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極上の担々つけ麺 (熱盛り)
052:人と人を繋ぐ架け橋、それが担々麺
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「店主さん、タンタンメンというものを食べたいガオ!」
虎人は担々麺を注文するべく、魔王に声をかけた。
魔王はすかさずメニュー表を渡す。
「それじゃ、好きな担々麺を選ぶのじゃ!」
「好きなタンタンメ……って! こんなに種類があるガオか!?」
驚くのも当然である。担々麺専門店『魔勇家』のメニュー表に書かれている担々麺の種類は十種類以上。辛さ、麺の硬さ、麺の太さ、麺の量、味の濃さ、脂の量、スープの量、トッピング、それらをカスタマイズすれば種類は無限大に増えるのだ。
誇張なしに担々麺の種類は無限にあるのである。
「あまり難しく考えなくていいのじゃよ。辛さも味の濃さもこっちに任せてくれればOKじゃよ。だから食べたい担々麺だけ言ってくれればいいのじゃ!」
「食べたいタンタンメンガオか……」
虎人の瞳はメニュー表から離れて別のところを映していた。
「極上のタンタンツケメン……ガオ……」
黄色の瞳に映るそれの名を呟く。
心の声が漏れたのかと思うくらい小さな声だ。実際に心の声が漏れたのだから仕方がない。
呟いた直後は再びメニュー表に視線が戻る。そして〝極上の担々つけ麺〟が記載されているところに目が止まる。
「龍人と同じものにするか?」
魔王は微かに聞こえた小さな呟きと視線から虎人が気になっている担々麺を察した。
「そ、そうガオね。同じものを……ガオ?」
虎人は突然頭にハテナを浮かべた。
「どうしたんじゃ?」
「こ、この熱盛りというのは何ガオか? 他のタンタンメンには書かれていないものガオ! 極上のタンタンツケメンにだけ書かれているガオ!」
「熱盛りとは温かい麺のことじゃよ。つけ麺は本来冷たい麺を提供するのじゃが、熱盛りの場合は温かい麺に変更になるのじゃ。ちなみに龍人が食べているのは冷たい麺じゃよ」
魔王は熱盛りについて簡潔に説明、さらには龍人が食べているものまでも伝えた。完璧な接客を見せたのだ。
「温かい麺と冷たい麺……ガオ……。龍人は冷たい麺……ガオ……」
魔王から得た情報を口に出しながら整理する虎人。
悩んでいるのだとわかる沈黙が数秒間続く。
「……オレも極上のタンタンツケメンが食べたいガオ! 熱盛りでお願いしたいガオ!」
沈黙を破った虎人は〝極上の担々つけ麺〟を熱盛りで注文した。
熱盛りを選んだことにこの場にいた全員が驚く。
「〝極上の担々つけ麺〟の熱盛りでいいのじゃな? 龍人の〝極上の担々つけ麺〟とは違う熱盛りで……」
「そうガオ! お願いしますガオ!」
「わかったのじゃ! すぐに作ってくるのじゃ!」
確認を取った魔王はすぐさま厨房へと向かった。
厨房へと向かう魔王の背中が見えなくなったのと同時に龍人が口を開く。
「熱盛りって温かい麺ってことだぞ? 大丈夫なのか?」
龍人は熱盛りで注文した虎人に心配の眼差しを向けた。
「さっき店主から聞いたガオよ。大丈夫ガオ!」
「俺と同じでも良かったんじゃないか?」
「最初は同じにしようと思っていたガオ。でも対抗心でついつい違うものを選んでしまったガオ。冷たい麺と温かい麺って何だかライバル関係みたいガオ!」
「ついついって……。変更するならまだ間に合うはずだぞ!」
「さっきから何をそんなに心配しているガオか?」
虎人は気になっていた。異様に心配の声をかけてくる龍人を。
「だってお前……虎人族だろ?」
「そうガオよ。父も母も先祖代々虎人族の家系ガオよ」
「なおさらダメじゃねーか。冷たい麺に変えてもらうぞ!」
「だからどうしてそんなに心配してるガオか? 熱盛りと虎人族に何か関係があるとでも言うのガオか?」
「関係? 大有りだよ!!」
龍人はハッキリと言い放った。
直後、龍人が異様に心配している理由が明かされる。
「だって虎人族って全員が猫舌だろ?」
猫舌。つまり高温のものを飲食するのが苦手な人のことを指す。
龍人は虎人族という種族が猫舌であることを知っていたのだ。
だから異様なまでに心配をしているのである。
「せっかく食べるんだ。だったら美味しく食べたいだろ! 今からでも遅くない。俺も一緒に頭下げてやるから。だから変更しよう。冷たい麺に!」
「そこまで……そこまで、オレのことを思って……ガオ……」
虎人は自分のために必死になってくれている龍人に感動し、黄色の瞳を潤ませた。
それを見ていた鬼人も紅色の瞳を潤ませている。
「オメェらの友情に感動したァ。俺様も一緒に頭下げてやらァ。行くぞッ!」
鬼人は席から勢いよく立ち上がり厨房へと向かおうとする。
そんな鬼人を虎人は止めた。
「鬼人の大男! 待ってくれガオ!」
「どうしたァ? 遠慮すんなッ。俺様も一緒に――」
一緒に行ってやる、と言おうとした鬼人の声が虎人の声に遮られる。
「大丈夫ガオよ。熱盛りのままで大丈夫ガオ!」
「でも猫舌なんだろォ? 我慢は良くないと思うぜェ」
「そうだ。鬼人の言う通りだ。三人一緒に頭を下げよう」
鬼人の言葉に肯定する龍人。
二人とも頭を下げる覚悟はできている。
それでも虎人は首を縦に振ろうとはしなかった。
「熱盛りで大丈夫ガオ」
「どうして?」「何でだァ?」
龍人と鬼人の声が重なった。
直後二人は虎人の言葉を聞き逃さないために耳目を虎人に集中させた。
「オレは元世界最強の獣人ガオ! 猫舌はすでに克服しているガオ!」
堂々と、そしてハッキリと、自慢の鋭い牙を光らせながら伝えた。
ナルシスト気質だからこのような態度で言っているのではない。
虎人が猫舌を克服したのは事実なのだ。最強を目指す過程で猫舌を克服していたのである。
「二人ともオレのためにありガオう」
「ライバルとして当然だ。まさか克服していたとはな! 知らなかったぞ! くはははははっ!」
「担々麺を美味しく味わってもらうためにしたまでのことよォ! 気にするなッ! ガッハッハッハッハ!」
虎人と龍人と鬼人の三人は、己の拳を前に突き出し、三人で拳と拳を重ね合った。
担々麺が繋げた三人の友情。それが芽生えた瞬間だ。
担々麺は人と人を繋ぐ架け橋にもなるのである。
虎人は担々麺を注文するべく、魔王に声をかけた。
魔王はすかさずメニュー表を渡す。
「それじゃ、好きな担々麺を選ぶのじゃ!」
「好きなタンタンメ……って! こんなに種類があるガオか!?」
驚くのも当然である。担々麺専門店『魔勇家』のメニュー表に書かれている担々麺の種類は十種類以上。辛さ、麺の硬さ、麺の太さ、麺の量、味の濃さ、脂の量、スープの量、トッピング、それらをカスタマイズすれば種類は無限大に増えるのだ。
誇張なしに担々麺の種類は無限にあるのである。
「あまり難しく考えなくていいのじゃよ。辛さも味の濃さもこっちに任せてくれればOKじゃよ。だから食べたい担々麺だけ言ってくれればいいのじゃ!」
「食べたいタンタンメンガオか……」
虎人の瞳はメニュー表から離れて別のところを映していた。
「極上のタンタンツケメン……ガオ……」
黄色の瞳に映るそれの名を呟く。
心の声が漏れたのかと思うくらい小さな声だ。実際に心の声が漏れたのだから仕方がない。
呟いた直後は再びメニュー表に視線が戻る。そして〝極上の担々つけ麺〟が記載されているところに目が止まる。
「龍人と同じものにするか?」
魔王は微かに聞こえた小さな呟きと視線から虎人が気になっている担々麺を察した。
「そ、そうガオね。同じものを……ガオ?」
虎人は突然頭にハテナを浮かべた。
「どうしたんじゃ?」
「こ、この熱盛りというのは何ガオか? 他のタンタンメンには書かれていないものガオ! 極上のタンタンツケメンにだけ書かれているガオ!」
「熱盛りとは温かい麺のことじゃよ。つけ麺は本来冷たい麺を提供するのじゃが、熱盛りの場合は温かい麺に変更になるのじゃ。ちなみに龍人が食べているのは冷たい麺じゃよ」
魔王は熱盛りについて簡潔に説明、さらには龍人が食べているものまでも伝えた。完璧な接客を見せたのだ。
「温かい麺と冷たい麺……ガオ……。龍人は冷たい麺……ガオ……」
魔王から得た情報を口に出しながら整理する虎人。
悩んでいるのだとわかる沈黙が数秒間続く。
「……オレも極上のタンタンツケメンが食べたいガオ! 熱盛りでお願いしたいガオ!」
沈黙を破った虎人は〝極上の担々つけ麺〟を熱盛りで注文した。
熱盛りを選んだことにこの場にいた全員が驚く。
「〝極上の担々つけ麺〟の熱盛りでいいのじゃな? 龍人の〝極上の担々つけ麺〟とは違う熱盛りで……」
「そうガオ! お願いしますガオ!」
「わかったのじゃ! すぐに作ってくるのじゃ!」
確認を取った魔王はすぐさま厨房へと向かった。
厨房へと向かう魔王の背中が見えなくなったのと同時に龍人が口を開く。
「熱盛りって温かい麺ってことだぞ? 大丈夫なのか?」
龍人は熱盛りで注文した虎人に心配の眼差しを向けた。
「さっき店主から聞いたガオよ。大丈夫ガオ!」
「俺と同じでも良かったんじゃないか?」
「最初は同じにしようと思っていたガオ。でも対抗心でついつい違うものを選んでしまったガオ。冷たい麺と温かい麺って何だかライバル関係みたいガオ!」
「ついついって……。変更するならまだ間に合うはずだぞ!」
「さっきから何をそんなに心配しているガオか?」
虎人は気になっていた。異様に心配の声をかけてくる龍人を。
「だってお前……虎人族だろ?」
「そうガオよ。父も母も先祖代々虎人族の家系ガオよ」
「なおさらダメじゃねーか。冷たい麺に変えてもらうぞ!」
「だからどうしてそんなに心配してるガオか? 熱盛りと虎人族に何か関係があるとでも言うのガオか?」
「関係? 大有りだよ!!」
龍人はハッキリと言い放った。
直後、龍人が異様に心配している理由が明かされる。
「だって虎人族って全員が猫舌だろ?」
猫舌。つまり高温のものを飲食するのが苦手な人のことを指す。
龍人は虎人族という種族が猫舌であることを知っていたのだ。
だから異様なまでに心配をしているのである。
「せっかく食べるんだ。だったら美味しく食べたいだろ! 今からでも遅くない。俺も一緒に頭下げてやるから。だから変更しよう。冷たい麺に!」
「そこまで……そこまで、オレのことを思って……ガオ……」
虎人は自分のために必死になってくれている龍人に感動し、黄色の瞳を潤ませた。
それを見ていた鬼人も紅色の瞳を潤ませている。
「オメェらの友情に感動したァ。俺様も一緒に頭下げてやらァ。行くぞッ!」
鬼人は席から勢いよく立ち上がり厨房へと向かおうとする。
そんな鬼人を虎人は止めた。
「鬼人の大男! 待ってくれガオ!」
「どうしたァ? 遠慮すんなッ。俺様も一緒に――」
一緒に行ってやる、と言おうとした鬼人の声が虎人の声に遮られる。
「大丈夫ガオよ。熱盛りのままで大丈夫ガオ!」
「でも猫舌なんだろォ? 我慢は良くないと思うぜェ」
「そうだ。鬼人の言う通りだ。三人一緒に頭を下げよう」
鬼人の言葉に肯定する龍人。
二人とも頭を下げる覚悟はできている。
それでも虎人は首を縦に振ろうとはしなかった。
「熱盛りで大丈夫ガオ」
「どうして?」「何でだァ?」
龍人と鬼人の声が重なった。
直後二人は虎人の言葉を聞き逃さないために耳目を虎人に集中させた。
「オレは元世界最強の獣人ガオ! 猫舌はすでに克服しているガオ!」
堂々と、そしてハッキリと、自慢の鋭い牙を光らせながら伝えた。
ナルシスト気質だからこのような態度で言っているのではない。
虎人が猫舌を克服したのは事実なのだ。最強を目指す過程で猫舌を克服していたのである。
「二人ともオレのためにありガオう」
「ライバルとして当然だ。まさか克服していたとはな! 知らなかったぞ! くはははははっ!」
「担々麺を美味しく味わってもらうためにしたまでのことよォ! 気にするなッ! ガッハッハッハッハ!」
虎人と龍人と鬼人の三人は、己の拳を前に突き出し、三人で拳と拳を重ね合った。
担々麺が繋げた三人の友情。それが芽生えた瞬間だ。
担々麺は人と人を繋ぐ架け橋にもなるのである。
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