52 / 71
極上の担々つけ麺 (熱盛り)
051:強さを求める虎人、ライバルの強さの秘密を知る
しおりを挟む
『中に入りたいのか?』
臨戦態勢の虎人に邪竜が声をかける。
「の、脳に直接ガオ!? 思念伝達ってやつガオか!?」
脳に直接声が再生されたことに驚く虎人。
初めての思念伝達に目眩のようなものを感じてしまっていたが、思念伝達という存在を知っていたため、すぐに適応した。
『そうだ。余は人語を話す声帯を持たぬ。だから会話の手段として思念伝達を扱う。知らない言語でも自動的に翻訳されるのでな。遠慮なく話してくれて構わない』
「オレはオマエと話に来たんじゃないガオ! 中に用があるんだガオ! さっさとオマエらを倒して中に入らせてもらうガオ!」
虎人は先手必勝と言わんばかりの勢いで邪竜に向かって突っ込んだ。
突っ込む際に地面を強く蹴ったため、その箇所の地面が抉れてしまっていた。
それだけ力いっぱい踏み込んだのである。
「邪竜殿――!!」
スケルトンキングは、虎人が突っ込んでくることを知らせるために慌てて邪竜の名を叫んだ。
『問題ない』
邪竜は涼しげな顔のまま、大砲のように突進して来る虎人の攻撃を軽々と躱してみせた。
「――ガオ!?」
渾身の一撃にも匹敵する攻撃が、軽々と躱されてしまうとは思っていなかったのだろう。驚きの声が虎人の口から溢れ出た。
(あの巨躯で躱すなんてあり得ないガオ。完璧に狙ったはずなのに……ガオ……)
虎人は再び攻撃を仕掛けるために構えた。鋭い爪を使った鉤爪の構えだ。
虎人が飛び込む寸前、邪竜は思念伝達を送る。
『入りたいのならば入ればいい。余たちと戦う必要などない』
「戦う必要がないガオ!? どうしてガオ?」
『それはここがりょ――』
「そ、そうかガオ……オレの強さを認めたということガオね」
『あ、いや、そういうわけではなくて……』
「さすが災厄で最凶の邪竜ガオ! 強さとは隠そうとしても溢れ出てしまうものガオ。元世界最強の獣人であるオレの強さは城内へ入るのに相応しいというガオね!」
虎人は若干ナルシスト気質であった。
「邪竜とスケルトンキングと戦ってみたいって気持ちはあったが、仕方ないガオね。では中に入らせてもらうとするガオよ!」
勘違いであるものの邪竜に認められたということが嬉しかったのだろう。虎人はニヤニヤと笑みを浮かべながら城の扉へと向かう。
「この扉の先にオレのライバルが…龍人がいるガオね。グルルルルル」
扉に触れた途端気持ちが切り替わったのだろう。ニヤニヤと浮かべていた笑みは一変、敵意剥き出しの表情へとなっていた。
唸る虎人はゆっくりと扉を開ける。
――チャリンチャリンッ。
銀鈴の音色が虎人の鼓膜を振動させた。
その音色の心地良さから、一瞬穏やかな気持ちになりかける虎人だったが、先ほど以上に唸り声を上げることによって穏やかになりかけていた気持ちを押し殺した。
「グルルルルル!!!!!」
「いらっしゃいませなのじゃ! 新規のお客様じゃな!」
唸り声を上げている虎人の鋭い眼光に一人の少女の姿が――魔王の姿が映る。
もちろん魔王は魔法で正体を偽装している。
例に漏れることなく虎人も目の前の少女を魔王だとは思っていない。
思っていないのだが、強者としての虎人の嗅覚は魔王から異質なものを感じ取っていた。
(こ、この少女の異質な気配はなんだガオ?)
先ほど邪竜に向かって言っていた「強さとは隠そうとしても溢れ出てしまうものガオ」という言葉、まさにその言葉の状況が目の前の少女から起きているのである。
(それにいらっしゃいませとはどういうことガオか? 修行の場にようこそって意味ガオか?)
困惑する虎人は誰かに助けを求めるかのように瞳をキョロキョロと動かし始めた。
そして視線の先に助けてくれる可能性がある人物の姿を捉える。
「龍人――!!」
その人物――全身に龍の紋様がある龍人族の男に向かって虎人は声をかけた。
「そうか、待ち合わせじゃったか」
魔王は虎人の来店から龍人に声をかけるまでの流れを見て、待ち合わせだと判断した。
「なんでお前が……ここに……」
「待ち合わせではないみたいじゃな」
龍人の反応を見てすぐに待ち合わせではなかったのだと判断を改める。
「オマエの強さを探るためにオマエを尾行してきたガオ! まさかこんな場所で修行をしていたとはガオ。道理で最近のオマエは強いわけだガオ」
「俺はここで修行なんてしていないぞ?」
「ウソを吐くなガオ!」
嘘だと思われても仕方がない。それだけ衝撃的な光景を虎人は目の当たりにしたのだ。
「邪竜もスケルトンキングも元魔王軍大幹部の鬼人の大男も、そして世界最強の龍人族であるオマエも、一堂に集まるだなんておかしいガオ! この状況の説明がつかないガオ!」
「ここは料理屋で邪竜もスケルトンキングも鬼人も、そして俺もここの常連なだけだ! 修行なんてしてない!」
「そんなの信じられるわけ、な、い……ガオ……」
発言の最中に感じた違和感。その違和感のせいで虎人の発言は弱々しいものへと変化した。
虎人が感じた違和感とは、濃厚なスープの香りだ。
龍人の「料理屋」という発言がきっかけとなり、興奮していた脳が正常に五感で得た情報を処理し始めたのである。
それによって嗅覚で捉えた濃厚なスープの香りを理解し、龍人の「料理屋」という発言に信憑性を感じたのである。
「本当にここは料理屋……なのガオか?」
頭の中ではここが料理屋であることをすでに理解している。
それだけ料理屋としての情報がすでに脳内で処理されているからだ。
外で邪竜たちしていたことは何だったのか。大きな看板に何が書かれていたのか。少女のいらっしゃいませという発言。濃厚なスープの香り。虎人が得た情報の全てが料理屋だと肯定しているのである。
しかしそれでも問いかけたのは認めたくなかったからだ。
龍人に連敗続きの自分が自分でも気付かないくらいに焦っており、それでいて周りが見えていなかったことを認めたくなかったのである。
「ここは料理屋じゃよ。担々麺専門店『魔勇家』じゃ! 妾とゆーくんのお店じゃ!」
魔王は花よりも蝶よりも美しい笑顔で答えた。
その笑顔にはお客様に向ける笑顔だけではなく『魔勇家』を愛する気持ちも込められている。
「……タンタンメン? というのは知らないガオが、本当に料理屋だったのかガオ……龍人の強さの秘密を知れると思っていたのに……ガオ……」
虎人は意気消沈といった様子で踵を返した。帰るつもりなのだ。
そんな虎人に向かって席から立ち上がった龍人が口を開く。
「待て!」
「……ガオ?」
「ここで修行はしていない。それは本当だ。だが、強さの秘密はここに――『魔勇家』にある!」
「強さの秘密……が、ここに……ガオ……?」
鸚鵡返しで聞き返す虎人。
そんな虎人に龍人は自信満々に表情を染めながら口を開く。
「これだよ! これ! くはははははっ!」
高らかに笑いながら虎人に見せたのは、食べかけの料理だ。
そう。龍人が見せた食べかけの料理とは、龍人がこよなく愛する担々麺――〝極上の担々つけ麺〟である。
「それが強さの秘密なのガオか? まさか、身体能力を強化する食材が入っているガオか!? それとも魔力を増幅させる食材ガオか!? 加護やスキルを得られるとかガオか!?」
大興奮の虎人は、その勢いのまま龍人の元へと、否――〝極上の担々つけ麺〟の元へと向かっていく。
「こ、この料理は何なのだガオ!? もしかしてこれがタンタンメンという料理なのガオか!?」
「これは〝極上の担々つけ麺〟って料理だ」
「極上のタンタンツケメンガオか? タンタンメンではないのガオか?」
「担々麺だけど担々麺じゃなくて、でも担々麺であって……俺もそこらへんはよくわからない」
担々つけ麺は担々麺じゃないのか、と問われてしまうと、担々麺に対しての知識が浅い龍人には『わからない』と答えるしかなかった。
実際この世界の料理ではないのだ。わからなくて当然である。
それに龍人が食べたことある担々麺は〝極上の担々つけ麺〟だけ。他の担々麺のことは全くもって無知なのである。
そんな時こそ店主である魔王の出番だ。
「担々つけ麺は、担々麺であって担々麺じゃないのじゃ。しかし担々麺でもあるのじゃよ。龍人のその考えは正しいのじゃ。つまり担々麺とはこの世の真理じゃ! 理解しようとはせずにそのまま受け入れると良いぞ?」
「そのまま受け入れる……ガオ……?」
「そうなのじゃ。ただ、おぬしが思っているように身体能力が強化されたり、魔力が増幅したりはしないのじゃよ。そこだけは期待しないようにするのじゃな。もちろん加護やスキルは稀にじゃが得ることはあるかもしれない。じゃが、戦闘に役立つかはわからないのじゃ」
魔王は正直に話した。
正直に話さなければそれは詐欺だ。どんなに美味しい担々麺を食べたとしても心にしこりを残してしまうことになる。
担々麺を愛するチャンスを奪ってしまうことにもなるのだ。
それは担々麺で世界征服を夢見る魔王と勇者にとって冒涜でしかないのである。
だから魔王は正直に話す。
担々麺を受け入れ、愛してもらうために。
「そ、それじゃ、どうすればいいガオか? どうすれば龍人の強さの秘密を知れるガオ? どうすれば龍人のように急激に強くなることができるガオか?」
虎人の瞳には、迷いと戸惑いの他に『強くなりたい』という強い意志が宿っていた。
そんな虎人の強い意志を感じ取ったのか、龍人は虎人の問いに答えるために口を開く。
「強くなるかどうかはお前次第だ。だからまずは担々麺を食べてみろよ。ここまで辿り着いたんだ。担々麺を食べる資格はある。むしろ食べずに帰るなんて選択肢はないぞ。くははははっ!」
「龍人はいいのガオか? その……敵に塩を送ることになるんだぞガオ?」
「敵? くははははっ! お前は敵じゃない。ライバルだ!」
「りゅ、龍人……オマエってやつはガオ……」
「それに、世界最強の座を奪われるのが怖いんじゃ、世界最強を名乗る資格なんてないからな! 俺は世界最強の龍人族だぞ? ライバルであるお前が強くなくては困る! くははははっ!!」
龍人は心の底から思ったことを素直に吐き出し声高らかに笑った。
その笑い声には喜びの感情がいっぱい詰まっていた。
「ありガオう」
虎人は龍人に感謝の気持ちを告げた。
そして二人は固い握手を交わす。
「友情じゃ! 友情が生まれたのじゃ!」
と、魔王は二人の固い握手を見て感激する。
「ガッハッハッハ!! いいものが見れたぞッ!」
と、鬼人は思わず笑みをこぼした。
臨戦態勢の虎人に邪竜が声をかける。
「の、脳に直接ガオ!? 思念伝達ってやつガオか!?」
脳に直接声が再生されたことに驚く虎人。
初めての思念伝達に目眩のようなものを感じてしまっていたが、思念伝達という存在を知っていたため、すぐに適応した。
『そうだ。余は人語を話す声帯を持たぬ。だから会話の手段として思念伝達を扱う。知らない言語でも自動的に翻訳されるのでな。遠慮なく話してくれて構わない』
「オレはオマエと話に来たんじゃないガオ! 中に用があるんだガオ! さっさとオマエらを倒して中に入らせてもらうガオ!」
虎人は先手必勝と言わんばかりの勢いで邪竜に向かって突っ込んだ。
突っ込む際に地面を強く蹴ったため、その箇所の地面が抉れてしまっていた。
それだけ力いっぱい踏み込んだのである。
「邪竜殿――!!」
スケルトンキングは、虎人が突っ込んでくることを知らせるために慌てて邪竜の名を叫んだ。
『問題ない』
邪竜は涼しげな顔のまま、大砲のように突進して来る虎人の攻撃を軽々と躱してみせた。
「――ガオ!?」
渾身の一撃にも匹敵する攻撃が、軽々と躱されてしまうとは思っていなかったのだろう。驚きの声が虎人の口から溢れ出た。
(あの巨躯で躱すなんてあり得ないガオ。完璧に狙ったはずなのに……ガオ……)
虎人は再び攻撃を仕掛けるために構えた。鋭い爪を使った鉤爪の構えだ。
虎人が飛び込む寸前、邪竜は思念伝達を送る。
『入りたいのならば入ればいい。余たちと戦う必要などない』
「戦う必要がないガオ!? どうしてガオ?」
『それはここがりょ――』
「そ、そうかガオ……オレの強さを認めたということガオね」
『あ、いや、そういうわけではなくて……』
「さすが災厄で最凶の邪竜ガオ! 強さとは隠そうとしても溢れ出てしまうものガオ。元世界最強の獣人であるオレの強さは城内へ入るのに相応しいというガオね!」
虎人は若干ナルシスト気質であった。
「邪竜とスケルトンキングと戦ってみたいって気持ちはあったが、仕方ないガオね。では中に入らせてもらうとするガオよ!」
勘違いであるものの邪竜に認められたということが嬉しかったのだろう。虎人はニヤニヤと笑みを浮かべながら城の扉へと向かう。
「この扉の先にオレのライバルが…龍人がいるガオね。グルルルルル」
扉に触れた途端気持ちが切り替わったのだろう。ニヤニヤと浮かべていた笑みは一変、敵意剥き出しの表情へとなっていた。
唸る虎人はゆっくりと扉を開ける。
――チャリンチャリンッ。
銀鈴の音色が虎人の鼓膜を振動させた。
その音色の心地良さから、一瞬穏やかな気持ちになりかける虎人だったが、先ほど以上に唸り声を上げることによって穏やかになりかけていた気持ちを押し殺した。
「グルルルルル!!!!!」
「いらっしゃいませなのじゃ! 新規のお客様じゃな!」
唸り声を上げている虎人の鋭い眼光に一人の少女の姿が――魔王の姿が映る。
もちろん魔王は魔法で正体を偽装している。
例に漏れることなく虎人も目の前の少女を魔王だとは思っていない。
思っていないのだが、強者としての虎人の嗅覚は魔王から異質なものを感じ取っていた。
(こ、この少女の異質な気配はなんだガオ?)
先ほど邪竜に向かって言っていた「強さとは隠そうとしても溢れ出てしまうものガオ」という言葉、まさにその言葉の状況が目の前の少女から起きているのである。
(それにいらっしゃいませとはどういうことガオか? 修行の場にようこそって意味ガオか?)
困惑する虎人は誰かに助けを求めるかのように瞳をキョロキョロと動かし始めた。
そして視線の先に助けてくれる可能性がある人物の姿を捉える。
「龍人――!!」
その人物――全身に龍の紋様がある龍人族の男に向かって虎人は声をかけた。
「そうか、待ち合わせじゃったか」
魔王は虎人の来店から龍人に声をかけるまでの流れを見て、待ち合わせだと判断した。
「なんでお前が……ここに……」
「待ち合わせではないみたいじゃな」
龍人の反応を見てすぐに待ち合わせではなかったのだと判断を改める。
「オマエの強さを探るためにオマエを尾行してきたガオ! まさかこんな場所で修行をしていたとはガオ。道理で最近のオマエは強いわけだガオ」
「俺はここで修行なんてしていないぞ?」
「ウソを吐くなガオ!」
嘘だと思われても仕方がない。それだけ衝撃的な光景を虎人は目の当たりにしたのだ。
「邪竜もスケルトンキングも元魔王軍大幹部の鬼人の大男も、そして世界最強の龍人族であるオマエも、一堂に集まるだなんておかしいガオ! この状況の説明がつかないガオ!」
「ここは料理屋で邪竜もスケルトンキングも鬼人も、そして俺もここの常連なだけだ! 修行なんてしてない!」
「そんなの信じられるわけ、な、い……ガオ……」
発言の最中に感じた違和感。その違和感のせいで虎人の発言は弱々しいものへと変化した。
虎人が感じた違和感とは、濃厚なスープの香りだ。
龍人の「料理屋」という発言がきっかけとなり、興奮していた脳が正常に五感で得た情報を処理し始めたのである。
それによって嗅覚で捉えた濃厚なスープの香りを理解し、龍人の「料理屋」という発言に信憑性を感じたのである。
「本当にここは料理屋……なのガオか?」
頭の中ではここが料理屋であることをすでに理解している。
それだけ料理屋としての情報がすでに脳内で処理されているからだ。
外で邪竜たちしていたことは何だったのか。大きな看板に何が書かれていたのか。少女のいらっしゃいませという発言。濃厚なスープの香り。虎人が得た情報の全てが料理屋だと肯定しているのである。
しかしそれでも問いかけたのは認めたくなかったからだ。
龍人に連敗続きの自分が自分でも気付かないくらいに焦っており、それでいて周りが見えていなかったことを認めたくなかったのである。
「ここは料理屋じゃよ。担々麺専門店『魔勇家』じゃ! 妾とゆーくんのお店じゃ!」
魔王は花よりも蝶よりも美しい笑顔で答えた。
その笑顔にはお客様に向ける笑顔だけではなく『魔勇家』を愛する気持ちも込められている。
「……タンタンメン? というのは知らないガオが、本当に料理屋だったのかガオ……龍人の強さの秘密を知れると思っていたのに……ガオ……」
虎人は意気消沈といった様子で踵を返した。帰るつもりなのだ。
そんな虎人に向かって席から立ち上がった龍人が口を開く。
「待て!」
「……ガオ?」
「ここで修行はしていない。それは本当だ。だが、強さの秘密はここに――『魔勇家』にある!」
「強さの秘密……が、ここに……ガオ……?」
鸚鵡返しで聞き返す虎人。
そんな虎人に龍人は自信満々に表情を染めながら口を開く。
「これだよ! これ! くはははははっ!」
高らかに笑いながら虎人に見せたのは、食べかけの料理だ。
そう。龍人が見せた食べかけの料理とは、龍人がこよなく愛する担々麺――〝極上の担々つけ麺〟である。
「それが強さの秘密なのガオか? まさか、身体能力を強化する食材が入っているガオか!? それとも魔力を増幅させる食材ガオか!? 加護やスキルを得られるとかガオか!?」
大興奮の虎人は、その勢いのまま龍人の元へと、否――〝極上の担々つけ麺〟の元へと向かっていく。
「こ、この料理は何なのだガオ!? もしかしてこれがタンタンメンという料理なのガオか!?」
「これは〝極上の担々つけ麺〟って料理だ」
「極上のタンタンツケメンガオか? タンタンメンではないのガオか?」
「担々麺だけど担々麺じゃなくて、でも担々麺であって……俺もそこらへんはよくわからない」
担々つけ麺は担々麺じゃないのか、と問われてしまうと、担々麺に対しての知識が浅い龍人には『わからない』と答えるしかなかった。
実際この世界の料理ではないのだ。わからなくて当然である。
それに龍人が食べたことある担々麺は〝極上の担々つけ麺〟だけ。他の担々麺のことは全くもって無知なのである。
そんな時こそ店主である魔王の出番だ。
「担々つけ麺は、担々麺であって担々麺じゃないのじゃ。しかし担々麺でもあるのじゃよ。龍人のその考えは正しいのじゃ。つまり担々麺とはこの世の真理じゃ! 理解しようとはせずにそのまま受け入れると良いぞ?」
「そのまま受け入れる……ガオ……?」
「そうなのじゃ。ただ、おぬしが思っているように身体能力が強化されたり、魔力が増幅したりはしないのじゃよ。そこだけは期待しないようにするのじゃな。もちろん加護やスキルは稀にじゃが得ることはあるかもしれない。じゃが、戦闘に役立つかはわからないのじゃ」
魔王は正直に話した。
正直に話さなければそれは詐欺だ。どんなに美味しい担々麺を食べたとしても心にしこりを残してしまうことになる。
担々麺を愛するチャンスを奪ってしまうことにもなるのだ。
それは担々麺で世界征服を夢見る魔王と勇者にとって冒涜でしかないのである。
だから魔王は正直に話す。
担々麺を受け入れ、愛してもらうために。
「そ、それじゃ、どうすればいいガオか? どうすれば龍人の強さの秘密を知れるガオ? どうすれば龍人のように急激に強くなることができるガオか?」
虎人の瞳には、迷いと戸惑いの他に『強くなりたい』という強い意志が宿っていた。
そんな虎人の強い意志を感じ取ったのか、龍人は虎人の問いに答えるために口を開く。
「強くなるかどうかはお前次第だ。だからまずは担々麺を食べてみろよ。ここまで辿り着いたんだ。担々麺を食べる資格はある。むしろ食べずに帰るなんて選択肢はないぞ。くははははっ!」
「龍人はいいのガオか? その……敵に塩を送ることになるんだぞガオ?」
「敵? くははははっ! お前は敵じゃない。ライバルだ!」
「りゅ、龍人……オマエってやつはガオ……」
「それに、世界最強の座を奪われるのが怖いんじゃ、世界最強を名乗る資格なんてないからな! 俺は世界最強の龍人族だぞ? ライバルであるお前が強くなくては困る! くははははっ!!」
龍人は心の底から思ったことを素直に吐き出し声高らかに笑った。
その笑い声には喜びの感情がいっぱい詰まっていた。
「ありガオう」
虎人は龍人に感謝の気持ちを告げた。
そして二人は固い握手を交わす。
「友情じゃ! 友情が生まれたのじゃ!」
と、魔王は二人の固い握手を見て感激する。
「ガッハッハッハ!! いいものが見れたぞッ!」
と、鬼人は思わず笑みをこぼした。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
俺のスキルはJRエー。
日前蜜柑
ファンタジー
一話毎の終わりに競馬の事を書いてたけど、趣味で無い人には悪いかなと思い、違うところで書く事にした。
なので文字数は纏まらない。
思いっ切りファンタジックに、けれど競馬は実際のJRAのレースを元にするので、そこは真実になる。
もちろん当たり外れもね。
自分の名前は忘れた。
確かWINS(場外馬券場)で落ちていた馬券を拾っていたと思う。
宝塚記念だったかな?。
ふと目についたのは数字だった。先程の宝塚記念と同じ当たり目だ。
異世界記念?、ふっ、見間違いだな。
そう思い懐に入れた。
その刹那、目の前が真っ白になる。
あっ、これ貧血だ。
倒れたのは分かった。
顔を地面に打ちつけたから。
あ〜駄目だ、ただの貧血じゃ無い。
それからは何処かに自分の身体が、まるで川に流される様にふわふわと動いていく。
異世界なのだけど···。
若返って20歳くらいだけど。
頭の中に響いたのは(スキルJRエー)。
名前はハクタらしい。
そして公園で拾ったラノベとか言うのに書かれてた景色と一緒。
草原だ、草原だよ。
どうする、これよ。
目の前を馬車が行く。
あっ、街道だ。
そこに盗賊が現れる。
頭の中でピーンと来た。
多分これ、助けないと駄目なやつ。
しかしどうやって。
俺のスキルはJRエーだぞ。
思い付くのは···馬運車召喚!。
出るわきゃな···「出たよおい!」。
盗賊を馬運車で蹴散らした。
何人か轢いたよ。
何か悪い。
盗賊だよ、相手は。
「私商人のノレドと申します」
「俺、ハクタって言います」
「俺等護衛のヤフードと···」
「キルダだ有難うな」
で、ラノベの如く感謝されて、馬車の商人と二人の護衛さんとともに、ヨードって町へ行く事に。
うん、商人さんの口添えで、入場税も払って貰い、初日は商人さんの家に泊まり、その後の宿も取って貰えた。
おまけに有り難い事に3ヶ月分の生活費までくれた。
もうね、感謝感謝だよ。
さてどうする家康、じゃ無い。
どうするハクタよ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最後に言い残した事は
白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
どうして、こんな事になったんだろう……
断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。
本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。
「最後に、言い残した事はあるか?」
かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。
※ファンタジーです。ややグロ表現注意。
※「小説家になろう」にも掲載。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる