14 / 76
第1章
14 リナ先輩とデートとか奇跡かよ
しおりを挟む
十四時四十分。
今僕は、渋谷にいる。
ウサ公というウサギの銅像があるところだ。
渋谷の待ち合わせ場所は? と聞かれて誰もが真っ先に思い浮かぶところがここウサ公前だ。
デートという名目でリナ先輩に会うことになったけど、ちょっと早すぎたな。
だって集合時間十五時だもん。二十分も早く着いちゃった。
いや、本当はピッタリに着こうと思えば着けたけど、もしものことを考えたら……やっぱりこの時間に。
実際は渋谷に到着したの十四時なんだけどね……。
この一時間がめちゃくちゃ長く感じる。
でもあと二十分だ。
あと二十分でリナ先輩が来てくれる。
ちなみに僕の今日のコーデは……
「ウサギく~ん!」
「あっ」
リナ先輩だ。
え? なんで? なんで二十分も早く来てるの?
もしかして僕の時計が間違ってた?
見た目は清楚系ギャルだけど遅刻は絶対にない。それだけはわかってる。
だからと言っても早く到着しすぎでしょ!
「ウサギくん早いね。ま、あたしもだけど」
「あっ、は、はい! ちょっと早く着いちゃいました!」
「さては、あたしに会うのが楽しみすぎて早く到着しちゃったんだな~? ウサギくんなら二時に到着してたりして~」
ず、図星だ。
マジでこの人、僕の心読めてるんじゃないか?
「って? え、あ、あれ? もしかして図星? 冗談で言ったつもりだったんだけど、マジか」
「あ、い、いや、さ、さっき着いたばかりです」
お、思わず嘘をついてしまった!
十四時に到着したとか絶対に言えない!
まあ、この程度の嘘はよくあるやつだ。
きっと大丈夫。なんとかなる。
そ、それで僕のコーデ……なんてどうでもいい!
リナ先輩の……リナ先輩の服が、か、可愛すぎる!
ショートパンツというやつか? 褐色肌の長い足を全開に出している。
鼻血が出そうなくらいセクシーだ。
さらにモコモコで暖かそうな白色のニットを着ている。か、可愛い……。
バイトの時の制服とは全く違う! 全く違うリナ先輩だ!
そ、それはそうか。だってバイトじゃないから。
僕とリナ先輩はプライベートで会ってるんだ。
なんでだろう。いつも会ってるはずなのにめちゃくちゃ緊張してきた。
僕にとってリナ先輩は優しい先輩だ。尊敬する先輩でもある。
美人だし、可愛いし、たまに緊張してしまう時があるけど、それは恋愛感情じゃなくて、僕が単純に女性への免疫がないだけ。
制服を着ていてもわかるほど大きなおっぱいのせいで、リナ先輩をエロく見てしまう事もある。それは童貞だから仕方がないことだ。
童貞の僕をたまにからかって楽しんでいるが、最後にはちゃんと優しくしてくれる。
そこがまたいいんだよな。って変な性癖に目覚めちゃいそうになってる。いや、もう目覚めてるかも。
でも僕とリナ先輩は先輩と後輩の関係。
どちらかがバイトを辞めれば関わることが無くなる。たったそれだけの存在だ。
だから、もし僕がリナ先輩を好きになったとしても絶対に付き合ったりはしないだろう。
万が一、億が一、リナ先輩が僕のことを好きになったとしても、それでも付き合ったりはしないと思う。
職場恋愛とか絶対に失敗しそうだし。
というかなんで付き合うとか、付き合わないとかの話になってるんだ?
それだけ意識しちゃってるってことか。
いかんいかん。こんなんじゃダメだ。
僕にはカナちゃんという超絶美少女がいるんだ!
それに最近はレイナちゃんという可愛らしい女の子だって!
「ん~? ウサギくん? どうしたのかな? もしかして緊張してるのかな~?」
「は、はい! あっ、き、緊張してませんよ! い、行きましょう!」
完全に緊張している奴の返事してるじゃん。
本当に恥ずかしい。
でも、こんな僕を見て笑顔になってくれるのはなんか嬉しいな。
笑うときに現れる八重歯がものすっごく可愛い。笑うとそればっかり見ちゃう。
それに声も優しい。子供に接するときの声みたいに。
まあ、からかってくるときは小悪魔みたいな口調になったりするけど。
それもまたリナ先輩のいいところだよな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ランンジェリーショップだ。
女性用の下着がたくさん並んでいるお店だ。
童貞の僕には恥ずかしすぎる場所なんですけど!
ここで待っててって言われて十分くらい経ってるよな。
めちゃくちゃ悩んでるってことか?
目のやり場に困るから、リナ先輩早く戻ってきてー!
そろそろレジにいてくれてもいいんだよ。
レジにね。レジに。
あっ、リナ先輩、赤い下着と黒い下着を見ながら悩んでる。
めっちゃエロい。
って、変なシーン見ちゃった。
それにエロくなんかない。普通に買い物してるだけ。買い物してるだけだから!
鼓動が激しくビートを刻む。
顔も熱くなってきた。
手汗もひどい。
ど、どうしよう。
なんてタイミングで見てしまったんだ。
もう僕の頭の中で、赤い下着を着たリナ先輩と黒い下着を着たリナ先輩が映ってるよ。
しかも鮮明に。どんだけ妄想力すごいんだ僕は!
100点だよ100点。120点だよ。どっちも似合ってるよ。
だから悩まずにどっちも買ってください。
お金なら僕が出しますから!
「お待たせ~。ちょっと時間かかっちゃった……って、なんか顔変だぞ。さては、えっちな妄想でもしてたな~」
「あっ、い、いや、な、なんも、も、妄想なんて、してないです!」
からかうときの口調と声質だ。しかも図星だ。くっそ恥ずかしい。
ああ、もっと顔が熱くなってきた。目も絶対に泳いでるんだろうな。
動揺しすぎて逆にえっちな妄想してましたって言ってるようなもんだよな。
って、リ、リナ先輩!?
顔が、顔が近い!
か、顔が! 近い!
「あ~、童貞のウサギくんには刺激が強かったよねっ。ごめんごめん! ちなみにあたしは黒を選んだぞっ」
耳元で囁いたリナ先輩は小悪魔だ。僕のことをからかう小悪魔だ。
そんな小悪魔の誘惑する声に僕の心臓は張り裂けそうになる。
呼吸だってどうやればいいのか、わからなくなる。
リナ先輩の顔が離れる。
小悪魔のように笑みを浮かべていた。
口元からは可愛らしい八重歯が出ている。その八重歯に真っ先に目が奪われた。
「く、く、くろ!?」
「うんっ。黒」
ランジェリーショップの袋の中からには本当に黒色の下着が入っていた。
いつの間にか視線が袋の中に奪われていた僕は変態か?
仕方がない。リナ先輩の声が、態度が、僕の視線を誘導したんだから。
ランジェリーショップの袋から視線を外すとリナ先輩の全身が僕の瞳に映った。
モデルのように立ってポーディングを決めている。
何事だ?
誘惑でもしているのか?
いや、僕をからかってるんだ。
恥ずかしがったり挙動不審になったりする僕をからかって遊んでいるんだ。
「ちなみになんだけど~、黒と赤だと…………どっちが似合うと思う?」
「ど、どっちも! どっちも120点でしゅ!」
き、緊張で盛大に噛んでしまった。
というか勢いで答えてしまった。
「120点か。ぷふっ! ありがとうっ~ぷふっ!」
小悪魔のような笑みを浮かべていたリナ先輩は、いつの間にか子供のような無邪気な笑顔に変わっていた。
「そうだ!」
「は、はい!」
「デートしてくれたお礼にこれ観に行かない?」
リナ先輩は映画チケットを見せてきた。
それも二枚。
「ホラー映画好きなんでしょ? ちょうどこないださ~、酔っ払いのお客さんにもらったんだよねっ!」
「え? あ、いや、ホラー映画が好きとか言ったことないですよ……というか僕ホラー系苦手ですよ……」
「え? だってこの前、金縛りとか心霊とか話してたじゃん」
「金縛りにかかる話をしただけで……」
「あ~、確かにそうだったわ~。でもせっかくチケットあるんだけどな……」
俯いて悲しそうな顔してる。
そんなに僕と……僕と映画が観たかったのか。
「観ます」
「え?」
「映画観ます! 観たいです!」
「よっしゃー! じゃあ行こっか! ウサギくん」
「は、はい!」
僕は負けた。
ホラー映画だなんて怖くて観たくないけど、リナ先輩の悲しむ顔の方が見たくない。そう思ってしまった。
だから観る。ホラー映画を。リナ先輩の笑顔を見るために!
◆◇◆◇◆◇◆◇
ホラー映画は赤い風船を持ったウサギの着ぐるみが街の子供たちを襲うというものだった。
ウサギの着ぐるみがナイフを持って走り回ったりしてるんだよ。普通に怖すぎる。夢に出そうでマジで怖い。
というかウサギの着ぐるみがウサギを惨殺してたところが一番効いた。あれはトラウマ級だ。
僕は見ての通り臆病者で怖いのは苦手だ。今となっては、金縛りに慣れているけど最初の頃はめちゃくちゃ怖がっていたのを思い出した。
リナ先輩は心霊現象とかを信じないって言っていた。その言葉通り、ホラー映画も余裕みたいだったな。
女性なのにすごい……。あはは。僕は情けない。あはは。
「全然怖くなかったね。めちゃくちゃ面白かったけど」
「えぇ? あ、は、はい。そ、そうですね。あはは。お、面白かったですね」
やっぱり余裕だったみたい。というか全然怖くなかったの?
めちゃくちゃ怖かったですよ。
「続編とか絶対ありそうだよね。ウサギの着ぐるみのやつ絶対生きてるっしょ!」
「た、確かに……生きてそうですよね……」
「でしょ~。続編あったらまた一緒に観に行こうね~!」
絶対に観たくない。絶対に観たくない。絶対に!
「は、はい! 観に行きましょう!」
くそー。
映画の恐怖心がまだ残ってて、体が小刻みに震えてるっていうのに。寒気もするってのに。それに誰かに見られているような感覚にも陥っているってのに。
リナ先輩の上目遣いには勝てない。誘惑してくる豊満なおっぱいにも勝てない。
くそくそくそ。ずるいぞ。ずるいぞー!
男心をくすぐるなんて!
というかニットからでも巨乳ってわかるのってどんだけ大きいんだよ!
おっぱいに文句言ったの初めてだぞ!
「なんかお腹空いてきたね」
ホラー映画の後だぞ。ウサギが惨殺された後だぞ。
よく食欲が湧くよな。
本当に怖くなかったんだ。すごいな。
「なんか良いお店とかない?」
「そ、それでしたらラーメンとかどうですか?」
ラーメンなら大丈夫。食べれると思う。
ハンバーグとかステーキとか肉系は無理だけど。
ラーメンならいける。
「僕の大好きな家系のラーメン屋があるので!」
「デートの締めにラーメンか……」
あっ、やばい。
そうだ。僕たちは今デートをしてるんだ。
デートでラーメンとか絶対ダメだろ。ダメ男、童貞男の象徴だぞ。
絶対に引かれてる。最後の最後でやってしまった。
「いいねいいね! 行こう行こう!」
「へ?」
「あたしラーメンめっちゃ好きなんだよね! 特に家系! ウサギくんあたしのことわかってるじゃ~ん!」
よ、喜んでくれた。
良かった。
またリナ先輩の笑顔が、八重歯が見れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
リナ先輩は喜んでラーメンを食べてくれた。
先輩の口に合ったらしく半ライスまで頼んでスープも飲み干していた。
何とも豪快な食べっぷり。ホラー映画の後なのに豪快すぎる!
よく食べる女はモテると聞いた事があるけど、何となくわかった気がする。
「次のデートもまた締めのラーメン? ってのをしようねっ!」
「つ、次のデート!?」
次もデートできるのか。
僕は合格? ってこと?
いや、合格ってなんだ?
でも喜んでる。すごい喜んでるのがわかる。
「うん。いや~それにしてもめちゃくちゃ美味しかったわ。あんな隠れた名店があったなんて驚きっ~」
「よ、喜んでもらえてよかったです」
「それじゃ、そろそろお開きだね」
「あっ、は、はい……」
なんだろう。めちゃくちゃ寂しい。
バイトが終わって別れるのとは訳が違う。
まだ別れたくない。もっと一緒にいたい。
おかしいな。こんな感情になるだなんて。
「今日はすっごく楽しかったよ。それじゃあ明日のバイトで!」
明日のバイト? そうだ。リナ先輩とはバイトで会える。いつでも会える。
今日が最後じゃないんだ。また会えるんだ。
「はい。明日のバイトで!」
「うんっ! またね~」
リナ先輩の背中が遠くなる。そして見えなくなった。
リナ先輩とのデートはこれにて幕を閉じた。
慣れないデートでいつもとは違う身体的疲労が溜まった。
でも楽しかった。楽しかったから、精神的ストレスが全く感じられない。
荷物持ちとかもされるのかって思ってたけど、リナ先輩は買い物が少なくて、というか黒の下着しか買ってなかったな。だから荷物とか全然なくて荷物持ちもなかったな。
多分、たくさん買ったとしても自分で持ってくれるんだろうな。それでも僕は荷物持ってあげるけど。
もしも、もしも僕に彼女とかいたら、こんな感じ毎日になるのかな?
一週間に一回でも、一ヶ月に一回でも全然いい。
またデートというものをしたい。
まあ、リナ先輩だからこんなに楽しめたのかもしれない。
リナ先輩が僕にとって特別だから……。
カナちゃんは……カナちゃんはデートとかできるのかな?
夜に現れた時に外に一緒に出たりとか……。
というか金縛りにかかってるんだから歩けるわけないか。
でも上半身までは動かせられるようになったし……歩けるようにもなるかもしれないな。
そしたら外とか一緒に歩いてみたいな。夜の公園を散歩とか。
「や~だ~。か~え~り~た~く~な~い~」
別れを惜しむカップルだ。
それも駅を埋め尽くすほどにたくさんいる。
なんとも羨ましい光景だ。
リナ先輩との別れはあっさりしてたな。いつかこんな感じに……ならないか……。
あの笑顔が見れればそれだけで十分。僕には十分すぎるご褒美だよ。
「お~れ~も~か~え~り~た~く~な~い~」
なんでだろう。なんだかムカムカしてきた。
というか公共の場でイチャイチャするなよ。
羨ましい気持ちが完全に消えたぞ。迷惑な気持ちでいっぱいになってる。
もしかしてここは精神的ストレスを溜めるボーナスステージなのかもしれない。
せっかく最高の気持ちで帰れると思ってたけど……仕方がない。溜めるか精神的ストレスを。
そして溜めた精神的ストレスを栄養に変えてカナちゃんとレイナちゃんを喜ばせてあげよう。
どんとかかってこい!
迷惑なカップル軍団!
今僕は、渋谷にいる。
ウサ公というウサギの銅像があるところだ。
渋谷の待ち合わせ場所は? と聞かれて誰もが真っ先に思い浮かぶところがここウサ公前だ。
デートという名目でリナ先輩に会うことになったけど、ちょっと早すぎたな。
だって集合時間十五時だもん。二十分も早く着いちゃった。
いや、本当はピッタリに着こうと思えば着けたけど、もしものことを考えたら……やっぱりこの時間に。
実際は渋谷に到着したの十四時なんだけどね……。
この一時間がめちゃくちゃ長く感じる。
でもあと二十分だ。
あと二十分でリナ先輩が来てくれる。
ちなみに僕の今日のコーデは……
「ウサギく~ん!」
「あっ」
リナ先輩だ。
え? なんで? なんで二十分も早く来てるの?
もしかして僕の時計が間違ってた?
見た目は清楚系ギャルだけど遅刻は絶対にない。それだけはわかってる。
だからと言っても早く到着しすぎでしょ!
「ウサギくん早いね。ま、あたしもだけど」
「あっ、は、はい! ちょっと早く着いちゃいました!」
「さては、あたしに会うのが楽しみすぎて早く到着しちゃったんだな~? ウサギくんなら二時に到着してたりして~」
ず、図星だ。
マジでこの人、僕の心読めてるんじゃないか?
「って? え、あ、あれ? もしかして図星? 冗談で言ったつもりだったんだけど、マジか」
「あ、い、いや、さ、さっき着いたばかりです」
お、思わず嘘をついてしまった!
十四時に到着したとか絶対に言えない!
まあ、この程度の嘘はよくあるやつだ。
きっと大丈夫。なんとかなる。
そ、それで僕のコーデ……なんてどうでもいい!
リナ先輩の……リナ先輩の服が、か、可愛すぎる!
ショートパンツというやつか? 褐色肌の長い足を全開に出している。
鼻血が出そうなくらいセクシーだ。
さらにモコモコで暖かそうな白色のニットを着ている。か、可愛い……。
バイトの時の制服とは全く違う! 全く違うリナ先輩だ!
そ、それはそうか。だってバイトじゃないから。
僕とリナ先輩はプライベートで会ってるんだ。
なんでだろう。いつも会ってるはずなのにめちゃくちゃ緊張してきた。
僕にとってリナ先輩は優しい先輩だ。尊敬する先輩でもある。
美人だし、可愛いし、たまに緊張してしまう時があるけど、それは恋愛感情じゃなくて、僕が単純に女性への免疫がないだけ。
制服を着ていてもわかるほど大きなおっぱいのせいで、リナ先輩をエロく見てしまう事もある。それは童貞だから仕方がないことだ。
童貞の僕をたまにからかって楽しんでいるが、最後にはちゃんと優しくしてくれる。
そこがまたいいんだよな。って変な性癖に目覚めちゃいそうになってる。いや、もう目覚めてるかも。
でも僕とリナ先輩は先輩と後輩の関係。
どちらかがバイトを辞めれば関わることが無くなる。たったそれだけの存在だ。
だから、もし僕がリナ先輩を好きになったとしても絶対に付き合ったりはしないだろう。
万が一、億が一、リナ先輩が僕のことを好きになったとしても、それでも付き合ったりはしないと思う。
職場恋愛とか絶対に失敗しそうだし。
というかなんで付き合うとか、付き合わないとかの話になってるんだ?
それだけ意識しちゃってるってことか。
いかんいかん。こんなんじゃダメだ。
僕にはカナちゃんという超絶美少女がいるんだ!
それに最近はレイナちゃんという可愛らしい女の子だって!
「ん~? ウサギくん? どうしたのかな? もしかして緊張してるのかな~?」
「は、はい! あっ、き、緊張してませんよ! い、行きましょう!」
完全に緊張している奴の返事してるじゃん。
本当に恥ずかしい。
でも、こんな僕を見て笑顔になってくれるのはなんか嬉しいな。
笑うときに現れる八重歯がものすっごく可愛い。笑うとそればっかり見ちゃう。
それに声も優しい。子供に接するときの声みたいに。
まあ、からかってくるときは小悪魔みたいな口調になったりするけど。
それもまたリナ先輩のいいところだよな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ランンジェリーショップだ。
女性用の下着がたくさん並んでいるお店だ。
童貞の僕には恥ずかしすぎる場所なんですけど!
ここで待っててって言われて十分くらい経ってるよな。
めちゃくちゃ悩んでるってことか?
目のやり場に困るから、リナ先輩早く戻ってきてー!
そろそろレジにいてくれてもいいんだよ。
レジにね。レジに。
あっ、リナ先輩、赤い下着と黒い下着を見ながら悩んでる。
めっちゃエロい。
って、変なシーン見ちゃった。
それにエロくなんかない。普通に買い物してるだけ。買い物してるだけだから!
鼓動が激しくビートを刻む。
顔も熱くなってきた。
手汗もひどい。
ど、どうしよう。
なんてタイミングで見てしまったんだ。
もう僕の頭の中で、赤い下着を着たリナ先輩と黒い下着を着たリナ先輩が映ってるよ。
しかも鮮明に。どんだけ妄想力すごいんだ僕は!
100点だよ100点。120点だよ。どっちも似合ってるよ。
だから悩まずにどっちも買ってください。
お金なら僕が出しますから!
「お待たせ~。ちょっと時間かかっちゃった……って、なんか顔変だぞ。さては、えっちな妄想でもしてたな~」
「あっ、い、いや、な、なんも、も、妄想なんて、してないです!」
からかうときの口調と声質だ。しかも図星だ。くっそ恥ずかしい。
ああ、もっと顔が熱くなってきた。目も絶対に泳いでるんだろうな。
動揺しすぎて逆にえっちな妄想してましたって言ってるようなもんだよな。
って、リ、リナ先輩!?
顔が、顔が近い!
か、顔が! 近い!
「あ~、童貞のウサギくんには刺激が強かったよねっ。ごめんごめん! ちなみにあたしは黒を選んだぞっ」
耳元で囁いたリナ先輩は小悪魔だ。僕のことをからかう小悪魔だ。
そんな小悪魔の誘惑する声に僕の心臓は張り裂けそうになる。
呼吸だってどうやればいいのか、わからなくなる。
リナ先輩の顔が離れる。
小悪魔のように笑みを浮かべていた。
口元からは可愛らしい八重歯が出ている。その八重歯に真っ先に目が奪われた。
「く、く、くろ!?」
「うんっ。黒」
ランジェリーショップの袋の中からには本当に黒色の下着が入っていた。
いつの間にか視線が袋の中に奪われていた僕は変態か?
仕方がない。リナ先輩の声が、態度が、僕の視線を誘導したんだから。
ランジェリーショップの袋から視線を外すとリナ先輩の全身が僕の瞳に映った。
モデルのように立ってポーディングを決めている。
何事だ?
誘惑でもしているのか?
いや、僕をからかってるんだ。
恥ずかしがったり挙動不審になったりする僕をからかって遊んでいるんだ。
「ちなみになんだけど~、黒と赤だと…………どっちが似合うと思う?」
「ど、どっちも! どっちも120点でしゅ!」
き、緊張で盛大に噛んでしまった。
というか勢いで答えてしまった。
「120点か。ぷふっ! ありがとうっ~ぷふっ!」
小悪魔のような笑みを浮かべていたリナ先輩は、いつの間にか子供のような無邪気な笑顔に変わっていた。
「そうだ!」
「は、はい!」
「デートしてくれたお礼にこれ観に行かない?」
リナ先輩は映画チケットを見せてきた。
それも二枚。
「ホラー映画好きなんでしょ? ちょうどこないださ~、酔っ払いのお客さんにもらったんだよねっ!」
「え? あ、いや、ホラー映画が好きとか言ったことないですよ……というか僕ホラー系苦手ですよ……」
「え? だってこの前、金縛りとか心霊とか話してたじゃん」
「金縛りにかかる話をしただけで……」
「あ~、確かにそうだったわ~。でもせっかくチケットあるんだけどな……」
俯いて悲しそうな顔してる。
そんなに僕と……僕と映画が観たかったのか。
「観ます」
「え?」
「映画観ます! 観たいです!」
「よっしゃー! じゃあ行こっか! ウサギくん」
「は、はい!」
僕は負けた。
ホラー映画だなんて怖くて観たくないけど、リナ先輩の悲しむ顔の方が見たくない。そう思ってしまった。
だから観る。ホラー映画を。リナ先輩の笑顔を見るために!
◆◇◆◇◆◇◆◇
ホラー映画は赤い風船を持ったウサギの着ぐるみが街の子供たちを襲うというものだった。
ウサギの着ぐるみがナイフを持って走り回ったりしてるんだよ。普通に怖すぎる。夢に出そうでマジで怖い。
というかウサギの着ぐるみがウサギを惨殺してたところが一番効いた。あれはトラウマ級だ。
僕は見ての通り臆病者で怖いのは苦手だ。今となっては、金縛りに慣れているけど最初の頃はめちゃくちゃ怖がっていたのを思い出した。
リナ先輩は心霊現象とかを信じないって言っていた。その言葉通り、ホラー映画も余裕みたいだったな。
女性なのにすごい……。あはは。僕は情けない。あはは。
「全然怖くなかったね。めちゃくちゃ面白かったけど」
「えぇ? あ、は、はい。そ、そうですね。あはは。お、面白かったですね」
やっぱり余裕だったみたい。というか全然怖くなかったの?
めちゃくちゃ怖かったですよ。
「続編とか絶対ありそうだよね。ウサギの着ぐるみのやつ絶対生きてるっしょ!」
「た、確かに……生きてそうですよね……」
「でしょ~。続編あったらまた一緒に観に行こうね~!」
絶対に観たくない。絶対に観たくない。絶対に!
「は、はい! 観に行きましょう!」
くそー。
映画の恐怖心がまだ残ってて、体が小刻みに震えてるっていうのに。寒気もするってのに。それに誰かに見られているような感覚にも陥っているってのに。
リナ先輩の上目遣いには勝てない。誘惑してくる豊満なおっぱいにも勝てない。
くそくそくそ。ずるいぞ。ずるいぞー!
男心をくすぐるなんて!
というかニットからでも巨乳ってわかるのってどんだけ大きいんだよ!
おっぱいに文句言ったの初めてだぞ!
「なんかお腹空いてきたね」
ホラー映画の後だぞ。ウサギが惨殺された後だぞ。
よく食欲が湧くよな。
本当に怖くなかったんだ。すごいな。
「なんか良いお店とかない?」
「そ、それでしたらラーメンとかどうですか?」
ラーメンなら大丈夫。食べれると思う。
ハンバーグとかステーキとか肉系は無理だけど。
ラーメンならいける。
「僕の大好きな家系のラーメン屋があるので!」
「デートの締めにラーメンか……」
あっ、やばい。
そうだ。僕たちは今デートをしてるんだ。
デートでラーメンとか絶対ダメだろ。ダメ男、童貞男の象徴だぞ。
絶対に引かれてる。最後の最後でやってしまった。
「いいねいいね! 行こう行こう!」
「へ?」
「あたしラーメンめっちゃ好きなんだよね! 特に家系! ウサギくんあたしのことわかってるじゃ~ん!」
よ、喜んでくれた。
良かった。
またリナ先輩の笑顔が、八重歯が見れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
リナ先輩は喜んでラーメンを食べてくれた。
先輩の口に合ったらしく半ライスまで頼んでスープも飲み干していた。
何とも豪快な食べっぷり。ホラー映画の後なのに豪快すぎる!
よく食べる女はモテると聞いた事があるけど、何となくわかった気がする。
「次のデートもまた締めのラーメン? ってのをしようねっ!」
「つ、次のデート!?」
次もデートできるのか。
僕は合格? ってこと?
いや、合格ってなんだ?
でも喜んでる。すごい喜んでるのがわかる。
「うん。いや~それにしてもめちゃくちゃ美味しかったわ。あんな隠れた名店があったなんて驚きっ~」
「よ、喜んでもらえてよかったです」
「それじゃ、そろそろお開きだね」
「あっ、は、はい……」
なんだろう。めちゃくちゃ寂しい。
バイトが終わって別れるのとは訳が違う。
まだ別れたくない。もっと一緒にいたい。
おかしいな。こんな感情になるだなんて。
「今日はすっごく楽しかったよ。それじゃあ明日のバイトで!」
明日のバイト? そうだ。リナ先輩とはバイトで会える。いつでも会える。
今日が最後じゃないんだ。また会えるんだ。
「はい。明日のバイトで!」
「うんっ! またね~」
リナ先輩の背中が遠くなる。そして見えなくなった。
リナ先輩とのデートはこれにて幕を閉じた。
慣れないデートでいつもとは違う身体的疲労が溜まった。
でも楽しかった。楽しかったから、精神的ストレスが全く感じられない。
荷物持ちとかもされるのかって思ってたけど、リナ先輩は買い物が少なくて、というか黒の下着しか買ってなかったな。だから荷物とか全然なくて荷物持ちもなかったな。
多分、たくさん買ったとしても自分で持ってくれるんだろうな。それでも僕は荷物持ってあげるけど。
もしも、もしも僕に彼女とかいたら、こんな感じ毎日になるのかな?
一週間に一回でも、一ヶ月に一回でも全然いい。
またデートというものをしたい。
まあ、リナ先輩だからこんなに楽しめたのかもしれない。
リナ先輩が僕にとって特別だから……。
カナちゃんは……カナちゃんはデートとかできるのかな?
夜に現れた時に外に一緒に出たりとか……。
というか金縛りにかかってるんだから歩けるわけないか。
でも上半身までは動かせられるようになったし……歩けるようにもなるかもしれないな。
そしたら外とか一緒に歩いてみたいな。夜の公園を散歩とか。
「や~だ~。か~え~り~た~く~な~い~」
別れを惜しむカップルだ。
それも駅を埋め尽くすほどにたくさんいる。
なんとも羨ましい光景だ。
リナ先輩との別れはあっさりしてたな。いつかこんな感じに……ならないか……。
あの笑顔が見れればそれだけで十分。僕には十分すぎるご褒美だよ。
「お~れ~も~か~え~り~た~く~な~い~」
なんでだろう。なんだかムカムカしてきた。
というか公共の場でイチャイチャするなよ。
羨ましい気持ちが完全に消えたぞ。迷惑な気持ちでいっぱいになってる。
もしかしてここは精神的ストレスを溜めるボーナスステージなのかもしれない。
せっかく最高の気持ちで帰れると思ってたけど……仕方がない。溜めるか精神的ストレスを。
そして溜めた精神的ストレスを栄養に変えてカナちゃんとレイナちゃんを喜ばせてあげよう。
どんとかかってこい!
迷惑なカップル軍団!
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~
メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」
俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。
学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。
その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。
少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。
……どうやら彼は鈍感なようです。
――――――――――――――――――――――――――――――
【作者より】
九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。
また、R15は保険です。
毎朝20時投稿!
【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる