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068:ウッドハウスの老兎

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 ユウジたちの前に現れた白い年寄りのウサギのゴロウは『第5層17マス』のジャングルでボドゲ部たちの案内兎をしていたあの案内兎だった。
 20年前から全く見た目が変わっていない。杖を持っていて長く白い髭も特徴的な老兎だ。

「ここではワシと『ジェンガ』をしてもらうぞ。勝てば特別な力を授けよう」
「うお、特別な力ってなんだ?」
「それは勝ってからのお楽しみじゃな」」
 特別な力というファンタジックな言葉に反応したユウジ。しかし特別な力の内容は勝たなければ明かされない。

「そ、そこをなんとか、教えてくれよ~」
「ダメじゃ。これもルールなんでな」
「ケチウサ爺さんめ」
「フォッォッォォォ何とでも言え~」
 特別な力の内容が明かされなかったことに対して拗ねて落ち込むユウジ。それを見て白く長い髭を触りながら笑うゴロウ。
 そのままゴロウは寄り道してしまった話の内容を戻す。

「お主らが負けても何も起こらんから安心して良いぞ。『ジェンガ』が終われば勝っても負けても次のマスへ進んでも良いからのぉ。気楽に楽しむのじゃ」

 説明を終えたゴロウに「ちょっと待って」と手をあげたのはアヤカだった。

「全員参加なの? キーくんは赤ちゃんだからジェンガなんてできないわ」
 キンタロウの頭や首回りを撫でながら言った。キンタロウはくすぐったいのか「キャッキャキャッキャ」笑っている。

「フォッフオッフォ。人の子供もかわいいのぉ。どれ、顔を見せておくれ」
 ゴロウは杖をつきながら歩きゆっくりとキンタロウに近付いていく。

「この子、キンタロウって言うのよ。天使みたいでしょ。とくにこのほっぺた。ぷにぷにで可愛い。どちらかといとパパよりも私にそっくりよね」と満面の笑みで自慢の息子をゴロウに見せるアヤカ。
 赤ちゃんの頃なので顔つきはどちらかというと可愛らしい母親のアヤカ似だ。髪色も同じなので余計にそっくりなのだ。しかし将来、目つきが悪くなり父親のユウジに瓜二つの顔になるとはこの頃は誰も想像はできなかった。

「かわいいのぉ。やっぱり赤子は癒されるのぉ」
「でしょでしょー」
「よかろう。ワシも『ジェンガ』を楽しみたいからの。積み木崩しのようなもんじゃからな。赤子には危険じゃろ」
 キンタロウの愛くるしい顔に心を浄化されたゴロウはキンタロウの不参加を認めた。そして提案する。

「ワシとお主の1対1でジェンガ対決じゃ。赤子を抱っこしたままじゃとできんからのぉ」
 ゴロウは長い白い髭を触りながら杖の先をユウジに向けた。ゴロウの言った通りキンタロウを抱っこしたままの状態ではジェンガなどはできない。
 なのでアヤカも不参加にしてゴロウとユウジの1対1のジェンガバトルを提案したのだ。

「よっしゃ! いいぜ。タイマンだ!」
「フォッフォッフォ。元気がいいのぉ。では準備するから待っておれ」
 ゴロウは杖をつき、左手を腰に回しながらゆっくりとウッドハウスに戻って行った。どうやらジェンガを取りに向かったらしい。
 ボドゲ空間という魔法ありの世界にもかかわらず歩いて取りに行くアナログスタイル。魔法のようなもので出せたりはできなかったのだろうか。この時、老兎に取りにいかせるのは心苦しいとユウジとアヤカは同時に思っていた。

「ジェンガか……」
「ユーくんジェンガやったことあるー?」
「う~ん高校の時2回やった記憶はある。あれ組み立てるの面倒じゃん。全然流行んなかったんだよね」
 ユウジはジェンガの記憶をたどったがジェンガをした記憶は2回しかなかった。ほぼ未経験者。
 ジェンガは運要素よりもテクニックが重要となる。運良くここまでたどり着いてきた2人にとっては一番の難関と言えるだろう。

「ま、大丈夫だろ! 特別な力ってなんなのか知りたいし、てか欲しい! だから絶対勝つ! 俺は勝つぞぉおおお! 息子のため! 妻のため! 負けられねぇええ!」
「キーくん見て。パパが燃えてるよー」
 やる気が漲ったユウジは燃えている。大黒柱として家族のために燃えているのだ。

「特別なチカラァアアアアアア」
 否、特別な力のためだった。
 明かされなかった特別な力の内容がどうしても気になって仕方がないのだ。

 その後、ウッドハウスからジェンガを持ってきた案内兎のゴロウはユウジとジェンガ対決をするためにジェンガの準備を始めた。
 1本1本丁寧に積み木を積み上げていく。積み木を積み上げているゴロウの表情は楽しげだ。
 ジェンガが完成するまでの間ユウジとアヤカは赤子のキンタロウと戯れあいながら待っていた。

 ジェンガの準備が終わったゴロウは腰を叩きながら待ちに待った表情で言った。

「待たせたのぉ。これで完成じゃ。ジェンガのルールは良いな? では始めるぞ!」
「サンキューなウサ爺さん。それじゃ早速やろうぜ。ジェンガ!」

 大草原の中心、ウッドテーブルの上に木製のジェンガタワーがこの世界の中心に立っているかのようにしっかりと積み上がっている。  
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