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第4章

59 僕の選択、そして約束

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「この手だぁあああああー!! 」

 金縛りちゃんたちは唖然としていた。

「そんな……」
「嘘でしょ……」

 僕は金縛りちゃんからの告白を受けた。
 そして僕は専属霊を選ぶために全身で飛び込み、手を伸ばした。

「僕の専属霊になる金縛りちゃんは……」

 僕は両腕を横に伸ばせるだけ伸ばして金縛りちゃんの肩を掴んだ。
 僕が選んだ専属霊は全員だった。
 両手でしっかりと金縛りちゃん全員を包み込んだのだ。

「みんなだ。みんなまとめて僕の金縛りちゃんだ。何があってもこれだけは変えれない。1人だけ選ぶのなんて無理だ。最初からわかってた事だけど……。だから僕は専属霊を1人だけ選ぶなんてできない」

 抱き付かれている金縛りちゃんたちの表情はわからない。
 けれど甘い笑い声が真っ先に僕の耳元に届いた。

「やっぱり。ウサギくんならそうすると思ったよー! 予想通りだー」

「ズルいですよ~なんて欲張りなんですか~! 3人選んでもいいですけど、その中でもレイナを一番に愛してくださいよ~」

 僕の頬をつんつんと細い指で突きながら言ったのはレイナだ。表情は見えないが声から分かることがある。
 レイナの声は安心しているように思えた。

「でもこれで本当にいいのか? 今後、金縛りにかからなくなるじゃん。全員選んだとしてもそれはお別れになるんだよ」

 リナは全員を選んだ僕に対して今後の現実を突きつけてきた。当然のことだ。
 1人の専属霊を選ばなかった時点で今後、二度と金縛りにかからなくなるという事になる。
 つまり今、僕が選んだ3人の金縛りちゃんに会えなくなるという事になる。

「これでいいんですよ。これがベストだと思います。誰か1人を選んで他の誰かに会えなくなるよりも、ここで全員の手を取った方が僕は良いと思いましたから」

 そしてここから先は僕のわがまま。

「これからの心配はいらないよ。何とかして金縛りにかかってみせる。絶対にまた会えると信じてる。最終的にはお星様になってから会えるかもしれないけど……僕はそれまで待てない。だから僕は全員の手を取った。みんな待っててね。絶対に会う。約束するよ」

 僕のわがままは、金縛りにかからない体質になった後に金縛りにあう方法を見つけることだ。
 そして大好きな金縛りちゃんたちに会うということに繋がる。それが最終目標だ。

 僕のわがままを聞いて先に口を開いたのはレイナだった。

「レイナはいつまでも待ってますよ」

 その言葉のあと、レイナは僕を押し倒した。同時にカナもリナもベットに倒れた。

「ちょ、レイ……ぁ」

 僕の唇が塞がった。僕の唇を塞いだのはレイナの透き通った桃色の唇だった。
 ひんやりしていて柔らかい唇。
 レイナは僕たちをベットに押し倒したあと、真っ先に僕の唇にキスをしたのだ。

 その姿を見たリナが顔を赤くしながら叫んだ。

「やりやがったな! おチビちゃん!」

 リナは叫んだあとレイナを僕から無理やり剥がした。
 そして躊躇う事なく僕の唇目掛けて迫ってきた。

「んっ」

 リナの柔らかい唇が僕の唇と重なった。
 重なったのと同時に勢いを殺しきれずに前歯と前歯が当たってしまった。
 前歯がぶつかった瞬間に僕は痛みで離れてしまった。

「ご、ごめん……」

「あたしこそ……」

 リナは顔を赤くしながら、申し訳なさそうに下を向いてしまった。
 そんなリナを見て勝ち誇った顔をしたのはレイナだった。

「下手くそなんですね」

「う、うるさい」

 リナの顔がさらに赤くなった。

 そして小首を傾げて僕たちの姿を不思議そうにカナが見つめていた。
 不思議そうに見つめるのは当然だろう。
 僕がレイナとリナとキスをした事がある事を知らない人物だからだ。
 なぜ知らなかったのか。
 それはカナはいつも僕の膝の上で寝ていて、その現場に遭遇していなかったからだ。

「何で2人ともそんなに、キ、キスを……は、恥ずかしい!」

「い、いや、そ、それは……」

 正直に言えばいいものの何故か誤魔化そうとしてしまった。
 そんな誤魔化そうとした僕の言葉をレイナが遮った。

「3人選ばれましたけど、その中でもレイナが1番ですから! レイナが1番にキスしてもいいじゃないですか! おっぱいさんは引っ込んでてくださいよ。キスも下手なんですから。今はレイナとウサギくんが愛し合う時間なんですよ~!」

 煽るレイナに対して鼻息を荒くしたリナが反論した。

「何だとぉお! おチビのくせに! 胸がないくせに! ウサギくんはな、おっぱいが大好きなんだよ! だからおっぱいが一番大きいあたしが一番なんだよ! ぺっちゃんこ!」

「何ですかそれ! ただの脂肪じゃないですか! レイナくらいがちょうどいいんですよ! ウサギくんはこのくらいが大好きなんですよ!」

「それは絶対にない! 大きい方が好きなんだよ!」

 レイナとリナが争い始めた。その隙を見て僕はベットの端へ逃げた。

 僕がベットの端に行ったのを見たカナは顔を赤くしながら追いかけてきた。
 そんなカナに向かって僕は慌てながら口を開いた。

「ご、誤解しないでね……そ、その僕は被害者……というか、なんというか……だから、その……あはは……」

 変な光景を見られてしまい何だか心苦しい。そして僕は、まだキスをした事がないカナの透き通った桃色の唇を無意識に見ていた。

「あんなに簡単にキスしちゃうなんて……ハ、ハレンチすぎる!」

「あはは……なんかごめんなさい……」

 なぜだろう。何故か謝りたくなった。

「じゃあ……こっち向いて」

「ん?」

「これで許してあげる」

 その瞬間、僕の唇に柔らかいものが触れた。
 目の前には黒髪の美少女の顔がある。
 つまり僕の唇に触れた柔らかいものというのは……
 カナの唇だ。

 透き通った桃色の唇。ひんやりしていて気持ちいい。そしてぷるぷるで柔らかい。
 プリンやゼリーのようなデザートと勘違いしてしまいそうに柔らかいのだ。このまま食べてしまいたくなるほど。

 唇に全てを奪われ思考停止しかけた僕は、カナとキスをした事を理解した瞬間、我に返った。そして慌てた。

「わぁわわわ、カ、カナ何やってるの!」

「何ってキスよ。みんなやっててズルいんだから~」

 顔を赤らめながら膨れっ面になるカナ。そんなカナの表情は初めて見た。
 こんなに一緒にいるのにまだまだ知らない表情がいっぱいだ。
 専属霊の契約ができなかった僕は、金縛りちゃんたちに会う方法を見つけるまでは暫しのお別れになるだろう。
 それまでにもっとたくさんみんなのいろんな表情を見ていたいと思った。


「カ、カナちゃん! レイナのウサギくんになんて事を~」

「おチビちゃんのウサギくんじゃなくてあたしのウサギくんだ!」



 レイナとリナの声が聞こえたのを最後に僕の意識は遠くなっていった。
 カナにキスされた衝撃が大きすぎる。キスというもの自体には慣れていない。だから余計だ。

 キスする相手が初めだと信じられないほどドキドキする。鼓動が早くなり張り裂けそうだ。
 レイナとリナと、初めてキスしたときも同じような感覚を味わった。

「う、ウサギくん?」

 僕は意識が途切れる瞬間まで目の前の光景を目に焼き付けようとしていた。
 心配そうな表情の花嫁たち。

 そんな表情も目に焼き付けて最後の最後まで意識を保とうとした。

 全員に愛されている。その事実だけはずっと僕の胸の中にある。

 僕の意識はもう限界だ。キスされて気絶するなんて童貞らしいじゃないか。


「カナ、レイナ、リナ……ありがとう……」


 意識が完全に消える前に最後に一言だけ感謝の言葉を伝えた。
 小さく弱々しい声だったのは自分でも分かる。それでも金縛りちゃんたちには僕の声は届いていたはずだ。

 そのまま意識は暗い暗い闇の中へと消えていった。


「ウサギくん……ウサギくん……ウサ……」


 あぁ、最後に見たのはみんなの不安がる顔か……。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 ピピピピッピピピピッ

 目覚まし時計の鳴る音に気が付き、僕の意識は覚醒した。

 僕は気を失ってから一度も目を覚さなかったのだ。気を失い倒れた場所とは違い、ちゃんとベットの上で寝ていた。
 夢でも見ていたかのような感覚だったが、ベットには3人の金縛りちゃんが寝ていたであろう跡が残っている。
 それに体がいつも以上に調子がいい。調子がいいのに……心の中にすっぽりと開いたこの虚無感は何なんだろうか。
 いなくなってしまった。そんな別れの感情とも言える。

 本当にこれで終わってしまったのだろうか。もう本当に会えなくなってしまったのだろうか。

 信じられない。信じたくない。

 あの幸せな日々はもう二度と訪れないのか。

「うぅ……ぁぅ……」

 心の中にすっぽりと開いた虚無感を寂しさと悔しさと情けなさの涙が埋める。

 今までの金縛りちゃんとの出来事が鮮明に蘇った。だから自然と涙がこぼれ落ちる。
 もう心の中の悲しみを入れる容器は満パンだ。だから涙が溢れて瞳からこぼれ落ちたんだ。

 ポロポロ、ポロポロと大粒の涙がこぼれる。

「ぁ……ぅ……」

 せっかく良かった体の調子が悲しみに蝕まれる。
 それでも僕は乱暴に涙を拭い歯を食いしばった。

 こんなところで泣いて立ち止まるわけにはいかないんだ。
 約束したじゃないか。また会うって。

 カナとレイナとリナ。それに兎村の3姉妹にも同じ約束をしている。

 だから何としてでも金縛りにかかる方法を見つけるんだ。そして金縛りちゃんたちに会ってみせる。


 最初だってそうだった。
 金縛りにあうために試行錯誤繰り返していた。そして金縛りにかかってカナに会えたんだ。

 今回だってうまくいくはずだ。いや、うまくいかなきゃ意味がない。
 僕の人生はもう金縛りちゃん無しには生きていけない。


 悲しい気持ちに蝕まれていたが、その気持ちを押し殺した。
 そして金縛りちゃんたちのことを考えると力が漲ってくる。


 せっかく掴んだ手をここで離すわけにはいかないんだ。
 また金縛りちゃんに会うためになんでもしてやる。

 絶対に金縛りちゃんに会う。絶対にだ。
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