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第3章
37 恋のジェットコースターは突然に
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僕はリナ先輩の家に泊まりに来てしまった。
前回と同じく二人掛けのソファーに座っている。またこのソファーに座れるとは思わなかった。
再びリナ先輩の家に来てしまったが、大丈夫なのだろうか?
泊まる事になったのはいいが、何も起こらないとは限らない。
いや、前回は何も無かったし……何も無かったよな……。
まあ、今回も大丈夫だろう。
リナ先輩のベットの上には、以前僕がプレゼントした『メスウサギのクッション』が置かれていた。
形が少し変化しているので、抱き枕として活躍してるように思えた。
「ジャジャーン!!!!」
陽気な掛け声と共にリナ先輩が部屋の扉を開けて登場した。
僕が兎村で買ったお土産の『ウサギの着ぐるみパジャマ』を着ている天使のように可愛いリナ先輩が扉の前に立っていた。
「ちょっと大きいけど着心地最高だよ~、ありがとう! どう、どう? 似合ってる?」
グラビアアイドルばりに様々なポーズを取って僕に見せつけている。想像以上に似合っていて破壊力抜群だ。
いつもとは違う一面で、ときめいてしまった。ウサギとリナ先輩の組み合わせは最高すぎる。
「に、似合ってますよ! か、可愛いです!!」
「本当~? ありがとう! こういう着ぐるみみたいなの着てみたかったんだよねー」
リナ先輩も気に入っているみたいで良かった。
「じゃあちょっと料理してくるね。せっかく着たけど汚れちゃうといけないから脱いじゃうわ。あっ、そうだ! 今日はこれウサギくんが着てよ! そのまま来ちゃったから着替えとか無いでしょ?」
「えぇぇえええ! は、恥ずかしくて着れないですよ……というか着替えの事とかすっかり忘れてました……」
「だから着てみてよ~、ウサギなんだしウサギくん似合うと思うぞ~」
八重歯を見せて小悪魔のようにリナ先輩は笑った。
確かに僕も一度は着てみたいとは思っていたパジャマだが、リナ先輩が着ていたものを着るなんてエロすぎやしないか?
僕の考えすぎか?
僕は童貞だから考えすぎちゃうのか?
リナ先輩は着替えるために扉を閉めた。数分後、扉が少し開いた。
その扉の隙間から脱ぎたてホヤホヤの『ウサギの着ぐるみパジャマ』を僕に向かって投げてきた。
「じゃあ着替えといてね~」
扉の隙間から顔だけを出して楽しそうにウインクを飛ばして来た。
そのウインクに僕はドキッとしてしまった。
そして受け取ったウサギの着ぐるみパジャマの温もりを感じて顔が赤くなった。
リナ先輩の脱ぎたてのパジャマ。すでにリナ先輩の匂いがついている。
本当に着ていいのだろうか?
こんなご褒美は初めてだ。緊張する。
リナ先輩の温もりが消える前に自分の服を脱ぎ、パジャマを着るための覚悟を決めた。
まずは足から通す。そして腕。前に付いているボタンを閉めて着替えは完了。
何だろう。この感じ。似合っているかどうか気になる以前にすごい興奮する。
リナ先輩と一つになった気分だ。
もしかしてこれで童貞卒業?
いや、ただ脱ぎたての着ぐるみパジャマを着ただけだ。
それだけじゃ童貞は卒業できない。
着替え終わったタイミングでリナ先輩が様子を見に来た。
「おっ、やっぱり似合ってるじゃん。というか、あたしよりも似合ってるんじゃね? ウサギくんがウサギって本当にピッタリだな!」
「か、からかわないでくださいって~、でも本当に似合ってますか?」
「うん。似合ってる!」
「な、なんか照れちゃいますね……」
そのままリナ先輩は満足そうに笑いながら台所へと戻っていった。
それから数分後に料理を運びに部屋に戻って来た。
前回はジャガイモ料理が多かったけれど、今回はナス料理が多い。
どれも美味しそうだ。
「前回はジャガイモで、今回はナスが多いなとか思ったでしょ~?」
思考を読まれたのかと思うくらいのタイミングだった。
「いやいや、思ってませんよ~! どれも美味しそうだなって見てたんですよー!」
「ふふふっ、口に合うかどうかわからないけど、愛情込めて作ったからな!」
「は、はい! いただきます!」
一口サイズに切られたナスを口に運ぼうとした時にリナ先輩の恋愛について思い出してしまった。
前回の食事中に恋バナをしたから、それで思い出したのだろう。
「ところでリナ先輩あれから……その……恋は発展しましたか???」
食事中の恋バナは話しやすいタイミングだったので、チャンスを逃さず自然に聞いてみた。
「どう思う? 発展したのかな? う~ん発展してないかな? どうだろう?」
「そ、そうなんですか、てっきりもう付き合ってるのかと思いましたよ」
「付き合ってたらウサギくんを家には誘わないよ……ご飯粒……」
リナ先輩はそのまま顔を近付けてきた。
そして僕のほっぺに付いていたご飯粒をパクッと食べた。
ほっぺにキスをされたのだ。
「ちょちょちょ、えぇえええ、リナ先輩、な、何、してるんですかー! ご、ご飯粒なら自分で取りますから教えてくださいよー!」
顔から火が吹き出てしまうんじゃないかってくらい顔が熱くなった。
「いや、取ってほしくてわざと付けたのかと思ったよ~ふふふっ」
「そ、それでも、く、口じゃなくて手で、と、取れば良かったじゃないですか!」
何だったんだ今のは。口でパクッとされたぞ。
普通なのか?
普通の行動なのか?
童貞の僕には理解できなかった。
でも恥ずかしい。嬉しいよりも恥ずかしすぎる。
そんな僕の恥ずかしがる態度をリナ先輩はじっと見てから口を開いた
「ん~、発展してないみたいだよ~」
恥ずかしがってる僕を見て何だか楽しそうだ。
「ねぇねぇところで兎村はどうだったの~? 話聞かせてよー!」
リナ先輩は突然話題を変えた。
4泊5日の家族旅行の事をそのまま伝えた。
流石に金縛り霊の事はそのまま話しても信じてもらえなさそうだ。
なので金縛り霊という言葉は避けた。
金縛り霊3姉妹は別の旅行客の3姉妹として話を進めてみた。
両親との話のときは楽しく聞いていたのに3姉妹の話になるとなぜか退屈そうに話を聞いているように見えた。
気のせいだろうか。
そんなこんなで楽しいお食事、楽しい会話、いつの間にかシャワーも浴びて、就寝時間となりました。
電気を消してベットへ。お互いは背中合わせに寝ている。
何この急展開!!!!!
早すぎる!!!!!
楽しい時間はあっという間って言うけどもあっという間過ぎだよ。
家族旅行の話から気が付けばベットで背中合わせ。急展開にも程がある!!!!!
おかげさまで心の準備ができてない。
というか前回もこんな感じだったから大丈夫だよな?
「ウサギくん起きてる?」
「お、起きてますよ……緊張で、な、なかなか寝れないですよ」
前回も寝るまでにかなり時間を費やした。今回も寝れるわけがない。
そしてリナ先輩の静かな声。何か重要な事を言いそうな気がする……
「あたしの好きな人はウサギくんなの。だから付き合ってほしいな」
「え?」
えぇええええええええええええ!!!!!!!!!!!
ここはジェットコースターか! 恋のジェットコースター!
何もかも展開が早すぎてついていけないって。
緊張で全身が熱くなった。頭の中もぐつぐつ沸騰して考えがまとまらない。
童貞の僕は恋のジェットコースターから振り落とされないように必死だった。
『あたしの好きな人はウサギくんなの。だから付き合ってほしいな』
リナ先輩からの突然の告白。この言葉が頭の中を掻き乱す。
僕の頭の中では理性が失いつつあった。そしてこの状況を危険とみなし赤信号を出している。
ウォオオン~ウォオオオン~
『緊急事態、緊急事態、山中愛兎、25歳童貞、リナ先輩からの告白』
ウォオオン~ウォオオオン~
頭の中の僕がこの状況の理解に苦しむ。
返す言葉を必死に探すが見つからない。どんな言葉で返せば一番いいのかわからない。
付き合うべきか、断るべきか……
『ワシの言葉に従うが良い。ワシが最善の道へと導こう』
頭の中で杖をついた年寄りのウサギが現れた。
おそらく僕の頭の中の天使のような存在だろう。
とりあえず助言を聞いてみよう。
『愛兎よ。1発やってしまえ。童貞卒業じゃ』
待て待て待て待て。
天使じゃなくて悪魔だった。それも邪道な悪魔だ。
『さあ、ワシの言う通りにするのじゃ。童貞卒業じゃ』
ダメだ。ダメだ。冷静になれ。落ち着け。思いだせ。一目惚れしたあの子を。金縛り霊のカナちゃんを!
もしリナ先輩と付き合ったらあの子との関係はどうなるんだ?
僕があの子に思っていた気持ちは偽物になってしまうではないか。
カナちゃんだけじゃない。レイナちゃんも兎村の3姉妹もどうなってしまうんだ?
というか僕好きな人多過ぎじゃない!?
『カナちゃんは幽霊、金縛りの幽霊じゃぞ。しかしリナ先輩は人間じゃ。胸も尻もでかい。触ってみたくないのか?』
そりゃ触りたいと思うけど……その質問はズルすぎる。誰だって触りたいと思うだろ。
僕は童貞だ。なおさら触りたい。
『じゃあ童貞を卒業するんじゃ。今すぐ告白の返事をしてリナ先輩と思う存分楽しむのじゃ』
いやいやいや、無理だって。それにカナちゃんとレイナちゃんになんて説明すればいいか……
レイナちゃんに関してはめちゃくちゃ怒りそうで怖いんだけど。
『そんなもんは知らん。後のことよりも今を考えるのじゃ。さあ、後ろから抱きつき胸を揉め。尻を揉め。それで童貞卒業じゃ』
いやいや告白の返事もしないでいきなりそれはダメじゃないですか。
というかさっきから助言を聞いてたら、悪魔というよりもただエロウサギなだけじゃないか!
もっとまともなウサギはいないのか。普通、天使と悪魔で二人いるはずでしょ。
『いない。お前の頭にはワシと童貞のお前だけじゃ』
僕の頭の中には天使も悪魔もいない。いるのはただのエロウサギ。最悪だ。
『ちゃんと避妊はするんじゃぞ。あとあと面倒じゃからな』
ちょっと、エロウサギは黙っててください!!!!!!
『検討を祈る。童貞卒業じゃ』
頭の中のエロウサギが消えていった。
今の助言は全て忘れよう。さて振り出しに戻ったぞ。どうするどうする。
寝たフリなんて今更出来ないし、ちゃんと返事しないと今後が気まずい。
聞こえてないフリしてもいいが、ハッキリと告白されても困る。
付き合えばいいのかもしれないけど……もし喧嘩などした日には最悪だぞ。
仕事で気まずくなる。別れたらもっとだ。
じゃあ付き合わないって選択をしたらどうなる?
これもこれでずっと気まずい。最悪だ。
どうする。考えろ考えろ。
『童貞卒業じゃ』
考えろ考えろ。
『卒業じゃ』
エロウサギのせいで考えがまとまらない。
『それなら1発やってみると良い』
却下。
「ウサギくん……」
返事を考えている最中にリナ先輩が後ろから抱きついてきた。
前回も僕は抱き枕にされたんだ大丈夫。
落ち着け落ち着け。
この状況は金縛りちゃん達で慣れてるはずだろ……
『そうじゃ。落ち着くのじゃウサギよ。胸が当たっておるじゃろ。もうOKなんじゃよ。リナ先輩はヤる気じゃ!』
エロウサギが頭の中で笑顔でサムズアップをしている。苛立ちを覚えるような笑顔だ。
リナ先輩のいい匂いも漂ってきた。
もうダメだ。この匂いは毒だ。正常な判断ができなくなってしまう。
そうだ。25年間も何を守ってきたんだ。
ここで、ここで、僕も大人になればいいじゃないか……
何を迷っているんだ僕は、素直に、自分に正直になれ……。
『そうじゃ、その通りじゃ。さあヤるのじゃ!!!!!!!』
ヤる前にまずは告白の返事だろ、エロウサギめ!
「せ、先輩……」
「うん、なーに?」
「リナ先輩と……お付き合い……」
そこから言葉が出てこない。言葉が喉に引っかかっている。
金縛りちゃんの顔が一瞬浮かんでしまった。
金縛りちゃんの笑顔。金縛りちゃんの声。金縛りちゃんが触れた感覚。
「お、お付き合いの返事はもう少し待ってください!」
返事を先送りにしてしまった。とっさに出た言葉に僕自身も驚いている。
「そ、そうだよね、今すぐは無理だよね、うんうん。わかるよ、ちょっとあたし焦りすぎちゃったかな、困らせちゃったね、あははは……」
泣きそうな声で必死に言葉を繋いでいる。後ろから抱きしめられている僕にはリナ先輩の表情は見えない。
それに見えたとしても今のリナ先輩の顔は見れない。
リナ先輩は先ほどよりも僕を強く抱きしめている。無意識だろうか。
「え~っと、そ~の……」
なんて言っていいのかわからない。
『まずは謝るのじゃ。そしてお願いするのじゃ。』
またエロウサギが……で、何をお願いするんだ?
『1発ヤらせてくださいじゃ』
もういいです。聞いた僕がバカでした。
強く抱きしめてくるリナ先輩。そんなリナ先輩から不安が伝わってくる。
どうしよう。どうしたらいいんだ。
童貞のくせに僕はこんな素敵な女性の告白の返事を先送りにしただなんて……
ああ、一番気まずい結果になっちゃったのかもしれないな。
今夜は長い夜になりそうだ。
前回と同じく二人掛けのソファーに座っている。またこのソファーに座れるとは思わなかった。
再びリナ先輩の家に来てしまったが、大丈夫なのだろうか?
泊まる事になったのはいいが、何も起こらないとは限らない。
いや、前回は何も無かったし……何も無かったよな……。
まあ、今回も大丈夫だろう。
リナ先輩のベットの上には、以前僕がプレゼントした『メスウサギのクッション』が置かれていた。
形が少し変化しているので、抱き枕として活躍してるように思えた。
「ジャジャーン!!!!」
陽気な掛け声と共にリナ先輩が部屋の扉を開けて登場した。
僕が兎村で買ったお土産の『ウサギの着ぐるみパジャマ』を着ている天使のように可愛いリナ先輩が扉の前に立っていた。
「ちょっと大きいけど着心地最高だよ~、ありがとう! どう、どう? 似合ってる?」
グラビアアイドルばりに様々なポーズを取って僕に見せつけている。想像以上に似合っていて破壊力抜群だ。
いつもとは違う一面で、ときめいてしまった。ウサギとリナ先輩の組み合わせは最高すぎる。
「に、似合ってますよ! か、可愛いです!!」
「本当~? ありがとう! こういう着ぐるみみたいなの着てみたかったんだよねー」
リナ先輩も気に入っているみたいで良かった。
「じゃあちょっと料理してくるね。せっかく着たけど汚れちゃうといけないから脱いじゃうわ。あっ、そうだ! 今日はこれウサギくんが着てよ! そのまま来ちゃったから着替えとか無いでしょ?」
「えぇぇえええ! は、恥ずかしくて着れないですよ……というか着替えの事とかすっかり忘れてました……」
「だから着てみてよ~、ウサギなんだしウサギくん似合うと思うぞ~」
八重歯を見せて小悪魔のようにリナ先輩は笑った。
確かに僕も一度は着てみたいとは思っていたパジャマだが、リナ先輩が着ていたものを着るなんてエロすぎやしないか?
僕の考えすぎか?
僕は童貞だから考えすぎちゃうのか?
リナ先輩は着替えるために扉を閉めた。数分後、扉が少し開いた。
その扉の隙間から脱ぎたてホヤホヤの『ウサギの着ぐるみパジャマ』を僕に向かって投げてきた。
「じゃあ着替えといてね~」
扉の隙間から顔だけを出して楽しそうにウインクを飛ばして来た。
そのウインクに僕はドキッとしてしまった。
そして受け取ったウサギの着ぐるみパジャマの温もりを感じて顔が赤くなった。
リナ先輩の脱ぎたてのパジャマ。すでにリナ先輩の匂いがついている。
本当に着ていいのだろうか?
こんなご褒美は初めてだ。緊張する。
リナ先輩の温もりが消える前に自分の服を脱ぎ、パジャマを着るための覚悟を決めた。
まずは足から通す。そして腕。前に付いているボタンを閉めて着替えは完了。
何だろう。この感じ。似合っているかどうか気になる以前にすごい興奮する。
リナ先輩と一つになった気分だ。
もしかしてこれで童貞卒業?
いや、ただ脱ぎたての着ぐるみパジャマを着ただけだ。
それだけじゃ童貞は卒業できない。
着替え終わったタイミングでリナ先輩が様子を見に来た。
「おっ、やっぱり似合ってるじゃん。というか、あたしよりも似合ってるんじゃね? ウサギくんがウサギって本当にピッタリだな!」
「か、からかわないでくださいって~、でも本当に似合ってますか?」
「うん。似合ってる!」
「な、なんか照れちゃいますね……」
そのままリナ先輩は満足そうに笑いながら台所へと戻っていった。
それから数分後に料理を運びに部屋に戻って来た。
前回はジャガイモ料理が多かったけれど、今回はナス料理が多い。
どれも美味しそうだ。
「前回はジャガイモで、今回はナスが多いなとか思ったでしょ~?」
思考を読まれたのかと思うくらいのタイミングだった。
「いやいや、思ってませんよ~! どれも美味しそうだなって見てたんですよー!」
「ふふふっ、口に合うかどうかわからないけど、愛情込めて作ったからな!」
「は、はい! いただきます!」
一口サイズに切られたナスを口に運ぼうとした時にリナ先輩の恋愛について思い出してしまった。
前回の食事中に恋バナをしたから、それで思い出したのだろう。
「ところでリナ先輩あれから……その……恋は発展しましたか???」
食事中の恋バナは話しやすいタイミングだったので、チャンスを逃さず自然に聞いてみた。
「どう思う? 発展したのかな? う~ん発展してないかな? どうだろう?」
「そ、そうなんですか、てっきりもう付き合ってるのかと思いましたよ」
「付き合ってたらウサギくんを家には誘わないよ……ご飯粒……」
リナ先輩はそのまま顔を近付けてきた。
そして僕のほっぺに付いていたご飯粒をパクッと食べた。
ほっぺにキスをされたのだ。
「ちょちょちょ、えぇえええ、リナ先輩、な、何、してるんですかー! ご、ご飯粒なら自分で取りますから教えてくださいよー!」
顔から火が吹き出てしまうんじゃないかってくらい顔が熱くなった。
「いや、取ってほしくてわざと付けたのかと思ったよ~ふふふっ」
「そ、それでも、く、口じゃなくて手で、と、取れば良かったじゃないですか!」
何だったんだ今のは。口でパクッとされたぞ。
普通なのか?
普通の行動なのか?
童貞の僕には理解できなかった。
でも恥ずかしい。嬉しいよりも恥ずかしすぎる。
そんな僕の恥ずかしがる態度をリナ先輩はじっと見てから口を開いた
「ん~、発展してないみたいだよ~」
恥ずかしがってる僕を見て何だか楽しそうだ。
「ねぇねぇところで兎村はどうだったの~? 話聞かせてよー!」
リナ先輩は突然話題を変えた。
4泊5日の家族旅行の事をそのまま伝えた。
流石に金縛り霊の事はそのまま話しても信じてもらえなさそうだ。
なので金縛り霊という言葉は避けた。
金縛り霊3姉妹は別の旅行客の3姉妹として話を進めてみた。
両親との話のときは楽しく聞いていたのに3姉妹の話になるとなぜか退屈そうに話を聞いているように見えた。
気のせいだろうか。
そんなこんなで楽しいお食事、楽しい会話、いつの間にかシャワーも浴びて、就寝時間となりました。
電気を消してベットへ。お互いは背中合わせに寝ている。
何この急展開!!!!!
早すぎる!!!!!
楽しい時間はあっという間って言うけどもあっという間過ぎだよ。
家族旅行の話から気が付けばベットで背中合わせ。急展開にも程がある!!!!!
おかげさまで心の準備ができてない。
というか前回もこんな感じだったから大丈夫だよな?
「ウサギくん起きてる?」
「お、起きてますよ……緊張で、な、なかなか寝れないですよ」
前回も寝るまでにかなり時間を費やした。今回も寝れるわけがない。
そしてリナ先輩の静かな声。何か重要な事を言いそうな気がする……
「あたしの好きな人はウサギくんなの。だから付き合ってほしいな」
「え?」
えぇええええええええええええ!!!!!!!!!!!
ここはジェットコースターか! 恋のジェットコースター!
何もかも展開が早すぎてついていけないって。
緊張で全身が熱くなった。頭の中もぐつぐつ沸騰して考えがまとまらない。
童貞の僕は恋のジェットコースターから振り落とされないように必死だった。
『あたしの好きな人はウサギくんなの。だから付き合ってほしいな』
リナ先輩からの突然の告白。この言葉が頭の中を掻き乱す。
僕の頭の中では理性が失いつつあった。そしてこの状況を危険とみなし赤信号を出している。
ウォオオン~ウォオオオン~
『緊急事態、緊急事態、山中愛兎、25歳童貞、リナ先輩からの告白』
ウォオオン~ウォオオオン~
頭の中の僕がこの状況の理解に苦しむ。
返す言葉を必死に探すが見つからない。どんな言葉で返せば一番いいのかわからない。
付き合うべきか、断るべきか……
『ワシの言葉に従うが良い。ワシが最善の道へと導こう』
頭の中で杖をついた年寄りのウサギが現れた。
おそらく僕の頭の中の天使のような存在だろう。
とりあえず助言を聞いてみよう。
『愛兎よ。1発やってしまえ。童貞卒業じゃ』
待て待て待て待て。
天使じゃなくて悪魔だった。それも邪道な悪魔だ。
『さあ、ワシの言う通りにするのじゃ。童貞卒業じゃ』
ダメだ。ダメだ。冷静になれ。落ち着け。思いだせ。一目惚れしたあの子を。金縛り霊のカナちゃんを!
もしリナ先輩と付き合ったらあの子との関係はどうなるんだ?
僕があの子に思っていた気持ちは偽物になってしまうではないか。
カナちゃんだけじゃない。レイナちゃんも兎村の3姉妹もどうなってしまうんだ?
というか僕好きな人多過ぎじゃない!?
『カナちゃんは幽霊、金縛りの幽霊じゃぞ。しかしリナ先輩は人間じゃ。胸も尻もでかい。触ってみたくないのか?』
そりゃ触りたいと思うけど……その質問はズルすぎる。誰だって触りたいと思うだろ。
僕は童貞だ。なおさら触りたい。
『じゃあ童貞を卒業するんじゃ。今すぐ告白の返事をしてリナ先輩と思う存分楽しむのじゃ』
いやいやいや、無理だって。それにカナちゃんとレイナちゃんになんて説明すればいいか……
レイナちゃんに関してはめちゃくちゃ怒りそうで怖いんだけど。
『そんなもんは知らん。後のことよりも今を考えるのじゃ。さあ、後ろから抱きつき胸を揉め。尻を揉め。それで童貞卒業じゃ』
いやいや告白の返事もしないでいきなりそれはダメじゃないですか。
というかさっきから助言を聞いてたら、悪魔というよりもただエロウサギなだけじゃないか!
もっとまともなウサギはいないのか。普通、天使と悪魔で二人いるはずでしょ。
『いない。お前の頭にはワシと童貞のお前だけじゃ』
僕の頭の中には天使も悪魔もいない。いるのはただのエロウサギ。最悪だ。
『ちゃんと避妊はするんじゃぞ。あとあと面倒じゃからな』
ちょっと、エロウサギは黙っててください!!!!!!
『検討を祈る。童貞卒業じゃ』
頭の中のエロウサギが消えていった。
今の助言は全て忘れよう。さて振り出しに戻ったぞ。どうするどうする。
寝たフリなんて今更出来ないし、ちゃんと返事しないと今後が気まずい。
聞こえてないフリしてもいいが、ハッキリと告白されても困る。
付き合えばいいのかもしれないけど……もし喧嘩などした日には最悪だぞ。
仕事で気まずくなる。別れたらもっとだ。
じゃあ付き合わないって選択をしたらどうなる?
これもこれでずっと気まずい。最悪だ。
どうする。考えろ考えろ。
『童貞卒業じゃ』
考えろ考えろ。
『卒業じゃ』
エロウサギのせいで考えがまとまらない。
『それなら1発やってみると良い』
却下。
「ウサギくん……」
返事を考えている最中にリナ先輩が後ろから抱きついてきた。
前回も僕は抱き枕にされたんだ大丈夫。
落ち着け落ち着け。
この状況は金縛りちゃん達で慣れてるはずだろ……
『そうじゃ。落ち着くのじゃウサギよ。胸が当たっておるじゃろ。もうOKなんじゃよ。リナ先輩はヤる気じゃ!』
エロウサギが頭の中で笑顔でサムズアップをしている。苛立ちを覚えるような笑顔だ。
リナ先輩のいい匂いも漂ってきた。
もうダメだ。この匂いは毒だ。正常な判断ができなくなってしまう。
そうだ。25年間も何を守ってきたんだ。
ここで、ここで、僕も大人になればいいじゃないか……
何を迷っているんだ僕は、素直に、自分に正直になれ……。
『そうじゃ、その通りじゃ。さあヤるのじゃ!!!!!!!』
ヤる前にまずは告白の返事だろ、エロウサギめ!
「せ、先輩……」
「うん、なーに?」
「リナ先輩と……お付き合い……」
そこから言葉が出てこない。言葉が喉に引っかかっている。
金縛りちゃんの顔が一瞬浮かんでしまった。
金縛りちゃんの笑顔。金縛りちゃんの声。金縛りちゃんが触れた感覚。
「お、お付き合いの返事はもう少し待ってください!」
返事を先送りにしてしまった。とっさに出た言葉に僕自身も驚いている。
「そ、そうだよね、今すぐは無理だよね、うんうん。わかるよ、ちょっとあたし焦りすぎちゃったかな、困らせちゃったね、あははは……」
泣きそうな声で必死に言葉を繋いでいる。後ろから抱きしめられている僕にはリナ先輩の表情は見えない。
それに見えたとしても今のリナ先輩の顔は見れない。
リナ先輩は先ほどよりも僕を強く抱きしめている。無意識だろうか。
「え~っと、そ~の……」
なんて言っていいのかわからない。
『まずは謝るのじゃ。そしてお願いするのじゃ。』
またエロウサギが……で、何をお願いするんだ?
『1発ヤらせてくださいじゃ』
もういいです。聞いた僕がバカでした。
強く抱きしめてくるリナ先輩。そんなリナ先輩から不安が伝わってくる。
どうしよう。どうしたらいいんだ。
童貞のくせに僕はこんな素敵な女性の告白の返事を先送りにしただなんて……
ああ、一番気まずい結果になっちゃったのかもしれないな。
今夜は長い夜になりそうだ。
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