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080:母親の温もり求めて
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「ユウジよ!」
時が動いた世界でイリスはユウジの安否を確認した。ユウジは立ったまま息を引き取っていた。イリスはすぐさま風の魔法を使い背中から貫通しているヘビの頭をだけを切り離した。
ヘビの頭から解放されたユウジは支えがなくなり倒れる。血塗れの白い床に倒れる瞬間、イリスは再び風の魔法を使い風のクッションを作り出し倒れるユウジをゆっくりと寝かした。
戦場から離れていたアヤカが泣きながら駆け寄ってくる。
「ユーくん。ユーくん。嫌だよユーくん」
動かないユウジの方を激しく揺らす。寝相が悪いユウジを起こすように揺らし続けた。
「イリスちゃん。お願い。生き返らせて! 生き返りのスキルをユーくんに使って!」
「わかっておる。最初からそのつもりじゃよ。ユウジには怒鳴られると思うがお主が死んだら意味がないからのぉ。お主のおかげでケルベロスを倒すことができた。あとはゴールするだけじゃろ。元の世界に帰って家族で幸せに暮らすのじゃ」
イリスはユウジに止められていた『蘇生スキル』を発動しようとする。両手をユウジの顔に向かって掲げる。その両手からは治癒魔法よりも強く輝く緑色の光が放たれている。
「聖なる……」
イリスが蘇生スキルの詠唱をしようとした時だった。「危ない!」と、アヤカがイリスに飛びついた。
アヤカは丸焦げのケルベロスの鋭い爪からイリスを守ったのだ。ケルベロスにとっても死際の1撃だったのだろう。
弱り切ったケルベロスの1撃だがアヤカの背中を大きくえぐった。アヤカにとっては命に関わるほどの致命傷だ。
「ガハァッ」
吹っ飛ぶアヤカは腕の中のキンタロウに被害が及ばないように強く抱きしめ庇いながら地面に叩きつけられた。
「うぎゃーうぎゃー」
アヤカの腕の中のキンタロウは泣き叫ぶ。アヤカがクッションになってくれたおかげでキンタロウは無傷で無事だった。
無事の愛息子を確認した瞬間、アヤカはその愛息子を優しく滑らせてその場から離れさせた。
「イリスちゃん。キーくんを守ってね。私の……私たちの大事なキーくんを。キーくん。こんなお母さんを許してね。ごめんね。ごめんね。愛してるよ」
「ま、間に合わん」
すでに死んでいるケルベロスは体のみが無意識のまま動いている。そしてアヤカを踏み潰そうとしているのだ。このままキンタロウを抱き抱えていたら母子ともに踏み潰されていただろう。なのでアヤカはキンタロウを滑らせたのだ。
イリスが風の魔法を使えないのは蘇生スキルを使おうとしていた反動だ。蘇生スキルには膨大なエネルギーを必要とする。途中まで溜めていたエネルギーを瞬時に風の魔法に変換するのは不可能なのだ。
それでもアヤカを助けるために手のひらをかざし続けている。
アヤカは死後動き続けるケルベロスに踏み潰される瞬間、「滅亡の光」と光の最強魔法を唱えた。
唱えた瞬間アヤカは丸焦げのケルベロスの前足に勢いよく踏み潰されてしまった。高いところから落とされた卵のようにアヤカの頭は割れ中身が飛び出す。
即死したアヤカだったが光の魔法は中断されない。光の刃がケルベロスの周りに300本ほど出現。大量の光の刃が重なり激しい光を放つ。
そして標的に向かって一直線に突き刺さる。刺さる。刺さる。容赦無く光の刃はケルベロスに向かって刺さる。
命が尽き死後役割を果たそうと体のみが動き続けるケルベロスは、光の刃が刺さっても悲鳴を上げることはない。
そのままケルベロスの肉体が引き裂かれ今度こそ倒れた。無情にもアヤカを下敷きにして倒れる。
第6層96マスにて、ケルベロス討伐に成功したが、キンタロウの両親、ユウジとアヤカの2名は命を落としてしまった。
「ユウジよ。アヤカよ。ワシは、ワシは……お主らを助けることができんかった……うぅ、役立たずの妖精じゃ。ワシの蘇生のスキルが1回限りでなければ良かったのじゃが……。ユウジよ。アヤカよ。すまない」
イリスは白い床に膝をつきながら自分の無力さに拳を叩き涙を流し嘆き悲しんだ。
「オギャーオギャーオギャー」
イリスの耳には泣き叫ぶキンタロウの声が届いた。
「そうじゃ。ワシは2人が命をかけて守ったキンタロウを守らなければならん。ユウジ、アヤカ。お主らの気持ちを汲んでこの蘇生スキルはキンタロウのために使うぞ。ワシがキンタロウを守るのじゃ」
羽を羽ばたかせながら泣き叫ぶキンタロウの元へ向かった。
「よしよし。いい子じゃ。いい子じゃ」
イリスはキンタロウの頭を撫で泣きやませようとするがキンタロウは一向に泣き止む気配がない。キンタロウが泣き止まないのも無理はない。神様が作った盤上遊戯の世界に連れてこられてから一度もアヤカの腕から離れたことがなかったのだ。
だから母親の腕から放り出されキンタロウは、母親の温もりを求め泣き続ける。
イリスはキンタロウのそばでキンタロウをあやしながらケルベロスに向けて風の魔法を放った。キンタロウを驚かさないためにも音を出さずにケルベロスを吹っ飛ばした。
ケルベロスを吹っ飛ばした理由は下敷きになっているアヤカの体を外に出してあげたかったからだ。
そしてイリスは右手をユウジに向けて風の魔法を操る。風の魔法でユウジをふわふわと浮かばせ、潰れているアヤカの隣にまで運んだ。
そして2人に向かって治癒魔法を放った。
「せめて傷だけでも……」
イリスの手のひらからは緑色の光が放たれユウジとアヤカを包み込む。蘇生スキルではなく治癒魔法だ。命は戻ってこない。けれど傷は直すことができる。だからこそイリスはユウジの貫通し穴が開いている腹と失っている右腕そして全身が潰れているアヤカの傷を残りの体力を使い直そうとしているのだ。
しかし残酷にもボドゲ空間のシステムが2人を消し去る時間がきてしまった。まずは最初に命を落としたユウジからだ。ユウジは白い床に吸い込まれるように消えていった。次にケルベロス。最後にアヤカの順番だ。
第6層96マスの真っ白だった床には、真っ赤な血だけが残った。その血は激しい死闘を物語っている。
「ウギャーオギャーウギャー」
今まで以上に泣き叫ぶキンタロウ。両親が消え去り二度と会えないことを悟ったのだろうか。赤子だからこそ感じる何かがあるのだろう。
「よしよし。キンタロウや。よしよし」
「オギャーウギャーオギャー」
「大丈夫じゃよキンタロウ。ワシが必ず元の世界に連れていくからのぉ」
イリスは泣き叫ぶキンタロウに声をかけ続けた。そして檸檬色の髪を優しく撫で続けた。
時が動いた世界でイリスはユウジの安否を確認した。ユウジは立ったまま息を引き取っていた。イリスはすぐさま風の魔法を使い背中から貫通しているヘビの頭をだけを切り離した。
ヘビの頭から解放されたユウジは支えがなくなり倒れる。血塗れの白い床に倒れる瞬間、イリスは再び風の魔法を使い風のクッションを作り出し倒れるユウジをゆっくりと寝かした。
戦場から離れていたアヤカが泣きながら駆け寄ってくる。
「ユーくん。ユーくん。嫌だよユーくん」
動かないユウジの方を激しく揺らす。寝相が悪いユウジを起こすように揺らし続けた。
「イリスちゃん。お願い。生き返らせて! 生き返りのスキルをユーくんに使って!」
「わかっておる。最初からそのつもりじゃよ。ユウジには怒鳴られると思うがお主が死んだら意味がないからのぉ。お主のおかげでケルベロスを倒すことができた。あとはゴールするだけじゃろ。元の世界に帰って家族で幸せに暮らすのじゃ」
イリスはユウジに止められていた『蘇生スキル』を発動しようとする。両手をユウジの顔に向かって掲げる。その両手からは治癒魔法よりも強く輝く緑色の光が放たれている。
「聖なる……」
イリスが蘇生スキルの詠唱をしようとした時だった。「危ない!」と、アヤカがイリスに飛びついた。
アヤカは丸焦げのケルベロスの鋭い爪からイリスを守ったのだ。ケルベロスにとっても死際の1撃だったのだろう。
弱り切ったケルベロスの1撃だがアヤカの背中を大きくえぐった。アヤカにとっては命に関わるほどの致命傷だ。
「ガハァッ」
吹っ飛ぶアヤカは腕の中のキンタロウに被害が及ばないように強く抱きしめ庇いながら地面に叩きつけられた。
「うぎゃーうぎゃー」
アヤカの腕の中のキンタロウは泣き叫ぶ。アヤカがクッションになってくれたおかげでキンタロウは無傷で無事だった。
無事の愛息子を確認した瞬間、アヤカはその愛息子を優しく滑らせてその場から離れさせた。
「イリスちゃん。キーくんを守ってね。私の……私たちの大事なキーくんを。キーくん。こんなお母さんを許してね。ごめんね。ごめんね。愛してるよ」
「ま、間に合わん」
すでに死んでいるケルベロスは体のみが無意識のまま動いている。そしてアヤカを踏み潰そうとしているのだ。このままキンタロウを抱き抱えていたら母子ともに踏み潰されていただろう。なのでアヤカはキンタロウを滑らせたのだ。
イリスが風の魔法を使えないのは蘇生スキルを使おうとしていた反動だ。蘇生スキルには膨大なエネルギーを必要とする。途中まで溜めていたエネルギーを瞬時に風の魔法に変換するのは不可能なのだ。
それでもアヤカを助けるために手のひらをかざし続けている。
アヤカは死後動き続けるケルベロスに踏み潰される瞬間、「滅亡の光」と光の最強魔法を唱えた。
唱えた瞬間アヤカは丸焦げのケルベロスの前足に勢いよく踏み潰されてしまった。高いところから落とされた卵のようにアヤカの頭は割れ中身が飛び出す。
即死したアヤカだったが光の魔法は中断されない。光の刃がケルベロスの周りに300本ほど出現。大量の光の刃が重なり激しい光を放つ。
そして標的に向かって一直線に突き刺さる。刺さる。刺さる。容赦無く光の刃はケルベロスに向かって刺さる。
命が尽き死後役割を果たそうと体のみが動き続けるケルベロスは、光の刃が刺さっても悲鳴を上げることはない。
そのままケルベロスの肉体が引き裂かれ今度こそ倒れた。無情にもアヤカを下敷きにして倒れる。
第6層96マスにて、ケルベロス討伐に成功したが、キンタロウの両親、ユウジとアヤカの2名は命を落としてしまった。
「ユウジよ。アヤカよ。ワシは、ワシは……お主らを助けることができんかった……うぅ、役立たずの妖精じゃ。ワシの蘇生のスキルが1回限りでなければ良かったのじゃが……。ユウジよ。アヤカよ。すまない」
イリスは白い床に膝をつきながら自分の無力さに拳を叩き涙を流し嘆き悲しんだ。
「オギャーオギャーオギャー」
イリスの耳には泣き叫ぶキンタロウの声が届いた。
「そうじゃ。ワシは2人が命をかけて守ったキンタロウを守らなければならん。ユウジ、アヤカ。お主らの気持ちを汲んでこの蘇生スキルはキンタロウのために使うぞ。ワシがキンタロウを守るのじゃ」
羽を羽ばたかせながら泣き叫ぶキンタロウの元へ向かった。
「よしよし。いい子じゃ。いい子じゃ」
イリスはキンタロウの頭を撫で泣きやませようとするがキンタロウは一向に泣き止む気配がない。キンタロウが泣き止まないのも無理はない。神様が作った盤上遊戯の世界に連れてこられてから一度もアヤカの腕から離れたことがなかったのだ。
だから母親の腕から放り出されキンタロウは、母親の温もりを求め泣き続ける。
イリスはキンタロウのそばでキンタロウをあやしながらケルベロスに向けて風の魔法を放った。キンタロウを驚かさないためにも音を出さずにケルベロスを吹っ飛ばした。
ケルベロスを吹っ飛ばした理由は下敷きになっているアヤカの体を外に出してあげたかったからだ。
そしてイリスは右手をユウジに向けて風の魔法を操る。風の魔法でユウジをふわふわと浮かばせ、潰れているアヤカの隣にまで運んだ。
そして2人に向かって治癒魔法を放った。
「せめて傷だけでも……」
イリスの手のひらからは緑色の光が放たれユウジとアヤカを包み込む。蘇生スキルではなく治癒魔法だ。命は戻ってこない。けれど傷は直すことができる。だからこそイリスはユウジの貫通し穴が開いている腹と失っている右腕そして全身が潰れているアヤカの傷を残りの体力を使い直そうとしているのだ。
しかし残酷にもボドゲ空間のシステムが2人を消し去る時間がきてしまった。まずは最初に命を落としたユウジからだ。ユウジは白い床に吸い込まれるように消えていった。次にケルベロス。最後にアヤカの順番だ。
第6層96マスの真っ白だった床には、真っ赤な血だけが残った。その血は激しい死闘を物語っている。
「ウギャーオギャーウギャー」
今まで以上に泣き叫ぶキンタロウ。両親が消え去り二度と会えないことを悟ったのだろうか。赤子だからこそ感じる何かがあるのだろう。
「よしよし。キンタロウや。よしよし」
「オギャーウギャーオギャー」
「大丈夫じゃよキンタロウ。ワシが必ず元の世界に連れていくからのぉ」
イリスは泣き叫ぶキンタロウに声をかけ続けた。そして檸檬色の髪を優しく撫で続けた。
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