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第1章
27 金縛りちゃんたちの未練とは?
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幽霊とは死者が成仏できずにこの世を彷徨い続ける亡者のこと。
未練を残し成仏できない幽霊や怨みなどの怨念が強く残り邪悪な悪霊になる場合もある。
良い幽霊と悪い幽霊はの両方存在するが金縛り霊は前者である。守護霊や座敷童子なども良い幽霊に分類される。
専属の金縛り霊のほとんどが守護霊のような役割をする。
オカマの金縛り霊、いや、今はユウナ先生と呼ぼう。
僕がユウナ先生から聞いた話では、カナちゃんもレイナちゃんもこの世に未練があり成仏できずに金縛り霊になったとのこと。
まずはカナちゃんの未練からだ。
カナちゃんはストーカーに殺された。そのストーカーはカナちゃんの元彼だった。
もうこの時点でかわいそうすぎて涙が止まらないんだけど……。衝撃的すぎる。
元彼は寄りを戻さないなら殺すなどと脅していたらしい。それでカナちゃんは怖くなり家族や警察に相談をした。警察は相談には乗ってくれるけどほとんど動いてくれなかったらしい。これじゃなんの解決にもならない……。
その結果、仕事の帰り道にその男と遭遇。夜道で人は全然歩いていない。おそらくそのタイミングを狙ってたんだろう。
カナちゃんはなんとか話し合いで解決しようとしていたけど既に遅かった。もう元彼の覚悟は固まっていたのだ。
元彼は隠し持っていたナイフをカナちゃんの腹に突き刺してそのまま心中したとのこと……。
カナちゃんは恐怖やショックのあまりその時の記憶がすっぽり抜け落ちたらしい。
そしてなぜ自分が死んだのかわかってない状態で金縛り霊になった。
その、なぜという強い思いが成仏できない理由だとユウナ先生は言っていた。
このことを本人に話して記憶が戻ってしまうと、殺された怨みからカナちゃん自身が悪霊に変わってしまう恐れがある。なので本人には話さないようにとユウナ先生には忠告された。
カナちゃんの死因が壮絶すぎて絶句した。
僕がカナちゃんの立場だったら間違いなく恨んでた。それで悪霊になってでも恨みを晴らしていたと思う。
だから記憶が抜けてるのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
次にレイナちゃんの未練だ。
レイナちゃんの死因は自殺だと聞かされ衝撃的だった。あの元気な女の子が自殺だなんて想像もできない。
それにレイナちゃんはカナちゃんとは違い記憶がある。それなのに太陽のような笑顔をいつも振る舞いているのは正直泣けてくる。
自殺へ追い込んだのは両親らしい。レイナちゃんは両親からの虐待に耐えきれなくて自殺した。
父親からは幼い頃から性的虐待を受けていてた。それを見ていた母親は父親への嫉妬心でレイナちゃんを虐待。最悪な両親だ……。
両親に愛されず道具としか見てもらえなかった日々に耐えられなくなるのもわかる。僕なんかが同情していいのかわからないけど……。
それでレイナちゃんは愛に飢えていた。本当の愛とは何か。そんな思いから愛を求めるあのような性格になったのだろう。
誰かに愛されたい。本当の愛を知りたい。それがレイナちゃんの未練だそうだ。
ちなみにユウナ先生はオカマバーで酒を飲み過ぎてアルコール中毒を起こしたらしい。
そして救急車が到着する前にそのまま死んでしまったとのこと。
最後に言った言葉は「寒いっ」だったそうだ。
どうでもいい情報だけど、無視してしまうと目の前のオカマに何されるかわからないので話は最後までちゃんと聞いてあげた。
カナちゃんとレイナちゃんの話を聞き終えた僕は、嗚咽しながら泣いていた。泣くしかなかった。
「ぐすんっ……あぅ……ぐす……うぅうあっ……」
僕は涙も鼻水も止まらなかった。こんなに悲しい気持ちになったのは生まれて初めてだった。
「アタシのために泣いてくれるのねぇ~」
「うぅう……違いまぐぅ……カナちゃぐうぅ……レイナちゃんへの……うぅあぁう……涙です……ぇう」
「酷いわねぇ。少しくらい乙女のアタシのために泣いてもいいのよぉ。うふっ」
投げキッスが飛んできたので全力ではたき落とした。
どこが乙女だ。酔っ払って死んだだけじゃないか……。
他人の死にどうこう言えないけど酔っ払いってなると僕はなんだか厳しい。
迷惑な酔っ払いを見てきたからかもしれない。もう僕の心は酔っ払いを受け入れなくなっている。
「まぁいいわ。用件は伝えられた。ということで1ヶ月間あの子たちは来ないので金縛りにかかることはないわぁ~」
金縛りから解放された。でもすごい悲しい。カナちゃんとレイナちゃんに1ヶ月も会えないのなんて辛すぎる。
せっかく僕の生きる意味をくれた金縛りちゃんなのに……。あの子達のために僕が精一杯生きようと思ったのに。
1ヶ月……とてつもなく長く感じる。
「アタシも他の人を金縛るからもう会えないわよぉ~。残念だわぁ。せっかく仲良くなれたのに」
親指を咥えながらこっちを見るな。
他の人が不憫だ。こんなオカマに金縛りにかけられるだなんて不便すぎる。
泣きすぎて目も鼻も頭も痛い。それに疲れた。早く体を休ませたい。
「じゃあもう他の人のところに行っていいですよ。僕は疲れたので寝させてください……」
「うふふ。最高の夜にしましょう~」
投げキッスとウインクのダブルアタックだ。いつもよりも溜めに溜めた投げキッスが気持ち悪すぎて叫ばずにはいられなかった。
「ギヤァアアアアアアアアアアイヤダァアアアアアアア」
僕は恐怖のあまり気絶してしまった。
その後、何をされたかは知らない。知りたくもなかった……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ピピピピッピピピピッ
目覚まし時計の鳴る音だ。
「ァアアアアァアアア!!!」
産声のように声を上げながら意識が覚醒した。
「はぁ……はぁ……うぐぅ……」
いつの間に気を失ってたんだ……確か最後の記憶は……
オカマのウインクと投げキッスのダブルアタックを受けて気持ち悪すぎて発狂したんだった。そのまま気絶したってことか……。
情けない。僕は何回気絶しているんだ。
いや、でも待て。僕は今ベットの上で寝ていたぞ。気絶したのは確か扉の近くだった……。
て事はつまりオカマが僕をベットにまで運んでくれたという事になる。
体もすこぶる元気だ。疲労を吸い取られたんだ……。僕の疲労がオカマの栄養に……。
ああ、想像するだけで鳥肌が立つ。寒気もする。やばい、考えるのを辞めよう。
でもカナちゃんとレイナちゃんの事を色々教えてくれた事だけは感謝しないとな。
もう2度と会いたくないけど。
さて1ヶ月間は金縛りにかからないという事がわかった。
だったらこの1ヶ月間は疲労を溜めすぎて過労死する事なく生活しなきゃならない。
金縛りちゃんに会う前の生活を送ろう。何事も適度に無理することなくこなさなきゃならないな。
そんな心と体の配慮を考えながら時間は過ぎていきバイトの時間となった。
元気溌剌とした大きな声がスタッフルームに響いた。
その声の主は旅行から帰ってきた店長だ。旅行の帰りだからこそのテンションだ。
店長は立派なお土産袋から大量のウサギグッズをテーブルの上に出した。
キーホルダー、マグカップ、ペン、写真立て、ぬいぐるみ、タオルなど全部で50種類くらいはある。
すごい量のウサギグッズだ。こうやって見るとウサギグッズを集めていた両親の顔を思い出なぁ。
そんな大量に並んだウサギグッズにリナ先輩は目を光らせていた。
「あたしこれにしようかな。なんか可愛いし」
リナ先輩が選んだのは、ピンク色のウサギのキーホルダーだ。
それを見た店長はテンションを上げながらキーホルダーの説明を始めた。
「おっ、リナちゃんお目が高い。それは恋が叶うと言われているお守りだよ。確かリナちゃんは彼氏いなかったよね? もしかしたらこれで恋が実るかもしれないよ」
「うおぉお! マジですか! これはいいものを選んだかもしれない! ちょー嬉しすぎる!」
リナ先輩はキーホルダーを大事そうに持ちながらカバンの中へと閉まった。
「じゃあ僕はこれにしようかな」
僕が選んだのはぶくぶくに太った茶色いウサギのがま口財布だ。
がま口財布が欲しくて選んだんじゃない。このウサギの後ろ側がどうしても僕の後ろ髪に似てたから、親近感とかそんな感じでしまったのだ。
「やっぱりそれか。ウサギくんなら絶対にそれ選ぶと思ってたよ。だってウサギくんに似てるもんな!」
ズバリ店長の予想が的中したみたいだ。五十代後半とは思えないほど満面の笑みをこぼしていた。
本当に店長は元気だな。
それからはパートのおばちゃんや料理長などスタッフたちも各々好きなものを選んでいった。
「ところでウサギくん。最近疲れてるんじゃないか? 有給も使ってないんだし休んで旅行とか行ってみたらどうだ? 家族にも全然会ってないだろ?」
驚いた。珍しく店長が休むように提案してきた。
おそらく寝不足状態で顔色が悪かった僕を心配していたパートのおばちゃんかリナ先輩が店長にその事を伝えてくれたのだろう。
もしくは店長本人が何かを感じとてくれたかだ。
でもその事に関してはもう解決済みなので休む必要は僕にはない。
「いえいえ、大丈夫ですよ。最近寝れない夜が続いただけですから。でも今はそれも解決して元気です!」
オカマの金縛り霊がトラウマになって寝れなかっただけだ。
そのオカマももう来ないと言っていた。だから本当に大丈夫なのだ。
「いいや、家族旅行ぐらいはしてみたらどうなんだ? 俺も旅行したんだからさ。この際に家族旅行してこい!」
確かに店長の言う通りだ。両親とは連絡は取り合ってはいるがしばらく会ってない。
せっかくの機会だし家族旅行するのもいいのかもしれない。
「そ、それじゃ、お言葉に甘えて休ませていただきます」
「おう、それでいい。それじゃ休みたい日が決まったら教えてくれ」
「はい」
僕が休むのを決めた時だった。ニヤニヤと笑う声が僕の背中に刺さる。
「お土産よろしくね~」
盗み聞きしていたのはリナ先輩だった。
「もちろんお土産買ってきますけど! でもちょっと気が早いですよ。まだ両親にも連絡してないですし、旅行先も決まってませんよ」
リナ先輩には特別なお土産を買ってあげたい。
もちろん金縛りちゃんたちにも買ってあげたい。
だけど何がいいんだろう?
リナ先輩が喜びそうなものはなんとなくだけどわかってきた気がする。
でも金縛りの幽霊って何をもらったら喜ぶんだろうか?
とりあえずお土産は旅行先が決まって買い物の時間にでも考えよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
何事もなくバイトが終わり閉店作業も終了した。
家族旅行の件を伝えるべく、すぐに両親に連絡をしてみた。
両親も仕事の休みが取れるらしく、家族旅行ができるとのこと。
電話越しでも喜んでいる様子が伺えた。たまにはこういうのもいいのかもしれない。
急な電話と急な内容だったけど話がうまく進んで良かったと思う。
1ヶ月間はカナちゃんとレイナちゃんは謹慎処分中で会えない。
そして家族旅行中は当然のことながらバイトが休みだ。なのでリナ先輩にも会えない。
大好きな人たちに会えないのは残念でもあるが、久しぶりの家族との時間だ。大事に使おう。
この機会を作ってくれた店長には感謝しないとな。
それに僕の体調が悪い事を知らせてくれたであろうパートのおばちゃんかリナ先輩にも感謝しないと。
いや、待てよ。そうなると眠るのが怖くなるくらいのトラウマを植え付けた元凶でもあるオカマにも感謝しなくてはいけなくなる。
ああ、ダメだ。顔も思い出したくない。というか今日の夜は本当に来ないんだよね?
また今日も寝れなそうな気がするんだけど……。
未練を残し成仏できない幽霊や怨みなどの怨念が強く残り邪悪な悪霊になる場合もある。
良い幽霊と悪い幽霊はの両方存在するが金縛り霊は前者である。守護霊や座敷童子なども良い幽霊に分類される。
専属の金縛り霊のほとんどが守護霊のような役割をする。
オカマの金縛り霊、いや、今はユウナ先生と呼ぼう。
僕がユウナ先生から聞いた話では、カナちゃんもレイナちゃんもこの世に未練があり成仏できずに金縛り霊になったとのこと。
まずはカナちゃんの未練からだ。
カナちゃんはストーカーに殺された。そのストーカーはカナちゃんの元彼だった。
もうこの時点でかわいそうすぎて涙が止まらないんだけど……。衝撃的すぎる。
元彼は寄りを戻さないなら殺すなどと脅していたらしい。それでカナちゃんは怖くなり家族や警察に相談をした。警察は相談には乗ってくれるけどほとんど動いてくれなかったらしい。これじゃなんの解決にもならない……。
その結果、仕事の帰り道にその男と遭遇。夜道で人は全然歩いていない。おそらくそのタイミングを狙ってたんだろう。
カナちゃんはなんとか話し合いで解決しようとしていたけど既に遅かった。もう元彼の覚悟は固まっていたのだ。
元彼は隠し持っていたナイフをカナちゃんの腹に突き刺してそのまま心中したとのこと……。
カナちゃんは恐怖やショックのあまりその時の記憶がすっぽり抜け落ちたらしい。
そしてなぜ自分が死んだのかわかってない状態で金縛り霊になった。
その、なぜという強い思いが成仏できない理由だとユウナ先生は言っていた。
このことを本人に話して記憶が戻ってしまうと、殺された怨みからカナちゃん自身が悪霊に変わってしまう恐れがある。なので本人には話さないようにとユウナ先生には忠告された。
カナちゃんの死因が壮絶すぎて絶句した。
僕がカナちゃんの立場だったら間違いなく恨んでた。それで悪霊になってでも恨みを晴らしていたと思う。
だから記憶が抜けてるのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
次にレイナちゃんの未練だ。
レイナちゃんの死因は自殺だと聞かされ衝撃的だった。あの元気な女の子が自殺だなんて想像もできない。
それにレイナちゃんはカナちゃんとは違い記憶がある。それなのに太陽のような笑顔をいつも振る舞いているのは正直泣けてくる。
自殺へ追い込んだのは両親らしい。レイナちゃんは両親からの虐待に耐えきれなくて自殺した。
父親からは幼い頃から性的虐待を受けていてた。それを見ていた母親は父親への嫉妬心でレイナちゃんを虐待。最悪な両親だ……。
両親に愛されず道具としか見てもらえなかった日々に耐えられなくなるのもわかる。僕なんかが同情していいのかわからないけど……。
それでレイナちゃんは愛に飢えていた。本当の愛とは何か。そんな思いから愛を求めるあのような性格になったのだろう。
誰かに愛されたい。本当の愛を知りたい。それがレイナちゃんの未練だそうだ。
ちなみにユウナ先生はオカマバーで酒を飲み過ぎてアルコール中毒を起こしたらしい。
そして救急車が到着する前にそのまま死んでしまったとのこと。
最後に言った言葉は「寒いっ」だったそうだ。
どうでもいい情報だけど、無視してしまうと目の前のオカマに何されるかわからないので話は最後までちゃんと聞いてあげた。
カナちゃんとレイナちゃんの話を聞き終えた僕は、嗚咽しながら泣いていた。泣くしかなかった。
「ぐすんっ……あぅ……ぐす……うぅうあっ……」
僕は涙も鼻水も止まらなかった。こんなに悲しい気持ちになったのは生まれて初めてだった。
「アタシのために泣いてくれるのねぇ~」
「うぅう……違いまぐぅ……カナちゃぐうぅ……レイナちゃんへの……うぅあぁう……涙です……ぇう」
「酷いわねぇ。少しくらい乙女のアタシのために泣いてもいいのよぉ。うふっ」
投げキッスが飛んできたので全力ではたき落とした。
どこが乙女だ。酔っ払って死んだだけじゃないか……。
他人の死にどうこう言えないけど酔っ払いってなると僕はなんだか厳しい。
迷惑な酔っ払いを見てきたからかもしれない。もう僕の心は酔っ払いを受け入れなくなっている。
「まぁいいわ。用件は伝えられた。ということで1ヶ月間あの子たちは来ないので金縛りにかかることはないわぁ~」
金縛りから解放された。でもすごい悲しい。カナちゃんとレイナちゃんに1ヶ月も会えないのなんて辛すぎる。
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1ヶ月……とてつもなく長く感じる。
「アタシも他の人を金縛るからもう会えないわよぉ~。残念だわぁ。せっかく仲良くなれたのに」
親指を咥えながらこっちを見るな。
他の人が不憫だ。こんなオカマに金縛りにかけられるだなんて不便すぎる。
泣きすぎて目も鼻も頭も痛い。それに疲れた。早く体を休ませたい。
「じゃあもう他の人のところに行っていいですよ。僕は疲れたので寝させてください……」
「うふふ。最高の夜にしましょう~」
投げキッスとウインクのダブルアタックだ。いつもよりも溜めに溜めた投げキッスが気持ち悪すぎて叫ばずにはいられなかった。
「ギヤァアアアアアアアアアアイヤダァアアアアアアア」
僕は恐怖のあまり気絶してしまった。
その後、何をされたかは知らない。知りたくもなかった……。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ピピピピッピピピピッ
目覚まし時計の鳴る音だ。
「ァアアアアァアアア!!!」
産声のように声を上げながら意識が覚醒した。
「はぁ……はぁ……うぐぅ……」
いつの間に気を失ってたんだ……確か最後の記憶は……
オカマのウインクと投げキッスのダブルアタックを受けて気持ち悪すぎて発狂したんだった。そのまま気絶したってことか……。
情けない。僕は何回気絶しているんだ。
いや、でも待て。僕は今ベットの上で寝ていたぞ。気絶したのは確か扉の近くだった……。
て事はつまりオカマが僕をベットにまで運んでくれたという事になる。
体もすこぶる元気だ。疲労を吸い取られたんだ……。僕の疲労がオカマの栄養に……。
ああ、想像するだけで鳥肌が立つ。寒気もする。やばい、考えるのを辞めよう。
でもカナちゃんとレイナちゃんの事を色々教えてくれた事だけは感謝しないとな。
もう2度と会いたくないけど。
さて1ヶ月間は金縛りにかからないという事がわかった。
だったらこの1ヶ月間は疲労を溜めすぎて過労死する事なく生活しなきゃならない。
金縛りちゃんに会う前の生活を送ろう。何事も適度に無理することなくこなさなきゃならないな。
そんな心と体の配慮を考えながら時間は過ぎていきバイトの時間となった。
元気溌剌とした大きな声がスタッフルームに響いた。
その声の主は旅行から帰ってきた店長だ。旅行の帰りだからこそのテンションだ。
店長は立派なお土産袋から大量のウサギグッズをテーブルの上に出した。
キーホルダー、マグカップ、ペン、写真立て、ぬいぐるみ、タオルなど全部で50種類くらいはある。
すごい量のウサギグッズだ。こうやって見るとウサギグッズを集めていた両親の顔を思い出なぁ。
そんな大量に並んだウサギグッズにリナ先輩は目を光らせていた。
「あたしこれにしようかな。なんか可愛いし」
リナ先輩が選んだのは、ピンク色のウサギのキーホルダーだ。
それを見た店長はテンションを上げながらキーホルダーの説明を始めた。
「おっ、リナちゃんお目が高い。それは恋が叶うと言われているお守りだよ。確かリナちゃんは彼氏いなかったよね? もしかしたらこれで恋が実るかもしれないよ」
「うおぉお! マジですか! これはいいものを選んだかもしれない! ちょー嬉しすぎる!」
リナ先輩はキーホルダーを大事そうに持ちながらカバンの中へと閉まった。
「じゃあ僕はこれにしようかな」
僕が選んだのはぶくぶくに太った茶色いウサギのがま口財布だ。
がま口財布が欲しくて選んだんじゃない。このウサギの後ろ側がどうしても僕の後ろ髪に似てたから、親近感とかそんな感じでしまったのだ。
「やっぱりそれか。ウサギくんなら絶対にそれ選ぶと思ってたよ。だってウサギくんに似てるもんな!」
ズバリ店長の予想が的中したみたいだ。五十代後半とは思えないほど満面の笑みをこぼしていた。
本当に店長は元気だな。
それからはパートのおばちゃんや料理長などスタッフたちも各々好きなものを選んでいった。
「ところでウサギくん。最近疲れてるんじゃないか? 有給も使ってないんだし休んで旅行とか行ってみたらどうだ? 家族にも全然会ってないだろ?」
驚いた。珍しく店長が休むように提案してきた。
おそらく寝不足状態で顔色が悪かった僕を心配していたパートのおばちゃんかリナ先輩が店長にその事を伝えてくれたのだろう。
もしくは店長本人が何かを感じとてくれたかだ。
でもその事に関してはもう解決済みなので休む必要は僕にはない。
「いえいえ、大丈夫ですよ。最近寝れない夜が続いただけですから。でも今はそれも解決して元気です!」
オカマの金縛り霊がトラウマになって寝れなかっただけだ。
そのオカマももう来ないと言っていた。だから本当に大丈夫なのだ。
「いいや、家族旅行ぐらいはしてみたらどうなんだ? 俺も旅行したんだからさ。この際に家族旅行してこい!」
確かに店長の言う通りだ。両親とは連絡は取り合ってはいるがしばらく会ってない。
せっかくの機会だし家族旅行するのもいいのかもしれない。
「そ、それじゃ、お言葉に甘えて休ませていただきます」
「おう、それでいい。それじゃ休みたい日が決まったら教えてくれ」
「はい」
僕が休むのを決めた時だった。ニヤニヤと笑う声が僕の背中に刺さる。
「お土産よろしくね~」
盗み聞きしていたのはリナ先輩だった。
「もちろんお土産買ってきますけど! でもちょっと気が早いですよ。まだ両親にも連絡してないですし、旅行先も決まってませんよ」
リナ先輩には特別なお土産を買ってあげたい。
もちろん金縛りちゃんたちにも買ってあげたい。
だけど何がいいんだろう?
リナ先輩が喜びそうなものはなんとなくだけどわかってきた気がする。
でも金縛りの幽霊って何をもらったら喜ぶんだろうか?
とりあえずお土産は旅行先が決まって買い物の時間にでも考えよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
何事もなくバイトが終わり閉店作業も終了した。
家族旅行の件を伝えるべく、すぐに両親に連絡をしてみた。
両親も仕事の休みが取れるらしく、家族旅行ができるとのこと。
電話越しでも喜んでいる様子が伺えた。たまにはこういうのもいいのかもしれない。
急な電話と急な内容だったけど話がうまく進んで良かったと思う。
1ヶ月間はカナちゃんとレイナちゃんは謹慎処分中で会えない。
そして家族旅行中は当然のことながらバイトが休みだ。なのでリナ先輩にも会えない。
大好きな人たちに会えないのは残念でもあるが、久しぶりの家族との時間だ。大事に使おう。
この機会を作ってくれた店長には感謝しないとな。
それに僕の体調が悪い事を知らせてくれたであろうパートのおばちゃんかリナ先輩にも感謝しないと。
いや、待てよ。そうなると眠るのが怖くなるくらいのトラウマを植え付けた元凶でもあるオカマにも感謝しなくてはいけなくなる。
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