僕の彼女は金縛りちゃん

アイリスラーメン

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第1章

18 ご両親か、泥棒か、ストーカーか、それとも

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 なんで、なんでこんなことになったんだ。
 すぐに帰るつもりだったのに。
 僕がリナ先輩の家にお泊まりだなんて。

 しかも一つのベットの上で寝ているだなんて!

 な、何もないよな。何も起きないでくれよ……。

 やばいやばいやばいやばいやばい!
 緊張する緊張する緊張する緊張する!

 このベットセミダブルってやつか?
 いや、いやいや! 今はベットのサイズなんてどうでもいいんだよ!
 流石に同じベットで寝るとかやばいよな! 
 何もしないって言ってるけど、もうしちゃってるのと一緒だよな。
 だって同じベットの上で! しかも同じ布団で! 隣同士で!

 それにしても今日の先輩はおかしい。絶対におかしい。何を考えてるんだ……。

 しかもしかもしかも!
 今の僕とリナ先輩の服が全く一緒!
 ピンク色のスウェット! さっき貰ったものと同じもの!

 からかいたいがために買ったのか?
 これが狙いだったのか?
 だったら策士だ。策士すぎる!
 自然とこのスウェットを着るように仕向けたっていうのか!

 まあ、いい。
 着てしまったのは仕方がない。
 それにお泊まりを断りきれなかった僕が悪い。

 このまま何事もなく寝るしかない。
 それしかない。

「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」

 大丈夫。
 寝息が聞こえるってことはリナ先輩は寝ているってことだ。
 リナ先輩の寝息も可愛いな。
 女の子ってみんなこんなに可愛い寝息なのか?

 まあ、リナ先輩の寝息を子守唄にしながら僕も寝るとしようかな。

「……んっ…………ハフーハフー」

 って! おいおいおいおいおいおいおい!
 抱き枕に! 抱き枕にされた!
 やばいやばいやばいやばい! マジか? マジなのかこれ!?

 リナ先輩の腕が! リナ先輩の脚が! ぼ、僕の体に絡んでくる!
 寝相が悪いってレベルじゃないぞ! これ!

 しまった。もう動けない。
 近付いて来た時点で避けるべきだったんだ。
 それにこの状況で起こしたりしたら勘違いされるかもしれない。
 僕が抱きついて来たって……。

 くそー!
 これじゃまるで金縛りだよ!
 動けない! 動くわけにはいかない!
 途中で帰るっていう選択肢が消去されてしまった!

「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」

 ああー! もう!
 寝息が可愛いな!

 おっぱいも当たってるのか?
 布団の柔らかさなのか?
 わからない。わからないけど、この体勢なら間違いなく当たってる!

 こんな状況で寝れるわけないじゃんかー!

 いや、こういう時こそ平常心だよな。
 いやらしいことなんて一つもしてない。
 僕はリナ先輩の抱き枕になっただけだ。

 目蓋のカーテンを閉じて平常心を保て。
 そうすればいつの間にか眠るはずだ。
 そう。かなちゃんとレイナちゃんに金縛りをかけられてる時みたいに!


「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」

 あとは寝るだけ!
 あとは寝るだけ!
 あとは寝るだけ!

「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」

 眠れねー!!!!!




 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 あ、あれ?
 いつの間にか寝てた?
 でも起きちゃったか。せっかく寝たのにもったいない。

 というかまだ抱きつかれてるし。
 やっぱりこんな状況だとぐっすり眠れないよな。
 それにまだ暗い。きっとそんなには時間が経ってないんだろうな。
 眠りが浅かった。でも寝れた。
 また頑張って寝るしかないな。

 でも少し寝返りとか打ちたいかも。
 同じ体勢だと流石にキツい。
 起こさないようにゆっくりと動くか。

 だ、ダメだ。
 全く動かない。
 抱き付くの強すぎない?
 どんだけ僕を帰らせたくないのさ!

 いや、本当に抱き付かれているから動けないのか……? 
 なんか体がおかしいぞ。寝返りが打てないからじゃない。

 もしかして……金縛り?
 金縛りにかかってる可能性もあるんじゃないか?
 否定する根拠がどこにもない。
 それどころか金縛りにかかっているんだと肯定してしまっている。
 だってこの感覚……金縛りの時と全く一緒だから!

 あのボロアパート以外でも金縛りにかかるのか?
 いや、他の人の家で金縛りにかかるとどうなってしまうんだ?
 カナちゃんとレイナちゃん以外の金縛りの幽霊が僕に金縛りをかけてるのか?

 迂闊だった。
 金縛りは金縛りだ。
 どこでもかかってしまうものだ。金縛りなんだから当たり前じゃないか。

 いや、でも、まだ金縛りにかかっているわけではないだろ。
 抱き付かれていて金縛りにかかっているのかどうか判断できない。
 そもそも僕は金縛りの最中でも動く事ができる体になっているじゃんか。
 いや待て! 動けるって事は余計に判断し辛いではないか……。

 と、とりあえず寝返りを打ってみよう。
 リナ先輩を起こしたら仕方ない。その時はその時だ!


 そーっと……そーっとだ。


 やっぱり体は動く。
 抱き付かれていたから体が固まっていたんだ。

 良かったと安心するのはまだ早い。
 別の問題が発生してしまった。
 寝返りを打ったせいでリナ先輩の豊満なおっぱいが僕の右腕を挟んでしまっている。
 ああ、柔らかい。なんて柔らかいんだ。


「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」

 いかんいかんいかん。ここで発情してはダメだ。
 おっぱいから右腕を離さないと。
 って! おいおいおいおいおい! 嘘だろ。
 離れないように腕をガッツリ抱きつかれたー!
 本当に寝てるのかこれ?
 さっきよりも余計に動けないそ!

 やばいぞ。やばいぞこれは。
 現行犯逮捕だ! 痴漢の容疑で逮捕だ!

 いや、待て待て待て。
 これは僕とリナ先輩の寝相が悪いせいだ。
 断じて痴漢ではない。

 このまま寝ちゃえば全て解決。
 そう! 解決だ。

 よしっ!
 寝よう!
 寝るしかない!


 寝るしか…………いや、念のために……部屋を確認しよう。
 金縛りの幽霊がいるかもしれないからな。
 念のため、念のために確認だ。

 カナちゃんやレイナちゃんのように可愛い金縛りの幽霊だったらいいけど、そうとは限らない。
 もしかしたら都市伝説や怪談話のように恐ろしい金縛りの幽霊だって存在するかもしれない。
 それが今、この部屋にいるかも……こ、怖すぎる。

 だ、ダメだ。ネガティブ思考は。
 何もいないことを確認する。
 それで安心して眠りにつくんだ。

 見える範囲だけでいい。辺りを見渡そう。

 大丈夫。何もいない。
 金縛りの幽霊も、おかしなところも、一つもない。

 良かった。

 安堵した瞬間、見てしまった。
 幽霊ではない。リナ先輩の寝顔を見てしまったのだ。

 リナ先輩の寝顔めっちゃ可愛い。
 どうして女の子って寝てる顔は普段と違った可愛さがあるのだろうか?
 というかリナ先輩どんな時でも可愛いな。

 癒される。めちゃくちゃ癒される。
 寝返り打って良かった。
 おっぱいの柔らかさも堪能できてるし。
 もう幸せすぎる。

 このまま、この幸せな気持ちのまま、もう一度眠りにつくとしよう。
 きっと良い夢が見られるはずだ。


 ザ、ザザザザ、ザザッ。

 は?
 何今の奇妙な物音がした。


 ザザザ、ザザッ。


 黒い影?
 いや、人影だ。
 完全に人の形をしている。


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 こんな時に限って泥棒が入って来たのか? それともリナ先輩のことだからストーカーとか?
 もしかしたらご両親!?
 ご両親だったらごめんなさい。でも僕は娘さんに一切手を出してません。
 って! そんな場合じゃない!

 ここの家のセキュリティーってどうなってたんだっけ?
 確か……オートロックの……パスワードの……セキュリティーに問題ねー!

 やっぱりご両親か!
 だったらちゃんと説明しないと。
「僕は童貞です」って説明したらわかってくれるだろう。

 いや、待て泥棒とかストーカーでもパスワードとキーさえあれば簡単にここまで入れるぞ。
 泥棒だった場合、僕は殺されるかもしれないな……。
 ストーカーだったら確実に殺される。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 ぼ、僕は男だ。ここでリナ先輩を守れないでどうする。
 勇気を振り絞ってリナ先輩を守ろう。
 相手の出方次第でこっちも動くぞ。
 今は寝たフリで様子をみよう。
 怖いけど大丈夫だ。
 絶対に守ってみせる……。

 だから頼むからそのまま何もせずに出て行ってくれ。

 頼む! 頼むから出て行ってくれ!

 って、なんで全く動こうとしないんだ?
 もしかして僕が起きてることに気付いた?

 いや、おかしい。動く気配すら感じない。
 確かに黒い人形の影だ。でもそういう風に見えてしまっているだけかもしれない。

 だから動かないんだ。絶対そうだ。

 いや、待てよ。でもおかしい。なんか見覚えがあるようなないような。
 ……ま、まさか、いや、そんなはずはない……でもそうだ……。

 集中して見よう。だんだん黒い人影の正体が見えるようになって来たぞ。
 見覚えのあるシルエット。見覚えのある白い服。見覚えのある栗色の髪。見覚えのある幼い顔つきの美少女。


 えぇええ……も、もしかして、レイナちゃん!?
 もしかしてもなにも、レイナちゃんだ!

 ストーカーはストーカーでも僕の方のストーカーだった!

 そういえばレイナちゃんは金縛りをかけにくると言っていた。
 有言実行。本当にかけに来たのだ。しかもリナ先輩の家にまで来たのだ。

 やっぱり僕は金縛りにかかっていたんだ。
 この感覚は金縛りで間違いなかったんだ……。
 って今はどれどころじゃない。

 なんで僕の場所がわかったかわからないけど、レイナちゃんが金縛りをかけに来たのは事実だ。

 でもなんでレイナちゃんは部屋の壁側にいて全く近付いてこないんだ?
 レイナちゃんの表情が気になる。

 もっと目を凝らして集中すれば表情も見えるんじゃないか?

 柔らかそうな頬はプクーっと膨らんでいる。これはあれだ不機嫌そうな顔だ。
 不覚にもその表情を可愛いと思ってしまった……。

 膨れっ面のレイナちゃんはゆっくりと動き出した。
 ゆっくりとゆっくりと僕の、僕たちの足元の方へと歩いてくる。
 何をする気なのだろうか? 嫌な予感しかしないんだけど……。

 左足を掴まれた感覚がある。
 掴まれた瞬間、ビクッと体が反応してしまったが、リナ先輩は起きなかった。本当に良かった。
 声を出してレイナちゃんに話しかけたいが、それはできない。リナ先輩を起こしてしまう可能性があるからだ。
 だからじっと待つしかない。何をするかわからない金縛りの幽霊のレイナちゃんがやることをただ黙って待ってるしかない、

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 恐怖に怯えている僕を嘲笑あざわらっているかのように、レイナちゃんは何も仕掛けてこない。
 ただ左足の足首を掴まれただけだ。

 おそらくだけど『疲労』を吸い取り『栄養』に変えているんじゃないだろうか?
 それと不機嫌な理由は、僕とリナ先輩が一緒に寝てるからか?
 それで僕と一緒に寝れないからか?

 多分そうだ。いや、絶対にそうだ。

 次に金縛りにかかった時が怖いな……。なんて言われるんだろう。
 メンヘラ妹属性のレイナちゃんだもんな。絶対怒るだろう。いや、大泣きするかもしれない。もしかしたら「成仏してやる」とか言ってきそう。いや、「呪ってやる」かもしれない。

 どっちにしろめんどくさい未来が想像できる……。

「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」

「…………スハースハー…………スハースハー」

 リナ先輩の寝息に続いてレイナちゃんの寝息も聞こえてきた。
 どうやら僕の『疲労』を吸い取って眠りについたみたいだ。
 よくやったぞ! 僕の疲労!

「…………スハースハー…………スハースハー」

「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」

 二人の寝息のデュエットだ。
 普通に聞いていれば心地よい音色だけど、状況が状況だよな。
 いけないことをしているみたいで心苦しい。NTRってやつ? 
 いやいや、罪悪感がすごいんですけど……。何これどうしたらいいの? 
 この感情はなんなの?
 浮気とかそういうのじゃないからね!
 ただ友達と同じベットの上で寝ちゃってるだけだから!
 そもそもレイナちゃんとはまだそんな関係じゃないし!
 だから浮気とかそういうのじゃないから!

「…………スハースハー…………スハースハー」

「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」

「…………スハースハー…………スハースハー」

「…………ハフーハフー…………ハフーハフー」

 ああ、それにしても心地良い。
 これが金縛りの力か……。
 これならすぐにでも眠れそうだ。
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