わせた。約束の指切りげんまんだ。
これから専属霊の契約をして僕がフナちゃん達を見えなくなってしまうことを知っているのにも関わらず、フナちゃんは僕と約束をした。
幼いゆえの純粋な気持ちからなのかフナちゃんの考えはわからなかったが、僕は約束を果たせると信じて約束をする。
そしてフナちゃんとの指切りげんまんを終わらせ人生のパートナーとなるべき人、いや、金縛りちゃんの顔を見た。
「さて……」
「う、お、お兄ちゃん……」
目と目があったがお互い一瞬で逸らしてしまった。
これから専属霊の契約をするとわかっているからこそ意識してしまい目を逸らしてしまったのだ。
鼓動が早くなってしまう。
この鼓動を止めるにはヒナの唇に……透き通った桃色の唇に契約の……誓いのキスをしなければ……
「ンッ~」
「ンッツンッ」
なぜか野生のウサギたちも真っ直ぐなつぶらな瞳で僕とヒナを見ている。
ウサギ達の中心にはフナちゃんがいて1匹のウサギを抱っこしながら、ウサギと同じような瞳でこっちを見ていた。
その後ろではハナちゃんがニヤニヤと楽しそうにこちらを見ている。
僕の緊張も知らずに「早くしなさい」と言わんばかりに顎で合図を送っている。
僕は心を落ち着かせるために「ふぅう」っと息を吐いた。
そのまま大量の酸素を肺に入れて再び吐く。
落ち着いたところでヒナの目をもう一度見た。
今度は逸らしてしまわないようにじっと見つめた。
「ヒナ」
「お兄ちゃん……」
ああ、緊張する。言葉よりも心臓が口から出てしまいそうだ。
でもタイムリミットは迫ってきている。男ならやるしかない。
「僕の専属霊になってくださいぃい!! お願いしますぅう!!」
僕は頭を下げて右手を伸ばし叫んだ。
叫んでも旅館の人たちには聞こえない。なぜなら金縛りにかかっているからだ。
だから思いっきり叫んだ。心から叫んだ。心臓が飛び出してもいい、そんな思いで叫んだ。
しかしヒナから返事はない。この間は一体なんなんだ……。
僕は100%成立するものだと勘違いしていたのか……。
それじゃ僕はとんだピエロじゃないか。
頭を下げている僕の視界には土と草しか映っていない。
けれどヒナの白いワンピースの裾が映った。その裾はだんだんと僕の視界を埋めていく。
ヒナが僕に近付いたってことだ。でもなんで無言なんだ。返事がなんでないんだ。
そんな疑問を頭に浮かべていた時だった。
「お兄ちゃん……」
ようやくヒナは口を開いた。声は僕の頭の真上からだ。
もうすぐそばに僕が専属霊に選んだ金縛りちゃんがいる。
そのまま僕は言葉を待った。一世一代の告白の返事を待ったのだ。
「顔を上げて……」
「え?」
「顔を上げて……」
どうしたのだろうか。思っていた言葉と全然違う。
もしかしたら姉妹を思って専属霊になるのを断ろうとしているのかもしれない。
そうだよな。二十年も金縛り霊を続けている三姉妹だもんな。そう簡単に専属霊なんかにはなれないよな。
僕もいきなりここに来てしまったのがいけなかった。
もう少しヒナにも考える時間が必要だったのかもしれない。
恐る恐る顔を上げると目の前にはヒナの顔があった。
ぶつかりそうな勢いで顔が近付いてくる。そのまま僕の唇にヒナの柔らかい唇が優しく触れた。
冷たい唇。だけど暖かいものを感る。心からヒナを愛しているとそう思わせるような暖かい何かだ。
これが専属霊の契約のキスなんだとすぐに理解した。
そして唇が離れた瞬間に意識が朦朧とした。今度は草と土の匂いが近付いた。
この土と草の匂いもどこか懐かしい……。僕は倒れてしまったんだと懐かしい匂いでわかった。
どうやら金縛りの制限時間が来てしまったようだ。
「ウサギさん!」
「お兄ちゃん!」
「う、ぅう……」
僕を心配するハナちゃんとヒナの声がする。僕はもう声を出せないところまで意識が失われていっている。
専属霊の契約は間に合ったんだよな……。ギリギリだったけど……これで一安心だ……。
「おにーさんをはこぼー!!」
フナちゃんの声もする……。
おかしい。だって専属霊の契約をしたのにヒナ以外の金縛り霊を認識できるはずがないのに……。
もしかして契約は失敗した?
僕の意識は謎だけを残し暗い暗い闇の中へと消えていった。
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