異世界担々麺 〜魔王と勇者が担々麺ひとつで異世界征服する物語〜

アイリスラーメン

文字の大きさ
上 下
39 / 71
お前に食わせる担々麺はねぇ

039:魔王VS偽勇者、勇者VS偽魔王

しおりを挟む
 魔王と偽勇者、勇者と偽魔王がそれぞれ対峙する。

「残念じゃのぉ。一生担々麺の味を知れぬとは」

「は? 何の話だ? タンタンメン? なんだそれ?」

「おぬしが負けるって話じゃよ。まあ、殺しはせんので安心するんじゃな」

 挑発的な魔王の言葉に偽勇者はギリッと歯軋りを鳴らした。

「おぬしらの計画、恐怖政治テロルは、ダs――」

「――もらった!!!」

 偽勇者の不意打ち。瞬きの刹那、偽勇者の聖剣による剣撃が魔王の首を捉えたのだ。
 卑怯だと思うことなかれ。
 ここはもう戦場だ。開始のゴングもなければルールなどない。
 殺すも生かすも勝者次第の戦場なのだ。

「――なッ!!」


 ――パリリリィンッ!!!!


 偽勇者の驚きの声とともに聖剣が砕けた。

「偽物の聖剣なんてそんなもんじゃろうな。痛くも痒くもなかったぞ?」

「う、嘘だろ!? どんだけ強力な補助魔法をかけてもらったんだよ! ふざけんな!」

「補助魔法? ああ、さっきか。あれはかなりのものじゃったのぉ。守りたいって気持ちがひしひしと伝わった。後でエルフと女魔術師にはサービス券をやらんとな」

「は? 解けただと? サービスケン? 意味わからねーこと言ってんじゃねーよ」

「おぬしの小さなおつむじゃ理解も難しいじゃろうな。まあ、いい。それで話の続きじゃったな。おぬしの恐怖政治テロルは、ハッキリ言ってダサい。信頼があってこそ下の者たちが力を発揮して動くというのに。それをわかっておらんとは情けない男じゃのぉ」

 魔王は呆れたと言わんばかりの表情をしながら偽勇者に向かって言った。
 呆れた時に行うジェスチャーとともに。

「お前に何がわかるって言うんだ! オレたちの計画は後少しでうまくいくんだよ! あの城を、元魔王城をいただいて、それで達成するんだ! オレたちの恐怖政治テロルがな!」

「それをダサいと言っておるんじゃよ。そんなやり方じゃ、いつまで経っても魔王には勝てんぞ?」

「その魔王がいねーじゃねーかよ。勇者に負けてこの世界の端っこにでも逃げたんだろ? そんな弱い奴にオレが負ける訳ねーんだわ!」

「そうか。それじゃ試してみるといい」

「試す? さっきからお前意味が分からねーよ。魔王と友達だって言うのか? だったら今ここに連れてこいよ! お前共々ぶっ殺してやるからよー!」

「そうか。そうか。それは楽しみじゃのぉ。それじゃその言葉が虚言ではないことを祈っておるぞ」

 魔王は足音を鳴らさずにゆっくりと偽勇者の元へと向かっていく。
 そんなゆっくりと歩いているはずの魔王には残像が残っていた。

「へッ! 動きがとろすぎて残像の意味がねーんだよ。聖剣は砕けちまったが、俺にはスキルがある。それでお前の心臓を――」

「――心臓をなんじゃ?」

 目の前でゆっくりと向かって来ているはずの魔王の声が真後ろから響く。
 反射的に偽勇者の瞳は声がした方へと動いていく。

「ちなみにおぬしが見ている残像もこの声も、妾にとっては数秒前のの出来事になるのぉ」

「は?」

 時間を超越した魔王の拳が偽勇者の脇腹にダメージを与える。
 

 ――バキボキッ!


 はっきりと骨が折れる音が鳴り響いた。
 その瞬間、偽勇者は膝から崩れ落ちた。

「ぐぁああああああああああああ」

 死んだ方がマシだと思うほどの激痛。
 折れた骨が内臓に刺さったのだ。外へと飛び出している骨もある。

「闇属性魔法の応用じゃよ。拳に重力を乗せてちょっとだけ重くしたんじゃ。残像も闇属性魔法の応用じゃな。妾以外の時の流れを遅くしたのじゃ……って聞いておらんか」

 激痛に耐えられなくなった偽勇者は意識を失っていた。
 どこから意識を失っていたのか。それは悲鳴が消えた時だろう。
 話しをするのに夢中になっていた魔王には、その瞬間は分からなかったったが。

「最後に決め台詞じゃな。おぬしに食わせる担々麺はないのじゃよ。ふふっ、決まったのじゃ」


 魔王VS偽勇者――一撃で粉砕した魔王の勝利で幕を閉じる。
 もう一つの局面――勇者VS偽魔王でも決着が着きそうな場面だった。


「まーちゃんみたいにさ魔法を使える人たちのこと羨ましいって思うよ。まーちゃんの隣に立つと尚更な。俺みたいに魔法の才能がない奴らは必死に剣だけを振るしかなくてさ。いつか魔法が使えない人はこの社会の歯車から外されるんじゃないかってビクビクしてた時期もあった。でも努力を続けた。努力したからこそ魔法が使えない俺にも勇者の加護やらスキルやらを得ることができた。みんなは俺のことを天才だと言うけど、実際そうじゃないんだよ。努力だ。必死に努力して俺は掴み取ったんだ。誰よりも努力した。何倍も何十倍も。お前たちは努力をしたか? したと思ってるだけじゃないか? 限界を決めてないか? 努力せずに力を得たんなら、お前たちは俺たちには勝てないぞ」

「は? さっきから何言ってるの? 気持ち悪いんだけど。それと早く死んでくんない? というかなんでアタシの攻撃が当たらないわけ?」

 偽魔王は氷の槍を飛ばしたり、炎の弾を連射したり、と勇者の命を狙った攻撃を幾度となく仕掛けているが、その全てが独り言をぶつぶつと呟く勇者にいと容易たやすかわされていっているのである。
 それが苛立ちの原因となった偽魔王は、広範囲の土属性魔法や雷属性魔法で攻撃をするものの、それも難なくと躱されていったのだ。

「勇者の独り言だよ」

「ほんっとに、意味わかんない! キモいキモいキモいキモいキモいキモいぃいいいい!」

「キモいキモいって仕方ないだろ。武器を忘れたんだから、こうやって躱さないと死んじまう」

「だったらアタシの攻撃をその体で受け止めて死ねばいいじゃんかよー!!!」

 偽魔王は光の矢を放った。
 光属性魔法によって出現した光の矢だ。それは音を超えて光の速さで的を狙う矢。
 命中率は100パーセント。放出されれば最後、的に定めたものに当たるまで消失することはない。

「的は心臓! 心臓を貫くまでその矢はお前を狙う!」

「そういうのも使えるのか。でもお前の魔法を羨ましいとは思わないな」

 勇者は光の速度で向かって来た光の矢を素手で受け止めた。
 そしてパキッと木の枝を折るかのように割ったのだった。

「この魔法の弱点ってさ、術者が込めた魔力量に依存するってことなんだよね。それ以上の力でねじ伏せちゃえば、当たらずとも消失する。まあ、自然のことわりだよな」

「う、嘘……な、なんで、ど、どうして……」

「なんでって……そりゃお前が努力してないからだろ。努力せずに得たお前の魔法なんてこんなもんだよ」

「ありえないありえないありえないありえないわ! そんなのありえない! お前気持ち悪すぎる! キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい!!」

「さっきからキモいキモいって……魔王を名乗ってる割には、なんか幼稚だな。俺の知ってる魔王はもっと威厳のある喋り方してるぞ? お前語彙力なさすぎ。頭悪すぎ」

「ふ、ふざけるなー!!!! 死ねー!!!!」

 偽魔王は全身に魔法を纏い、己の体を弾丸にし勇者に向かって突っ込んだ。
 それに対して勇者は背筋をピンッと立たせて右腕を前に伸ばした。

「あっ、あと今の俺の発言は、お前をおびき寄せるための挑発だから。安い挑発に乗ってくれてありがとう。これで俺のがお前に届く」

 勇者の構えはデコピンのそれ。
 中指を折り曲げて親指の腹で抑え、伸ばそうとする力を蓄えてから親指を離して中指を対象にぶつける動作のこと。
 攻撃手段になるかも知れないが、子供の遊び程度のものだ。当然ながら防御手段にはならない。
 それでも勇者は中指に力を込める。

「お前に食わせる担々麺はねぇよ」


 ――バスンッ!!!


 弾かれた中指は偽魔王の額に直撃する。
 偽魔王の突進の勢いも相まってか、その衝撃は凄まじいものだった。
 仮面を被っていて表情は見えないが、きっと泡を吐いているに違いない。
 そう思える音が仮面の中から聞こえたのだ。

 そして偽魔王はその場に倒れた。

「いてててて。やっぱり聖剣がないとダメだな。うまく戦えなかった。今度は短剣でも良いから常備しておこう」

 勇者VS偽魔王――デコピン一つで勇者が勝利を飾る。
 偽物たちは本物たちの手によって呆気なく散っていったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

1001部隊 ~幻の最強部隊、異世界にて~

鮪鱚鰈
ファンタジー
昭和22年 ロサンゼルス沖合 戦艦大和の艦上にて日本とアメリカの講和がなる 事実上勝利した日本はハワイ自治権・グアム・ミッドウエー統治権・ラバウル直轄権利を得て事実上太平洋の覇者となる その戦争を日本の勝利に導いた男と男が率いる小隊は1001部隊 中国戦線で無類の活躍を見せ、1001小隊の参戦が噂されるだけで敵が逃げ出すほどであった。 終戦時1001小隊に参加して最後まで生き残った兵は11人 小隊長である男『瀬能勝則』含めると12人の男達である 劣戦の戦場でその男達が現れると瞬く間に戦局が逆転し気が付けば日本軍が勝っていた。 しかし日本陸軍上層部はその男達を快くは思っていなかった。 上官の命令には従わず自由気ままに戦場を行き来する男達。 ゆえに彼らは最前線に配備された しかし、彼等は死なず、最前線においても無類の戦火を上げていった。 しかし、彼らがもたらした日本の勝利は彼らが望んだ日本を作り上げたわけではなかった。 瀬能が死を迎えるとき とある世界の神が彼と彼の部下を新天地へと導くのであった

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

異世界ラーメン

さいとう みさき
ファンタジー
その噂は酒場でささやかれていた。 迷宮の奥深くに、森の奥深くに、そして遺跡の奥深くにその屋台店はあると言う。 異世界人がこの世界に召喚され、何故かそんな辺鄙な所で屋台店を開いていると言う。 しかし、その屋台店に数々の冒険者は救われ、そしてそこで食べた「らーめん」なる摩訶不思議なシチューに長細い何かが入った食べ物に魅了される。 「もう一度あの味を!」 そう言って冒険者たちはまたその屋台店を探して冒険に出るのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

魔拳のデイドリーマー

osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。 主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...