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第3章

36 恋のライバル? 韓流系イケメンの登場

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 ピピピピッピピピピッ

 目覚まし時計の鳴る音だ。
 僕は目覚まし時計を止めた。
 音が鳴り止んだ目覚まし時計の隣には、旅館で野生のウサギが渡してきたが置いてある。


 昨日で10日間の休みが終わった。今日から再びバイト生活に戻ろうとしている。
 バイト生活に戻るということは兎村で買ったお土産をみんなに渡せるということだ。
 リナ先輩に買った『ウサギの着ぐるみパジャマ』を早く渡したい。できれば着ている姿も見てみたい。

 僕はお土産を渡す事に胸が高鳴っていた。
 それと同時に頭の片隅で靄のようにうごめいているものがある。
 僕の頭の中の靄は『この10日間でリナ先輩の恋はどうなったのか』というものだった。

 本気で好きな人なら今ごろ付き合っていてもおかしくはないだろう。
 リナ先輩の恋は応援したい気持ちでいっぱいなんだけど、彼氏ができる事に対してはなぜか心がモヤモヤする。
 この気持ちはなんなんだろうか。
 恋の行方について聞けるのであれば、今日のバイトで少し聞いてみようと思う。


 兎村から家に帰って来てからは、一度も金縛りにかかっていない。金縛りにかからないと寂しい気持ちになる。
 カナちゃんとレイナちゃんの謹慎処分が解除されるまでまだ2週間ちょっともある。
 二人の金縛りちゃんのために買ってきたお土産の『ウサギクッション』と『ウサギ枕』は既にベットの上にスタンバイ済みだ。
 二人が来ないので僕が毎日、抱き枕として使っているのだが。
 二人が金縛りをかけに来る日を楽しみに待ちながら抱き枕にしているのだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 いよいよ10日ぶりのバイトの時間がやって来た。久しぶりのせいもあって緊張し鼓動が早くなる。手汗もすごい。
 お土産を渡すためにいつもよりも早くバイト先の居酒屋に到着していた。
 入り口では店長が開店準備のため掃除をしていた。

「店長帰ってきました!」

「おう、ウサギくん! 無事に帰ってきたか。家族旅行はどうだった? 楽しめたか?」

「はい! お陰様ですごく良い経験ができました。店長が休みをくれたおかげです。ありがとうございます。それとお土産を持ってきましたよ。店長にはこれです!」

 僕は店長に『ウサギマグカップ』を渡した。
 奥さんと仲が良い事を知っていた僕は、オスとメスのウサギマグカップを選んだ。
 2つの絵柄を合わせるとハートの形になるカップルや夫婦に人気の商品らしい。

「これ合わせるとハートになるので、奥さんと使って下さい」

「おー、これは絶対に喜ぶぞー! ありがとうな!」

「はい!」

 僕はそのままバイト着に着替えるためにスタッフルームへと向かった。
 スタッフルームの扉を開けると、そこにはリナ先輩と知らない男が二人っきりでいた。

 まさか……彼氏か……? 彼氏なのか?
 嫌な予感ほど僕は当たる。今朝、頭の片隅で考えていたことが現実で起きてしまった。

 目の前に立つその男は、韓流系のイケメンで優しそうな雰囲気を出している。

 リナ先輩とデートをしててバイト先まで送りにきたのだろうか?
 ここはスタッフルームだ。そういう送りとかは彼氏だろうと店の前までにしてほしい。
 関係者以外立ち入り禁止のスタッフルームなのに。なんで店長は立ち入りを許したんだ。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 やっぱり先輩に彼氏なんて嫌だ。応援する気持ちは嘘だ。本当は彼氏なんてできて欲しくなかった。

 スタッフルームに入ってすぐに僕は固まってしまった。そんな僕にリナ先輩は声をかけてくれた。

「おっ、ウサギくん! お帰り~、どうだった? 楽しかったか?」

 いつも通りに声をかけてくれるリナ先輩。
 それなら僕も普通に返事をしなくてはいけない。不貞腐れた態度なんて絶対にダメだ。

「た、楽しかったですよ。こ、これリナ先輩へのお土産です」

 ちょっと待てよ。渡した後に気付いたが……彼氏の目の前でお土産って何かまずくないか?
 いや、変なことは全くないし、何がまずいとか言われても人生経験少ない僕には答えられない。
 でも勘違いされて面倒くさい事になってしまうのではないかと思ってしまった。

 そんな僕の気持ちを知らずにリナ先輩はお土産を丁寧に開け始めた。

「うわーありがとー! ウサギのパジャマじゃんか! もしかしてこないだのパジャマのお返しって感じかな? ふふふっ、大事にするね!」

「そ、そんな感じです……あはは……気に入ってくれて嬉しいです」

 うぉおおおおいい! 彼氏の前でそんなこと言っていいのか! なんかめちゃくちゃ気まずいんですが。
 やばい彼氏の顔見れない。絶対なんか言われる。胸ぐらとか掴まれるんじゃないか?
 ああ、嫌だ。帰りたい。最悪だー。この空気最悪だ。リナ先輩にお土産を渡すのめちゃくちゃ楽しみだったのに。

 顔色を変える僕に彼氏が口を開いた。

「あの~」

 ほら来た。彼氏も我慢できなくなって声かけてきたよ。
 この状況を何て言うんだっけ? ああ、修羅場か。

「は、はい」

 とりあえず返事はしてみたが彼氏と目を合わせられない。
 一瞬嫌な空気がスタッフルームにいる僕と彼氏の間に流れた。
 そんな僕たちを助けようとリナ先輩が声をかけた。

「ああ~、そうだった。まだ紹介してなかったよな!」

 この流れ……やっぱり彼氏じゃんか。

 嫉妬心から僕は泣きそうになった。

 でも僕にも相談したりしていたリナ先輩は恋に真剣だったんだ。
 その恋が実って良かったではないか。
 僕が嫉妬するのは間違いだ。ここは祝福してあげないとダメだ。

「新しく入ったバイトのフミヤくんだよ。あたし達の後輩だぞ」

「え?」

「フミヤです。大学生です。よろしくお願いします」

 フミヤくんは丁寧にお辞儀をして挨拶している。

 彼氏ではなく新しく入ったバイトの後輩だと知って僕は安心した。
 本当によかったと心からそう思ってしまった。
 この感情は間違っていたとしても自分の気持ちには正直になりたい。本当によかった。

「よ、よろしく、フミヤくん。そうか、新しく入ったんだね。わからないことがあったら何でも聞いていいからね。そ、そうだお土産多めに買ってきたから……っと、これあげるよ。ウサギキーホルダー!」

「わ、いいんですか? あ、ありがとうございます。え~と愛兎まなと先輩ですよね」

「あ、なんで僕の名前を?」

 久しぶりに僕の名前をちゃんと聞いた気がするんだけど。

「リナ先輩から色々聞きました。これからよろしくお願いします」

「あ、う、うん。よろしくね。あと、ここではみんなからウサギって呼ばれてるから、フミヤくんも愛兎じゃなくてウサギでいいよ」

「わかりました。では、ウサギ先輩。改めてよろしくお願いします!」

 彼氏じゃないとわかった瞬間すごくいい子に見えてきた。いや、すごくいい子なんだろう。
 最初に感じた優しそうな雰囲気もそうだけど、丁寧な話し方も好感度が上がる。

 僕にもバイトの後輩ができる日が来るなんて思ってもみなかった。
 これも僕に金縛りをかけてくれたカナちゃんのおかげだな。

「店長がフミヤくんの今日の担当はウサギくんに任せるだってさ。男同士だしウサギくんも10日ぶりだから思い出しながら仕事してって言ってたぞ」

「は、はい。了解しました。って店長と入り口であったんですけど、その事について何も言われてないんですけど……店長お土産に夢中になって忘れてたのかな? ま、そんな事よりもフミヤくん今日からよろしくね!」

「はい! よろしくお願いします!」

 10日ぶりのバイトは新人バイトのフミヤくんに仕事の基礎を教えながら仕事をした。
 10日間休んでいたせいもあって僕自身も忘れていることが多かった。なのでこの機会はちょうど良かった。
 僕はバイトは長続きしない方なので後輩を持つことが少なかった。それに人に教えながら仕事をやることは滅多にない。
 人に教えながら仕事をするのは違った大変さがあったが、改めて気付くことも多かった。僕にとってもこれはとても良い経験だ。
 そして新しい仲間が増えるのは嬉しい。友達ができる感覚ってこんな感じなのかな?


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 10日ぶりのバイトが終わった。

「今日は一日教えてくれてありがとうございました。ウサギ先輩の教え方は分かりやすかったです。また明日もよろしくお願いします」

「いえいえ、また明日もよろしくね。じゃあ気をつけて帰ってね!」

「はい。ありがとうございました」

 フミヤくんは丁寧にお辞儀をしてそのまま帰っていった。そんな後ろ姿に僕は小さく手を振った。

 一日中仕事を教えていたがフミヤくんは礼儀正しくて話しやすい。さらに物覚えも早い。
 一言で言うと良い子だった。第一印象は最悪だったけどアレは僕の勘違いが生み出した第一印象だ。忘れよう。

 そんな事を考えていた僕の背中に小鳥のさえずりのような可愛らしい声がかけられた。

「あのさ~、ウサギくん……」

 その声の主はリナ先輩だった。

「なんですか? リナ先輩」

 振り向いた僕はリナ先輩の顔を見た。
 先輩の顔は少しだけ赤くなっている。そしてどこか落ち着かない様子でいた。

「いきなりなんだけどさ……今日ウチ来ない? あの、10日ぶりだからさ、お土産話とかも聞きたいなって……思っちゃたりして、忙しかったら別に大丈夫だけど……」

「い、い、い、いき、行きます! ちょうどお土産話があるので!!」

 僕の鼓動は早くなった。こんな嬉しいことは他にない。これは想像できないサプライズだ。
 もしかしたらお土産で渡したウサギの着ぐるみパジャマ姿の先輩を見れるかもしれない。

 リナ先輩は八重歯を見せながら満面の笑みで笑った。

「じゃ、じゃあお泊まり決定で!」

 落ち着かない様子でいた先輩はいつの間にかいなくなって明るいいつもの先輩に戻っていた。

「お、お泊まりですか!? また迷惑かけちゃうんで……」

「ダメ! 強制! 強制お泊まりだぞ!」

「わ、わかりました……」

 僕は再びリナ先輩の家にお泊まりすることになった。
 強制と言うか、強引に。
 リナ先輩にお願いされたら断れないし、断る理由は僕にはない。今日の僕は自分の気持ちに正直でありたい。

 そういえばあれから恋の行方はどうなったのだろうか?
 それを聞けるチャンスかもしれない。
 それに家に帰ってもカナちゃん達は謹慎処分中で金縛りをかけに来れない。
 寂しい僕に嬉しいイベントが発生したってことだ。
 レイナちゃんが知ったらまた怒るかもだけど……。


 僕はリナ先輩の横に立って歩き、胸を躍らせながらリナ先輩の家へと向かった。
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