クラスメイトでご当地アイドルの推しとのツーショットチェキが100枚に到達しました。〜なぜか推しは僕と普通のツーショット写真が撮りたいらしい〜

アイリスラーメン

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《ときめきの夏休み編》

007:リベンジチェキ

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隼兎はやとくん、二回目だねっ。ありがとうっ」

 何もかも優しく包み込んでくれそうな慈愛じあいの笑顔。くままは女神だ。
 それに覚えてくれたのなんか優しい。
 しっかりと関係が継続してるこの感じ。関係性が築き上がって、親睦が深まってるこの感じ。
 すごく良い――!!!

 優しく声をかけてくれたくままに応えるべく、ちゃんと会話を弾ませなければ!

「う、うん。きょ、今日もよかったよ」

「ありがとー!」

 何様目線だよ、僕は!?
 今日もよかったよ、ってなんだ!?
 もう少しまともな会話はできないのか。相手は天使のような存在――否、天使そのものだぞ。
 まあいい。会話の準備はしてこなかったからな。よくがんばった方だと思う。
 想定外ということで次に進もう。
 僕の本番はここからだ。

「そ、それで、チェキを……」

「うんっ! 撮ろう! 撮ろうっ!」

 あぁ、なんて可愛いんだ。可愛すぎるにもほどがあるだろ。
 この距離でのこの笑顔、限界ギリギリだぞ。
 チェキを撮るためには、さらにこれ以上に近付かなければならない。
 耐えられるのか? 僕の心臓!

 胸の鼓動が、ときめきが止まらない。

「今日もツーショットチェキ選んでくれたんだね。もしかして前回のチェキよく撮れてた? 見たかったなー。写真とは違ってチェキってさデータとか残らないから私見れないんだぁ。だからちょっと気になってたの」

 確かにチェキってフィルムが出てくるだけでデータは残らないよな。
 チェキを受け取ってすぐに帰ってしまったから、どんなふうに撮れたかとかくままにはわからなかったんだ。
 くそ。もっと僕が気を遣える男だったら。
 でも致し方なし、か。あの時はずっと気持ちがふわふわしてた。
 思考がかなり鈍ってた。いや、くままのことばかり考えてた。
 思考の全てをくままに持っていかれたんだ。

「えーっと……前回のがちょっと、あれだったから……リベンジしたくて……」

「え? うそ!? ごめんっ!」

 は? なんでくままが謝ってるんだ?
 もしかして写真写りが悪い原因が自分にあると思っていらっしゃる?
 なんて心優しき聖女なんだ。
 って、感銘を受けてる場合じゃない。誤解を解かなければ。

「ち、違うよ。僕の目が半目に、いや、完全につぶってて。それと表情がさ、変な感じになってて。くま……小熊さんにはなんの問題もなかった。完璧だった。小動物みたいな愛くるしさと天使のような笑顔、それに女神かってくらいオーラもあった。可愛いって言葉はこのために存在するんだって、むしろ可愛いを具現化したかのような。本当に本当に可愛く撮れてた。家宝にするくらい本当に完璧で最高だった!」

 何をベラベラと余計なことまで。
 このままだと気持ち悪がられて終わってしまうぞ。
 会話の準備をしてこなかったから致し方なし、ってさっきは許したけど、こればかりはダメだ。
 何か、何か良い言葉を言って、この気持ち悪さを少しでも中和しないと。

「隼兎くん……そんなこと今まで言われたことなかった……」

 あっ、もう手遅れか。危険人物に認定されてこのまま出禁に……。
 学校も転校することに……最悪の場合わいせつ罪で逮捕か。少年法とか知らん。
 短い間だったけど、推し活楽しかったな……。
 ありがとう、くまま。来世でまた会おう。

「本当にっ、本当に! ありがとう! すごく嬉しい! こんなに褒められたの初めてっ!」

「あっ? えっ? え?」

「嬉しいよ! 隼兎くん! ありがとう!」

「う、うん!」

 なんかめちゃくちゃ喜んでくれてる。
 というか近い! 近すぎる!
 それ以前に手を握られてる!
 肌と肌が触れ合っちゃってる!
 手汗が! 手汗が! 手汗がー!
 離したいけど離したくない、まさにデッドロック状態!
 どうしたらいいんだ!?

「そこ! お友達といえど、お触り禁止です」

「は、はい!」

 お触り禁止で怒られた!?
 僕から触ったわけじゃないのに!

「ご、ごめんなさい。つい、嬉しくなっちゃって……」

 離れていくくままの手。
 それなのにまだ温もりは残ってる。
 握られていた感覚も残ってる。
 この二つは幸福に置き換えられる。
 そう、僕の右手には幸福が残ってる。
 そうか。くままは幸福をもたらす神だったのか。

 もしも握手会というものが今後開催させるのであれば、何がなんでも参加しよう。

「それじゃあ隼兎はやとくん! リベンジチェキ撮ろっか!」

「う、うん!」

 手招きする小さな手――先ほどまで僕の手を握っていた可愛らしいくままの手だ。
 抗うことも拒むこともなく、僕の体は吸い寄せられた。
 肩と肩が当たるのではないかと思うくらいの距離。
 もう一度触れたい、という感情を押し殺しながらを作る。
 ファンと推し――僕とくままが近付くことが許される最大の距離だ。
 その一定の許された距離を、その見えない壁を意識しながら僕はくままの隣に立った。

 〝リベンジチェキ〟を撮るために。

「ポーズは――」

「くままポーズで!」

 食い気味で答えた。
 そうでもしなければポーズが変わってしまうかもしれない。
 ポーズが変わってしまえば、リベンジチェキにはならない。
 どうしても、どうしても、くままポーズで最高のチェキが撮りたいんだ。

「リベンジチェキだもんねっ。それじゃくままポーズっ!!!」

 くままの掛け声とともにくままポーズを取った。
 ここまでは完璧だ。
 あとはシャッターが切られるのを待つだけ。

「撮りますよ~」

 ――カシャ!!!

 女性スタッフの掛け声の後、すぐシャッターが切られた。
 そしてカメラからチェキフィルムがゆっくりと出てくる。

「はい、どうぞ。今回は上手に映ってるといいね」

 女性スタッフの優しいお言葉とともに現像途中のチェキフィルムを受け取る。
 写真が浮かび上がるまで僕はステージから降りない。
 それを誰かが注意することはなかった。
 僕の後ろでくままも写真が浮かび上がるのを興味津々に待っているからだ。

「出てきた、出てきたっ!」

 覗き込むくまま。とにかく近い。近すぎる。
 ミルク石鹸の良い香りが思考を鈍らせにきてやがる。
 これ以上近付いたら――密着したらまた女性スタッフに『お触り禁止』とか言われかねん。

「リベンジチェキだね」

「え?」

 その言葉に鈍りかけていた思考が停止――頭の中が真っ白になった。
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