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第3章
40 布団の中の金縛り霊は
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ふと意識が覚醒した。この時間に起きるのは珍しいことではない。
なぜならいつも金縛りにあう時間だからだ。
ただ金縛りをかけにくる金縛り霊の二人は明日まで謹慎処分が解除されない。
金縛り以外でこの時間に起きたことはほとんどない。なので僕は違和感を感じた。
もしかしたらオカマの金縛り霊のユウナさんが明日の事を伝えに来たのだろうか? あり得る。
もう会いたくなかった金縛り霊だったが今は誰でもいいから話し相手になってほしい。そして金縛り霊ならこの疲労や悲しみを吸い取ってほしい。
誰でもいいから僕の心を癒してほしい。そう思うくらい僕の心はどん底まで沈んでいた。
僕の心の中は黒色と紫色が混ざった悲しみの感情がある。
すると突然、僕の右足首にが掴まれた。これは金縛り霊のお決まりの登場シーンだ。
金縛り霊の存在を知らなければこの時点で気を失ってしまうレベルの恐怖だろう。
トラウマを植え付けたオカマのユウナさんが来ても、もう気を失うことはないだろう。
それくらい金縛り霊に対して気持ちは準備は整っていた。
掴まれていた感覚が徐々に上へ上へと上がってくる。
足首から太もも、腰、そして胸にまで上がってきた。いつも胸まで上がると止まる。
ここまでが金縛り霊のお決まりの登場シーンだ。この感覚も役1ヶ月ぶり。久しぶりだ。
家族旅行の時に出会った金縛り霊3姉妹はそのまま抱き付いていたから、このように徐々に焦らしながら上がってくる感覚はなかった。
焦らしプレイと言っていいものなのだろうか。この感覚は本当に久しぶりだ。
胸のところで止まっている金縛り霊。しかしいつもとは違う……。僕は違和感に気が付いた。
布団の膨らみ方がユウナさんのものではない。オカマのユウナさんは体が大きい。
カナちゃんの二回り、いや、三回り、四回りくらい大きいのだ。だから布団はもっと膨らむはず。
でも目の前にある布団の膨らみはカナちゃんくらいの膨らみくらいしかない。
それに右足を掴むのはカナちゃんの特徴でもある。
もしかしたらカナちゃんかもしれない。
落ち込んでいる僕を1日早く励ましに来てくれたのだろうか。それは嬉しいが謹慎処分解除1日前に規則を破って大丈夫なのだろうか? 僕のためとはいえ心苦しい。また会えない時間が延長されてしまうではないか。
もしかしたらカナちゃんだけ謹慎処分が1日早く解除されたってパターンも考えられる。
僕から見てもカナちゃんは相当優秀な金縛り霊だと見た。だから謹慎処分が早く解除されてもおかしくない。むしろ可能性が高いのではないか?
まだ胸あたりで止まっている違和感は姿を表そうとはしない。
なぜだろうか。
僕の疲労が蓄積されすぎて布団から顔を出す前に栄養を吸い取りすぎて眠ってしまったのだろうか。
それならいつもの可愛い甘い音色の寝息が聞こえるはずだ。
なぜ顔を出さない……。
不安に思いながらも布団をめくろうと布団を掴んだ。
もしカナちゃんじゃなかったらどうしよう。不安が一気に恐怖へと変わっていく。
だっておかしいじゃないか。
謹慎処分を抜け出して会いに来てくれたとしたらすぐに顔を出してくれるはずだ。
久しぶりだから恥ずかしいとか思うような子じゃないはずだ……。
僕は恐怖心から別の可能性を考えてしまった。
もしかして別の金縛り霊か?
僕の疲労や悲しみを感じ取って現れたのかもしれない。
そしてこの膨らみ方は確実にオカマのユウナさんのものではない。
なら一体誰だ?
僕の知らないもう一人の金縛り霊だろうか。
顔も特徴も何も聞かされていない。女なのか、男なのか、はたまたオカマなのかわからない。
何も知らないことが一番怖い。無知というスパイスによって一気に恐怖の味が強くなる。
もしもカナちゃん達みたいな金縛り霊じゃなかったらどうする? 一般的に知られている怖い容姿をしていたら……。
驚かせるために布団から顔を出さないとしたら……僕が布団をめくるのを待っているとしたら……。
僕がここで布団をめくるのは危険な行為なのではないか?
掴んでいた布団を離した。めくらなくてよかったと心から安堵した。
しかし恐怖はこれで終わらない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
何なんだよ。
なぜ顔を出さないんだ。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
ザ…………ザッザ…………
布団の中の恐怖の違和感が動き出した。
姿を現すのか?
僕は身構えた。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
ザバッ…………
その恐怖の違和感が顔を出した。
「うぅ」
つい恐怖で声が漏れてしまった。
僕は恐怖で目を閉じてしまってまだ姿を見ていない。
ゆっくりと目を開ける。なぜか左目は力を入れて瞑ったままだ。右目だけで姿を現した恐怖の違和感を確認する。
ゆっくりと……ゆっくりと……瞑っていて真っ暗だった右目に光が入り込んでくる。
それと同時に恐怖の違和感の正体を確認していく。
そして想像を超える衝撃で僕の頭は真っ白になった。
真っ白になった頭の中では「え?」という言葉が真っ先に出た。
布団の中から現れた恐怖の違和感に僕は声をかけた。
「何で…………何で……こ、ここに…………?」
言葉と共に涙が溢れ出た。
なぜなら布団の中から出てきたのは……
「え、えへへ~」
金色の長い髪が特徴的で笑うと八重歯が見えて、白いワンピースでも豊満な胸がはっきりとわかる。
この金縛り霊を僕は知っている。いや、金縛り霊としては知らない。この人を僕は知っている。
「り、リナ先輩…………ですよね……」
目の前の人物が僕の知っているリナ先輩なのかどうか確認するために、泣きながら必死に言葉を繋いだ。
「ウサギくん、来ちゃったよ~! どう、どう? 驚いた~?」
僕の知っている話し方と明るい声、そして明るい笑顔。リナ先輩だ。目の前に亡くなったはずのリナ先輩がいる。
生前のように明るい笑顔で八重歯を見せながら布団の中から現れた。
もう二度と見る事がなかいリナ先輩の姿を見て僕は嬉しさのあまり声を出して泣いた。
そして僕は体を起こし僕の上に乗るリナ先輩に向かって思いっきり飛びついて押し倒した。
「うぅう、あぅ……」
「ちょっと、う、ウサギくん!? お、落ち着いて、泣かないで、泣かないで!」
「ぁぅ……ぅう……せんぱい、ううぅ……せん、ぱ、い……ずぅう……ぐぅ、」
「よしよし、落ち着いて、落ち着いて」
僕に押し倒されて鼻水と涙を大量に付けられているリナ先輩は、僕を落ち着かせるために強く抱きしめ返してくれた。
強く優しく……そして、冷たく……。
リナ先輩の体は生前の頃の温もりは無かった。
金縛り霊はみんな体が冷たい。けれど冷たい体からでも温かい何かを僕は感じた。
「うぅ……あぁあぅう……せんぱい……なんで、どうして……うぅう……」
「あたしも驚いたんだけどさ、なんか金縛り霊っていう幽霊になっちゃったみたいなんだ。金縛りって聞いてピンと来たよ。もしかしたらウサギくんに会えるんじゃないかってね。そしたら本当に会えた! 金縛りにかかってるのにウサギくんが動いて喋ってるのにはちょっと驚いちゃったけど、おかげで話もできるしこれからは毎日、金縛りをかけにくるからねっ! 覚悟しててよ~」
いつものように小悪魔な笑顔を見せるリナ先輩。金縛り霊になっても生前のころの美しさは変わらない。
「あっうぅう、ぐすっ、ううぅ……」
僕は泣きすぎて言葉が出せなかった。
嬉しすぎる。リナ先輩に毎日会えることも。もう会えないと思っていたリナ先輩に会えたことも嬉しすぎる。
それからしばらくはリナ先輩は僕のことを抱きしめながら僕の背中を撫でて慰めてくれていた。
リナ先輩の力なのか金縛り霊の不思議な力なのかわからないが、僕の気持ちはだんだんと落ち着いてきた。
泣いていたはずだったのにいつの間にか意識が朦朧とし始めた。
リナ先輩を押し倒したまま眠ってしまいそうな感覚だ。ウサギ島でも似たような感覚に毎回襲われていた。
リナ先輩が金縛り霊として現れて安心したから眠くなったのかもしれないが、多分違う。
金縛り霊になったリナ先輩が僕の疲労や悲しみなどを吸い取ってくれているんだと思う。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おやおや眠ってしまったのかい?」
僕とリナ先輩二人きりの僕の部屋に知らない男の声が現れた。
僕は朦朧とした意識の中、その声に集中した。
「あっ! さっきの白い人~!」
その声にリナ先輩は反応した。
「命の恩人にそれはないんじゃないかなぁ、ははは……まあいいけど」
「そうでした。すみません……えっと、ユーさんでしたっけ?」
リナ先輩と話す声の人物は「ユー」という名前らしい。
「そうだよ。それに僕のことはさん付けしなくていいよ。ユーで。ところで金縛り霊のお試し体験は気に入ってくれたかな?」
「はい! この吸い取ってるやつすごいですね。ぞわ~って感じで力が漲ってきます! 生まれて初めて感じる不思議な感覚です! 何だろう。ウサギくんの全てを感じてる気がして、その、すごく、すごく興奮します」
「ははは、そうかい。気に入ってもらえて嬉しいよ。でもウサギくんはここの界隈だと人気者だからね! ライバルが多いと思うよ?」
「人気者? ライバル?」
「まあ、そのうちわかるさ。では今日から金縛り霊として頑張ってもらうけどいいかな?」
「はい! あたし金縛り霊頑張ります! よろしくお願いします!」
「うん。元気があって良いね。これから金縛り霊として頑張ってね。それでは僕はここで失礼するよ。ちゃんと疲労や悲しみを吸い取ってあげるんだよ? キミが死んですごく悲しんでいたからね」
「りょーかいしました!」
謎の人物「ユー」との会話が終わった。
リナ先輩はこれから金縛り霊としてやっていくみたいだ。
この会話から「ユー」って人は僕の知らない金縛り霊で間違いないと思う。
オカマがいるってことは男もいるんだよな。体が動かなくて姿は見えなかったけど。
「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」
会話が終了してすぐにリナ先輩の寝息も聞こえてきた。
生前と変わらない可愛らしい腑抜けた寝息だ。
やばい。僕もそろそろ限界だ。
体が動かないからリナ先輩を押し倒したまま寝るしかない……。
「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」
リナ先輩の寝息……心が安らぐ……リナ先輩……会えてよか……った……。
僕の意識は暗い暗い闇の中へと消えていった。
なぜならいつも金縛りにあう時間だからだ。
ただ金縛りをかけにくる金縛り霊の二人は明日まで謹慎処分が解除されない。
金縛り以外でこの時間に起きたことはほとんどない。なので僕は違和感を感じた。
もしかしたらオカマの金縛り霊のユウナさんが明日の事を伝えに来たのだろうか? あり得る。
もう会いたくなかった金縛り霊だったが今は誰でもいいから話し相手になってほしい。そして金縛り霊ならこの疲労や悲しみを吸い取ってほしい。
誰でもいいから僕の心を癒してほしい。そう思うくらい僕の心はどん底まで沈んでいた。
僕の心の中は黒色と紫色が混ざった悲しみの感情がある。
すると突然、僕の右足首にが掴まれた。これは金縛り霊のお決まりの登場シーンだ。
金縛り霊の存在を知らなければこの時点で気を失ってしまうレベルの恐怖だろう。
トラウマを植え付けたオカマのユウナさんが来ても、もう気を失うことはないだろう。
それくらい金縛り霊に対して気持ちは準備は整っていた。
掴まれていた感覚が徐々に上へ上へと上がってくる。
足首から太もも、腰、そして胸にまで上がってきた。いつも胸まで上がると止まる。
ここまでが金縛り霊のお決まりの登場シーンだ。この感覚も役1ヶ月ぶり。久しぶりだ。
家族旅行の時に出会った金縛り霊3姉妹はそのまま抱き付いていたから、このように徐々に焦らしながら上がってくる感覚はなかった。
焦らしプレイと言っていいものなのだろうか。この感覚は本当に久しぶりだ。
胸のところで止まっている金縛り霊。しかしいつもとは違う……。僕は違和感に気が付いた。
布団の膨らみ方がユウナさんのものではない。オカマのユウナさんは体が大きい。
カナちゃんの二回り、いや、三回り、四回りくらい大きいのだ。だから布団はもっと膨らむはず。
でも目の前にある布団の膨らみはカナちゃんくらいの膨らみくらいしかない。
それに右足を掴むのはカナちゃんの特徴でもある。
もしかしたらカナちゃんかもしれない。
落ち込んでいる僕を1日早く励ましに来てくれたのだろうか。それは嬉しいが謹慎処分解除1日前に規則を破って大丈夫なのだろうか? 僕のためとはいえ心苦しい。また会えない時間が延長されてしまうではないか。
もしかしたらカナちゃんだけ謹慎処分が1日早く解除されたってパターンも考えられる。
僕から見てもカナちゃんは相当優秀な金縛り霊だと見た。だから謹慎処分が早く解除されてもおかしくない。むしろ可能性が高いのではないか?
まだ胸あたりで止まっている違和感は姿を表そうとはしない。
なぜだろうか。
僕の疲労が蓄積されすぎて布団から顔を出す前に栄養を吸い取りすぎて眠ってしまったのだろうか。
それならいつもの可愛い甘い音色の寝息が聞こえるはずだ。
なぜ顔を出さない……。
不安に思いながらも布団をめくろうと布団を掴んだ。
もしカナちゃんじゃなかったらどうしよう。不安が一気に恐怖へと変わっていく。
だっておかしいじゃないか。
謹慎処分を抜け出して会いに来てくれたとしたらすぐに顔を出してくれるはずだ。
久しぶりだから恥ずかしいとか思うような子じゃないはずだ……。
僕は恐怖心から別の可能性を考えてしまった。
もしかして別の金縛り霊か?
僕の疲労や悲しみを感じ取って現れたのかもしれない。
そしてこの膨らみ方は確実にオカマのユウナさんのものではない。
なら一体誰だ?
僕の知らないもう一人の金縛り霊だろうか。
顔も特徴も何も聞かされていない。女なのか、男なのか、はたまたオカマなのかわからない。
何も知らないことが一番怖い。無知というスパイスによって一気に恐怖の味が強くなる。
もしもカナちゃん達みたいな金縛り霊じゃなかったらどうする? 一般的に知られている怖い容姿をしていたら……。
驚かせるために布団から顔を出さないとしたら……僕が布団をめくるのを待っているとしたら……。
僕がここで布団をめくるのは危険な行為なのではないか?
掴んでいた布団を離した。めくらなくてよかったと心から安堵した。
しかし恐怖はこれで終わらない。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
何なんだよ。
なぜ顔を出さないんだ。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
ザ…………ザッザ…………
布団の中の恐怖の違和感が動き出した。
姿を現すのか?
僕は身構えた。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。
ザバッ…………
その恐怖の違和感が顔を出した。
「うぅ」
つい恐怖で声が漏れてしまった。
僕は恐怖で目を閉じてしまってまだ姿を見ていない。
ゆっくりと目を開ける。なぜか左目は力を入れて瞑ったままだ。右目だけで姿を現した恐怖の違和感を確認する。
ゆっくりと……ゆっくりと……瞑っていて真っ暗だった右目に光が入り込んでくる。
それと同時に恐怖の違和感の正体を確認していく。
そして想像を超える衝撃で僕の頭は真っ白になった。
真っ白になった頭の中では「え?」という言葉が真っ先に出た。
布団の中から現れた恐怖の違和感に僕は声をかけた。
「何で…………何で……こ、ここに…………?」
言葉と共に涙が溢れ出た。
なぜなら布団の中から出てきたのは……
「え、えへへ~」
金色の長い髪が特徴的で笑うと八重歯が見えて、白いワンピースでも豊満な胸がはっきりとわかる。
この金縛り霊を僕は知っている。いや、金縛り霊としては知らない。この人を僕は知っている。
「り、リナ先輩…………ですよね……」
目の前の人物が僕の知っているリナ先輩なのかどうか確認するために、泣きながら必死に言葉を繋いだ。
「ウサギくん、来ちゃったよ~! どう、どう? 驚いた~?」
僕の知っている話し方と明るい声、そして明るい笑顔。リナ先輩だ。目の前に亡くなったはずのリナ先輩がいる。
生前のように明るい笑顔で八重歯を見せながら布団の中から現れた。
もう二度と見る事がなかいリナ先輩の姿を見て僕は嬉しさのあまり声を出して泣いた。
そして僕は体を起こし僕の上に乗るリナ先輩に向かって思いっきり飛びついて押し倒した。
「うぅう、あぅ……」
「ちょっと、う、ウサギくん!? お、落ち着いて、泣かないで、泣かないで!」
「ぁぅ……ぅう……せんぱい、ううぅ……せん、ぱ、い……ずぅう……ぐぅ、」
「よしよし、落ち着いて、落ち着いて」
僕に押し倒されて鼻水と涙を大量に付けられているリナ先輩は、僕を落ち着かせるために強く抱きしめ返してくれた。
強く優しく……そして、冷たく……。
リナ先輩の体は生前の頃の温もりは無かった。
金縛り霊はみんな体が冷たい。けれど冷たい体からでも温かい何かを僕は感じた。
「うぅ……あぁあぅう……せんぱい……なんで、どうして……うぅう……」
「あたしも驚いたんだけどさ、なんか金縛り霊っていう幽霊になっちゃったみたいなんだ。金縛りって聞いてピンと来たよ。もしかしたらウサギくんに会えるんじゃないかってね。そしたら本当に会えた! 金縛りにかかってるのにウサギくんが動いて喋ってるのにはちょっと驚いちゃったけど、おかげで話もできるしこれからは毎日、金縛りをかけにくるからねっ! 覚悟しててよ~」
いつものように小悪魔な笑顔を見せるリナ先輩。金縛り霊になっても生前のころの美しさは変わらない。
「あっうぅう、ぐすっ、ううぅ……」
僕は泣きすぎて言葉が出せなかった。
嬉しすぎる。リナ先輩に毎日会えることも。もう会えないと思っていたリナ先輩に会えたことも嬉しすぎる。
それからしばらくはリナ先輩は僕のことを抱きしめながら僕の背中を撫でて慰めてくれていた。
リナ先輩の力なのか金縛り霊の不思議な力なのかわからないが、僕の気持ちはだんだんと落ち着いてきた。
泣いていたはずだったのにいつの間にか意識が朦朧とし始めた。
リナ先輩を押し倒したまま眠ってしまいそうな感覚だ。ウサギ島でも似たような感覚に毎回襲われていた。
リナ先輩が金縛り霊として現れて安心したから眠くなったのかもしれないが、多分違う。
金縛り霊になったリナ先輩が僕の疲労や悲しみなどを吸い取ってくれているんだと思う。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おやおや眠ってしまったのかい?」
僕とリナ先輩二人きりの僕の部屋に知らない男の声が現れた。
僕は朦朧とした意識の中、その声に集中した。
「あっ! さっきの白い人~!」
その声にリナ先輩は反応した。
「命の恩人にそれはないんじゃないかなぁ、ははは……まあいいけど」
「そうでした。すみません……えっと、ユーさんでしたっけ?」
リナ先輩と話す声の人物は「ユー」という名前らしい。
「そうだよ。それに僕のことはさん付けしなくていいよ。ユーで。ところで金縛り霊のお試し体験は気に入ってくれたかな?」
「はい! この吸い取ってるやつすごいですね。ぞわ~って感じで力が漲ってきます! 生まれて初めて感じる不思議な感覚です! 何だろう。ウサギくんの全てを感じてる気がして、その、すごく、すごく興奮します」
「ははは、そうかい。気に入ってもらえて嬉しいよ。でもウサギくんはここの界隈だと人気者だからね! ライバルが多いと思うよ?」
「人気者? ライバル?」
「まあ、そのうちわかるさ。では今日から金縛り霊として頑張ってもらうけどいいかな?」
「はい! あたし金縛り霊頑張ります! よろしくお願いします!」
「うん。元気があって良いね。これから金縛り霊として頑張ってね。それでは僕はここで失礼するよ。ちゃんと疲労や悲しみを吸い取ってあげるんだよ? キミが死んですごく悲しんでいたからね」
「りょーかいしました!」
謎の人物「ユー」との会話が終わった。
リナ先輩はこれから金縛り霊としてやっていくみたいだ。
この会話から「ユー」って人は僕の知らない金縛り霊で間違いないと思う。
オカマがいるってことは男もいるんだよな。体が動かなくて姿は見えなかったけど。
「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」
会話が終了してすぐにリナ先輩の寝息も聞こえてきた。
生前と変わらない可愛らしい腑抜けた寝息だ。
やばい。僕もそろそろ限界だ。
体が動かないからリナ先輩を押し倒したまま寝るしかない……。
「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」
リナ先輩の寝息……心が安らぐ……リナ先輩……会えてよか……った……。
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