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第2章

28 兎村の旅館は、どこからどう見てもお化け屋敷

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 僕は10日間の休みにもらい家族旅行で兎村に来ていた。
 島の名前の通り兎村には500匹から600匹もの野生のウサギが生息している。
 そうパンフレットには書いてあるが、そのパンフレットは更新されていないから、もしかしたらもっと増えているかもしれない。
 ウサギの繁殖能力は侮れないからね。

 そして兎村はウサギ好きの両親の大好きな観光スポットでもある。
 旅行に行くとなって真っ先に名前が上がるほど、ここが好きなのだ。

「ウサギちゃ~ん。早く早く~。狸ちゃんが逃げちゃうわよ~」

 大声で僕の名前を呼ぶのは僕のお母さんだ。僕とは正反対の明るい性格でちょっと天然なところもある。
 その明るさと天然さが交わり太陽のような笑顔で僕に手を振ってきている。
 僕は恥ずかしくなり小声で返事をする。

「お母さん、兎村で名前を呼ばれるの恥ずかしいって……もっと声抑えてよ」

「いいじゃないの~。小さい頃に来た時は、兎村のおばあちゃん達に人気者だったのよ~」

 僕はもう25歳だ。小さい頃はともかく、今はもう恥ずかしくて仕方がない。
 そんな僕は兎村に来るのがこれで3回目らしい。
 1回目は僕はお母さんのお腹の中だった。なんかリアル。新婚旅行で兎村か。両親らしい。

 それで2回目は僕が5歳の時だ。もちろん記憶にはない。
 だけど実家のアルバムには僕が全身をウサギの服でコーデされている写真が大量に眠っている。
 あんなに可愛い格好で兎村に来ていたんだ、島のおばあちゃん達に人気だったのも無理はない。

 そして3回目は25歳の今だ。20年ぶりの兎村。
 流石に名前を呼ばれるのは恥ずかしすぎる。
 そんな事を思っていたら再び僕の名前を大声で呼ぶ人物がこっちを見てはしゃいでいる。

「おいウサギ! こっちだこっちー。見ろよ、すごい太ってるぞ」

 丸々太った野生のウサギを見てテンションを上げているうるさい髭の生えたおっさんは、僕のお父さんだ。
 両親はどちらも元気で明るい性格だ。なんで僕がみたいなのが生まれてきたのか不思議に思うくらい性格は似ていない。
 似てるところといえば外見だろう。僕の前髪に隠れた可愛い目つきはお母さん似だ。それ以外は全部お父さん似。
 僕が歳取ったらお父さんみたいな顔に老けていくんだなと、容易に想像できる。

「本当だ、こんなに太ってるの初めて見た」

 お父さんが戯れている太ったウサギは相当太っていた。太り過ぎて丸い。
 旅行客が餌付けをし過ぎたんだろう。でもここまで太れるなんて幸せな場所だと思った。


 そんな感じで野生のウサギに出会うたびに戯れあいながら目的の旅館についた。
 もうここがゴールでいいと思うほどウサギを撫でた気がする。

「うぉ、懐かしいなぁ」

「変わってないわね~、すっごい懐かしいわ~」

 両親は旅館を見て昔を思い出し感動している。
 でも僕は両親とは正反対の負の感情に陥っている。

 ゾゾゾゾゾゾ、と何かを感じる。すごい不気味だ。
 霊的な何かだと直感した。金縛りちゃんに出会ってから霊的な物を感じる体質になったのかもしれない。

 その不気味な気配は目の前の旅館から感じている。

 旅館の外観はどこからどう見てもお化け屋敷だ。作り物じゃない。リアルのお化け屋敷だ。
 ボロボロに腐敗した看板。文字なんて読めないので看板の役目を果たしていない。
 そして旅館の周りに立っている木からはツルが伸びていて旅館全体に巻きついている。
 蜘蛛の巣も大量に張ってあり雰囲気が出過ぎている。本当にこんなところに泊まるのか?
 怖い。怖すぎる。

「こ、ここに泊まるんだよね? お化け屋敷と間違えてない? すごく怖いんだけど……。というかここやってるの?」

「う~ん、お化けさんは出ないと思うけどウサギちゃんはたくさん出るわ~。すごい楽しみでしょ~」

「あ、あはは……そ、そうなんだね……。あは、楽しみだな……あはは」

 ダメだ。お母さんはお化けが出る恐怖よりもウサギに会える喜びを選ぶ人だ。完全にウサギ優先だよ。
 そう、言うならば生粋のウサギ信者。ウサギ愛好家。ウサギ過激派だ。息子の名前を愛する兎と書いて愛兎にするくらいだし……。

 今思えば兄弟がいなくて良かったと思うよ。特に姉か妹だな。
 絶対名前は兎子ウサコになってた。僕以上に虐められるかもしれない。可哀想だ。


 僕が旅館に入るのを警戒していた時だった。
 旅館の扉がガラガラと突如開き、中から腰の丸まった老婆が出てきた。

「ふぉふぉふぉ、ようこそお越し下さいました」

 その老婆は着物を着ていて旅館の人だとすぐにわかった。
 もしかしたら女将さんかもしれない。いや、女将さんだ。雰囲気でなんとなくわかる。

「予約した山中です!」

「山中様。お待ちしておりました。どうぞこちらへ。ふぉふぉふぉ」

 女将さんは旅館の中へと案内してくれた。
 笑い方が不気味すぎるのでなんとかしてもらいたいけど親切丁寧な対応は少し安心する。

 そのままチェックインを済ませて部屋に向かう。
 お化け屋敷のような外観とは違い部屋は綺麗にリフォームされているのがわかる。
 モダンな和室が僕の胸を躍らせる。窓からは庭園が一望できる。素晴らしい部屋だ。

 庭園には野生のウサギが何匹かいるぞ。数えてみよう。
 えーっと1匹、2匹、うん可愛い。3匹、4匹、絶対家族だ。5匹、6匹、結構いるなぁ。
 7匹、8、9……………………20匹……。めちゃくちゃ野生のウサギがいるんですけど!

「ウサギちゃんいっぱいっ! 窓を開けましょ~。ほらほら寒かったでしょ~、入っておいで~」

 お母さんが窓を全開にしてウサギを呼んだ。お母さんの声に耳をピクピクとさせたウサギ達がとことこ歩き部屋に入ってきた。

「ンッンッ」

「ンッ! ンッンッ!」

 1匹、また1匹と入ってくる。
 流石に入れちゃまずいのでは?
 お母さんの天然が炸裂しちゃってるよ。

「ちょ、お母さん。部屋の中まで入れちゃまずいって、たくさん入ってきちゃってるよ!」

 入ってきたウサギを慌てて抱っこした。
 そのまま庭園に戻そうと思ったが、僕の姿を見て女将さんが不気味な笑い方と共に声をかけてきた。

「ふぉふぉふぉ、いいんですよ。ここではお客様とウサギ様は神様ですから。ウサギ様がする事は全て許されるのですよ。ではごゆっくり御寛ぎくださいませ」

 女将さんはそのまま丁寧にお辞儀をして部屋から出ていった。
 というかマジか。ここの旅館大丈夫かよ……
 とりあえずこの抱っこしているウサギを下ろしてあげよう。

「ンッンッ」

 物凄いすごいつぶらな瞳で見つめてるじゃん。めちゃくちゃ可愛い。やっぱりまだ抱っこしておこう。

 まさかここでもお客様は神様という言葉を聞いてしまうなんてな。今日の僕はお客様の立場なんだよな……。失礼のないようにしよう。
 でも『お客様は神様』って言葉を嫌なほど聞いてきたけど『ウサギ様は神様』なんて言葉は初めて聞いた。
 すごいな兎村って。ウサギたちは兎村のみんなに愛されてるんだな。

「ンッンッ」

 でも思ってたよりも野生のウサギって大人しいんだな。人に慣れているせいかな?
 迷惑な酔っ払いよりも野生のウサギの方がしっかりしてる気がするのは気のせいだろうか。
 ああ、野生のウサギ可愛い。持って帰りたい。カナちゃん達のお土産にでもしてやろうかな。

 そんな悪巧みを企んでいた時だった。
 別の野生のウサギがテーブルの上のお菓子を加えて窓の外へと猛ダッシュで逃げていった。

「うわ、マジか! これ財布とか貴重品も盗まれるんじゃないの?」

「ああ、結婚指輪なら取られたことあったぞ。だから貴重品は気をつけるんだぞ。はっはっは」

 えぇええ。ウサギやばすぎだろ。というよりも結婚指輪盗まれるお父さんもやばい。笑い事じゃないぞ。

「そんなこともあったわね~」

「ま、そのおかげでプロポーズ成功したようなもんだからな。結果オーライ。ウサギバンザーイ!」

 そんなエピソードがあったんあんて知らなかった。
 お父さんとお母さんが勢いよく両手をあげてバンザーイを繰り返してるんだけど、その隣でなぜかウサギが後ろ足だけで立っている。
 その姿は本当に可愛らしい。

「貴重品は取られないようにちゃんと金庫に入れなさいね~。高価なもの何でも取っちゃうんだから~」

 和室には相応しくないほど大きく頑丈そうな金庫をお母さんが目線で教えてくれた。

 まぁ、ここのウサギは野生ですもんね。
 しつけとかされてませんもんね。
 貴重品だけは気をつけよう。

 野生のウサギの事は大体理解したんだけど、あと一つ気になるのがある。
 今ものすごーく目が合ってるあれだ。なんて言ったっけ? 座敷童子ざしきわらしだったっけ?
 でも僕の知ってる座敷童子じゃないな。なんか顔がウサギみたいだ。これを座敷兎ざしきウサギ人形って名付けよう。
 顔だけがウサギの女の子の人形。それが10体もきれいに並べて置いてある。

「ンッ! ンッ! ンッ!」

 僕と抱っこしているウサギは1体の座敷兎人形と目が合っている。

 なんかあの人形から何か感じるぞ。すごい気になる嫌なオーラだ。
 やっぱり金縛りちゃんに会ってから霊感が強くなってるんだ。じゃなきゃ1体の人形にだけ嫌なオーラを感じるはずがない。
 この旅館に入る前に感じたあの感覚は旅館の外観がお化け屋敷のような雰囲気をしていたから感じたものではない。本当に幽霊がいるから感じたものかもしれないな……。

 そういえば、旅行先で金縛りにかかったって話とかよく聞くけど大丈夫かな?
 金縛りにかかりやすい体質になってるからすごい怖いんだけど……。
 もしこの旅館のエリアを担当する金縛り霊がいたら絶対金縛りをかけにきそう。心の準備だけはしておかないとな。

「ンッンッ」

 野生のウサギが物凄いスピードで走ってきた。そして座敷兎人形をボーリングのピンのようになぎ倒していった。
 ああ、あのウサギ絶対呪われるわ。ご愁傷様です。
 でも座敷童子とかって実は良い幽霊って聞いたことがあるぞ。僕が出会った金縛り霊だって良い幽霊ばかりだった。
 僕にトラウマを植え付けたユウナさんだってオカマであの性格ってなだけで実際は良い幽霊だ……と思う。


 とりあえず座敷童子は大丈夫だろう。うん。大丈夫だよな…………。

 もしかして金縛り霊と座敷童子の2種類の幽霊に会う貴重な体験とかできちゃったりする感じ?
 いや、貴重とかどうでもいい。怖すぎるんだけど。
 この家族旅行、不安でしかないんだけど……。






 兎村での家族旅行は4泊5日を計画している。

 家族旅行1日目はとても充実していた。
 野生のウサギたちと触れ合ったり……野生のウサギたちと触れ合ったり…………野生のウサギたちと触れ合ったり………………野生のウサギたちと触れ合ったり……………………。
 あれ? 野生のウサギとしか触れ合ってないぞ。よし。訂正しよう。
 家族旅行1日目ははとても充実していた。

 兎村中を歩き回って野生のウサギを探しまくったもんだからかなり疲れた。運動不足の僕の足はもう限界だった。
 旅館に帰ってからは真っ先に露天風呂を目指した。疲れを癒すために入った露天風呂は野生のウサギたちがいっぱいいた。
 猿とかカピバラとかは聞いたことあるけどウサギと露天風呂は初めてだ。
 さすがに温泉の中には入っていなかった。ウサギは弱い生き物だからウサギを飼う時も汚れているからって洗ったりするのは良くないらしい。
 それでも露天風呂の周りにいるウサギたちは、他のウサギと比べて特別に温泉とかに慣れているんだろう。


 夕飯は超豪華。新鮮なお刺身に旬の野菜を使った天ぷらは最高だった。精進料理のうさぎ汁が出された時は度肝を抜いた。
 窓から見える庭園にいる野生のウサギを見ながらのうさぎ汁……。味は悪くない。悪くないけど、非常に食べ辛かった。
 ウサギは神様じゃなかったのか……。ウサギに感謝してちゃんと残さず食べたけど。


 露天風呂にも入った。豪華な夕飯も食べた。あとは寝るだけだ。
 就寝時間。部屋は一つしか借りていないので家族全員同じ部屋で寝る。両親と同じ部屋で寝るのには抵抗はない。だけど一つだけ気がかりがある……。金縛りだ。
 もし金縛りにかかってしまったら両親の前で恥ずかしい思いをしてしまうかもしれない。
 驚いて叫んだり。カナちゃんみたいな美女が現れたら変な声を出しちゃうかもしれない。だから金縛りにかからないように座敷兎人形に祈りながら僕は目を瞑った。

 この旅館に入ってからずっと気になっている座敷兎人形。頼むから悪さだけはしないでくれよ……。
 では、おやすみなさい……。


 目を瞑ったのはいいものの、やっぱり慣れない場所だと寝れる気が全然しない。
 リナ先輩の家でもそうだった。いや、あれは緊張もしてたから余計か……

 僕は寝返りを打ち寝れる体勢を必死に探した。
 時間が経つに連れて意識はゆっくりと暗い闇の中へと吸い込まれていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



「ねーねー、ねーねー。お兄さんー。遊ぼうー、遊ぼうー」


 幼い子供の声が聞こえてくる。夢なのか現実なのかわからない。
 でも僕の意識は闇の中にあるのだけはわかる。つまりこれは夢と現実の境目か……


「こらこら金縛り中に話しかけるんじゃありません。目が覚めても動けないのだから遊んでくれないでしょ」


 今度は別の声だ。大人の声か。しっかりもののお姉さんって感じだな。さっきの幼い子供を叱っているのだろう。
 家族旅行で久しぶりに両親の顔が見れたからこんな夢を見ているのか?


「こっちはかけ終わったぜ。あとはこいつだけだな。なかなか苦戦してるみたいだな。大丈夫か?」


 また別の声だ。男の声? いや、女の声だ。気が強そう。ボーイッシュ的な感じの女性だろうか。
 これで3人の登場人物が出てきたわけだけど、変な夢だな……。


「そうなのよ。耐性があるのかしら。それか不思議な力が守ってるとか? たまにいるのよね。全然かからない人」

 何を言ってるんだろう。耐性? 守ってる? どういうことだ。

「えー、おにーさんがかからなかったらフナたち遊べないじゃーん。やだーやだーやだー」

「いい子だから。もう少し待っててね。ちょっと強めにかけてみるわ」

 なんだろう。暗闇の中に光が見える。
 その光が僕を目指して向かってくる。いや、僕が光に向かってるのか?
 もしかしてこの曖昧な意識から抜け出せる出口かもしれない……。入ってみよう。

 そのまま僕は暗い闇の中から眩しい光の中へと飛び込んだ。

「はーい。金縛り完了っと。もう遊んでもいいわよ」

「わーいわーい! あーでも、おにーさん目開けてるよ」

 僕の意識は完全に覚醒した。どうやら金縛りにかけられたらしい。
 それで今、僕の目の前には幼い子供がいる。バッチリ目が合ってるんだけど……。
 それに部屋にあった座敷兎人形に少し似てる気がする。でも兎の顔じゃない。ちゃんと人の顔だ。
 もしかして座敷童子なのか? 座敷童子も金縛りをかけられるってことか?
 とりあえずこの子は無邪気そうで可愛いな。

「おにーさん~? 喋れる~? 動ける~?」

 うわ、声かけてきた。返事した方がいいよな……

「こーら! 金縛り中なんだから喋れるわけないでしょー」

「喋れますよ」

「ほら本人も言ってるじゃない! 喋れますよって……………………」

 今度は茶髪のロングヘアーのお姉さんと目が合ってる。なんか優しそうなお姉さんだけど僕のこと見て固まってる……

「えぇええええええええええええええええ!」

 今度は叫び出したぞ。なんなんだ一体……。

「おにーさんすごー! もしかして動けたりする?」

 そうだな。ちょっと動いてみるか。

「こらこら! 喋れる人はたまにいるけどさすがに動く人なんているわけないでしょー」

「動けますよ」

「ほらね! 本人も動けますって言って……………………」

 あっ、これまた叫ぶんじゃない?

「えええええええぇえぇえええええ!!!!!!!

 やっぱり叫んだ。これじゃどっちが幽霊かわかんないよ。ってそんな場合じゃなかった……。

「ちょっと、しー、静かに……お父さんとお母さんが起きちゃいますから……」

 こんなに叫ばれたら二人が起きてしまう。
 でも起きる気配が全くないな……

「問題ないぜ。そっちの大人は起きないようにかけといた。まあ、目を開ける事もあるだろうが朝には忘れてるさ」

 うお、もう一人出てきた。黒髪ボーイッシュの、女の子……だよな……。
 腕を組みながら説明している姿がかっこよくて男の子に見えてしまったよ。口調もそうだけど。

 腕を組んだまま僕の事を睨みつけてるんだけど、僕なんかしたかな?

「ところでお兄さん、なんで動けて喋れる? 霊媒師か何かか?」

 そうだ。今は金縛りにかけられてるんだ。これは当然の疑問。そして当然の質問だな。

「色々ありまして……その……動けるようになりました……」

 本当に色々とあった。思い出すだけで涙が出そうだ。
 悲しい涙ではない。努力の涙だ。だが今は涙を流さない。
 この3人は何者なのか聞かなきゃいけない。金縛り霊なのか、座敷童子なのか……

「き、君たちは何の幽霊なの? 金縛り霊で合ってる?」

「そーだよー!」

 一番小さい子が手をあげて元気に答えてくれた。
 なんとなく顔が似てる3人だ。おそらく3姉妹だろう。

 落ち着きがある雰囲気のお姉さんは長女かな。茶髪ロングヘアーの綺麗なお姉さんだ。
 年齢は20代後半くらいに見える。お胸が豊満で世間で言うマシュマロボディってやつかな。
 もしかしたらリナ先輩と同じくらい大きい? いや、それ以上かもしれない……。

 それで黒髪ボーイッシュのかっこいい女の子は高校生くらいだろうか。彼女が次女だな。
 なんか女の子にモテそうな顔付きだな。ずっと睨んでるのはやめてほしいんだけど……。

 最後に黒髪でおかっぱ頭の幼い女の子。この子が三女だろう。年齢はおそらく7歳くらいだ。
 元気いっぱいで可愛い。ずっと笑顔で僕のことを興味津々に見ている……


 まさか旅行先で金縛りにかかるとは。いや、心の準備はしてたけど、本当にかかっちゃうもんなんだな。
 一気に3人の金縛り霊に会っちゃうだなんてそれは予想できなかった。
 カナちゃんが金縛りをかけてから僕は何回くらい金縛りにかかった事になるんだ? というかほぼ毎日かかってるような気がする。
 せめてお化け屋敷のような旅館だ。他の幽霊も見てみたかったって気持ちもある。怖いけど。
 座敷童子とかちょっぴり期待していた自分もいる。怖いけど。


 ん? ちょっと待てよ……
 この家族旅行は4泊5日だよな。つまり4回もこの子たちと会う事になるのか?
 金縛りが僕を逃してくれないと言うことね。とほほ……。
 まあ疲労が消えるんならいいけど、僕は金縛り中に何をさせられるんだろう。

 考え事をしすぎて気付かなかった。元気な女の子が僕の手を握っていた事に……。

「うお、冷たっ」

「おにーさん遊ぼー」

 太陽のように眩しい笑顔だ。これは断れないな。

「いいけど、何して遊ぶの? 怖いのは無理だからね……」

「ちょー楽しいからだいじょーぶ!」

 僕は旅行先で金縛り霊と遊ぶ事になった。
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