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極上の担々つけ麺
025:最後の仕掛けは、スープ割り
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「美味い! 美味いぞ! 〝極上の担々つけ麺〟――!!!」
〝極上の担々つけ麺〟を初めて食べた龍人族のリューギの歓喜たる感想だ。
あまりの美味さに世界最強の獣人ガオレとの戦闘で負傷した傷口が全て開いてしまったが、そんなことはお構いなしに食べ続ける。
――ズーッ、ズルズルズルッ!!!!
そんなリューギの感想と姿勢に、様子を伺っていた他の客たちの止まっていた手が再び動き出す。
安心したのだ。〝極上の担々つけ麺〟が美味しいことに。
否、初めから不安などしていない。けれど『美味しい』の一言が聞けたことが、なんだかほっとするのだ。
そんな他の客たちの事などつゆ知らずのリューギは、目の前の〝極上の担々つけ麺〟を豪快に啜る。
――ズルズルズルッ!!!!
「この麺! 太くてコシがあって舌触りがいい! それにもちもちだ! 冷たい麺を温かいスープに絡めることによって生じる逆らえぬ温度変化が新たな美味さを! 魅力を! 引き出しているぞ! くはははははっ!!」
――ズッ、ズーッ、ズルズルズルッ!!!!
「うん。なるほど、看板娘が言っていた通りだ! スープのつけ方次第で味の濃さが変化する! かといって難しい訳ではない。ストライクゾーンが大きい! 極端に転ばない限りは多少つけ過ぎたとしても問題ない美味しさだ! むしろ濃い方が好きならつけ過ぎたほうがいい! 味の濃度を自分で調節できるだなんて、なんて画期的な料理なんだ! だから味の要であるスープが別の丼鉢に入れられているのか。美味しさを求めた集大成ってやつだな。恐ろしい、恐ろしいぞ! タンタンメン! 恐ろしすぎるぞ! 〝極上の担々つけ麺〟! くははははっ!!!」
――ズーッ、ズッズーッ!!!!
「スープだけで飲むととてつもなく濃い! こんなにも濃いのかと思うくらいに濃い! 麺だけを食べると麺本来の素材の味しか感じられない! だが素材の味を楽しむには物足りなすぎる! でもそんな二つが絡み合うことによって最強の味を引き立たせる! 世界最強の龍人族である俺の舌をここまで唸らせるのか! くはははははっ!! いいぞ! 面白い! どんどんと喰らってやる! 今度は具材もいただくぞ! まずはこの肉からだ!」
リューギはチャーシューをスープにつけてから口に運んだ。
――もぐッもぐッ!!!!
「なッ! 口の中いっぱいに香ばしさが広がる! それでいてとろとろですぐに溶けていく! こんなに柔らかい肉は生まれて初めてだ! この濃厚なスープにも負けず劣らずの旨味! なのに相性がいい! 互いが互いの味を引き立たせているかのようだ! くははははっ! 見事だ!」
――ズルズルズルッ!!!!
残ったチャーシューと麺を同時に箸で掴みスープにつける。
程よくスープが絡んだら一気に口の中へと放り込み、とろとろに溶けていくチャーシューともちもちの太麺の二つの食感を味わった。
「つ、次はこっちのゴロゴロとした肉もいただくとしよう!」
今度は旨辛の豚挽肉を食べようとする。しかしその食べ方を知らない。
チャーシューとは違い一つ一つが小さいからだ。これを一粒一粒食べるとなると、ただの作業になってしまう。
否、美味しければその作業も苦ではないだろう。
しかし食べ方を知らなくても、その食べ方が間違っていることくらいはわかっている。
「もしかしてスープに全て入れるとか?」
様々な食べ方があるが、一番正統と言える食べ方はリューギが言ったそれだ。
リューギは失敗する覚悟で豚挽肉を全てスープに投入する。
「ス、スープの色が変わっただと!?」
豚挽肉をスープに投入した瞬間、黄金色のスープの色に茜色が加わった。
これは豚挽肉に味付けされている旨辛のタレと、豚挽肉からジュワッと溢れ出る脂が原因である。
この旨辛のタレと脂がスープに染み込んだおかげで、さらにスープにコクと旨味が出るのだ。
「だが、色が変わったことによって、ますます美味しそうなスープになっているではないか。それでは、今度は野菜と麺を同時にいただくとしよう!」
針のように尖ったシャキシャキの白髪ネギと、水々しく新鮮な水菜を麺と一緒に掴んでスープにつけた。
――ズルズルズルッ!!!!
「こ、これまた新たな食感! シャキシャキでもちもち! それでいて先ほど投入した豚挽肉も一緒に口の中へと入ってきたぞ! 噛んだ瞬間にジュワッと旨辛の肉汁が! 咀嚼するたびに味と食感が変化して美味しい! まるで口の中で戦士たちが美しく戦っているかのようだ! くはははっ! これはまたしてもやられた。まだまだこんなにも楽しめるとはな! くはははははっ――!!!」
リューギはこのまま豪快に、そして狂ったように食べ続けた。
味と食感を求めて、ただそれだけに執着して、ひたすらに食べ続けたのだ。
まるで戦場の中を駆ける勇敢な戦士のように。その剣技は、拳は止まることを知らない。
――ズーッ、ズッズーッ、ズルズルズルッ、もぐもぐッ!!!!
豪快に食べ進めていたリューギの手がついに止まる時が来る。
山のように盛られた麺と、その周りを花の如く飾られていた具材が無くなってしまったからだ。
ここが戦場なら勝利の雄叫びをあげるところ。敵はもういないのだから。
しかし残念なことに彼は戦うことだけが生きがいだった。
戦う相手がいないのでは死んだも同然なのだ。
「はぁ~、終わってしまったか……このスープも飲み干したいところだが、さすがに喉がやられてしまうな」
「だったら、〝スープ割り〟はどうじゃ? 頃合いだと思って持ってきてやったぞ」
「あっ、え、あ! は、はい! ス、スープワリ? あ、ありがとう……」
魔王マカロンに声をかけられ、ようやく心の声が全て漏れていることに気付く。
食べること以外無関心になってしまうほど、そして食べることだけに集中してしまうほど、〝極上の担々つけ麺〟が美味しいという証拠でもある。
しかしながら叫び続けながら食べていたのだと知ると、恥ずかしくて仕方がなくなってしまう。
そして迷惑をかけていないかが心配になるところだったが、他の客は――エルバーム、ローゼ、リリシア、オーグル、ブリガン、バンディーは、誰一人として気にしている様子がなかった。
なぜなら他の客も皆、最初はそうだったからだ。皆、同じ道を通ってきている。
だから迷惑だとは思っていない。むしろ歓迎しているくらいだ。
歓迎されていることを知る術がないリューギは、魔王マカロンから渡された〝スープ割り〟というものをまじまじと見て、恥ずかしさなどを誤魔化していた。
「あ、あの、この、スープワリと言うものは、どのようにして飲めば……」
「そこのスープに入れるんじゃよ。味が薄まってスープが飲めるようになるぞ。あっ、もちろん薄まるだけで美味しさは変わらん。むしろ旨味成分が増えて美味しさアップじゃ! それに熱々のスープじゃからな。冷めたスープが復活し、全身に巡るぞ? 脳にまで染み渡る美味さなのじゃよ!」
「そ、そんなに!? で、では、早速飲んでみるとしよう」
リューギは魔王マカロンに言われた通り、〝スープ割り〟を〝極上の担々つけ麺〟のスープへと入れていく。人生初のスープ割りだ。
〝スープ割り〟を入れている時は、白い湯気が視界を真っ白に染めていく。
そして芳醇で濃厚なスープの香りが鼻腔を刺激していく。
――スーッ、ズズズズッ、ごくごくごくッ!!!!
丼鉢を両手で持って、豪快にスープを飲んでいく。
先ほどまで濃くてそのまま飲む事ができなかったスープは、まるで女神や天女の慈愛の如く優しさで喉を通っていく。
飲んでいるのではなく、体の一部として溶け込んでいるかのような、そんな不思議な感覚を龍人は味わった。
「このスープワリというものによって温かさを取り戻している! 先ほどつけた具材の味や浸っている豚挽肉の味、旨味も辛味も塩味も全て一つになってさらに美味しくなっている! ドロドロだったのが、とろとろに変化し飲みやすい上品なスープに大変身だ! くははははっ! 最後の最後にこんな仕掛けがあったとはな……恐るべし〝極上の担々つけ麺〟! くははははははっ!!! って、しまった! また心の声が!」
心の声を漏らさないように気を付けていたようだが、〝極上の担々つけ麺〟の前では抗うことは不可能。
感動で体と心が思いのままに動いてしまうのだ。
「良い良い。心の声なんて漏れても良いのじゃ! ここにいる常連客のみんなも同じじゃよ。それに妾も、厨房にいるゆーくんもじゃ。美味しいものは美味しいって言いたくなるものじゃよ。黙々と食べるなんて逆に無理なのじゃ。心のどこかは、体のどこかは必ず担々麺に支配されるものじゃよ。それだけ担々麺には魅力がいっぱいなのじゃ!」
魔王マカロンの言葉にリューギも他の客たちも皆が納得して頷いた。
「タンタンメンの魅力、〝極上の担々つけ麺〟の魅力……恐れいった。完食完敗だ。世界最強の龍人族であるこの俺の心をここまで乱すとはな。それにここまで太刀打ちできない強敵だったとは。くははははっ! もう一戦、いや、もう一杯おかわりをいただきたいのだが、大丈夫だろうか? 金ならある!」
「うぬ! おかわりじゃな! 他の担々麺を食べてみなくてもいいのか?」
「俺は〝極上の担々つけ麺〟一筋!! 浮気はしない! 〝極上の担々つけ麺〟で十分だ!」
「おぬしもそういう感じか! うちの常連も皆、初めて食べた担々麺にベタ惚れなのじゃ。まあ良い。他のも食べたくなったら遠慮せずに言うのじゃよ。皆もな……って皆には何回も言っておるな。不要な気遣いじゃった。ではおぬしの担々つけ麺を作ってくるとしよう」
魔王マカロンが厨房へと向かったその時、彼女の小さな背中に複数の声がかかった。
その声は「俺も」「私も」とリューギと同じようにおかわりを注文する声だった。
「わかった、わかった。順番じゃ順番! えーっと、担々つけ麺と激辛担々麺と冷やし担々麺が二つとイカスミ担々麺も二つで、最後にトマト担々麺じゃな? 少しだけ待っておれ!」
今日一番の盛り上がりを――否、営業が始まって以来一番の盛り上がりを見せた担々麺専門店『魔勇家』。
少ない客でもここまで盛り上がれるのだ。担々麺にはそれだけの魅力が詰まっているのである。
その魅力に今日初めて気付いた自称世界最強の龍人族の男リューギは、今後もこの店に通うこととなるのだった。
〝極上の担々つけ麺〟を初めて食べた龍人族のリューギの歓喜たる感想だ。
あまりの美味さに世界最強の獣人ガオレとの戦闘で負傷した傷口が全て開いてしまったが、そんなことはお構いなしに食べ続ける。
――ズーッ、ズルズルズルッ!!!!
そんなリューギの感想と姿勢に、様子を伺っていた他の客たちの止まっていた手が再び動き出す。
安心したのだ。〝極上の担々つけ麺〟が美味しいことに。
否、初めから不安などしていない。けれど『美味しい』の一言が聞けたことが、なんだかほっとするのだ。
そんな他の客たちの事などつゆ知らずのリューギは、目の前の〝極上の担々つけ麺〟を豪快に啜る。
――ズルズルズルッ!!!!
「この麺! 太くてコシがあって舌触りがいい! それにもちもちだ! 冷たい麺を温かいスープに絡めることによって生じる逆らえぬ温度変化が新たな美味さを! 魅力を! 引き出しているぞ! くはははははっ!!」
――ズッ、ズーッ、ズルズルズルッ!!!!
「うん。なるほど、看板娘が言っていた通りだ! スープのつけ方次第で味の濃さが変化する! かといって難しい訳ではない。ストライクゾーンが大きい! 極端に転ばない限りは多少つけ過ぎたとしても問題ない美味しさだ! むしろ濃い方が好きならつけ過ぎたほうがいい! 味の濃度を自分で調節できるだなんて、なんて画期的な料理なんだ! だから味の要であるスープが別の丼鉢に入れられているのか。美味しさを求めた集大成ってやつだな。恐ろしい、恐ろしいぞ! タンタンメン! 恐ろしすぎるぞ! 〝極上の担々つけ麺〟! くははははっ!!!」
――ズーッ、ズッズーッ!!!!
「スープだけで飲むととてつもなく濃い! こんなにも濃いのかと思うくらいに濃い! 麺だけを食べると麺本来の素材の味しか感じられない! だが素材の味を楽しむには物足りなすぎる! でもそんな二つが絡み合うことによって最強の味を引き立たせる! 世界最強の龍人族である俺の舌をここまで唸らせるのか! くはははははっ!! いいぞ! 面白い! どんどんと喰らってやる! 今度は具材もいただくぞ! まずはこの肉からだ!」
リューギはチャーシューをスープにつけてから口に運んだ。
――もぐッもぐッ!!!!
「なッ! 口の中いっぱいに香ばしさが広がる! それでいてとろとろですぐに溶けていく! こんなに柔らかい肉は生まれて初めてだ! この濃厚なスープにも負けず劣らずの旨味! なのに相性がいい! 互いが互いの味を引き立たせているかのようだ! くははははっ! 見事だ!」
――ズルズルズルッ!!!!
残ったチャーシューと麺を同時に箸で掴みスープにつける。
程よくスープが絡んだら一気に口の中へと放り込み、とろとろに溶けていくチャーシューともちもちの太麺の二つの食感を味わった。
「つ、次はこっちのゴロゴロとした肉もいただくとしよう!」
今度は旨辛の豚挽肉を食べようとする。しかしその食べ方を知らない。
チャーシューとは違い一つ一つが小さいからだ。これを一粒一粒食べるとなると、ただの作業になってしまう。
否、美味しければその作業も苦ではないだろう。
しかし食べ方を知らなくても、その食べ方が間違っていることくらいはわかっている。
「もしかしてスープに全て入れるとか?」
様々な食べ方があるが、一番正統と言える食べ方はリューギが言ったそれだ。
リューギは失敗する覚悟で豚挽肉を全てスープに投入する。
「ス、スープの色が変わっただと!?」
豚挽肉をスープに投入した瞬間、黄金色のスープの色に茜色が加わった。
これは豚挽肉に味付けされている旨辛のタレと、豚挽肉からジュワッと溢れ出る脂が原因である。
この旨辛のタレと脂がスープに染み込んだおかげで、さらにスープにコクと旨味が出るのだ。
「だが、色が変わったことによって、ますます美味しそうなスープになっているではないか。それでは、今度は野菜と麺を同時にいただくとしよう!」
針のように尖ったシャキシャキの白髪ネギと、水々しく新鮮な水菜を麺と一緒に掴んでスープにつけた。
――ズルズルズルッ!!!!
「こ、これまた新たな食感! シャキシャキでもちもち! それでいて先ほど投入した豚挽肉も一緒に口の中へと入ってきたぞ! 噛んだ瞬間にジュワッと旨辛の肉汁が! 咀嚼するたびに味と食感が変化して美味しい! まるで口の中で戦士たちが美しく戦っているかのようだ! くはははっ! これはまたしてもやられた。まだまだこんなにも楽しめるとはな! くはははははっ――!!!」
リューギはこのまま豪快に、そして狂ったように食べ続けた。
味と食感を求めて、ただそれだけに執着して、ひたすらに食べ続けたのだ。
まるで戦場の中を駆ける勇敢な戦士のように。その剣技は、拳は止まることを知らない。
――ズーッ、ズッズーッ、ズルズルズルッ、もぐもぐッ!!!!
豪快に食べ進めていたリューギの手がついに止まる時が来る。
山のように盛られた麺と、その周りを花の如く飾られていた具材が無くなってしまったからだ。
ここが戦場なら勝利の雄叫びをあげるところ。敵はもういないのだから。
しかし残念なことに彼は戦うことだけが生きがいだった。
戦う相手がいないのでは死んだも同然なのだ。
「はぁ~、終わってしまったか……このスープも飲み干したいところだが、さすがに喉がやられてしまうな」
「だったら、〝スープ割り〟はどうじゃ? 頃合いだと思って持ってきてやったぞ」
「あっ、え、あ! は、はい! ス、スープワリ? あ、ありがとう……」
魔王マカロンに声をかけられ、ようやく心の声が全て漏れていることに気付く。
食べること以外無関心になってしまうほど、そして食べることだけに集中してしまうほど、〝極上の担々つけ麺〟が美味しいという証拠でもある。
しかしながら叫び続けながら食べていたのだと知ると、恥ずかしくて仕方がなくなってしまう。
そして迷惑をかけていないかが心配になるところだったが、他の客は――エルバーム、ローゼ、リリシア、オーグル、ブリガン、バンディーは、誰一人として気にしている様子がなかった。
なぜなら他の客も皆、最初はそうだったからだ。皆、同じ道を通ってきている。
だから迷惑だとは思っていない。むしろ歓迎しているくらいだ。
歓迎されていることを知る術がないリューギは、魔王マカロンから渡された〝スープ割り〟というものをまじまじと見て、恥ずかしさなどを誤魔化していた。
「あ、あの、この、スープワリと言うものは、どのようにして飲めば……」
「そこのスープに入れるんじゃよ。味が薄まってスープが飲めるようになるぞ。あっ、もちろん薄まるだけで美味しさは変わらん。むしろ旨味成分が増えて美味しさアップじゃ! それに熱々のスープじゃからな。冷めたスープが復活し、全身に巡るぞ? 脳にまで染み渡る美味さなのじゃよ!」
「そ、そんなに!? で、では、早速飲んでみるとしよう」
リューギは魔王マカロンに言われた通り、〝スープ割り〟を〝極上の担々つけ麺〟のスープへと入れていく。人生初のスープ割りだ。
〝スープ割り〟を入れている時は、白い湯気が視界を真っ白に染めていく。
そして芳醇で濃厚なスープの香りが鼻腔を刺激していく。
――スーッ、ズズズズッ、ごくごくごくッ!!!!
丼鉢を両手で持って、豪快にスープを飲んでいく。
先ほどまで濃くてそのまま飲む事ができなかったスープは、まるで女神や天女の慈愛の如く優しさで喉を通っていく。
飲んでいるのではなく、体の一部として溶け込んでいるかのような、そんな不思議な感覚を龍人は味わった。
「このスープワリというものによって温かさを取り戻している! 先ほどつけた具材の味や浸っている豚挽肉の味、旨味も辛味も塩味も全て一つになってさらに美味しくなっている! ドロドロだったのが、とろとろに変化し飲みやすい上品なスープに大変身だ! くははははっ! 最後の最後にこんな仕掛けがあったとはな……恐るべし〝極上の担々つけ麺〟! くははははははっ!!! って、しまった! また心の声が!」
心の声を漏らさないように気を付けていたようだが、〝極上の担々つけ麺〟の前では抗うことは不可能。
感動で体と心が思いのままに動いてしまうのだ。
「良い良い。心の声なんて漏れても良いのじゃ! ここにいる常連客のみんなも同じじゃよ。それに妾も、厨房にいるゆーくんもじゃ。美味しいものは美味しいって言いたくなるものじゃよ。黙々と食べるなんて逆に無理なのじゃ。心のどこかは、体のどこかは必ず担々麺に支配されるものじゃよ。それだけ担々麺には魅力がいっぱいなのじゃ!」
魔王マカロンの言葉にリューギも他の客たちも皆が納得して頷いた。
「タンタンメンの魅力、〝極上の担々つけ麺〟の魅力……恐れいった。完食完敗だ。世界最強の龍人族であるこの俺の心をここまで乱すとはな。それにここまで太刀打ちできない強敵だったとは。くははははっ! もう一戦、いや、もう一杯おかわりをいただきたいのだが、大丈夫だろうか? 金ならある!」
「うぬ! おかわりじゃな! 他の担々麺を食べてみなくてもいいのか?」
「俺は〝極上の担々つけ麺〟一筋!! 浮気はしない! 〝極上の担々つけ麺〟で十分だ!」
「おぬしもそういう感じか! うちの常連も皆、初めて食べた担々麺にベタ惚れなのじゃ。まあ良い。他のも食べたくなったら遠慮せずに言うのじゃよ。皆もな……って皆には何回も言っておるな。不要な気遣いじゃった。ではおぬしの担々つけ麺を作ってくるとしよう」
魔王マカロンが厨房へと向かったその時、彼女の小さな背中に複数の声がかかった。
その声は「俺も」「私も」とリューギと同じようにおかわりを注文する声だった。
「わかった、わかった。順番じゃ順番! えーっと、担々つけ麺と激辛担々麺と冷やし担々麺が二つとイカスミ担々麺も二つで、最後にトマト担々麺じゃな? 少しだけ待っておれ!」
今日一番の盛り上がりを――否、営業が始まって以来一番の盛り上がりを見せた担々麺専門店『魔勇家』。
少ない客でもここまで盛り上がれるのだ。担々麺にはそれだけの魅力が詰まっているのである。
その魅力に今日初めて気付いた自称世界最強の龍人族の男リューギは、今後もこの店に通うこととなるのだった。
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